--赤木ナオコ執務室
「では失礼します」
マリが執務室を出ると、再び静寂が訪れる。部屋には赤木ナオコ一人だ。マリから受け取ったのは、Nerv襲撃チームのメンバー表を紙に印刷したもの。ナオコの部屋は完全にネットワークからクローズドだった。
『彼』に少しでもノイズを入れたくない。
「ユイさんがいらっしゃるのね。ゲンドウさんのケガは大丈夫なのかしら?」
リストを舐めていくと娘の名前を見つけた。
「あら?りっちゃんも来るのね!お紅茶あったかしら?」
ここへの襲撃者の一覧を見ても、のほほんとしている。自分が攻撃されるとは微塵も思っていないようだ。そしてもう一人知り合いを見つける。ガラス窓の向こうを見ながら呟く。
「葛城ミサトちゃんも来るそうですよ。楽しみですわね」
ガラス窓の向こうには、配管がぐねぐねと曲がり巨大な脳のようになっている装置がある。その直下にある円筒状のガラスケースには、知っている人が見ればL.C.Lだと分かるオレンジ色の液体が満たされていた。
液体がコポリと鳴る。
ガラスケースには『H.K』と書かれたプレートが付けられていた。
--Nerv本部内ブリーフィングルーム
「気を付け!葛城少佐に敬礼!」
ヒカリの号令に整列していた全員が一糸乱れぬ敬礼をする。
ブリーフィングルームには、チルドレン24名の他、作戦部スタッフ30名以上が後方に並んでいた。ちょっと窮屈だが、全員が今回の作戦に参加するメンバーだ。
「休め!」
全員が休めの姿勢になったことを確認してミサトは切り出した。
「これより、月強襲作戦について説明します。日向大尉」
「はっ!」
部屋の照明が消され、スクリーンが浮かび上がる。画面には地球と月、そして楕円や曲線で経路が表現されている。日向マコトがマイクとレーザーポインターを持って説明する。
「月強襲部隊はSSTOで衛星軌道にあがり、各月往復船に分乗。月往復船は、EVA輸送SSTOにブースター、居住区モジュール、月着陸船、燃料タンクなどを付けたものだ」
スクリーンに月往復船の模式図が表示される。EVA輸送SSTOに着けたブースターはエンジンと球形のタンクがむき出しになっており、いかにも急造といった感じだ。SSTOの下には、月までの居住区兼月周回の母船となる円柱状のモジュールが付けられている。
「月までの移動時間は12時間。逆噴射を行い、月衛星軌道に投入。そして目的地は」
表示が変わり、月面が表示される。
「4つのクレーターが候補地だ。アリスタルコス・クレーター、ティコ・クレーター、ラングレヌス・クレーター、アダムズ・クレーター。4つのクレーターに4部隊に分かれ着陸する」
「質問があります!どうして、その4つなのでしょうか?」
「相田准尉か。ではこちらを」
画面がより鮮明な月面の映像に切り替わる。中心にはクレーターが映っていた。
「この画像は、JAXAの月衛星『かぐやⅡ』から提供いただいた。クレーター内の影に注目」
さらに画像が切り替わったが、クレーター内の影は変わっていない。
「変わらないように見えますが?」
「他の地形の影を比較してみてくれ」
2つの映像を並べてみる。
「あ!」
「そう。クレーター内の影は変わらないが、周囲の地形にある影が時間で変わっていることが分かる。つまりこのクレーターの影はカモフラージュだ」
「なるほど」
「先ほど挙げた4つのクレーターがカモフラージュしている場所だ。ここをSeeleの基地と想定して強襲着陸する。着陸後は作戦部隊員で影部分を捜索、入口を見つけたら、部隊で突入し内部を捜索する」
そこに敵がいれば銃撃戦になる。作戦部隊員がごくりと唾を飲み込んだ。
「まずは敵基地のネットワークを掌握する。コネクタを見つけたら、このUSBを繋いでくれ。MAGI・アルタバンが入っている」
USBメモリを掲げる。これが最大の攻撃兵器だ。
「後は基地構造を分析し、Seele残党を叩く。以上だ」
「ありがとう、日向大尉」
ミサトがマコトに変わって前に出る。
「正直何があるか分からない。行き当たりばったりの作戦とも言えない状況ね。ただ確実にSeeleチルドレンのErzengelは迎撃に出てくるわ。その阻止はEVA大隊で。指揮をお願いね、惣流少尉、洞木少尉」
「「はい!」」
「私は全体の指揮を執ります。突入部隊の指揮は日向大尉でお願い」
「了解!」
「状況は刻一刻と変わります。連絡を密にするように。そして一人も欠けることなく地球に帰還するわよ!」
「「「「はっ!」」」」
「作戦名は『FLY ME TO THE MOON作戦』と呼称します!月へ!」
「「「「月へ!」」」」
--赫き月
広い部屋に少年少女が並んでいた。
その数16名。全ての子供達が、銀髪で赤い目をしている。列の前に3名。白衣の女性2人に挟まれ、同じく銀髪で赤い目の少年が立っていた。
「揃ったね。Adamsチルドレンの諸君。後はイヴの覚醒を待つだけだ。博士と教授もありがとう、君たちのお陰でここまで来れた」
女性2人は会釈するのみ。声を発した少年アダムは正面の少年少女を右から左に見つめる。
「サキエル、シャムシエル、ラミエル、ガギエル、イスラフェル、サンダルフォン、マトリエル、サハクィエル、イロウル、レリエル、バルディエル、ゼルエル、アラエル、アルミサエルそしてタブリス。君たちは使徒として生まれたが、リリス、リリンの妨害により、一度は死んだ。だが、それは本来の儀式ではない。本当の儀式はイヴにより行われる」
タブリスと呼ばれた少年の横、一番左に居た少女で目が留まる。
「綾波レイ。君もAdamsチルドレンだ。碇シンジが乗っているEVA初号機にリリスがいる。君がそのリリスと融合し、本物のリリスとなるのだ」
「碇クンがくるの?」
「ああ、今こちらに向かってきている。丁重におもてなししないとな」
「そう……」
「他のザコはSeeleチルドレンに任せ、EVA初号機は綾波レイとタブリスで頼む」
「ええ」
「分ったよ。アダム。シンジ君に会えるの楽しみだ」
「タブリス目的は忘れるなよ?」
アダムはタブリスを一瞥するが、それほど気にしてないようだ。改めて全員を眺める。
「さて駒は全て揃った。では始めよう。子供達の新世紀。Neon Genesis Childrenを」
続く