--東西アメリカ国境付近
『ギャハハハ!いいぞ!もっとだ!もっと楽しもうや!!』
Seeleチルドレンであるヴィンター・ビスマルクの搭乗するErzengel五番機は武器を一切使わず徒手空拳で挑んで来た。対するトウジのEVA参号機も武器がないため同じように格闘戦で応じている。
身長が40mもある巨人の格闘戦はとてつもない迫力で、回し蹴りなどは先端が音速を超えているのか衝撃波まで発生している。近くに建物があったら大きな被害が出ているだろう。
勝負は今のところ互角に見えた。トウジは我流だが子供の頃に祖父の道場で教わった空手がベースとなっている。対してヴィンターはあらゆる格闘技を駆使してきた。
「今度はカポエイラか!?」
漆黒のErzengelは、まるでダンスを踊るかのように足技を繰り出してくる。
倒れたと思ったら逆立ちしたまま回転蹴りをしてきたり、変則的な動きでとてもやりにくい。カポエイラ以外にもボクシングやムエタイ、中国拳法の八極拳、ロシアのサンボ、フランスのサバット、その他トウジの知らない技などを仕掛けてきて目まぐるしく変わる技で混乱しっぱなしだ。
EVA参号機は、回し受けで円を描くようにして受け流し、底掌による攻撃を加えるが、Erzengelは咄嗟にバックステップで避けた。そのままバク転で距離を取る。
『ヒャッハー!楽しいねぇ!』
「全然楽しくないわボケ!!」
向こうは完全に遊んでいるようだ。悔しいが相手が一枚上手で防戦一方になっている。
『ん?なんや、もうこんな時間かいな』
「時間?」
『んじゃ、遊びは終わりや。カンベンな?裏コード:666の獣!』
ヴィンターが叫ぶと漆黒のErzengelの様子が変わった。背中や肩が盛り上がり、装甲が弾け飛ぶ。バキバキという不気味な音が聞こえ体が変わっていく。
「なんや!?」
謎の変化が終わると、項垂れ、だらりと下げた腕をプラプラさせる。牙だらけの口から長い舌を出し、よだれのようなものが滴っていた。もう人間の姿ではない。何かのバケモノのような感じだ。
トウジが警戒していると、何の助走もなく飛び上がって襲って来た。後退して避けるが、なんと腕がグンと倍以上に伸びてきて、首を掴まれる。
「ぐがぁ!」
EVAとのシンクロで、トウジの首が絞められているように苦しい。なんとか外そうとするがこれまでとは桁違いの力で外せない。このままではEVAの首が折れてしまう。
『ホナ、サイナラ~(ピピピ)……はぁっ!?もう終わりかいな。ちっ』
ヴィンターの通信に別のところから割り込みがあったようだ。EVAの首から腕が離される。
「げほっ!ごほっ!」
シンクロしたトウジが絞められた状態から解放され咳をしている間にも、Erzengelの伸びていた腕が元に戻り、姿勢もヒトのそれに戻った。
『次は絶対に首折ったるさかいな?ほなな』
ヴィンターはそういうとErzengelの翼を広げ、空中の黒穴に飛び込んでいった。
「な、なんやったんや……」
--サハラ砂漠
ヒカリは焦れていた。
カナリア色のErzengel六番機は、絶えず弾幕を張っている。A,T.フィールドは完全に中和され近づくことができない。そもそもErzengelも近づいてこず、膠着状態が続いている。
Erzengelのパイロット、リヒト・ザイドリッツが何考えているか分からない。
Seeleチルドレンの搭乗するErzengelに関しては、以前の魚型使徒戦の映像から作戦部で敵対した場合の作戦が練られている。
基本性能はErzengelの方が上のため、EVA小隊で一機のErzengelに対するように検討していた。まさか一機対一機の状況になるとは思わなかったが。
リヒトのErzengel六番機の武装は2丁のパレットガンに似た小銃で、弾倉は通常より長めのロングマガジンであり装弾数はかなり多い。そして、肩のウエポンラックの代わりにミサイルランチャーを装備していた。
左肩には、対地対空にもなるマルチモードミサイルを垂直発射可能なVLSを装備、そして右肩には、空中発射型のN2弾頭ミサイルを改造したものが2発分発射できるランチャーがある。
いくらA.T.フィールドを持っているEVAでも至近でN2弾頭を食らうと持たない。一番警戒が必要な装備だ。
『ねー、つまんないー、もっと遊ぼうよ~』
そう言いつつも弾幕は絶やさない。どうしたいのか思考が読めない。こちらを本気で倒そうとは思っていないのか。
砂丘に隠れつつ接近するタイミングを見計らっていると、突然弾幕が止んだ。
『もー、飽きたちゃった。しんじゃえー』
なんとも脱力したセリフとは裏腹にヒカリは怖気を感じた。
右肩のN2弾頭ミサイルを発射しようとしている。この距離では避けようがない。
ヒカリはこのN2弾頭ミサイルの構造を思い浮かべ、検討する。現在の装備アクティブソードで正面から切っては信管が作動してしまう。先端の信管部分とN2弾頭部分の間を切り裂かないといけない。
EVA四号機は砂丘を低い姿勢で飛び出し、発射されたミサイルにまっすく向かっていく。
(洞木流剣術、震巻閃 零系!)
