--22:20 赤木リツコのマンション
「はい、センパイ!あ~ん」
「自分で食べられるわよ……」
赤木リツコはパジャマ姿でベットにいた。
先日までの激務でちょっと体調を崩し自宅で休んでいるところだ。熱は微熱程度でそれほど重症というわけではないが、マヤが強引に休ませ、看病と称して上がり込んでいる。
エプロンまでつけて甲斐甲斐しくおかゆなんか作ったりして。
そんな時に鳴る携帯電話。相手はミサトだった。
「使徒ですって!?」
「ちっ」
何故か舌打したマヤはほっておいて、ノートPCで状況を確認する。
「本部内に!?」
電話では埒が明かないので、ノートPCから遠隔会議用のシステムに繋ぎ顔を見ながら会話するようにした。
『どう思うリツコ?』
「画像解析では不定形のアメーバみたいな感じね……これがカメラにぶつかって消えた?」
『まだ捜索中だけと、全然痕跡がないわ。戦闘で破片とか残っているかと思ったけど』
「使徒の破片ね……マヤ!監視カメラのネットワークを確認して!」
「はいセンパイ!」
マヤも持ち込んでいたノートPCを使い、猛烈なスピードでキーを叩き始めた。
『何か分かったの?』
「ミサト、以前にEVAが何でできているかって話したかしら」
『え?えーと『人間とそっくりだが構成物質が違う』だっけ』
「そう。結論からいうと固形化した光子でできているの」
『はい?』
「光を固形化したものが実際の物質のように振るまっているの。それで構成されているのがEVAで使徒も同じよ。つまり……」
「センパイ!確認できました!監視カメラのネットワークは警備部のネットワーク内でクローズドです。MAGIなどメインネットワークには繋がっていません」
「そう、よかった。外にもある監視カメラなどからのサイバー攻撃防止用にクローズドだったわね」
『何が??』
頭に疑問符を浮かべるミサトが映っている画面に向かってパジャマ姿のまま説明する。
「使徒が光でできているならば、カメラにある画像センサーでレンズから入って来た光が電気信号に変わっているかもしれないわ」
『電気信号?そんなものになれるの??』
「私も半信半疑だけど、監視カメラのネットワークで大量のデータが移動しているわね。監視カメラのネットワークがクローズドだからMAGIなどにアクセスされなくてよかったわ。……いえ、光→デジタル信号ができるなら逆もできるかも……」
『なるほど。良く分からないけど良く分かったわ』
「ミサト?」
『要するに全部電源止めちゃえばいいのね!』
「ミサト!?」
--23:00 中央発令所
「よろしいので?」
「問題ないわ。司令部が全員留守なので私が最高責任者よ」
「では全電源カットします」
「ええ、MAGIとセントラルドグマの維持以外は全部止めちゃって」
ミサトの指示でマコトがコンソールで電源のシャットダウンを実行する。
発令所も非常用電灯に切り替わり、空調も止めたため部屋全体で唸っていた機械音が全て止まった。シンっとして耳が痛いくらいだ。強制的に止めたので、後の復旧を考えると頭が痛いが使徒撃退が優先なので仕方がない。
Nerv本部の職員はどこで使徒が出てくるか分からないため、D級勤務者は全員待避済み。残った作戦部スタッフとチルドレンは色々なものを発令所に持ち込むため大忙しだ。
ミサトは会議室にあった折り畳み式の長机の前に陣取っている。目の前にあるのは赤い電話機。それもかなり古いデザインだ。ボタンではなくダイヤル式。
ジリリリンン!とその電話のベルが鳴った。電子音でなく物理的なベルの音だ。鳴ると同時にミサトが受話器を取る。
「はい、もしもし」
『もしもしじゃないわよミサト』
電話の相手はリツコだった。リツコはまだ自宅だ。というより本部には入れない。
『あなた本当に全電源落としたのね……』
「使徒を倒すため仕方ないでしょう。ちゃんとMAGIとセントラルドグマ維持分は残しているから」
『その他の電子機器が壊滅状態になりそうだわ……まあそれは後で考えるとして、使徒らしき大量データは、B-8ブロックからB-20ブロック間で移動が止まっているわ。それ以降は電断で分からないけど。その範囲で実体化しているかも』
「了解、その範囲で絞られるのね」
リツコの想像だと、デジタルデータとしての移動からディスプレイなどの映像出力装置で実体化できるらしい。デジタルデータの状態で電源止めたら使徒撃退できたか?と思ったがそう上手くはいかないようだ。
ちなみに今リツコとミサトがしゃべっているのは「アナログ」回線だった。
リツコが「こんなこともあろうかと」というわけではないが、赤木邸と総司令の碇邸、後、市内のいくつかの公衆電話に偽装したアナログ回線の電話が通じるようになっていた。今使っているのが赤木邸とのホットライン。わざわざ有線で繋がっている。
「いやー、さすがリツコ!備えあれば憂い無しね!」
『こんな前時代的なもの本当に使うことになるとはね……電子攻撃によるネットワーク切断に備えたものなんだけど……』
さすがの使徒もアナログ回線は移動できないだろう。
