--EVA零号機エントリープラグ
「それでね、その時お兄ちゃんが……」
碇レイと綾波レイは、まだ牽制という名のおしゃべりを続けていた。おしゃべりと言っても碇レイが一方的に喋っているだけだ。
綾波レイのことを聞こうとしても反応はないが、シンジの話題には興味があるようだ。会話を続けるため、ついにはシンジの過去の恥ずかしいことまで教えてしまう。
そのとき使徒とアスカが戦闘していた方向から大きな音がした。
『碇妹、あぶない』
「え?」
背後を振り返ると恐らく兵装ビルだったものの一部が、こちらに飛んでくるのが見える。
「きゃ!」
『A.T.フィールド全開』
思わず目を瞑ってしまったが、衝撃が来ない。どうやら綾波レイがA.T.フィールドで防いでくれたようだ。
「あ、ありがとうアヤちゃん」
『いい』
続いてアスカから通信が入る。
『レイ!大丈夫!?』
「アスカ、大丈夫だよ。アヤちゃんが助けてくれたよ」
『アヤちゃん?……あ!レイ逃げて!』
モニタに高速で飛んでくる光るミミズが見えた。逃げろと言われても、どこに行けばいいのか分からない。
そのとき綾波レイの青いErzengel弐番機が、かばうようにEVA零号機の前に立つ。
「アヤちゃん!」
使徒が青いErzengelに突進してきたが、なんとか手で掴むことができた。だが勢いは止まらず、遂にはErzengelの胸部装甲に接触。そのまま内部まで侵入し始める。
『くっ』
「アヤちゃん大丈夫!?」
EVA零号機でErzengelから使徒を引き抜こうとするがビクともしない。今度は光るミミズの後ろ、シッポ側がEVA零号機に襲いかかってきた。同じように胸部に侵入する。
「あっ」
『あっ』
そのとき碇レイと綾波レイが『繋がった』。
意識が途切れる。
--Erzengel弐番機エントリープラグ
綾波レイの意識に何かが流れ込んでくる。最初は幼い碇レイが泣いている場面だった。
彼女は珍しい髪の色で、近所の子供にイジメられていた。この頃の子供は残酷だ。
碇レイの悲しみが心に伝わってくる。
「これが悲しみ」
泣いている碇レイの前に誰かが立ちはだかる。兄である碇シンジだ。彼女に喜びの感情が現れる。
「これが喜び」
シンジはイジメっこ相手に腕をぐるぐるさせながら突進していく。シンジは弱かったが、何度も何度も相手に挑み決して諦めない。そのうち大人が駆け付けその場は終わる。
シンジは自分のケガも顧みず、真っ先にレイの元に駆け寄って心配してくれた。レイは何度もシンジにありがとうと言う。
「これが感謝」
この後も様々な場面が流れ込み、そのたびにレイの感情が伝わって来る。
レイは常に周りの人々と関わり、身に持った強烈な孤独を埋めていった。
最初は心が大きく欠けていた彼女が段々と感情を得て心を満たしていく。
その過程が綾波レイに伝わった。
「これが感情。これが心」
--EVA零号機エントリープラグ
碇レイの頭に最初に浮かんできたのは、綾波レイの原風景だ。
それは、何かの研究室でありとても殺風景な部屋。
生活感の欠片もなく人間として扱われて居ないことは分かった。
「これはアヤちゃんの記憶?」
記憶と言ってもあまり年月が経っていないようだ。彼女は作られた存在らしい。
「そっか。私と同じだね」
碇レイは13歳のとき、自分の出生を母親から聞かされた。
ショックではあったが納得することはある、兄シンジと同い年のはずなのに、赤ん坊のころの写真が見つからない。あるのは3、4才の頃からのものだ。
ユイの話では、2004年の事故のときにシンジのサルベージの過程でレイが生まれたらしい。
ユイはレイを自分の子供として、そのまま育てることを決意したそうだ。実際、両親からシンジと変わらずに愛情を受け、育てられていることは疑っていない。
ただ生まれが他の人と違うところはちょっと寂しかった。
綾波レイは詳細は不明だが、人とは違う出生なのは分かる。親近感が湧く。
そのとき急に違和感を感じた。
「ん?他に誰かいる?」
--Erzengel弐番機エントリープラグ
綾波レイに何者かが問いかけてくる。
「誰?」
『私。EVAの中の私』
「いいえ、私達以外の誰かを感じる。あなた誰?使徒?私達が使徒と呼んでいる人?」
『私と一つにならない?』
「いいえ、私は私、あなたじゃないわ」
『そう。でもだめ、もう遅いわ。私の心をあなたにも分けてあげる。この気持ち、あなたにも分けてあげる』
「その必要はないわ」
既に心は得た。碇レイから。
「碇妹居る?」
『アヤちゃん!』
「使徒が侵入しているわ。協力して」
『うん!』
--EVA弐号機エントリープラグ
EVA零号機とErzengelを光る紐の使徒が繋いでいる。アスカはソニックグレイブの刃でなんとか使徒を切断しようとするが全く通じない。
「くそっ!なんで切れないのよ!レイ!応答して!」
そのとき、EVA零号機が立ち上がった。青いErzengelも同じように立ち上がる。
「レイ!大丈夫!?」
『アスカ!離れて!』
「え?」
青いErzengelとEVA零号機が胸部に浸食してる使徒を掴んだ。綱引きのように引っ張り、ピンと伸ばす。
『『A.T.フィールド全開!』』
2機が全力でA.T.フィールドを展開すると、使徒がお互いに引っ張られる形になり、これまでビクともしなかった紐状の体がブチブチという音と共に崩壊していく。
最後には、ブツリと切れてしまった。使徒の断末魔が響き渡りEVA零号機とErzengelに繋がっていた使徒が崩れ去った。
「やった!」
--EVA零号機エントリープラグ
目の前のErzengel弐番機が、翼を広げ羽ばたこうとする。
「もう行っちゃうの?」
『ええ、任務は完了したわ』
「そっか……」
『じゃ、さよな……またね』
「!うん!またね!」
Erzengelが羽ばたいて空に飛びあがり、再び空中に黒い穴を開け飛び込む。
「行っちゃった……」
『レイ!』
「あ、アスカ。大丈夫だよ」
『怪我とかない?』
「うん、あ、力が……」
EVA零号機が膝まずく。零号機ではA.T.フィールド全開に耐えきらないようだ。
『大丈夫?アタシに掴まって……』
その瞬間光る鞭がアスカの乗るEVA弐号機をぐるぐる巻きにした。
『あらアスカ、まだ終わってないわよ?』
『アンタ!』
光る鞭は、血のような赤いErzengelから伸びていた。
--中央発令所
「一体何が目的なの?」
ミサトが見ている主モニターに光る鞭で縛られたEVA弐号機が映っている。
あの鞭は以前使徒が持っていたものと同じようだ。Seeleでは使徒の技術を転用しているのだろうか。そのSeeleの目的が分からない。既に使徒は殲滅したはずだが。
「ここはアスカに任せてEVA零号機の回収を……」
と、ミサトが言いかけたとき、発令所内に警報が鳴り響いた。
「パターンブルーを検知!新たな使徒です!」
「また!?場所は!?」
「セントラルドグマに、A.T.フィールドの発生を確認!」
「な!?」
「主モニターに出します!」
そこには第一中学の男子制服を着た少年。渚カヲルが浮かんでいた。
続く