Part-A
--Nerv本部会議室
「やれやれ、12機のEVAが使用不可とは……」
Nerv首脳陣への報告会は、冬月副司令の嘆息から始まった。
対使徒戦術旅団EVANGELION大隊第二中隊全機は、輸送途中で使徒に寄生されコントロール不能に陥る。浸食型の使徒はEVAを乗っ取り12体の使徒を生み出そうとするが、EVA初号機の対応で未然に防ぐことができた。
調査ではEVAの素体までは浸食が行っておらずエントリープラグ周辺で留まることができたらしい。あのまま浸食が続いていれば素体まで到達し、EVA自体が使徒として変形していただろうと分析されている。
資料を見ながらリツコの説明が続く。
「ええ、しかしシンジ君がエントリープラグを抜いていなければ12体の使徒が本部に殺到していました。後、初号機がエントリープラグを引き抜くとき、角度が少しでもずれていれば途中で破損していたでしょう。非常に繊細な動作を最速で行っています。脅威的なことです」
「そうだな。シンジ君に感謝しなければ。それでEVAの洗浄にはどのくらいかかるのかね?」
「エントリープラグとその周辺は完全に破棄になります。素体の洗浄には12機全部で一か月はかかりますね。使徒がどこに残存しているか分かりませんので探り探りになります」
「今の時期に一か月は痛いな……葛城君チルドレンの様子は?」
「はい、第二中隊の全員軽傷で検査も終わり退院済み。使徒浸食の影響も見られないです。メンタル的には使徒に操られて複雑なようですが、ケアプログラムに沿って対応しています」
「そうかチルドレンが無事だったのは不幸中の幸いだったな」
第二中隊の12人は全員ピンピンしていた。
EVA初号機による攻撃は最小限に収められており搭乗者への影響はなく、むしろ脱出時に打撲などの軽傷を負っているようだ。トウジなどは元気が余りまくっていて使徒にいいようにされたことに憤慨していた。
むしろメンタル的にはシンジが一番問題で、検査入院中の第二中隊の全員にお見舞いに行き、土下座しそうな勢いで謝りまくっていた。
本人達にとっては救ってもらった形なのだが、シンジにとっては仲間のEVAを攻撃して傷付けたという思いが強いようだ。
アスカ曰く「内罰的過ぎるのよ、根本的に!」
「しかし……この使徒の仕組みはまるでダミーシステムだな……」
「副司令もそう思われましたか……」
「ん?リツコ、ダミーシステムって?」
リツコによると、ダミーシステムとはEVAに疑似的な信号パターンを送り込み、チルドレンが乗っていると誤認させることで、無人でEVAを起動・制御できることを目指したシステムだ。しかし2004年の事故で計画が大幅に変更され、ダミーシステムも開発を見送られた。
「チルドレンが乗らなくて済むならいいけど……制御できるのそれ?」
「搭乗者が居ないので無理ね。本能の破壊衝動に従うのみ。いわば暴走状態を人工的に起こす感じ」
「作戦部としては制御不能な兵器の運用を拒否します」
「だから中止になったんじゃない。ダミーシステムは存在しないわ」
冬月はその様子を見て嘆息し、議題が尽きたことを確認するため総司令に声を掛ける。
「まあ、状況は分かった。第二中隊のEVAに関しては全てに優先して作業させよう。チルドレンについては葛城君に一任する。そんなとこかな碇」
「……」
「碇?どうした?」
いつものポーズで考え事をしているのか反応がない。珍しいことだ。
「碇?」
「……ああ、EVAの件は他支部からも人員を回すよう手配しよう」
「そうだな。以上で会議を終わりとする」
副司令の宣言で会議が終了になる。いつもと違い、総司令が早々に部屋を出て副司令が後に続いた。残されたのは技術部長と作戦部長だ。
目をパチクリさせたミサトがリツコに顔を向ける。
「総司令なんかヘンね?どうしたのかしら?」
「さあ?そういえばユイさんも出席していなかったわね。EVA初号機の検査をしているようだけど」
「ん?なんで初号機?第二中隊のEVAじゃなくて?」
「使徒を殲滅するときシンジ君のシンクロ率が最大で99.9999999%だったのよ。それが気になるらしいわ」
「なにそれ!ほぼ100%じゃない!」
