--EVA初号機エントリープラグ
「眠る事がこんなに疲れるなんて、思わなかったな……」
EVAが影に飲み込まれて既に16時間経っていた。視界には真っ白な空間しか見えない。空間が広すぎてレーダーやソナーが返ってこないようだ。
シンジはエントリープラグを生命維持モードに切り替えていた。
EVA自体はS2機関により永久に稼働可能だが、このモードでは暴走抑止の措置のためEVAとのリンクが切られており、エントリープラグ内臓電源を使用することになる。寝ることは可能だが内臓電源は12時間しか持たない。リツコの施した暴走防止が裏目に出た形だ。
モード切替前にうとうとしたところ、ビリッと来て起こされて以降切り替えている。
「生命維持モードに切り替えてから8時間……内臓電源は後4、5時間か……お腹空いたな……」
--Nerv本部中央発令所
『こちら第三小隊山岸。EVA十四号機。パリの予定地点に到着しました。凱旋門が飲み込まれてる……』
「本部了解、現在位置のまま待機」
「サブレーザー、回線開きます。情報送る」
「確認、C回線にて発信」
『第四小隊天城。EVA十九号機。後、3分でブラジリア配置場所に到着します!』
「本部了解」
EVA第一中隊の第二から第四小隊が、世界の主要都市にEVA一機ずつ派遣されていた。N2弾頭の爆発に合わせてA.T.フィールドで干渉し、EVA初号機を強制サルベージするためだ。第一小隊のEVA弐号機は、第三新東京市で既に配置に着いている。零号機はバックアップ。
『第二小隊ムサシ。EVA七号機。東アメリカのアトランタ配置場所到着しました。……なんか戦車の砲塔がこっち向いてるんですけど……』
「プレッシャーかけてるつもりなのよ、私たちに。無視しなさい」
『了解っす。葛城少佐』
前回東アメリカ国境付近での使徒殲滅戦の際は、にべもなく入国を拒絶されたが、今回は首都でEVAの配備とN2弾頭を叩きこむのを許可された。碇総司令はどんな魔法を使ったのか。
他の国も影の使徒を囲むように国軍の部隊が展開されている。名目上は市民の避難誘導や警備だが、派遣されて来たEVAも警戒されているようだ。
「ま、40mもの巨人が来たらビビるわよね……」
見慣れているNerv職員や統合軍とは違い、肉眼で初めてEVAを見るだろう世界の人々は単なる影と球体の使徒よりも恐怖しているだろう。どっちが敵に見えているのだろうか。
「それよりもリツコ。本当に大丈夫なんでしょうね?シンジ君」
「S2機関を備えたEVAなら耐えられるはずよ。それよりもシンジ君自身が心配ね……途中で生命維持モードに切り替えていると思うけど内臓電源は12時間しか持たないわ。そろそろ限界かも」
「もうすぐ24時間ね……」
ミサトが腕時計を見て時間を確認したとき、日向から報告が来た。
「EVA全機配置完了です!」
「よし!作戦準備完了を統合軍に伝えて!」
「了解!」
各都市中心部10か所にN2弾頭を叩きこむのは統合軍の仕事。ただ1000分の1秒のタイミングで世界同時に着弾させるのは人間技では無理だ。
N2弾頭を操作するのは、MAGIにダイレクトにリンクして任せるしかない。航空機やミサイルの動作、現地の天候、風の状況、地球の自転、磁場、重力の影響も全て考慮する必要があり、MAGIが全力で計算している。
「作戦開始30秒前です!」
「了解、アスカ準備OK?」
『当たり前よ!早く始めて!シンジが持たない!』
「分かってるわよ。後10,9,8,7,6,5,4,3,2,1、作戦開始!」
ミサトの号令が世界中に伝達された。N2弾頭のミサイルや、航空機からの発射が同時に着弾させるために順々に行われる。各都市のEVAに乗ったチルドレンも緊張していた。MAGIからの指示で画面のマークが合った瞬間にA.T.フィールドを全力で使徒に叩き込む。
