「な!?」
ありえないことが起こっている。
真っ赤に血で塗装されているが、形状から明らかにEVA初号機だ。24時間前に消えた初号機。勿論世界に一機のみのはず。
「そんな!ありえないわ!マヤ!」
「はい!パターンを照会しています!」
リツコの指示でマヤが登録されている初号機のパターンを、映っている初号機と比較し分析する。
「そんな……」
しかし結果は十機の初号機全て同じものだった。
全て登録パターンと一致。シンジが搭乗しているはずのEVA初号機。
「多世界の存在が同じ次元に現れているというの?そんなの高次元の存在でもない限り……」
絶句するリツコ。分析結果を確認し思考が止まりそうだった。だが状況は変化していく。
降り立ったEVA初号機を使徒が帯の腕で攻撃するが、初号機の手で簡単に抑えられてしまう。
N2弾頭を封じ込め、周りの建物を豆腐のように破壊し、他のEVAのA.T.フィールドをいとも簡単に切り裂いていた帯状の腕が、まるでトイレットペーパーのように乱暴に引きちぎられる。
使徒は仮面の目から光線を連続で放つが、初号機にはA.T.フィールドで届かない。
まるで虫でも払うように腕を振ると、A.T.フィールドごと使徒の体が斜めに切り刻まれた。その勢いで地面に叩き付けられる。
使徒は帯状の腕を瞬時に再生し、反撃を試みるが逆に腕を掴まれ初号機に引き寄せられた。仮面が初号機に頭突きされ砕ける。
圧倒的だった。十機のEVA初号機全てが。
各都市に派遣された第一中隊のEVAは手が出せないでいた。呆然と初号機の一方的な攻撃を見ているしかできない。
マヤが、はっとしてEVA初号機のステータスを確認すると驚くべき数値を確認した。
「まさか……信じられません、全ての初号機がシンクロ率400%を超えています!」
「なんですって!」
今まで限りなく100%に近づくことはあったが、超えることはなかった。それが400%を超えるとは何が起きているかリツコには予想が付かない。
使徒は頭突きを受け地面に再び叩きつけられた。
真っ赤な初号機はまるで獣のように四つん這いで、使徒に近づく。
使徒は目の光線で反撃しようとするがその前に仮面ごと潰される。使徒に馬乗りになった初号機は、赤いコアを乱暴に叩き始めた。最後の抵抗かコアをシャッターのようなものでカバーするが、初号機は構わず大きく口を開けて噛みつく。
シャッターごとコアが砕け散り、使徒は目の光が消え停止した。にも拘わらず、初号機はさらに使徒の体を食い散らかす。血と内臓のようなものが飛び散る。
「ううっ!」
マヤが吐き気を覚え口を塞ぐ。他のオペレータも似たような感じだ。
「使徒を……食ってる……」
ミサトも口を押え驚愕の表情を浮かべている。リツコは別のことで驚愕していた。
「まさか使徒のS2機関も取り込んでいるというの?S2機関を2つも所持することに。ダブルS2機関!?」
使徒がもう原型を留めない残骸を化すと初号機はようやく攻撃をやめ立ち上がる。
咆哮を上げると体の装甲がはじけ飛び始める。装甲が頭部以外弾け飛ぶとEVAの素体が丸見えになった。元は細身だったEVAの体が一回り大きくなったように見える。
『私たち、こんなのに乗ってるの?』
ベルリンに居る霧島マナのつぶやきが静まり返った発令所に響く。
その言葉が聞こえた訳ではないだろうが、初号機が他のEVAに顔を向けた。
『ひっ!』
フランスに派遣されていたマユミが恐怖で悲鳴を上げる。
思わず武器を初号機に向けてしまった。しかしEVA初号機はまるで頭痛がするように頭を押さえると、忽然と消える。第三新東京市以外の九機の初号機全てが。中身を失った頭部装甲がガシャンと落ちる。
第三新東京市のEVA初号機は頭を押さえたまま跪いてそのまま倒れた。
--キール・ローレンツ専用仮想会議室
「我らSeeleのシナリオとは大きく異なる事態が発生した」
