--02:00 B-13ブロック通路
作戦開始から2時間経っている。いわゆる丑三つ時だ。シンジ達のアルファ班も使徒発見には至っていない。時間が時間だけに疲労と眠気がつらい。
「ふわ~眠いっちゅねん。使徒はーん出てきとくれ~。寝ちまうで~」
トウジも思わずあくびをしてしまう。
「寝るなよ。関西弁がさらにおかしくなってるぜ」
ケンスケもそういいながら欠伸を噛みころしている。
「シンジ君は大丈夫なのかい?」
「うん大丈夫。昼間の訓練が楽だったからかな」
カヲルがシンジを心配して声を掛ける。カヲル本人は全然眠気がないようだ。あの訓練が楽とかトウジとケンスケがイラっときたが反論する元気もなかった。
そんな感じでまったりしてきたところに、ジリリリン!と黒電話が鳴り響いた。
「わ!碇、じゃなくてアルファ班です!……はい……はい了解です!使徒発見だって!」
その報告は全員の目を覚ませるには十分だった。
なかなか見つからず、もう使徒いないんじゃね?と思い始めたところに使徒発見の報だ。
「でも逃がしちゃったらしいよ。アルファ班は方向を変えてB-09ブロック方向に移動だって」
使徒位置が判明して、本部(黒電話ズラリの場所)で建てている作戦にしたがい包囲網を狭めるようだ。
前向きな状況に気合が入った4人は元気よく進み始めた。
--02:10 中央発令所
発令所は大騒ぎ状態だ。
電話番の女の子たちはひっきりなしに通話している。ホワイトボードの地図はかなりの範囲で塗りつぶされ、使徒を追い込んでいるのが分かる。
ミサトとアスカがホワイトボードを見ながら作戦を立てヒカリが各班に電話番を通じて指示を出している。
「ベータ班で発見の報告!リョウコさんが向かっています!」
--02:15 B-09ブロック通路
「でやーーー!!!!」
瑞鶴リョウコの袈裟切りは使徒にすかされた。思った以上に素早い。
リョウコの剣術は我流だ。一応師範に当たる人物はいるが実戦剣術を本格的に学ぶためで我流の剣技が中心だった。背が高くポニーテイルのリョウコは大上段から構えで威圧を与えてからの一撃必殺を信条とする。ちょろちょろ動き回る使徒とは相性が悪いようだ。
捜索班のメンバーも木刀で攻撃を試みるがA.T.フィールドに折られてしまった。
「このー!ちょこまかと!」
スライムのような使徒は、ぼよんぼよんと壁に当たりながら高速で避けていく。壁で刀が折れてしまわないように気を付けながらの攻撃は難しい。
そんな感じで追い掛けながら使徒を攻撃していると、正面から別の班が来た。赤いバンダナを付けた龍驤ホノカが先頭。このままいけば挟み撃ちに出来そうだ。
「リョウコ!こっちに追い込んで!」
「ホノカ!そいつを足止めして!」
2人は同じ小隊で同じ剣術少女として親友でありライバルであった。
背の高いリョウコ、小柄のホノカ。剣術で我流と古流派。大上段からの一撃必殺と抜刀術。巨乳と貧乳などなど。どこまでも正反対な2人だが本質的には仲の良い……はずだ。
2人で挟み撃ちできると思った瞬間、使徒は90度方向を変える。丁度丁字路に差し掛かったところだ。リョウコとホノカの刀が打ち合う。
「ちょっと!何してんのリョウコ!」
「そっちこそ邪魔しないでよ!ホノカ!」
と、そのまま鍔迫り合いを始めてしまった。
通路を挟んできた2つの班のメンバーは逃した!と思ったがそのとき、丁字路の奥から人影が現れた。
「うわ!?きも!」
それはアルファ班の先頭を走っていたトウジだった。反射的に木刀を使わず正拳突きで使徒をぶん殴る。
バシャという水が弾ける音とともにスライム状のものが飛び散った。
「うわー、ばっちいぃ!なんやこれ!えんがちょ!そんで使徒はどこや!」
「「「いや。そのばっちいぃの」」」
「あん?」
使徒の中心にあったコアらしき小さな紅玉が、床に落ち割れる。
鈴原トウジは史上初めて素手で使徒を殲滅したチルドレンになった。
--02:30 中央発令所
「はい……はい……了解」
皆が注目している中ミサトは外と連絡を取っていた。受話器を置いて皆を見る。
「みんな!使徒警戒網でパターンブルーの反応が消えたそうよ!作戦終了を宣言します!」
