--高度40,000m 成層圏
EVA輸送用SSTO『スーパーブラックバード』が超電磁コーティングした特殊セラミックの底面を赤熱させながら降下していた。
下部周囲の高温になった大気がイオン化して地上との直接交信はできないがスペースシャトルと同様に上部のアンテナが衛星を経由してNerv本部との通信は出来る。
--ネバド・デル・ルイス火山近郊の谷
遥か上空に光る点が3つ見え始めていた。現地時間では昼なので星ではないだろう。
「ふむ。来たみたいだね。SSTOが3機。高高度から降下する気かな」
シュヴェーアトの
『博士によると、アスカ達らしいですわね』
『ほんまか?あのアマ……いつかキャン言わしちゃる』
『キャハハハハ!撃ち落しちゃえーーー!』
『リヒト、それは面白いアイデアですわ』
「『え?』」『ほへ?』
ニヤリとするモルゲン。つり目気味の青い瞳がキラリと光る。
『シュヴェーアト。降下中のEVAを狙えるかしら?』
「ふん。ボクの腕なら造作もないことだね。今日は高出力レーザーライフルを持ってきたんだ。どんな落下速度でも百発百中できるさ。……でもさすがに撃ち落すのは不味いんじゃないか?」
『そやそや。キール様に手ぇー出すな言われとるやろが。せやなかったらNervどもなんぞ、いつでも潰したるのに』
『別に撃ち落すなんて言ってませんわ。ただパラシュートの綱を切ってくれればいいのよ。どうせ補助パラシュートがあるから死にはしないでしょう。あたふたとするアスカの顔が目に浮かびますわ。おーーーほっほっほっ!!』
『やっぱセコイやん……』
--高度20,000m 成層圏
『惣流少尉。速度が音速を下回った時点で、上部のカーゴハッチを開きます。同時にロックを外しますので飛び出してください』
「了解。でもこの速度でハッチを開いて大丈夫なの?墜落しない?」
『はい。機体の姿勢は多少不安定になりますが、構造的には大丈夫ですよ。心配してくれて嬉しいですけど、我々の腕も信頼してください少尉』
「そうね。任せたわ。カウントダウンは30秒前からお願い。シンジ、レイ、ちゃんと聞いた?」
『『うん!』』
アスカ達は、SSTOのオペレータからレクチュアを受けていた。
EVA輸送用SSTOである SC-72『スーパーブラックバード』は、超大型のEVA輸送機と違い、EVAの直接投下用装備はなかった。そもそも輸送するためだけを想定していた機体で支援用の装備も武装もない。大きさも全翼機に比べれば小さくEVAの追加装備の殆どを運ぶことが出来ない。
そして、まだ実戦配備前の機体なので、EVAの降下作戦は訓練もしていない。まさしくブッツケ本番の作戦だった。
「なんとかなるっしょ」の一言ですませた指揮官は、スタッフを信頼してのことか。それともなんも考えていないのか。部下の苦労が偲ばれる。
--ネバド・デル・ルイス火山近郊の谷
「来た来た」
上空のSSTOは、他のチルドレンにはまだ光点にしか見えなかったが、レーザーライフルのスコープには、今まさに上部ハッチを開いて、EVAが飛び出すところがハッキリ映っていた。
--高度10,000m 対流圏
「いぃーーー、やっほうーーー!!」
アスカはレイと違い高い所が好きだった。
特にパラシュートを開く前の自由落下時の爽快感は、他では味わえない格別なものがある。今回の作戦はHAHO(高高度降下高開傘)で使徒の前方に先回りして待ちうける為、自由落下時間が短いのは残念なくらいだ。
『いやあああぁぁぁ~~~~~~~~~~!!やっぱりダメぇ~~~~~~!!』
と、いうレイの叫びは置いといて。
AOD(自動開傘装置)が気圧の変化を察知して作動したようだ。バックパックが開き傘体が引き出される。
--ネバド・デル・ルイス火山近郊の谷
Erzengel七番機のターゲットスコープに赤いEVANGELIONが映し出されていた。
「よし開傘だな。Feuer!」
『ねーねー、アタイにも見せてぇ~~~!』
「あ、こらリヒト!!ボクに乗っかるな!」
--高度8,000m
何か背中で破壊音がした。
「なに?」
次の瞬間、大きな音と共に、バックパックが主傘に引っ張られてEVAの背中から引き千切れるのがアスカの目に映る。外れたバックパックには予備傘も着いていた。
「あ……」
頭の回転の早いアスカは、即座に状況を分析。
EVAの機体とバックパックの接続が甘かったのか、接続部分自体が疲労していたのか原因は色々考えられる。さすがに地上からSeeleチルドレンにバックパック接続部が誤って狙撃されたとは想像つかなかっただろうが。
それよりも対応方法だ。高度、対気流速度、降下姿勢、降下地点等を考慮して落下時に助かる方法を考える。そして、すぐに理解してしまった。
自分は助からないことに。
「やだな、ここまでなの……」
『あきらめちゃダメだ!!』
突然、EVA初号機から通信が入った。振り返ると上空にいた初号機が開傘したばかりのバックパックを、自ら引き千切るのが見える。
その行動に迷いはない。
「バッ!バカ!アンタなにやってるの!?アンタまで助からないんじゃ……!!」
『あきらめちゃダメだ!!アスカ!!』
叫ぶシンジ。
『前にアスカが教えてくれたんだ!!EVAにも心があるって、でもそれは、鏡で映した自分だって!!アスカがあきらめたら、EVAもあきらめちゃうじゃないか!!』
「えっ!?」
--高度6,000m
『アスカ!!』
仰向けに落ちる弐号機に、まっすぐな姿勢の初号機が追いつく。その手を取って頭を抱え込むように抱きしめた。
(あ……)
EVA越しにはありえない温もりを感じた。死の落下中にも関わらず心が落ち着く。途端に停止していた思考が働き出す。
(EVAがあきらめる?EVA……A.T.フィールド!!)
