発令所の全ての明かりが消えた。外部の様子等を映していたモニターも同じ。
職員たちは突然の出来事に動揺している。
「な、なにが起こったの!?」
ミサトの言葉が発令所全員の気持ちを代弁していた。
そして数瞬後、暗闇の中それは響く。
『(ザザッ……)あ、あれ?動かない?アスカ!?ミサトさん!くそっ、動けっ動けっ!うわぁ来るな!うわぁーーーーー!!!(ザー……ブツッ)』
「シ、シンジィ!!」
アスカの悲鳴の後、低い唸りと共に明かりやモニタが復活。使われることはないだろうと思われていた発令所の下にある非常用のディーゼル発電機が起動したらしい。
「停電!?リツコ!」
「電源は正副予備の三系統あるのよ!?同時に落ちるなんて有り得ない!」
「現に起きてるじゃない!生き残ってる回線は?」
「全部で1.2%。非常用ディーゼルと2567番からの旧回線だけです!」
途端に騒がしくなる発令所、いまだ外の状況は分からない。
スタッフは再起動した端末を操作し状況を確認しようと必死にキーボードを叩く。リツコはNerv全体を管理しているスーパーコンピュータMAGIを確認し愕然とした。
「MAGIが完全に落ちてる?マヤ!MAGIのBootを行うわよ!」
「はい!」
「scriptは使わずにコマンドラインで直接叩いて!Bootチェックは省いてかまわないわ!」
「はい!!」
地上からの音はまったく聞こえない分、不気味だ。一体何が起こっているのか。
動かないEVAに乗っているシンジの安否が気になる。ミサトの気は焦るばかりだ。
「予備回線復帰しました!切り替えを行います!」
「MAGI・カスパー、MAGI・メルキオール、MAGI・バルタザール起動完了!」
「外部モニターシステムの一部が回復しました!映像のみ確認できます!」
「主モニターに回して!」
そこに映ったのは、使徒に光の槍で頭を貫かれたEVA初号機だった。
「シンジ!!」
再びアスカが悲鳴を上げる。ミサトは咄嗟にシンジの状況を確認しようとした。
「日向君!エントリープラグ内のモニターは!?」
「駄目です!まだ回復しません!」
初号機は、頭から体液を噴出しながらゆっくりと使徒の足元に崩れ落ちる。使徒は、それを確認するように眺めてから、街の中心へと体を向けた。
愕然とする発令所の一同。
しかし、すぐに別の驚きに変わる。頭を貫かれた初号機が再び立ち上がった。
「「「おお!」」」
「だ、大丈夫なの?シンジ君……」
「そんな、あんな状態で動けるなんて」
スタッフとミサト、リツコはそれぞれの反応を見せ驚愕している。皆が驚きの声を上げているとき、アスカだけが黙って様子を見ていた。
背後の気配に気がついた使徒は、再び光の槍で攻撃しようと振り返るが、その前に初号機に蹴倒される。
乱暴な前蹴り、いわゆるヤクザキック。
EVAは倒れた使徒に跨るとマウントポジションを取り、猛然と殴りかかった。血と同色の使徒の体液が飛び散り、周りの兵装ビルを塗装する。
「シンジ君……?」
「うっ」
呆然とするミサトに、吐き気をもよおすオペレータ伊吹マヤ。他も似たような反応だ。
そのとき、黙ったままだったアスカが呟いた。
「違う……」
「え?」
「違う!あれはシンジじゃない!」
「アスカそれって……」
ミサトがアスカに真意を問おうとしたとき、殴られるままだった使徒が動いた。
軟体動物のように体をくねらせ被さるように襲いかかり、初号機の上半身をまるでゴムボールのように球状に覆った。
「まさか自爆する気!?」
リツコの危惧をよそに、初号機は使徒を被ったまま立ち上がり、いともあっさり引き剥がす。そして手には使徒の胸にあったはずの紅玉が握られていた。
片手でコアを握り潰す。
使徒殲滅完了。圧倒的な余りの展開に声がない。
「……勝ったの?」
ミサトがやっと出した言葉をきっかけに歓声が沸く。
「やったーー!!勝ったぞ!」
「さすがチルドレンとEVANGELION!」
スタッフ達の歓声の中、リツコはマヤと共に冷静に状況を確認していた。
「シンジ君も無事みたいね。まだ、エントリープラグとの通信は回復しないの?」
「はい先輩、システムが立ち上がりきっていないみたいです」
「機体の損壊状況は分かるみたいね……なにこれ?左腕損壊の後自己修復って……」
「え?顎部拘束具破そ……」
ウオオオオォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
「ひぃぃ!!」
「うわぁ!」
「な、なに!?」
突然、大きな『声』が聞こえた。
モニターには空に向かって大口を開けている初号機が映っている。
『声』を聞いた人間はそれが何かも考える時間もなく真っ先に恐怖を感じた。ある者は耳を塞ぎ座り込み、ある者は震えが止まらず、またある者は失神してしまう。
そしてそれは、発令所のスタッフだけでなく第三新東京市全ての人間に起こった。地上から遠く離れ、まだ外部マイクも回復せず、先の戦闘の騒音もまったく聞こえなかった発令所にも届いたのだ。空気の振動ではない『声』が。
『声』をあげた初号機は辺りをきょろきょろと眺めると、手に持っていたぐんにゃりとした使徒の体と、砕けた紅玉を投げ捨てた。
少し間を置いて下を見つめていると、突然地面に向かって拳を振り下ろす。
「な、なにをしているの?」
先ほどの恐怖からなんとか立ち直ったミサトは、初号機の行動が理解できなかった。
同じく回復したリツコも普段の彼女らしく無い大声を上げる。
「まさか暴走!?」