--EVA初号機エントリープラグ
「あれ?ここは?」
シンジはいつの間にか知らない電車の中に居た。
窓の外はオレンジ色で景色は分からない。タタン、タタンと小気味良いリズムで電車が走っていた。座席に座ったまま周りを見る。
シンジ一人ではなかった。
反対側の長座席に何人も人が居る。皆俯いておりシンジと同じ第一中学の夏服を着ていた。
シンジは立ち上がって正面の少年に声を掛ける。
「君は誰?」
「碇シンジ」
顔を上げた少年は『碇シンジ』だった。
「それは僕だ」
「僕は君だよ。他もそうさ」
「え?」
周りを見ると皆顔を上げていた。
全員『碇シンジ』だった。
「僕も碇シンジ」
「碇シンジは僕だ!」
「碇シンジです」
「碇シンジだよ」
「碇シンジは僕」
「僕の名前は碇シンジ」
「オレはスーパーシンジ!」
「僕はシンジ」
「碇シンジだってば」
「断罪してやるッ!断罪してやるッ!」
「碇シンジだけど?」
「僕が碇シンジだよ」
なんか変なのもいるが皆『碇シンジ』だ。いつの間にか電車の中は『碇シンジ』でいっぱいだった。
「な、なんだこれ?」
「それは平行世界のシンジ君さ」
「え?」
振り返ると『碇シンジ』以外の人物が居る。銀髪で赤い目の少年だ。
「カヲル君!」
シンジは喜びの表情でその『渚カヲル』に近づこうとしたが、手で静止される。
「僕は君が知っている『渚カヲル』ではないよ」
「え?」
どう見ても久しぶりに会えたカヲルだ。別れの言葉を伝えられてから随分たった気がする。
「僕も他の『碇シンジ』のように別世界の『渚カヲル』だよ。エヴェレットの多世界解釈って知っているかい?」
「君が何を言っているのか分かんないよ」
「簡単にいうと電子は波のように広がっていて、ヒトも波のように広がっているのさ」
「全然分からないよ……カヲル君」
「多世界の中にそれぞれ別の歴史を歩んでいる「自分」がいる。電車の君はその多世界の君」
「多世界の僕?」
「そう。ここが全ての世界と繋がったディラックの海だからかな。普通は会うことがないよ」
「じゃあカヲル君はカヲル君じゃないの?折角会えたのに……」
「ごめんね。シンジ君。でもまたこの世界の『渚カヲル』に会えるよ。なにせ仕組まれた子供だからね」
「え?どういうこと?」
『渚カヲル』は笑顔だが、その意味は教えてくれないようだ。腕時計をちらりと見てこう言った。
「さあそろそろ帰る時間だよ。そちらの『彼女』に声を掛けるといい」
「え?」
振り返ると全ての『碇シンジ』が消えていた。その代わり一人の少女が座っている。その姿は第一中学の女子の制服姿で、髪は蒼銀のショートカットだった。
「レイ?」
碇レイにそっくりだが様子がおかしい。足を大股に開いて座っておりブツブツ呟きながら両手で頭をガシガシと掻いている。
「アダムのヤロウ……コロシテヤル!コロシテヤル!」
ちょっと怖いが恐る恐る近づいて話掛けてみる。
「ど、どうしたの?」
「ドウシタノジャネェ!さっさとアダムをコロスんだよ!!!」
急に顔を上げた彼女は血走った赤い目で、怒りをぶつけてきた。
その声を聴いたシンジは意識が途切れる。
「ここでも3番目なんだねシンジ君。この世界の『渚カヲル』も君を幸せにするために生まれているはずさ……」
--Nerv本部中央発令所
「アスカ!」
ミサトの悲痛な叫び声の後、予想された悲劇は起こらなかった。帯状の腕がEVA弐号機の両腕を切り落とし掛けたが寸前で止まる。使徒は腕をゴムがパチンと戻るように腕を畳んだ。
モニタを確認するとこれまで暴れていた世界中の使徒も同じように停止している。
全ての使徒は、そのままゆっくりと振り返り上空を見上げた。使徒の視線の先には影の使徒の本当の影、球体が浮かんでいる。
しかし現象は地面から始まった。
使徒による円形の影が地割れを起こし、影から赤い液体が噴出する。
『何が始まったの!?』
「状況は!?」
弐号機のアスカとミサトが同時に声を上げる。オペレータ席のマコトとマヤはコンソールを操作し状況を確認するが
「分かりません!」
「全てのメーターは、振り切られています!」
異常な状況にあることだけは分かった。それも世界中同時に発生している。
地割れに対して帯の腕を持った使徒は、微動だにせず空中を見つめたまま。
上空の球体に変化が起きる。
影の使徒が虚数回路を開いている間に映し出される立体の影。その単なる影のはずの球体から腕が付きだされた。赤い液体と共に。
血のような液体を噴き出しながら球体を引き裂き、中から人影が現れた。球体は砕け散り血をまき散らす。そのまま卵から無理やり生まれるように全身を現すと地面に落ちた。
真っ赤に液体で塗装された人影が咆哮を上げる。
それはディラックの海に沈んだはずのEVA初号機だった。
世界十都市に十機の初号機が降り立つ。