--第一中学校二年A組教室
「え~~~、その頃、私は根府川に住んでまして……」
現在、4時限目の古文の時間。いつもの様に話が脱線し、いつもの様に居眠りする生徒が続出した。ただ一人起きて聞いていた生徒は、
「うーーーん、そっかぁ古鷹先生も苦労したんだなぁ(しみじみ)」
いつもは真っ先に寝ている碇シンジであった。初めてまともに聞いたらしい。
--Nerv本部会議室
リツコの言葉で会議室は静まり返っていた。ユイがリツコを気遣って、なんとか声を絞り出す。
「リツコちゃん……」
「ユイさん心配ご無用ですわ。反って安心しました。行方不明だった母の存在が確認できて。それより、総司令、提案があります」
「……なにかね」
「これを機会にMAGIのバージョンアップを提案します」
「ほう?」
「今後もMAGIに対するクラック、ハッキングは、増えると思います。また当時の開発者、赤木ナオコ博士を初め殆どの方が現在居ませんし、内部を完全には把握できていません。そこで、内部の完全なる把握と防壁の強化、EVANGELIONの管制機能の向上などを行いたいと思います」
「反対する理由はない。やりたまえ」
「ありがとうございます」
「必要な期間、予算を提示してくれ。ユイ、力になってやってくれ」
「はい」
皆が思っていたよりもリツコは意気消沈しておらず、逆に気合が入り過ぎているようで心配になる。
「よろしくお願いします。詳細な計画書は後程提出します。あ、後一つ作戦部へのお願いが」
「へ!?ウチ?」
「そうよミサト、チルドレンを何名か貸して欲しいの」
チルドレンと呼ばれるEVANGELION操縦適格者は、一部を除きNervによって世界中から集められた。
「いいけど、あんまり訓練の妨げにならないようにね」
「もちろんよ。はい、これリスト」
借りたいチルドレンのリストと、作業概要が書いてあるファイルを渡すリツコ。今回のMAGIのバージョンアップには技術もさることながら若い発想力も必要だ。
「えっと、加賀ユキノさん、山岸マユミさん、千歳カナメさん、ジャン・ロック・バール君に……相田ケンスケ君?」
「彼、MAGIにハッキング掛けようとしたことあるよの。一回だけだから不問に付したけど、通常なら拘束されているわね。ハッカーとしての立場から意見を聞きたいの」
「あんにゃろ~後でとっちめてやる……あれ?アスカはいいの?」
「本当は力を貸して欲しいけど、別の任務があるからね」
「あ、弐号機か!二週間後に到着だっけ」
「そのことに付いてだが……」
それまで黙って2人の話を聞いていた冬月副司令が発言する。
EVA弐号機は、現在インド洋沖で統合軍第五艦隊から第三艦隊へ輸送艦護衛が引き継がれていることを説明した。
冬月はミサトの直属の上司に当たり、準軍事組織の面も持つNervでは中将の階級も持っている。
「葛城君には、アスカ君を連れてフィリピンの統合軍基地へ行ってもらいたい」
「はい、こちらから出向いて受け取るんですね」
「事態は逼迫している。輸送機で早急に第三新東京市へ運んでくれたまえ」
「了解しました。統合軍第三艦隊司令部へ連絡を取って受け取り時期を調整します」
「頼む。碇、こんなとこかな?」
「ああ、以上で会議を終了する」
総司令の宣言で早朝から続いた会議がようやく終了した。女性陣は早々に退出し、男性陣だけが会議室に残る。
「さて、先に行っているぞゲンドウ。ちょっと寄る所があるんでな」
惣流情報部長が先ほどよりも砕けた感じで碇総司令に話し掛ける。ゲンドウとゲルハルトは歳も近く家も隣同士の付き合いで、上司というより友人に対するそれだった。
「ふん。ナンパでもしてくるんだろう。キョウコ君に言いつけてやる」
「アホか。そんなことしたら本気で殺される。フィリピン沖だ。加持君と会う」
「あの件かね?」
「はい、冬月副司令。安全性を考慮しての船でしたが使徒が出現した今、一刻も早くこちらへ持ち込まないと危険です。加持君には、艦載機にでも便乗してもらいましょう」
「なんだ男かつまらん。いや、それはそれでアブナイな、貴様にそんな趣味が……」
「……ケンカなら買うぞ?まあ、それよりもだ、ゲンドウ」
少しゲルハルトの声に真剣さが加わる。それに気がついたゲンドウの顔も変わった。
「何だ」
「本当にいいのか?プラン
「ふん、そのことか。其の件については、もう何度も話したろう。貴様も覚悟を決めろ」
「だが、あれは最初に計画し最初に不可能と判断されたプランだ。だからこその