「来た来た」
マコトの見ている画面に、第三新東京市に向けて発射されたミサイルが殺到しているところが映っている。こちらに向けて発射したのは第三艦隊の艦船や艦載機だ。
使徒殲滅のためとはいえ自分のいる都市が攻撃されるのは気分の良いものではない。おそらく世界中の人が同じ気持ちだろう。
「弾ちゃ~~~~~~く……」
自衛隊の榴弾砲着弾の掛け声を真似して実況。影の使徒直径680メートルに99個のN2弾頭が集中する。
「い……」
「今」と言おうとしたマコトは最後まで言えなかった。
影から2本の帯のようなものが飛び出す。
帯は99個のN2弾頭を全て包み込み、ぐるぐる巻きにして完全に閉じ込めた。
直後、帯の球体の中でN2弾頭が爆発したようだが、外には漏れず一瞬膨らんで帯が赤く光っただけで終わる。後は隙間から煙が出ているだけ。
「な!?」
慌ててモニタを確認すると、世界中の都市でも同じことが起こっている。990個のN2弾頭は全て阻止されてしまった。
「何が起こっているの!?」
ミサトの声を背にマコトはコンソールを高速で操作する。
しかしその結果が分かる前にマコトの隣のシゲルが叫んだ。
「パターンブルー!!新たな使徒です!!」
--EVA初号機エントリープラグ
生命維持モードのまま、うとうとしていたシンジだが、目を開けたときL.C.Lが何時もと違うことに気が付いた。
「L.C.Lが濁ってきてる?浄化能力が落ちてきてるんだ!うっ……生臭い!血?血の匂いだ!」
どうやら内臓電源が尽きたようだ。パニックになりつつもレバーのボタンを操作し生命維持モードを解除しようと操作する。
「こうしてこうして、これでOKのはず!」
寝ながら解除してしまわないよう少し複雑な手順が必要だ。モード解除がメッセージとして表示され、真っ白な外界が映った。
と、同時にシンジの意識が途切れる。
--EVA弐号機エントリープラグ
丸まっていた2本の帯が解かれるとミサイルや爆弾の残りカスが散らばった。ゆらゆらと揺れる帯の下から何かが影から浮かび上がってくる。
新たな使徒が出現した。世界十か所同時に。
使徒は仮面のような顔が付いているが人の形とは大分違っている。足は小さく歩くようにはできていない。腕の部分は先ほどの2本の帯が生えていた。全身は二本足で立ち上がった牛のようだ。
すかさずEVA弐号機が、パレットガンで攻撃を始めた。
他の都市のEVAも持っていた銃器で遅れて攻撃を仕掛ける。周りの国軍もEVAに習い攻撃を開始した。第三新東京市担当は戦自。
使徒は爆炎に包まれるがビクともしない。A.T.フィールドで完全に防いでいるようだ。EVAからの中和も効果がない。これまでの使徒とはA.T.フィールドの強度が段違いだ。
火器の攻撃を物ともしない使徒は帯状の腕を畳むと、浮いたままくるりと回転しながら目から光を放つ。
都市の各所で十字型の光の柱が立ち爆発した。
戦自は慌てて離れ始め、EVAだけが攻撃に残る。影の使徒のせいで接近できず遠距離武器でしか攻撃できていない。従来よりも攻撃力を増したポジトロンライフル改でもA.T.フィールドを貫けない。
「このぉ!!A.T.フィールドは中和しているはずなのに……早くシンジを助けないと!」
使徒が折り畳んだ帯を再び展開、帯状の腕を伸ばし周りの建物を一掃する。帯はまるで蛇のようにグネグネ動き叩いたり切断したり破壊を繰り返し、ついでとばかりEVAにも攻撃を仕掛けてきた。
『きゃあ!』
『EVA六号機左腕大破!』
『ぐっ!』
『EVA十九号機パレットガンと右手切断!』
発令所を通して各国の第一中隊の損害報告が次々と寄せられる。
EVA弐号機はなんとか避けられているが防戦一方だ。足元を光線で攻撃されバランスを崩した瞬間、急激に二本の帯を伸ばして弐号機の腕の付け根を切断しようとする。
「やば!」