バイザーを付けた老人が暗闇の中で発言した。キールの周りにモノリスが浮かんでいる。
『この修正、容易ではないぞ』
『左様、ダブルS2機関搭載とは、ヒトの領域を超えている』
『初号機は神にも匹敵する存在となった』
「人類補完計画はあくまでヒトで行わなければならない。現時点を持って初号機は封印。依り代は予備を用意する」
『碇ゲンドウはどうする?』
『碇ゲンドウ。あの男にNervを与えたのがそもそもの間違いではないのかね?』
「だがあの男でなければ、全ての計画の遂行はできなかった。最後の使徒殲滅までは生かしておこう」
『我々の悲願成就まであと二つ』
『あと二つ』
『あと二つ』
『あと二つ』
『あと二つ』
……
全てのモノリスが闇に消える。
「約束の日は近いぞ。どうする碇?」
老人がニヤリとして闇に消えた。
--EVA初号機ケイジ
稼働が停止したEVA初号機をケイジまで移動させ固定、洗浄し検査を始めている。
ケイジでは初号機が素体のまま係留されていた。頭部も装甲が外され、補修用のテープで巻かれている。緑色の片目だけが覗く。
「これがシンクロ率400%の正体……」
EVA初号機エントリープラグの映像回線つながり、モニターに映し出されたのはシンジが居ないコックピットだった。
「そんな、シンジ君は一体どうなったのよ!」
「EVA初号機に取り込まれてしまったわ」
ミサトが確認できたのは、中身の無いプラグスーツが浮いているだけのエントリープラグだった。リツコの言葉をマヤがコンソールを操作しながら補足する。
「シンジ君の肉体は自我境界線を失って、量子状態のままエントリープラグ内を漂っていると推測されます」
「つまりシンジ君は私たちの目では確認できない状態に変化していると」
「そうです。プラグの中のL.C.L成分は、化学変化を起こし、現在は原始地球の海水に酷似しています」
「生命のスープか」
「シンジ君を構成していた物質は、すべてプラグ内に保存されているし、魂と言うべき物もそこに存在している。現に彼の自我イメージが、プラグスーツを擬似的に実体化させているわ」
リツコがキーボードを叩きながらさらに補足し、状態をMAGIで分析している。
「シンジ君はまだ生きてはいるのね?なんとか助けられないの?リツコ」
「分からない。ユイさんが計画を検討中らしいけど……」
「ユイさんが?」
「ええ、10年前に同じことがあったそうよ」
「え?」
ミサトが驚くと同時に警報が鳴りだした。エントリープラグの状態が急激に変化する。
「水温、上がります!38、41、58、79、97、160!」
「コアパルスにも変化が見られます!プラス0.3を確認!」
次々にオペレータの悲鳴のような報告が入る。状況がどんどん悪化している。
「現状維持を最優先、逆流を防いで!」
「プラグ内、圧力上昇!」
「現作業中止、電源落として!」
「だめです、プラグがイクジットされます!」
次の瞬間エントリープラグのドアが開きL.C.Lがあふれ出した。ケイジの通路に流れ落ちる。
「シンジ君!」
ミサトがオペレータ室を飛び出し、ケイジの通路に走りこむ。
通路に流れ落ちたL.C.Lに交じって、中身の無いプラグスーツも流れてきた。ミサトはそのスーツを抱きしめ嗚咽を上げる。
「人一人、人一人助けられなくて、何が科学よ……シンジ君を返して……返してよ!」
『ミサトさん?』
泣いていたミサトに確かにシンジの声が聞こえた。スーツを抱きしめたまま辺りを見回す。
「シンジ君!?どこ!?」
周りには誰もいない。しかし声だけは聞こえる。
『あれ?ここは?ミサトさん?』
声はEVA初号機の頭部からした。片目がミサトを見ている。シンジの声に合わせてEVAの口が動いていた。
『ミサトさん小っちゃくなりました?』
「えええええええええええ!!!!!?」
続く