「状況は、刻一刻と変わっている。それに素早く対応していかなくてはならない」
「しかし……」
言い淀むゲルハルトにゲンドウはいつものポーズに戻り、間を置いて淡々と語り始める。
「……この件は、初めて話す。冬月にも言っていなかったな」
「なに?」
「アダムは、まだ他にもあるらしい」
「どういうことだゲンドウ!?加持君が運んでいる物だけではないのか?」
「ああ、複数存在するようだ」
「……それは初耳だな。碇、その情報ソースはどこだ?」
「Seeleのキール議長だ」
「「!!」」
意外な人物の名前に冬月とゲルハルトが驚愕した。
「まだ、我々の知らない物があるようだ。ロンギヌスの槍、リリス、アダム、EVA、全てがサードインパクトに必要な要素。サードインパクト・リバースに横槍が入る可能性がある。不確定要素は排除すべきだ」
「……キール議長は何を考えてそんな情報を……」
「私にも分かりませんよ冬月先生。しかし、確証はないが嘘とも思えない。そして明確に何度も"Adams"と複数形を使っていた。Seeleはまだ何かを隠している。どうだ、惣流。覚悟はできたか?」
「あ?ああ……しかしそうなるとSeeleも手に入れているかもな。その辺り調査しよう」
「頼む。では、ドイツで会おう」
「まったく、できるなら美しい女性と待ち合わせたかったな。では」
軽口を叩いて退出するゲルハルトだが、顔は真剣な表情だった。
いつものように2人だけになり、冬月がやれやれという感じで呟く。
「しかし先ほどの話が本当だとすると、世界中が戦場になるかもしれんな」
「ああ。その為の24機のEVAとチルドレンだ」
--第一中二年A組
夕方になり帰りのHRが始まる時間になってやっと葛城教諭が学校に来た。
「と、言う訳で今日のNervは朝からバタバタしてて訓練は中止ねー。さっき言った5人は赤木博士のとこに、シンジ君は検査、アスカは作戦部に来て。じゃあ、みんな、また明日ねん!」
これを言う為だけに学校まできたようだ。聞いた生徒の反応は、嬉しさ半分、残念さ半分。昨日は、ただ見ていることしかできなかったのだ。鬱憤も溜まるというもの。
思わぬ暇な時間に戸惑っている者、すでに買い食いの相談をしている者、訓練はないのに体を動かしに行った者、など一斉に動き出した生徒の中で相田ケンスケだけは動けない。さきほどミサトに拳骨と説教を食らったダメージが抜けてないらしい。ぴよぴよ状態。
--Nerv本部作戦部長執務室
作戦部長ともなると個室が与えられるが、ミサトは普段あまりこの部屋には居なく、リツコの部屋に入り浸っている。なぜならコーヒーがただで飲めるから。
その普段居ないはずの部屋は大分散らかっていた。どうやらミサトは片付けが苦手らしい。
特に執務机にはペーパレスのこの時代に書類が山積みになっていた。どれもミサトが確認して承認が必要なもののはずだが、もしかしてそれを見たくないからリツコの部屋に逃げていたのかもしれない。
今回はリツコも忙しくアスカという客がいるのでしょうがなく執務室を使う。アスカは入るときに顔を思いっきりしかめたが、呼び出した理由を話すと満面の笑みになった。
「ええっーーー!!ほんと!?弐号機が来るの!?」
「そ、フィリピンの統合軍基地まで取りにいくわよ」
「わーい!ってフィリピン??」
ミサトからもたらされた吉報に喜んでいたアスカだが、ちょっと引っかかるものを感じる。
「あれ?弐号機ってEU支部で調整してたんじゃないの?」
「そうよ大分前に終わっているケドネ。今、地中海~スエズ運河~インド洋経由で輸送中よ」
「はぁ?輸送機があるじゃない。なんでちんたら船なんかで運んでるのよ!」
巨大なEVAを輸送するために作られた、さらに巨大な全翼機のことだ。
統合軍で採用されているC-3『V-MAX』の派生型、EVA輸送機C-3MはEVA一体の輸送だけでなくEVA装備や援護用の武器装備、また人員の輸送も可能。
「EVA輸送機が配備されたのが、つい最近だったからねぇ」
「じゃあ、それから運べばよかったじゃない!」
「まあまあ、だからこっちから取りにいくのよ。今週末にフィリピンにいくわよ。準備しておいて」
「む~~(ぶつぶつ)」
「そろそろシンちゃんの検査が終わる頃ね。アスカも行く?」
「あ?いくいく!」
納得が行ってなさそうだったアスカを、何とか誤魔化せてホッとしたミサトだった。
本部とEU支部とのちょっとした確執からということはアスカの為にも隠しておきたい。彼女の因縁の場所だから。