最接近したとき、ミサイルの下に潜り込み体を極端に前倒して、飛び込みつつ二刀による回転切りをみせる。
ミサイルを先端と弾頭とロケットモーター部の3つに切断。近接信管が作動することもなく砂漠に墜落した。
『なにそれ!ちょうムカツクんですけどー!』
ヒカリは、その隙にErzengelに肉薄しようとするが、畳んでいた翼を広げ飛び上がってしまった。そのまま空中の黒い穴に向かう。
『ばーか!ばーか!べぇー---だっ!』
前髪の一筋を赤く染めた金髪ツインテールがあかんべーして通信が切れた。
「なんだったのよ。もう……」
--オーストラリア大陸中央部
EVA六号機の指先から胃カメラのように曲がるカメラを伸ばし岩影から覗く。
「くそっ全然見えないな……」
直径数キロのクレーターの淵にある岩陰にケンスケのEVA六号機は潜んでいる。
敵のErzengelは、恐らく反対側に居るはずだ。しかしカメラにはなんの痕跡も確認できない。光学だけでなく赤外線やミリ波レーダーなど複数のセンサーで解析しているが見つからない。
向こうもライフルを撃って、即座に移動、場所を特定されないようにしている。反応の速さから今も銃口を向けているはずだ。
「仕掛けてみるか……」
ケンスケはEVAの腰にあるラックからEVAサイズのスタングレネードを取り出す。
ピンを外し、EVAの後方に投げ、閃光と同時に立ち上がり、強烈な光を背にライフルのスコープで反対側を見て反応を伺う。
「居ない?」
反対側には何の反応もなかったが、左方向で発砲の光が見えた。反射的に銃口を向け撃ったが外したようだ。
こちらもギリギリで向こうの弾丸を避ける。
向こうが撃った瞬間をセンサーで確認したが、またしても何も映っていなかった。
「熱光学迷彩か!?」
『ふーん、良く分かったね』
突然向こうから通信を繋いできた。
通信ウィンドウには『Erzengel07 Schwert.Tilpitz』とある。画像は表示されずSOUND ONLYとなっていた。
「ああ、軍事系のブログで最新技術として紹介されていたからね。ただ、まだ研究段階だったはずだけど?」
『これはErzengel七番機の特殊能力、裏コード:アマクサの魔鏡さ。そんじょそこらの技術と一緒にしないで欲しいね』
「へー、すごいね。よく見せてくれないか?」
『迷彩なんだから見えるわけないだろう?頭悪いのかね君?』
「そりゃ失礼」
ケンスケは会話しながら相手を探る。
通信してきたというころはなんらかの痕跡があるはずだ。強力なジャミングは衛星方向から来ている。通信が繋がったということはその隙をついているということか。
裏コード:アマクサの魔鏡とやらが何かは分からないが通常の技術ではないことは分かる。かなり高度な隠ぺいシステムなんだろう。
とりあえず左側から距離を取るべくクレーターの淵沿いに右側へ移動する。
「何が目的なんだい?」
『さぁてね?まあそろそろ時間なんでね。終わらせて貰おう』
「そうなのか?」
『そうだよ。だって君、丸見えじゃないか』
反射的に左側を見るが何も見えない。
『じゃあね。死ね』
「そうかい」
その瞬間、ケンスケが移動する直前にいた場所で煙が噴き出す。移動前に仕掛けていた煙幕弾が時限作動した。そこは丁度今EVAが居る場所に射線が通る所。
『なんだこれは!』
「今度は君が丸見えだよ」
ケンスケの狙い通り、透明なErzengelがそこに居たようだ。煙が人の形に避けていく。いくら姿を消しても実体は消せない。
EVA六号機のライフルが火を噴く。が、熱光学迷彩を解いたカーキ色のErzengel七番機は翼を広げ空中に逃げた。
空中に逃げたErzengelも狙撃するが、距離を取られA,T,フィールドで弾かれる。
『ちっ。まあ目的は達したからな。次に会ったときはヘッドショットを決めてやる』
そう捨て台詞を残して空中の黒い穴から逃走した。
「なんだったんだよ……」