--(強化訓練合宿第1日目)ブリーフィングルーム
わいわいがやがや、2年A組の面々が友達同士で雑談をしている。
時刻は、AM08:30。平日であれば第一中学の2年A組教室だが、夏休みに入って、もう一週間が経つ。
今日は学校の授業ではなく、Nervに所属するチルドレンとしてブリーフィングルームに集まっていた。本日から行われる強化訓練合宿だ。三泊四日で行われるこの訓練は普段よりも厳しくなるはずだが、この場にいる誰もが笑顔、きっと普段とは違う何かを期待してのことだろう。
日常から非日常へ。わくわくどきどきはいつの時代も同じだ。ただ、彼らの日常も一般人から見れば十分変わってはいるが。
「だーかーらー、最強は、デザートイーグル50AEだって!もう人間の使う拳銃じゃないよアレは」
「そうかなぁ~?僕は、454カスールだと思うけど。454カスール弾を使用する世界最強のリボルバーだよ?」
朝から『濃い』話をしているのは、ケンスケと浅利ケイタ。
彼らはミリタリーという共通の趣味を持つ。ケンスケは頻繁に新横須賀に出向いて統合軍艦船を見に行くほどだし、ケイタは戦車に乗りたくて戦自の学校に入ったツワモノだ。
そんな2人の会話は興味のない者からすれば暗号のようなもので、誰も寄り付くことができない。
「何の話だ?」
……いや一人居た。チルドレンで唯一、常時銃の携帯が許された長良ソウスケだ。もっとも彼の場合は、純粋に商売道具として馴染んでるだけだが。
「よう!ソウスケ!実は今20世紀最高のハンドガンについて話してたんだ」
「おはよう、長良君。君はどう思う?」
真面目な彼らしく少し考え込んでから意見を述べる。
「……ふむ、難しい問題だ。そうだな、旧米軍のM9なんかどうだ?」
「「え?ベレッタM92?」」
「肯定だ。最高の拳銃と言っても定義が難しい。が、ハンドガンに威力を求めるのはナンセンスだ。威力で言えばライフルの方が上だからな。だから広く普及したM9を挙げたんだが。ふむ、よくよく考えると安定性という面で今一だな。初期不良のスライドの強度や、安全装置周りについては改良されたが。やはりグロック17か。非装填時は620gしかないから軽くて使いやすいぞ。プラスティック製だからな。はじめの設計ではプラスティック部分が多すぎてX線チェックに引っかからず、あわてて金属部分を増やしたという真偽不明な逸話さえある。装弾数も9mmパラベラム17発と多いのも魅力だ……。こう考えると迷うな……ん?どうした2人とも」
「「い、いや何でも……」」
趣味人としては2人とも多くの知識を持つ彼らだが、やはり普段から手足の様に銃を使い正に命を掛けている職人には敵わないようだ。
それか、普段寡黙なソウスケがべらべら喋り出したのにビックリしたのかもしれない。
「そ、そういやベレッタM92に、レーザーサイト付けるとカッコイイよね?」
ケイタがその場を繕うように話題を変えた。ソウスケがその話題にも乗ってくる。
「カッコイイかは兎も角、レーザーサイトは埃の多い室内では余り使えない。自分の位置を教えているようなものだからな。あれには別の使い方がある」
「え?どんな?」
「こうだ」
ソウスケは、腰のフォルダーからグロック19を抜き、ポケットから出したレーザーサイトを銃にとり付けた。
そして、おもむろにケンスケへ銃口を向けて引き金に指を掛けた。発光したレーザーがケンスケの額の中央に赤い点を映し出す。
「な、なにを!?」
「貴様、昨夜なにをしていた?」
「なんの事だよ!?おいソウスケ!?」
声の裏返るケンスケに対して非情かつ冷静に告げるソウスケ。
「昨夜、2030時。B-12ブロックの女子更衣室で何をしていたかと聞いている」
「し、知らないぜ!?何のことだよっ!?」
「ほう?まだ白を切るか。ならばこれでどうだ?」
ソウスケは、額にポイントしてあったレーザーをゆっくりと下げ、心臓に向けた。
「頭を撃っても即死しない場合がある。だが心臓なら一発だ。見えるか?赤いラインが。それは数秒後に貴様に死をもたらす弾丸の軌道だ」
