【完結】NGチルドレン【EVAFF】   作:ガルカンテツ

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Part-D

--EVA初号機ケイジ

 深夜のケイジに一人の女性が入って来た。EVA初号機の頭がちょっと振り向く。

 

『母さん?』

「しっ!」

 

 初号機の頭の前には、まるでキャンプしているように寝袋やチェア、折り畳みのテーブルが置いてある。小さなコンロも揃っていて食事も作れるようだ。

 

 寝袋からアスカの顔が見えており、すーすーと熟睡していた。シンジを一人にしないために付き合ってくれているのだろう。

 

 ユイはアスカの寝顔を笑顔でガン見する。

 

「欲しい……絶対にお嫁に欲しいわ。どんな手を使ってでも……ぶつぶつ……」

『母さん何か言った?』

「なんでもないわ。気分はどう?シンジ」

『うん。全然問題ないよ』

 

 その声色は穏やかで、嘘はついていないのだろう。

 

「そう。さみしくなかった?」

『アスカがずっと話相手になってくれてたから大丈夫。疲れて寝ちゃったけどね』

「よかったわねシンジ。後でちゃんとお礼を言っておくのよ」

『うん』

 

 ユイは一呼吸置いて切り出す。

 

「シンジ、そこから出たい?」

『え?……も、もちろんだよ』

 

 シンジの返答は一拍遅れた。

 

 EVA初号機が浸かっているL.C.Lの表面が少し波打った。恐らくEVAの手を握ったり開いたりしているのだろう。シンジが迷っているときの癖だ。

 

「今、母さん達がEVAからサルベージするための計画を練っているわ」

『うん』

「でもね、本当にシンジが出たいと望まないと恐らく失敗する」

『え?』

 

「シンジが心の底から出たいと思わないとダメなの。正直に言いなさい。そこは心地いいのよね」

『え……うん……なんか今まで悩んでたことが全部吹き飛んだようなそんな感じなんだ……』

「それはね、EVAが見せている幻よ。欠けた魂がEVAによって補完されているの」

『ん~、良く分かんないや』

「そこにずっといると魂の形が変わってしまってシンジではなくなってしまうわ」

『僕じゃなくなる?』

「そう。自分の形を失った世界。どこまでも自分でどこにも自分が居ない世界」

『……』

 

「それはとてもとても気持ちいのいいことなの。でも、シンジはそんな世界を望む?」

『……分かんないけど、僕が僕でなくなるのはイヤだな。僕は僕だ』

「他の人に会いたい?」

『うん、トウジやケンスケやカヲル君にも会いたいな。アスカもずっとここにいる訳にもいかないだろうし』

「そうね。……強くなったわねシンジ」

『そう?僕は弱いと思うけど』

 

「シンジ、母さんと約束しましょう。この先なにが起こっても世界中の人達の幸せをあなたが守るのよ」

『え?うん。世界?』

「母さんはシンジを守るわ。絶対にあなたをそこから出してあげる」

 

 

--Nerv本部会議室

「私は反対だ!!」

 

 珍しく大声を出した冬月副司令の叫びが会議室に響く。

 

 EVA初号機のサルベージ計画について打ち合わせるため幹部が集まっていたが、その中心人物であるユイ副司令は開口一番こう宣言した。

 

「私がコアへのダイレクトエントリーを実施します」

 

 ユイの説明では、EVA初号機のコアに直接エントリーすることで、EVAに溶け込んでいるシンジのサルベージを行うというものだ。ダイレクトエントリーとはシンジがエントリープラグの中に溶け込んだようにコアに肉体を溶け込ませるというもの。

 

 ヒトの形を失うことが前提となっている。

 

「危険すぎる。ユイ君が元に戻れる保証がないだろう」

「いいえ、冬月先生。これまでのデータから成功の確率は高いですわ。2004年のようなことは起きません」

「そうは言っても……碇からもなんか言ってくれ」

 

 冬月はユイを説得しようとするが、ユイは頑固として聞かず決意が固い。困った冬月は碇ゲンドウに助けを求めた。しかしゲンドウはいつものポーズで宣言する。

 

「計画を承認する。準備に入れ」

「碇!?」

「はい総司令。リツコちゃんミサトちゃん手伝ってくれる?」

「分かりました」「は、はい」

 

 ユイとリツコは早々に部屋を退出。ミサトは振り返りながら後を追う。

 冬月はゲンドウが同じく反対すると思っていたが、当てが外れた。冬月は動揺しゲンドウを見つめる。

 

「何故だ碇?」

「他に手立てがない。このままではプランO(オー)に影響する。一刻も早くEVA初号機を元に戻さなくてはならない」

「しかしだな……」

 

「私はユイを信じます。必ず成功することを確信していますよ」

「……そうか。何かを確信しているのだな。シンジ君か?」

「ええ」

「分った、君らがそこまで言うなら私からは何も言えんな」

 

「ありがとうございます冬月先生。しかし、計画を絶対にSeeleに知られる訳にはいかない」

「そうだな、情報封鎖が必要だ。惣流君にも伝えておこう」

「ああ、頼む」

 

 

--松代Nerv第2実験場

 現在、本部で初号機のサルベージ計画が進んでいた。ユイ副司令を中心に技術部長赤木リツコも手伝っている。

 

 ミサトはリツコの代わりに松代でEVA修理の指揮を取っていた。

 

「EVA参、四、五号機は実戦に戻れそうね」

「はい、最終チェックも問題ありませんでした。修理完了です」

「分かったわ、本部に搬送手続きしてくれる?」

「了解です」

「他のEVAは?」

「後、1週間は掛かりますね」

「そう、しばらくは第二中隊第一小隊と、零号機、弐号機か……」

 

