--ブリーフィングルーム
暴れ疲れたシンジと、それを見張っていたトウジ、ケンスケが、うつらうつらとしていたとき、空気の圧搾音と共に扉が開いた。入ってきたのはアスカとレイ。
「やあ。アスカちゃん、レイちゃん。おつかれ様」
唯一起きていたカヲルが最初に気がつく。その音に反応してシンジもすぐ起きた。ホントに普段とは別人だ。
「レイ!大丈夫だった!?」
「んー?なんややっと終わったんかいな」
「ふぁぁ~あ!待ちくたびれたよ惣流。で、成果は?」
トウジとケンスケも起きた。シンジの拘束具、荒縄を解く。
眠いのは、待っていたからだけではなく、夜中の1時を過ぎているせいでもある。アスカの不機嫌な顔もそのせいだろう。彼女は昨夜もろくに寝てない。
「本人に聞いて」
シンジは、拘束を解かれて妹に走り寄る。
「レイ?」
「だいじょーーーぶよ!お兄ちゃん!もう高い所なんて平気のへーよ!成層圏でも、大気圏でも、来々軒でも飛び降りれちゃうわ!!成層圏でも、大気圏でも、来々軒でも飛び降りれちゃうわ!!」
「なんで、2回言うねん」
「目の焦点が合ってないぜ」
「来々軒ってなんだい??」
「うわーーー!レイが壊れたぁ!」
「ナニ逝ってるのよ、お兄ちゃん!レイは生まれ変わったのよ!?『ReiⅡ』よ!もう機種依存文字だって使っちゃうんだから!!」
「アスカぁ~~~何したんだよ~~~」
ガクガクとレイを揺すっても「まーかせて!」としか言わなくなった。
--作戦部会議室
薄暗い室内を照らすのは床の大型スクリーン。映っているのは衛星からの画像だ。
真上から地上を望む画の中心に、なにやら蠢くものがあった。これが今回の使徒。その姿はカンブリア紀のアノマロカリスとカレイを合わせたような姿をしている。まだ単体のそれは地上を這うようにゆっくりと進んでいた。
「現地時間1130時目標は時速15km前後で東方向へ移動中です」
「まずいわね。その方向に大きな都市があるわ」
ミサトと日向など作戦部スタッフが作戦の最終確認を行っていた。テーブルモニタに映された南米の地図を見ながら状況を確認する。
「サンタ・フェ・デ・ボコタ。コロンビアの首都ですね」
「移動時間の算出は終わった?」
「はい。ここから沖ノ鳥島まで1時間。そこからSSTOで2時間。マッハ8の速度で高度80kmまで上昇、加速。その後再突入して、約3時間後には使徒の前方に到着できます」
EVA輸送用SSTO『スーパーブラックバード』は、5,000m級の滑走路を必要とする。Nerv本部近郊にはないので、一旦EVA輸送機で別の場所に運び、そこからSSTOに乗り換えて飛び立つ必要がある。その場所が沖ノ鳥島。
現在、沖ノ鳥島は巨大な人工島になっていた。日本最南端にして、唯一の熱帯地域に所属する南海の孤島。以前は、200海里を護る為にコンクリートで固められたとても狭い島だったが、地球統合政府の援助により巨大人工島の都市へと生まれ変わった。
そこは日本領土ではあるが第三新東京市と同様に地球統合政府の直轄地に指定され、統合軍第三艦隊の基地にもなっている。
ちなみに飛鷹ノリコやユング・レキシントン、飛龍キミコの出身校である『沖女』は沖ノ鳥島女学院のことである。
「沖ノ鳥島での乗り換え時間は考慮してあるの?」
「はい。SSTOは滑走路に待機、EVAは輸送機から直接降下して、そのまま走って乗りこんで貰います。その作業に10分は掛からないでしょう」
「だそうよ。分かったわね。あなた達……って聞いてる?」
一応、チルドレンはプラグスーツに着替えてEVAに乗りこんでいた。壁のスクリーンに3人の顔が映っていたが、とても聞いていた顔とは思えない。シンジとアスカは、とても眠そうにしていたし、レイはまだ壊れていた。
ミサトは、しばらくは運ばれるだけだからその内目を覚ますかと思い命令を下す。
「よし!時間もないことだし、出発よ!いいわね!」
『『ふあ~~~い……』』
『ま~~~かセて!!』
「……ちょっち心配……」
「ですね……」
--中央発令所
メインモニターには世界地図が映し出されていた。地図上に様々なライン。その脇のサブモニターは、様々なデータやライブ映像等を映し出している。
各オペレータは常に何処かと連絡を取っており活気のある雰囲気が感じられた。まるでNASAのコントロールセンタのようだ。
サブモニターの一つに、黒いEVA輸送用SSTOが映っている。
この機体SC-72『スーパーブラックバード』は、通常の航空機の様に滑走路から飛び立ち、単機で大気圏を突破、衛星軌道まで到達でき、大気圏再突入から滑空しての着陸が可能だ。