「ひぃぃぃ!!ご、ごめんさない!偶然扉が開いていたので『ちゃ~んす♪』と思って隠しカメラをしかけました!ちょっと小遣い稼ぎしようと思って!!」
「と、この様に尋問に使うぐらいだな」
先ほどとは、打って変わって普通に話すソウスケは、拳銃をホルスターに収めた。
「へ?」
半泣きで土下座していたケンスケは、呆けた顔で見上げる。
「安心しろ。弾倉にもチャンバーにも弾は入っていなかった」
「な、なんだよ~、脅かすなよ~」
「普通に銃口を向けるより効果的だ。どこに弾丸を受けるかを想像できてしまうのだろうな」
ソウスケは何事もなかったかのうように解説を加えた。
「そ、そうなんだ……」
ケイタもようやく金縛りが解けた様だ。ちょっと引き気味ではあるが。ケンスケもほっとした表情で胸を押さえてソウスケを見る。
「あ~、ビックリした。心臓止まるかと思ったよ。ところでなんで知ってたんだ?」
「ああ、昨夜、保安部への報告帰りに見かけてな。悪いが全部外させてもらった」
「そうか……、まあ見つかったのが、お前で良かったよ。女子に見つかっていたらどうなっていたことか……」
「ふーん、……ひっ!?あああ、相田くんっ!」
「どした?ケイタ?」
「う、後ろ?」
「後ろ?」
ケンスケが振り向くと、委員長を筆頭に2年A組女子一同……いや鬼の集団が居た。
「あーいーだーく~ん?ちょ~っと、こっち来てくれるかな?」
委員長の言葉が終る前に、両側から女子にガシッと腕を拘束された。普段なら両手に花♪とでも思えるだろうがケンスケの顔が、青ざめてることからそういう状況ではないのが分かる。
部屋の隅に連行されるケンスケ。
「ちょっ!ちょっと待ってくれ!いいんちょ!話しを……!はなっ、ぎゃあーす!」
「僕には、な~んにも見えない聞こえないよ……」
耳を塞いで、ブリーフィングルームの片隅で行われてる凶行に目を背けるケイタ。
他の男子も似たようなものだ。誰も助けようとしない。ただ哀れむのみ。
しかし、ケイタはもう一人の鬼を発見してしまう。
「ソウスケにも、聞きたいことあるんだけどいいかな?」
「千歳か。何だ?」
千歳カナメが笑顔で近づいてきた。なぜかケイタは、その笑顔に恐怖を感じる。
「さっきの話聞かせてもらったわ」
「そうか。女子供に見せるものではなかったのだが」
「……で、その盗撮用カメラは、全部外してくれたのね?」
「肯定だ。何かしらのトラップの可能性もあった。結局はカメラだけだったが中々巧妙に隠されていた。相田には意外な才能があるな」
「ふーん。つまり女子更衣室に入って隅々まで見たってことね」
周囲の温度が急激に下がったと感じたのはケイタの思い過ごしか。
「肯定だ。どこに隠されているか分からないからな。……千歳、その手に持っているものは何だ?」
「ん?これ?ただのハリセンよ?漫才の生んだツッコミの極みじゃない」
「いやハリセンは知っているが、何故ハリセンがぼんやりと光っているのだ?」
「あー、これ?”ちょーしんどー”してるんだって。プログナイフと同じね」
「ほう?このサイズに組み込むとは凄いな」
「そうね。キミコが作ったんだって。で、言いたいことは終わり?」
「うむ。そうだな…………千歳」
「なーに?」
「服はちゃんと畳んだ方がいいぞ?」
「おーーーきなお世話よ!!!!!このヘンタイ!!」
ずがーーーん!!という音と共にブリーフィングルームで新たな阿鼻叫喚が始まった。
自動ドアが開き、赤いジャケットを着たミサトと、アスカが入ってきた。今日から始まる訓練内容の説明をこれから行う為だ。
「きり……じゃない気をつけ!葛城少佐に敬礼!」
ヒカリの号令に全員が一糸乱れぬ敬礼をする。ミサトも答礼を返すがあることに気が付く。
「あれ?洞木さん、相田君と長良君は?」
「医務室です。2人とも」
「あら珍しいわね。相田君はともかく長良君まで。まあいっか。今日から始まる訓練の日程を説明するわよん」
あっさりほっとかれた2人は奇跡的に軽傷で済んでいた。これから始まる地獄の訓練には支障ない。