 後しばらくは、5機のEVAで対処するしかない。初号機が元に戻れば戦力になるが……

 

 タブレットで情報を整理していると、コントロールルームの内線がなった。先ほどまで会話していた技術部のオペレータが受話器を取る。

 

「はい、こちらコントロールルーム……はい……了解です。葛城少佐、作戦部の日向さんがこちらに来たそうです」

「ん?日向君が?」

 

 日向は本部で作戦部の作業をしていたはずだ。連絡なら携帯で十分のはずだが、何かあったのだろうか。オペレータに伝えて、別の場所で会うことにする。

 

 廊下の突き当りにある休憩所で待ち合わせをしていると、日向が小走りで寄って来た。

 

「葛城さん!」

「どうしたの?日向君」

「すみません、電話ではちょっと……」

「何か情報があるのね」

「はい」

 

 日向は当たりを見渡し誰も居ないことを確認すると、声を落としてミサトに伝えた。

 

「EVAの追加建造中?世界七個所で?」

「上海経由の情報です。ソースに信頼は置けます。情報部にも確認取りました」

「なぜこの時期に追加の量産を?」

「現在、第一中隊、第二中隊とも半壊状態ですからね。予備の確保でしょうか」

「いくらEVAがあってもパイロットが居ないと話にならないわ。コアの問題もあるし……Nerv向けではない?」

 

「……Seeleでしょうか」

「かもね。でもあちらもセカンドチルドレン以外はいなかったはずだけど……何か別の目的があるのかしら。こっちの作業が一段落したら一旦本部に戻るわ」

「分かりました。先に戻ります」

 

 

--Nerv本部技術部第3更衣室

「ユイさん、これがプラグスーツです。合わなかったら言ってくださいね。調整しますので」

「ありがとうリツコちゃん」

 

 ユイはビニールで包装されたプラグスーツを受け取ると、服を脱ぎ始める。更衣室には2人しかいない。衣擦れの音が室内に響く。

 

「リツコちゃん」

「はい?」

「ゲンドウ君のこと好きでしょ?」

「ぶっ!」

 

 ユイの突然の言葉に思わず吹き出してしまう。あくまで冷静を装い姿勢を正す。

 

「いきなり何をいうのですか。私は男の人は余り……」

「あらいいじゃない。女二人ガールズトークしましょうよ」

「ガールズって……そうですね。本音をいうと好意は持っていたと思います」

 

 初めてゲンドウに会ったのは、人工進化研究所で赤木ナオコに紹介されたときだ。これまで周りには自分を自慢し誉めてもらいたがっている詰まらない男しか居なかったから、リツコは基本男嫌いだった。

 

 しかしゲンドウはいつも仏頂面だったが、何か芯が通った信念を持っているように見えた。

 

 人工進化研究所への正式入所が内定し、E計画勤務になると会話する機会が増える。同世代の男でよくあった虚栄心などはなく、目的に向けて真っ直ぐ進める姿は好ましくあった。それを自覚したとき、同世代以下の男は皆バカにみえていた自分は年上好みであることを知る。

 

 しかし相手は既婚で子持ち、尚且つ、嫁が同じ職場にいる。

 

 リツコの初恋は既に終わっていた。

 

 しかもその配偶者がイヤなやつならともかく、人当たりがよく、ちょっと抜けているところもあったり、ほって置けない感じの人だった。

 

 そして何よりリツコよりも頭脳明晰でありながら頭の良さを誇ることもなく他の人に敬意を向けていたりする。敵わない。完敗だ。

 

「そうなんだ!さすが見る目があるわね!」

「私の男を見る目は最悪だと思いますが……」

「そう?でもリツコちゃんにゲンドウくんを好きになって貰ってうれしいわ」

「そういうもんですか?」

「そう!ゲンドウくんの可愛いところ誰も認めないし冬月先生も否定するし。……ナオコさんはどうだったのかな?ゲンドウくんに対して」

「かわいい??あ、母さんはどうでしょうね……」

 

 ちょっと言葉を濁したが、同じく好意を持っていたように見えた。お酒を飲んで酔っ払っていたとき、ユイさんさえ居なければ……とこぼしていた気がする。

 

 しかし、人工進化研究所を離れるときリツコ宛の書置きで、別の人に対して思いがありそれを理由に出て行ったことが書かれていた。

 以降消息不明だったが、まさかSeeleに居たとは。別の人とはSeele関連だろうか。

 

 ユイは専用プラグスーツに足を通して着こみ、手首のスイッチを入れた。経産婦とは思えない綺麗な体のラインがあらわになる。後でどうやって体形を維持しているのか聞き出そう。

 

「そっか、じゃあ私が居なくなったら、リツコちゃんに任せたいな」

「え?」

「ゲンドウくんは一人にしちゃダメなの。誰か傍に居てほしい」

 

「……やっぱりサルベージ計画の成功率は低いんですね」

「ええ、試算したところ、10%を切っているわ。冬月先生にうそついちゃった」

「総司令には?」

「真実を伝えてあるわ。でもシンジだけは絶対に戻して見せる。私が消えても。だからお願いできるかな?ゲンドウくんのこと」

 

「……お断りします」

「リツコちゃん……」

「2人の子持ちバツイチはいやです。絶対に帰ってきてください。シンジ君とレイと総司令のために」

「そう……そうね。弱気になっちゃだめね。さあ始めましょうか。サルベージ計画を」

「はい!」

 

 

  続く

 





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