--中央発令所
『MAGI・カスパー、MAGI・メルキオール、MAGI・バルタザール自己診断終了。問題ありません。これよりMAGIネットワーク接続準備に入ります』
『Nerv北米支部とのリンクを確立。不当アクセス防壁展開。チェック機能を起動します』
『フェイズ23を終了。担当官は、持ち場への移動をお願いします』
場内アナウンスが響き、オペレータの指令が各国語で飛び交う。多段階に分かれた発令所の上から2番目に、今回の作戦最高責任者、赤木リツコの姿があった。
MAGIのバージョンアップという作戦は、最初の使徒戦後から計画されたものだ。
戦闘中に起きたクラックが原因で本部が暴走したEVA初号機に壊滅される寸前にまで陥った。その外部からのハッキング・クラッキングの防御力向上が主な目的。
しかし、凝り性の技術部長の元、それだけでは済む分けなく大幅な改良が行われた。改良といっても『MAGI』のハードには手を加えてない。ソフトウェア、つまりOSを始めとするプログラムの変更だ。
「はぁ……」
「どうしました?センパイ」
悩ましげなリツコの溜息に真っ先に反応したのはやっぱり直弟子伊吹マヤ。
「なんでもないわよマヤ。ただちょっと疲れてるだけ……」
「……この作業が終ったら十分な休息を取ってください。私、心配で心配で……センパイは働き過ぎです!これ以上がんばって倒れられたら……」
「ふふ、そうね気をつけるわ」
「気をつけるだけじゃ駄目です!ちゃんと休んでください!昨夜の事故のこともありますし……」
「……情報システム部の高雄君ね……惜しい人を亡くしたわ。やっぱり過労だったのかしら」
「はい、青葉君から聞いたんですけど、死因は急性心筋梗塞だそうです。過労が直接の原因かどうかはまだ……」
「そう、やっぱりこれが終ったら休暇をとるわ。スタッフにも交代で休んでもらいましょう」
「はい!後でスケジュール組み直しの検討をします!」
「お願いねマヤ。ありがとう」
「いえ……センパイの為だったら私……」
『赤木部長、準備が整いました』
なにやら妖しげな雰囲気になった所に呼び出しがかかる。
「分かったわ。始めてちょうだい」
『了解。第1次接続を開始。主モニターに回します』
発令所の大型モニターに世界地図が表示された。
各地のNerv支部が網目のような線で繋がれている。バージョンアップした『MAGI.NET』の名の通り、支部にあるコピーMAGIをリンクし一つのMAGIとして動作させようという計画。MAGIを脳神経細胞、各地を繋ぐケーブルをシナプスとすれば地球全体を大脳にしたようなものだ。
ちなみにMAGI単体コピーはMAGIの単数形MAGVS(マグス)と呼ぶ。
『Nerv北米支部MAGVS・ニコラウス接続』
『NervEU支部MAGI・ペルヒタ、MAGI・ベファーナ、MAGI・パブーシェカ接続』
『Nervスウェーデン支部MAGVS・ルチア接続……』
地図上で次々に接続完了を示す青いラインに切り替わっていく。一つの巨大なスーパーコンピュータが誕生する瞬間だ。
「MAGI.NET構築の98%が完了しました」
「後、一つがまだね。どこ?」
「はい、センパイ。Nervイスラエル支部MAGVS・ヘロデ王との接続がまだ……」
「なにかトラブル?」
「いえ、まだアラートは出ていません。ただMAGI・メルキオールと『対話』を続けています。要約すると接続理由を求めているようですが……」
マヤのディスプレイに物凄い勢いでテキストが流れていた。
Nervイスラエル支部のコンピュータMAGVS・ヘロデ王と、Nerv本部のMAGI・メルキオールがやり取りしている内容のLOGのようだ。MAGIシステムには思考する力があり自ら判断する。もちろんプログラムによって制御されている以上、人間に逆らうなんてことはないが。
「(ピー)あ、終ったみたいですね。接続確認。MAGI.NET構築100%完了です。以後自己診断モードに移行します」
「そ、じゃあ終了ね。みんなもお疲れ様!休憩していいわよ!」
総責任者赤木リツコから終了宣言。オペレータ達は歓声を上げた後、背伸びしたり、方を叩いたり、コンソールにつっぷしたりと思い思いの休憩を取る。かなりお疲れのようだ。
「さて、私も仮眠をとるわ。マヤも休みなさい」
