「どういうことリツコ?」
「分からないわ。でも……」
「でも?」
「アンビリカルケーブルが切断されて、もう10分以上経ってるわ」
「それって……」
「とっくに内蔵電源は尽きているはずなのに……」
しばらく地面を叩いていた初号機は立ち上がると右手を天に掲げ、急に振り下ろした。
中央区画の道路が大きく陥没する。そして今度は本物の衝撃音が聞こえた。
地面は、かなりの広範囲で抉られている。ミサトはその攻撃が単なる物理攻撃ではないことに気が付いた。
「A.T.フィールド!?地面に穴を開けようというの!?」
「……かもしれないわね。兎に角初号機を止める手段を見つけないと。エントリープラグへのリンク回復を最優先に行うわ」
リツコは席に付き猛烈な勢いでキーボードを叩き始める。カタカタというレベルではなく、ジャーとしか聞こえない。
「そうね、お願い。地上からここまでは特殊装甲板が何重にもあるから大丈夫だと思うけど」
ミサトの言葉通りA.T.フィールドを叩きつけていた初号機は壁にぶち当たっていた。途方に暮れたような佇まいで、ぼーっとしていたが不意に顔を上げると空に飛び上がる。
その背中に光輝く12枚の翅。
ミサトは15年前の悪夢を思い出す。父の南極調査隊に随伴して遭遇したセカンドインパクトの瞬間を。
初号機は飛び上がり滞空している。顔を上げ何かを待っているようだった。
そのとき発令所に警報が響く。ミサトは悲鳴のような声を上げマコトに確認する。
「今度はなに!?」
「何者かが、第三新東京市に向かって飛行してきます!すごい速さだ!」
その飛んできた何かがモニターに現れる。それはEVAザイズの二股の赤い槍状の物体。
「あれはロンギヌスの槍!!」
沈黙していた司令席から冬月副司令の声が聞こえた。今までミサトが聞いたことのない焦りを含んだ声だ。
初号機は二股の槍を掴み構えると、全力で地面に向けて投擲した。
これまでとは比べ物にならない振動が発令所を揺らす。オペレータの悲鳴のような報告が次々に寄せられる。
「まさか!?22層の特殊装甲板を一撃で!?!」
「初号機がジオフロント内に進入してきました!」
つい先ほどまではもう少しで使徒を倒し無事作戦が完了するはずだった。いや実際使徒自体は倒せている。
何故か味方である初号機に特殊装甲版を破られ、ジオフロントに侵入されるとは夢にも思っていなかった。スタッフ一同パニック状態だ。
ミサトもかなり焦っていて、リツコと共になんとかEVAの操縦席エントリープラグとの通信を試みている。
「リツコまだ!?」
「今、回復したわ。マヤ、エントリープラグ内のカメラ映像表示して」
「はい!」
主モニターには目を瞑っているシンジが映し出される。意識はないようだ。
ウェットスーツのようなEVA操縦用の服プラグスーツを着た状態で、ぐったりとしている。とりあえず姿が見えてミサトはほっとした。
「怪我はないようね。マヤちゃん身体状態モニタできる?」
「はい……え?これは……」
「どうしたの?」
「寝てます!」
「は?」
「急速眼球運動が確認できます。レム睡眠状態です!」
沈黙する発令所の面々。
その時また振動が来た。本部ビルが初号機に蹴られてるらしい。
マヤは、はっとして端末を急いで操作する。
「エントリープラグとの通信が回復しました!」
すかさずマイクを握るミサト。もう必死だ。
「っシ、シンジ君!起きてー!お願いーー!」
「駄目よミサト。そんなんじゃシンジは起きないわ」
「ア、アスカ?」
ミサトからマイクを奪ったアスカは、大きく息を吸う。
「さっさと起きろ!!!バカシンジ!!!」
『はっ!』
シンジが起きると同時に今まで続いていた振動が止んだ。ほっとするスタッフ一同。
「よ、ようやくお寝覚めね。バカシンジ」
『なんだ、アスカか』
「なんだとは何よ、それが起こしてあげた幼馴染に捧げる感謝の言葉ぁ?」
『ん、ありがと、だからもうちょっと寝かせて……』
「「「寝るなーーーーー!!」」」
発令所全員の心からの叫びだった。
--チルドレン控え室
ちょっと前まではモニタで初号機と使徒との戦闘を見ていた適格者達は、停電の後モニタが復帰せず扉も開かない状態で、外の状況が分からずやきもきしていた。
ケンスケはトウジと先ほど起こったことを会話していると急に静かになったことに気づく。
「お、振動が止んだぞ」
「終わったんかいな?」
「さぁ?シンジ大丈夫かな?」
「信じるしかないやろ。スタッフも皆助けてくれてるから勝てるて」
「そうだな……それにしてもさっきの『声』はなんだったんだ?」
「使徒の鳴き声ちゃうか?見てみぃサブイボできてもーた」
--第3ケイジで待機中のEVANGELION零号機エントリープラグ
「ねーーみんな私のこと忘れてない?ねーーってばーー!」
--発令所司令席
「もう、シンジったらお寝坊さんね……」
今まで黙って推移を見守っていたユイが、やっと声を出した。
ユイの手は固く握りすぎて爪が皮膚を食い破っていた。血がぽたぽたと床に落ちる。
「ユイ、手の治療をしてきなさい」
「あ、あらあら。じゃあ、お言葉に甘えてちょっと医務室に行ってきますね」
司令席を離れるユイ。総司令と冬月副司令だけになった。
「碇、おまえも後で治療しろよ。手袋に血が滲んでいるぞ」
「ああ」
「しかし、大変なことになったな……まさかロンギヌスの槍が……」
「冬月、シナリオを変更する」
「そうだな、大幅な修正が必要だ。で、どうする?幾つかプランはあるが」
「プラン
「な!?Seeleを潰すのか!?」
「ああ、連中の目論見通りにはさせない」
「大丈夫か?世界中を敵にするようなものだぞ」
「最高意思決定機関
「Seeleが黙っていないぞ」
「表向きには今回の戦闘報告だ」
「ふむ。
「MAGIへのクラッキングだ。あれが出来るのは一人しか居ない」
「赤木ナオコ博士か……」
「彼女はSeeleの手先だ。奴らは使徒の情報を欲しがってるらしいな。地球統合政府への重大な裏切り行為だよ」
「証拠はあるのか?」
「なくても
「そうか。覚悟は出来ているようだな。しかし、その決断に至るきっかけはなんだ?」
「シンジの強さだよ、冬月」
「シンジ君の?確かにEVA初号機は強いが……」
「先ほどの『声』で恐怖を感じただろう?」
「?ああ」
「あれはアンチA.T.フィールドで心の壁が剥がされたからだ。ほんの薄皮一枚だがな」
「なに!」
「A.T.フィールドは他者を拒絶する心の壁、人のA.T.フィールドが剥がされ、剥き出しの心が外にさらされると誰もが恐怖を感じるものだ。そして、アンチA.T.フィールドは他者を求める心、理解しようと壁を取り払うもの。これほどまでに広範囲にアンチA.T.フィールドを展開した初号機。それはシンジの心の強さそのものだよ。これでサードインパクト・リバースへの道が開けた。計画は完璧ですよ冬月先生」
「そんなこと言って、息子が可愛いだけだろ?やれやれ史上最大のOyabaka計画の発動か……」
ゲンドウはそれには答えず、ただニヤリとしただけだった。
続く