「100%と99.9999999%では明確な壁があるわ。同一にはできない」
「100%になったらどうなるの?」
「分からない……シンクロ率は神経回路の同調率のことだけど、EVAの意識に干渉することも関連しているようなの」
事実として神経の同調だけではEVA、特に初号機の運動能力の向上を説明できない。搭乗者以上の運動能力を見せており、シンジは生身であんなことできないだろう。シンクロ率の上昇は神経同調以外にも関連しているようだ。
「EVAの意識……確かEVAはチルドレンの魂をコアに登録しているんだっけ?」
「そうよ。アスカの報告だと『もう一人の自分』に会ったって言ってたわ」
「それがEVAの意識?」
「そうとも言えないのよね。そのまま自分という訳ではなさそうなの。仮説としてだけど平行世界の存在かもしれない」
「平行世界?SFね」
「あくまで仮説よ。アスカはそう感じているみたい」
「使用している兵器が、中に何が入っているのか分からないなんでゾッとするわね」
「今は使えるものは使っていくしかないのよ……」
--ハーモニクス試験室
シンジ、アスカ、レイが入っているのはハーモニクステスト用の特殊エントリープラグだ。EVAとのシンクロ率を上げるための試験用の施設。長年EVAに乗っている3人にはおなじみの場所だった。
技術部のマヤがハーモニクスの試験を担当しており、コンソールを操作している。
「B型ハーモニクステスト、問題なし。深度調整数値をすべてクリア」
「どう?シンジ君の調子は?」
ミサトもシンジの様子を確認すべく試験室に来ている。先日の使徒戦後に影響が残っていないか気になっていた。
リツコは第二中隊のEVA洗浄作業の指揮をしているため不在。他支部からの応援部隊の面倒も見ており、てんてこ舞いだ。
「見てくださいよ」
「どれどれ……お~!これが自信につながればいいんだけどねぇ」
マヤに見せてもらったデータはハーモニクスの理想的な数値を示していた。マイクを取ってシンジの特殊エントリープラグに通信をつなげる。
「聞こえる?シンジ君」
『はい、ミサトさん。今のテストの結果、どうでした?』
「は~い、ゆーあーナンバーワン!」
『そうですか……』
「あら?反応薄いわね……」
最近落ち込み気味のシンジに元気になってもらいたく発破を掛けようとしたが失敗したようだ。
あれから2週間たったが、シンジはまだ元気がない。
ただEVAとのシンクロ率は依然高く99%を維持している。本来EVAとのシンクロは精神状態に大きく影響されるはずだがシンジにはそれが無いようだ。リツコも不思議がっていた。
通信をアスカとレイのエントリープラグに切り替える。
「アスカ、レイ、シンジ君の様子はどんな感じなの?」
『ずっとこんな感じよ。ほっっっんと内罰的なんだから』
『なんかお兄ちゃんときどきブツブツと「あの時こうしていれば……いやダメか」って独り言言ってる』
『うわ。キモ』
『アスカがお兄ちゃんを元気付けてあげなよ。「すごい!すばらしい!強い!強すぎる!あ~無敵のシンジ様ぁ!」とか言って』
『なにそれ絶対逆効果じゃない。まあ元気はないけどなんかやる気?はあるっぽいのよね。昨日も戦術について質問されたし』
「そっか、アンタ達からもシンジ君を元気づけてあげてね」
『はいはい』『ま~かせて!』
「では、試験終了します。上がっていいわよ」
試験後、シンジがミサトの所に来てトウジの居場所について聞いてきた。トウジ含む第二中隊のチルドレンは、しばらくEVAが使用できないため別任務に就いてもらっている。
シンジはそれを聞くと残念そうに
「そうですか……トウジに格闘のコツでも教えてもらおうかと思ったんですけど」
「そ、そう……」
妙なやる気を感じるが空回りをしていないか心配だ。とりあえず作戦部の教官に教えを乞うようにアドバイスした。とぼとぼと部屋を出ていくシンジの背中を見ながら呟く。
「いっそのこと使徒が来てくれれば元気になるのかしらね……」
「葛城さん……それはちょっと……」
独り言をマヤに聞かれ窘められた。偶然傍に居たレイにはこう言われた。
「ミサトさん、それフラグ!」