「センパイ!仮眠じゃなくてお家で寝てください。私はまだ大丈夫ですので、ここに居ます。もしなにかあれば自宅まで連絡しますので……」
「そお?じゃあお言葉に甘えて……今日は恐いほど順調に行ったわね。……そういえばこういう時、必ず出てくるお祭り好きはどうしたのかしら」
「葛城さんだったら、今日はチルドレン強化訓練で、教官をしてるはずですよ?」
--ブリーフィングルーム
強化訓練第一日目は、学科だ。
チルドレンは座席に着き、教官による講義を受けていた。
講義内容はいつもの戦闘技術理論と世界中に使徒が出現することからくる戦術転換の必要性など。普通の授業よりは自分に直結するものなので真剣に聞く者も多いが、やっぱり勉強は勉強。眠くなるのも道理。
ちなみに教官は……
「……という訳で、これから中隊規模での戦闘が増えるワケ。アタシやヒカリの命令は絶対よ!よ~くその竹頭に叩き込んでおきなさい!特にそこのバカシンジ!ぼけぼけっとしてないでアタシのいうことを聞くのよ!」
「なんだよ、もう……。バカっていうなよ……」
「バカだからバカって言ったのよバ・カ・シ・ン・ジ!後、そこ!!寝るナー!(ブンッ)」
「(バキッ)アイタタタ!!なにすんねん!!」
「ナニスンネンじゃぁないわよ!バカ鈴原!まったくこれだから3バカトリオは……」
「バ……バカゆーな!せめてアホ言わんかい!」
「……俺をシンジ、トウジと一括りにするなよ……」
惣流アスカ少尉を教官に迎え、講義は続く。中々進まないが。
一方、マヤに教官をしてるはずと言われたミサトは……
「くーーー、スーーー、むにゃむにゃもう飲めないわよリツコぉ~」
パイプ椅子で熟睡中。
--情報システム部情報管理課第4端末室
「くそ~、リュウジのやつ……なんで死んじまったんだよ~」
高雄リュウジの同期で親友の愛宕ミツオが、悲しみの中で彼の遺品の整理を行っていた。
リュウジの死亡の原因はまだハッキリしていない。過労との見方もあるがミツオは信じられなかった。昨夜も死亡する2時間前に会って話をしていた。多少疲れてはいた様だが倒れてしまうほどではない。むしろ仕事をさっさと終わらせようと張り切っていたくらいだ。
だからこそ彼の死に納得がいっていなかった。遺品の整理とともに何か別に原因があるのではと、事故の現場を探ることにした。
「ん?DVDが入ったまま?」
彼は、端末のDVDドライブに入ったままのDVD-RAMディスクを発見。
中身を確認すると大きめの映像ファイルが一つ。DVDに映像ファイルが入っていても驚かないが、そのファイル作成時間に驚愕する。高雄リュウジの死亡推定時間とほぼ一致していた。死亡する寸前に、このDVDにファイルをコピーしていたことになる。死亡原因となんかしら関係があるかもしれない。
ミツオは使命感と探求心、そして少々の興味本位から恐る恐るDVDを再生してみた。
脈略のない断片的な映像の羅列だった。
黒地に広がる波紋、赤く輝く銀河に何かの紋章、宇宙を背景にセフィロート(生命の樹)、うねるオーラのような模様、閃光、白地に斜めの黒十字、光の波紋、青空、少年の顔と全身のシルエット、手のシルエット、オレンジ色の空、印を結ぶ女性の手のシルエット、エヴァ初号機、背後に12枚の翅が開くエヴァ初号機、顎部を開くエヴァ初号機、満月、第三新東京市、「TOKYO-3」の文字、NERVのマークGOD'S IN HIS HEAVEN, ALL'S RIGHT WITH WORLD、第三新東京市の地図、目玉マーク7つと逆三角形、「極秘 人類補完計画 第17次中間報告 人類補完委員会 2015年度業務内容」と書かれた何かの表紙、生物の胚、エヴァ零号機、エヴァ弐号機、爆撃を受け吹き飛ぶ建物、光る白い巨人、「ADAM」という文字、遺伝子地図、青空。
最後に曲線で構成された謎の象形文字で終った。後はただの砂嵐が映っている。
「……なんだこれ?」
ミツオは思わずつぶやいていた。次の瞬間、映像に変化が起きる。
ただの砂嵐だったものが色々なパターンを繰り返す様になる。白と黒の模様は次々と変化した。呆然と見つめていたミツオは、目を離すことができない。自覚することもないまま徐々に視野が狭くなり最後は暗闇となった。
翌日、愛宕ミツオは遺体で発見される。
遺体の側に、大量のDVD-RAMディスクが積まれていた。