「シンジ!!A.T.フィールドよ!!A.T.フィールドでエアブレーキをするの!!」
『!そうか!!』
「風を、空気の抵抗を感じて!!それを拒絶するイメージを!!」
『うん!!さすがアスカ!!』
--ネバド・デル・ルイス火山近郊の谷
「ボ、ボクのせいじゃないぞっ!」
『じ、事故ですわ!さ、さあ『赫き月』へ帰りましょ』
--高度4,000m
「止まれ!!止まれ!!止まれ!!」
『止まれ!!止まれ!!止まれ!!』
--高度2,000m
「止まれ!!止まれ!!止まれ!!」
『止まれ!!止まれ!!止まれ!!』
--高度1,000m
「止まれ!!止まれ!!止まれ!!」
『止まれ!!止まれ!!止まれ!!』
抱き合う2機のEVAの下に赤い光の膜が生まれた。
--高度500m
「『止まれ!!止まれ!!止まれ!!』」
EVA初号機と、弐号機の眼光が光る。
--高度100m
「『止まれ!!』」
--高度0m
「…………生きてる?」
アスカは、呆然と辺りを見まわした。
まばらに林の緑が見える。間違いなく地上に着いたようだ。
まず自分の体を点検する。打ち身はあるようだが骨折はないようだ。少し動かして状態を診る。自分もEVAも大丈夫なことを確認する。
「はっ!シンジは!?」
これは見回さなくてもすぐ確認できた。目の前に初号機が居たから。
『アスカ!!大丈夫!?』
シンジからも通信が入った。声からも元気さが覗える。
「ええ、アタシは大丈夫よ。シンジは?」
『うん、僕も平気』
無我夢中で分からなかったが、A.T.フィールドを大きく広げて空気抵抗を作りパラシュートの如く速度を殺して軟着陸に成功したようだ。
「無茶しないでよ!アンタも死ぬところだったじゃない!」
『あはは、なんかもう無我夢中で……』
「大体、主傘だけ外して、補助傘を後にすればなんとかなったんじゃないの?」
『あ、そういえばそうだね。兎に角抵抗をなくしてすぐに追いつきたかったから』
「もう……無理しちゃって…………バカシンジ…………」
『ごめん…………』
しばし、無言で見詰め合う。
「シ、シンジ。……その……あ、アリガト……」
『え?なに?』
「な、なんでもない!」
『…………アスカ』
「(どきっ)な、なに!?」
『そろそろ、どいて欲しいんだけど……重い』
初号機に馬乗りする弐号機、落下したときのそのままの姿勢だった。
ばき
「どぉわれが重いかぁ!!!」
『あのー、もしもしー、お2人さーん?』
ここでやっとNerv本部から通信が入る。
「なによミサト!!今取りこみ中よ!!」
『アハハハ……あのー、任務のことなんだけどね……』
「はっ使徒は!?どこ!?」
きょろきょろと辺りを見まわしても何もない。
『…………下』
「は?」
ぽいっと初号機を退かせて、地面をみる。
なんか、魚のようなものがディズニーアニメのごとくペッチャンコになっていた。
「あ」
『…………使徒殲滅確認。作戦しゅーりょー。おつかれ様』
日本のミサトから地球の裏に作戦完了宣言が投げやりに出た。
『シンジ君?おわりよー?』
『ぐーーー』
『あら?寝てる??』
「アタシも、眠く……くーーー」
『ありゃ。2人とも寝ちゃった……』
--高度5,000m
「マーカセテ!!マーカセテ!!マーカセテ!!マーカ……!!」
目の焦点が合っていないパイロットを乗せてゆっくりとEVA零号機が降下中。
続く