そしてこの種のスペースプレーンとしては最大級の大きさを誇る。鋭角な二等辺三角形の機体の殆どがEVA搭載用のカーゴスペースで占められ、3対6発のスクラムジェットエンジンが超重量物を宇宙空間まで運び出す。
「いやー、それにしても、よくこんなの開発したわね。さすが天才リツコ様」
「ふふん。ようやく分かったのねミサト。こんなこともあろうかと作った……と、言いたいけど開発したのは私じゃないわ」
「へ?そうなの?」
「開発したのは北米支部の連中よ。元NASAの開発員が中心になってね」
アメリカが2つに分かれて内戦中の今、アメリカ航空宇宙局NASAも事実上、開店休業状態になっていた。
そこでNervはその人材と施設の殆どを強引ともいえる手法で手に入れて自らの物とした。Nervの設立目的が技術情報の管理なので当然とは言える。
「元々、北米の第一支部は航空宇宙関係の開発に力を注いでいたの。そしてその中心で推し進めているのがユイ副司令よ」
「あれ?ユイさんって生物学者じゃなかったっけ?」
「別に専攻している学問とは関係ないと思うけど、そうね十年くらい前から宇宙技術に興味を持っていたみたいね。確かにこれからの人類には必要な技術だろうけど」
「ふーん。地上では人類が滅亡しそうなのに?」
「だからこそよ。地上では枯渇した資源の宝庫なのよ宇宙は。ユイさんの梃入れで十年は遅れただろう技術が、予定を追い抜いているわ」
「ま、あたしとしちゃ便利なモンがあって助かったけどね。日向君状況は?」
「現在、先行している弐号機が中間圏まで到達しました。後続機も順調に上昇中。3機が同高度に揃った後、再突入を開始します」
--高度80,000m 中間圏
「……綺麗……」
先に到達していたアスカはSSTOの外部モニターの映像を見て感動していた。眠気も吹っ飛んだのだろう。
そこは宇宙空間の入り口という程度で衛星軌道は、まだまだ先だ。それでも空が暗く星が見えて、丸く地平線が望める。
『すごいね!アスカ!』
「シンジ」
初号機も到達したようだ。シンジも同じ風景を見ているのだろう。まるで静止しているように見えるが、実際はマッハ20以上で飛んでいて、一気に地球の裏側を目指している。
夜から朝へと変化する様子が見て取れた。
『ふわ~~~、すっごーーーい!きれ~~~!』
レイの機体も追いついてきたようだ。3機は微妙に速度を調整して再突入後に合流を図る。大幅に加速した機体を、空気の抵抗を利用したブレーキで減速する予定。
『レイ、高いのは大丈夫なの?』
『え?あ、うん。だいじょーぶみたいだよ。お兄ちゃん。アスカの特訓のおかげかな?ありがとうねっ』
「……ふ、ふんっ、誉めたってなんも出ないわよ。それよりアンタ達、宇宙は初めてなんでしょ。もうちょっと気の利いたセリフは出てこないの?」
照れ半分、厳しく特訓した後ろめたさ半分で、自分のセリフを棚に上げる。
『じゃあアスカは、なんて言ったの?』
「そ、それは……」
『惣流少尉、そろそろ再突入を開始します。少々揺れが発生しますのでご了承ください』
「あ、そうね。了解!レイ、シンジ、じゃあまた後でねっ」
レイの質問に窮していたアスカは、これ幸いとばかりに通信を切った。
--ネバド・デル・ルイス火山近郊の谷
『なんで、Nervにさせて、ワイらにやらせへんねん!!』
「しょうがありませんでしょ!キール様の命令なんですから」
少し深い谷の底に巨大な人影が4つ。すべての背中に翼があった。SeeleチルドレンのErzengelだ。先ほどまで火山の上に居た6機の内の4機。
『なにゆーてんねん!!モルゲンが失敗したからやろ!!』
漆黒のErzengel五番機からヴィンター・ビスマルクの声が届く。
「ち、違いますわよ!ワタクシちゃんと捕獲には成功しましたわ!只、予定外の羽化が始まってしまっただけです!!博士もしょうがないとおっしゃってましたわ」
くすんだ赤色のErzengel四番機内のモルゲン・ツェッペリンが言い訳する。
『どうでもいいけど、ボクらも帰らないかい?』
『アタイ、ヒマヒマヒマ~~~カエロ~~~!!』
カーキ色のErzengel七番機シュヴェーアト・ティルピッツと、黄色のErzengel六番機リヒト・ザイドリッツからも抗議が来た。
「はっ!そう言えばアンカー様は!?」
『とっくの昔に、『蒼き月』に帰っとるで』
『綾波レイもいっしょだね』
「あんの人形女も!?キーーー!なんでアンカー様はあんなのと一緒に居られるのかしら!!」
『……おんどれよりはマシなんやろ』
『まあ、彼女は最初に選ばれしチルドレンだからね』
『アタイらも『赫き月』に帰ろうよ~~~』
「おだまり!!このまま帰ってもしょうがありませんので、Nervの連中を『支援』して差し上げましょう。秘密裏に」
『ようするに、『くやしいから邪魔する』んか。セコイで』