中央発令所の皆で歓声を上げた。今回はEVAを全く使わず使徒に勝利できたのだ。深夜まで掛かって疲労困憊なので、いつもと違う喜びがある。
「さあ後片付けは残ってるわよ!チルドレンは戻ってきた班で報告を纏めてね。作戦部はもう一頑張りして!」
何せNerv本部を一時的に外界から完全にシャットダウンさせたのだ。早々に復旧させないと世界中が大騒ぎになっているだろう。
「あ、山岸さんと加賀さんはオペレータ席にお願いね。アスカと洞木さんはチルドレンを纏めて」
「「「「了解!」」」」
早速リツコにアナログ電話で状況を知らせ、手順を聞きながら電源復旧を進めていく。発令所の明かりと各モニターが復帰した。
「ああ、やっぱり明るいと安心するわね」
「そうですね。ではMAGIとネットワーク接続を復帰させます」
ミサトがリツコと電話しながら、ほっとした表情になり、マコトがコンソールを操作した。
その瞬間。
警報と共に復帰したばかりの主モニタにMAGIの状態が警告表示された。
そして合成音声のアナウンスが響き渡る。
『人工知能により、自律自爆が決議されました』
「え?」
『自爆装置は、三者一致の後、02秒で行われます』
「自爆!?」
『自爆範囲は、ジオイド深度マイナス280、マイナス140、ゼロフロアーです』
「外部よりMAGI・バルタザールが乗っ取られています!すごい速さだ!MAGI・カスパーにも侵入!」
マコトが慌ててコンソールを操作するが主モニタの状況は悪くなるばかりだ。
『自爆装置作動まで、後、30秒』
なにかできないかと思案していたミサトの耳に、アナログ電話の先のリツコから声が掛かった。
『落ち着いて。技術部のオペレータ席にいるのは山岸さんね。電話代わって』
ミサトは直ぐにマユミに受話器を渡す。
『自爆装置作動まで、後、20秒』
その間にもアナウンスが流れ状況が悪くなっている。MAGI全てが乗っ取られそうだ。
「はい!山岸です!」
『慌てないで。コンソールにいう通りに打って。start』
「はい!」
『スペース、a、r、t、a、b、a、n』
「はい……アルタバン?」
『エンター』
「はい!」
『自爆装置作動まで、後、2秒,1秒,0秒……』
マユミがEnterキーを押した瞬間主モニタで表示されていた3つのMAGIの中心に"Artaban"と書かれたボックスが出現した。乗っ取りを示す赤い表示から真っ先に正常な青い表示に戻ったのはMAGI・バルタザール。そこからすごい速度で回復していく。
『人工知能により、自律自爆が解除されました。MAGIシステム、通常モードに戻ります』
「戻った?」
ミサトのつぶやきに周りが力が抜けた状態になった。喜ぶ気力もない。
『お疲れ様。山岸さんもありがとうね』
リツコから労いの言葉が伝えられる。コンソールに打たれた文字をじっと見ながらマユミが呟く。
「アルタバンの旅……ヘンリー・ヴァン・ダイクの小説ですか?」
『さすが山岸さんね。よく知っているわ。そう「もうひとりの博士」よ。4人目のMAGI』
「4人目のMAGIですか……」
横で聞いていたミサトが反応する。マユミは受話器をミサトに返す。
「4人目?4台目のMAGI?」
『そうよ。MAGIのバージョンアップで作られた新機能』
「んでも、4台目なんてどこにあるの?」
『世界中よ』
リツコの説明では、4台目となるMAGI・アルタバンは、世界中のコンピュータで分散処理されて動作するMAGI-OSのエミュレータだそうだ。
つまり実体がない。いや逆にどこにでもあると言えるかもしれない。分散処理は他MAGIから個人のスマホまで使われるという。
地球すべてのコンピュータがMAGI・アルタバンとも言える。
ミサトは他のメンバーに休憩を取るように勧め、姿勢を変えリツコとの電話を続ける。
「ほへー、それにしても3台のMAGIが簡単に従ったように見えたけど?」
『前に3つのMAGIの話をしたわよね』
「ああ、人の持つジレンマをわざと残した……だっけ?」
『そう。母さんが言ってたわ。MAGIは三人の自分なんだって。「科学者」としての自分、「母」としての自分、「女」としての自分。その3人が、せめぎ合っているのが、MAGIなのよ』
「ほうほう、それでアルタバンは何になるの?」
『「娘」よ』
「なるほど、そりゃ最強だわ」
続く