--統合軍第二艦隊所属 STOVL護衛空母 CVE-028『バンド・ワゴン』
この状況でNervのVTOL機が飛来したとき、パニックになりかけたが、ミサトが直接艦橋まで乗り込んで事情を説明すると協力を申し出てくれた。
乗って来たVTOL機では限界があるため、航空機を借りたいが、現在の護衛空母に搭載しているのは哨戒用のヘリばかりらしい。
唯一、通信機故障でたまたま着艦していた機体があるとのこと。この全世界的な通信障害の状況で通信系の故障は問題ないとして、それを借りることにした。
「なんか平べったい機体ね?」
「ええ、ステルス考慮した垂直尾翼なしの最新鋭機体ですからね」
整備士に案内されてハンガーまで来たミサトだったが、見たことない機体に驚く。
「こいつは低率初期生産(LRIP)試験中の機体で、F-7『ジャックナイフ』って名前です。統合軍でもまだほとんど配備されていない次期主力戦闘機でして、最大の特徴は現代に蘇った可変翼ですね。翼の角度であらゆる速度領域で最大限の性能を発揮します!特に先進境界層制御を用いた離着陸性能は、ほぼVTOLのように……」
「説明はいいわ。乗れれば十分」
整備士が熱心に説明をしようとするところを遮り、自ら乗る準備を始める。いきなり脱いで下着姿になった。
「わ!少佐!?」
「フライトスーツに着替えわ」
統合軍時代には男に交じって着替える必要もあったのでミサトは気にしないが、整備士はそうもいかず、回れ右をする。
着替えるとヘルメットと服を入れた鞄を持ちさっさとコックピットに乗りこむ。
「今更ですが、操縦できますか?」
「前にF-4C『カタナ』に乗ったことがあるわ。レイアウトは変わらないわね」
F-7『ジャックナイフ』は単座なので自分で操縦するしかない。『乗ったことがある』という表現は微妙だが、止めることはできなさそうだ。
改めてコックピットの説明をして、機体をエレベータに乗せ飛行甲板に誘導する。タキシングから機種を艦首に巡らせ、スキージャンプ台からそのまま離艦していった。
「やれやれ慌ただしいな」
よっぽど急いでいるのだろう。整備士は嘆息してハンガーに戻ろうとした。そのとき別の整備士が慌ててこちらに来る。
「どうした?」
「あれに乗せたのか!?故障中だろ!」
「ああ、でも通信系の故障だからこの状況では関係ないだろ」
「通信系の故障ってIFF(敵味方識別装置)だぞ!」
「あ……」
整備士が振り返ったとき、ドンという衝撃波が来た。離艦した機体が急加速して音速を超えたようだ。もうほとんど見えない。
--統合軍第二艦隊旗艦空母 CVM-002『シンギン・イン・ザ・レイン』艦橋
「やれやれ本当にレーダーが真っ白だな」
「はい、これまでに経験したことがない規模のジャミングですね。ECCMも効果なしです」
第二艦隊司令がぼやくと、同席している艦長が答えた。
艦隊司令は壮年のアフリカ人で筋肉質な体をしている。第三艦隊のヴェルヌ艦隊司令とは旧知の仲だ。
第二艦隊は、砂漠に出現した使徒の警戒のために出張ってきているが、使徒自体はNervに任せるしかない。
「ジャミングは、やはり使徒からなのでしょうか?」
「砂漠のやつとは別に衛星軌道に出たらしいからな。タイミングからして間違いないだろう。前例もあるようだし」
「技官が電子攻撃技術の参考にしようとして分析に勤しんでますが」
「ほって置いてやれ。念のため無人機の警戒網を広げておこう」
「了解」
空母『シンギン・イン・ザ・レイン』は対空監視のために、大量の無人機による警戒網を構築していた。無人機間の通信はレーザー通信で行われ、不明の機体が接近しないか警戒している。その警戒網に引っかかった機体があった。
「所属不明機だと?」
現在第二艦隊では無人機以外の航空機は飛行していない。GPSも使えない状況で何が起こるか分からない。その中で対空監視に引っかかった所属不明機。とても怪しい。しかし何らかの事情があってかもしれないので、いきなり撃墜するわけにもいかない。
「とにかく機体を確認しよう」
「はっ、プロメテウスが、XFQ-1『ブーメラン』の投入を提案しています」
プロメテウスとは、統合航空管制のための人工知能だ。MAGIには叶わないが、かなりの高性能を持つ。統合揚陸管制の人工知能はダイダロスという名前が付いている。
「あれか……まあこんなときにでもないと役に立たないだろう。許可する。IFFが確認できるまで接近させろ」
XFQ-1『ブーメラン』は、艦載の無人戦闘機として試験中だが、あまり評価が良くない。
有人機と変わらない大きさで、前進翼という先進的な機体だが、搭載人工知能の自己判断で攻撃を制御するため、現在の無人機運用方針である「攻撃判断は必ず人間でする」という基準とは異なり、運用方法に苦労している。なんでもスタンドアローンで動作しようとする弊害だ。
そして一番の問題は、値段と運用費がバカ高い。今対空監視で使用しているMQ-3『スローイングダガー』のような後進の無人機の方が使い勝手がよく、ハンガーで埃を被っているような状況だった。
「対空監視も追加を提案しています」
「許可だ」
艦隊司令の許可と同時に、空母に並走していた巡洋艦のVLSから発射されるものがあった。ブースターで上昇し、途中で2機に分かれ、折り畳み式の直線翼を展開する。
対空監視に使用している無人機MQ-3『スローイングダガー』は、サーフボードのような外見をしている。平べったいのはステルス性とボディリフト効果を期待しているためだ。
機体性能としては巡航ミサイルに毛が生えた程度。性能の低さは数でカバーしている。
専用のVLSから2機同時発射したり、陸上部隊でも使用されたりと、統合軍内で幅広く普及していた。機体の値段も安めで、評価は『ブーメラン』と真逆だ。
「後、1分でコンタクト」
モニターには付近の状況が表示されており、対空監視機がレーザー通信でネットワークを構成しているのが分かる。先ほど離艦した『ブーメラン』のマークが、不明機に急速に接近している様が確認できた。
最接近した後、軌道が右に曲がったり左に旋回したりと迷走しているように移動している。
艦隊司令が怪訝な表情を浮かべた。
「なんだ?IFFを受信できていないのか?
「いえ、IFFでなくても光学観測で機体シルエットをバンクから確認できるはずですが……」
統合軍や付近の民間機であれば、登録された機体シルエットが検索され問題なしとなるはずだ。それがないということは……
「未確認飛行物体?」
UFOと呼ばれる飛行物体で宇宙人でも乗って来たのであれば歓迎したいが、その確率はほとんどない。一番考えられるのは艦隊に攻撃をしようとしてる未登録の敵機だ。
しばらく様子見をしていると『ブーメラン』のマークが×になった。
「撃墜された!?」
「第一種警戒態勢!不明機の迎撃を!」
「このジャミング下では艦隊防空システムが使用できません!」
「光学観測の近接防御システムで対応しろ!」
警報が鳴り響き艦橋が騒ぎになっている最中もモニターの不明機が急接近している。並走していた艦隊防空巡洋艦も盾になるべく転進しているが間に合わない。艦橋の窓からも見えるほど接近していた。
「司令!CICに!」
「もう間に合わん!」
不明機が音速で一気に最接近し空母の上空を通過する瞬間
『ザーーー……ちらNerv本部……サトです!……』
不明機の声と思われる通信がスピーカーに流れる。Nervという単語だけが聞き取れた。
「Nerv!?攻撃中止!」
「アイサー!」