作戦部とチルドレンが忙しく運んでいるものも会議室の長机と黒電話だ。埃が被ってそうなまさにアナログなものを持ち出してどうするかというと、この黒電話で連絡を取りつつ使徒を捜索する模様。もちろん捜索側も有線だ。そのための電線も用意している。
『で、使徒を見つけてどう殲滅するの?EVAは通路に入れないわ』
リツコから当然の疑問が出るが、ミサトもちょっと悩んでいた。
「龍驤ホノカさんが、撃退したのは知っているわよね。だから見つけ次第彼女に対応してもらおうかと思ってるけど……」
『それは彼女の負担が大きいわね……ちょっと龍驤さんに代わってもらえる?』
ミサトはホノカを呼び出し、リツコの電話に出てもらう。
「はい、龍驤です。……はい……はい……そうです。はい玉鋼です」
リツコとホノカの会話が終わって、再度ミサトが代わりリツコから提案があった。「恐らく」という枕詞で始まった説明は、ホノカが使徒を切れたのは日本刀だからかもしれないということだ。
日本刀の原料として広く知られる「玉鋼」は、炭素が1~1.5%程度に含まれており、この炭素含有量が人間の手の延長として有効であるという。
A.T.フィールドは人間にもあり、体の表面、境界線がA.T.フィールドだ。これを保てないと人間はL.C.Lと化してしまう。EVAのように体の外側に展開することはできないが、手の延長として持っている武器に影響を与えることも出来るそうだ。いわゆる気を通すみたいな表現になる。
理屈はいまいち分からなかったが、ホノカ一人に頼らなくていいことは朗報だった。
武器として確実に使えるのは日本刀を持っている3人。龍驤ホノカと瑞鶴リョウコ、鞍馬ソウイチロウ。3人とも剣術を極めており、気を通す感覚もなんとなく分かるという。
この3人を主軸として、班に分け使徒を捜索する。
他のチルドレンも念のため武器として訓練場にあった木刀を持った。日本刀のようにはいかないが炭素が含まれていることは間違いない。効果があるかは微妙だが。
日付が変わる午前0時より作戦が開始された。
--00:15 B-12ブロック通路
「オイコラ使徒ボケ!さっさと出てこんかい!」
黒ジャージに木刀を持ったトウジが大股で歩きながら吠えてる様は、グレた中学生が闊歩しているよう。最新施設のNerv本部内としては異様な光景だ。
この班は、トウジ、ケンスケ、シンジ、カヲルの4人で構成されている。主力となる3人の剣術少年少女は分かれて後方に待機、使徒発見の報で一番近い主力が殲滅に向かう計画だ。
シンジがいる班は捜索を任務としている。さすがに事態が事態なのでカヲルも動員された。
トウジを先頭に担当区域を捜索する。いつモンスターが出てくるか分からないダンジョンだ。武器は木刀と心許無い。捜索の結果はどう連絡するかというと
「あ、シンジ。電線リールが終わりそうだぜ」
「ほんとだ。交換するから待ってね」
シンジが背負っている背負子には、一番上に黒電話。その下に電線リールとその替えが乗っかっている。
シンジが背負子をおろして、電線を全て出し切ったリールを交換。こうやって電線を繋ぎながら進んでいた。
「これめっちゃ重いんだよね……」
「まあシンジに前衛は無理だからな。電線も本来はもっと重いらしいぜ。これは特別製らしいけど」
「そうなの?よっと。交換完了」
シンジが電線リールを交換している間、ケンスケがそばにいて、トウジ、カヲルが見張っていた。カヲルが通路の標識を確認してシンジに伝える。
「シンジ君、そろそろ連絡した方がいいみたいだよ」
「あ、うん、ちょっと電話するね」
--00:20 中央発令所
長机の上に黒電話がずらって並んでいた。その前に座って少女たちがじっと待っている。
長机の横にはホワイトボードが設置してあり、捜索区域の地図が手書きで書かれていた。
ジリリリン!というベルの音が鳴るとすかさず少女が受話器を取る。
「はい!こちら本部!…………はい……はい了解です。引き続き捜索をお願いします」
電話を取った山岸マユミは、ホワイトボードの横に居た洞木ヒカリに声を掛けた。
「デルタ班から連絡あり!使徒未発見!B-07-03エリアクリアです!」
「B-07-03エリアクリア了解」
ヒカリはホワイトボードの手書き地図の該当箇所をキュッキュと塗りつぶす。
どこまでもアナログだ。
捜索をエリアの外側から徐々に塗りつぶし、使徒を追い詰めようという作戦。他の電話も次々に鳴り始める。
「始まったわね」
「ええ」
傍に立っているアスカの声に、ミサトがゲンドウポーズで答える。
座っているのがパイプ椅子で肘をついているのが長机なのがいまいち決まっていないが。
捜索範囲は絞れたとはいえ、人数的にまだまだ広い。ちなみに作戦部スタッフも捜索に出ているが、ほとんどは中継地点のアナログ回線網の維持で手一杯だ。主力の3人の待機場所はミサトのカンで決まっていた。
アスカが「なんたるアバウト」と評したが、他に明確な基準が決められないのでそのまま進めている。
最新の技術で作られNerv本部内にできた迷宮(ダンジョン)。その迷宮に一匹だけいるスライムを退治するクエストだ。スライムだからと侮ってはいけない。
某ドラ●エの印象で弱いイメージがあるが、本来スライムは強い部類の魔物だ。
広い迷宮で見つけるのは時間が掛かりそうだった。