Part-A
--月軌道付近
『ムーンキャリア01、最終作戦軌道に投入準備。減速行動に移る』
『第一弾全エンジンを点火。燃焼を開始』
『S1C、燃焼終了。減速を確認』
『第一弾ブースターユニットをジェットソン』
『分離を確認。電装系をチェック。異常なし』
『了解した。燃焼タイミングはオート。第二弾全エンジンを点火』
『S1C燃焼終了。圧力弁を閉鎖』
『第二弾ブースターユニットをジェットソン』
『減速行動を終了』
『最終作戦軌道への投入開始。機首を反転。回頭開始』
コールサイン『ムーンキャリア01』の月往復船は、減速を終了し月軌道へ投入される。他の月往復船も同様の行動をとり、次々に月軌道に到着した。その数24機。
NervのFLY ME TO THE MOON作戦は第一段階を終了し、第二段階に移る。
全機無事月軌道投入直後、周辺に新たな反応があった。黒い球体が割れるように複数の攻撃衛星が姿を見せる。球形の光学迷彩でカモフラージュしていたようだ。
攻撃衛星はNervの月往復船に向けて大量のミサイルを射出するが、月往復船に到達する前に赤い光の壁に阻まれた。
月往復船のベースになっているSSTOの格納庫が開きEVAがゆっくりと宇宙空間に出てくる。EVAからの攻撃で攻撃衛星は全て破壊した。
EVAの背にはⅩ状のフレームを装備しており、フレームの先端にスラスターが付いている。スラスターを使い姿勢制御を行う。
『こちらEVA四号機洞木。全EVAは小隊毎に集結し、担当クレーター上空に待機!』
『『『了解!』』』
--ムーンキャリア01司令室
月往復船はSSTOに居住区用のモジュールを機体下部に付けているが、ムーンキャリア01だけは、全体を指揮するための司令室にもなっていた。そこには数名のオペレータの他に、碇ユイ副司令、葛城作戦部長、赤木技術部長が乗り込んでいる。
「EVA全機配置に着きました。先ほどの攻撃衛星以外の妨害はないようです」
オペレータの報告を聞いたミサトはマイクを持ち指示を出す。
「よろしい。では作戦を第二段階に移行します。日向大尉、衣笠中尉」
『『はっ!』』
「第一次突入隊を指揮して、アリスタルコス・クレーター、ティコ・クレーターに降下。敵施設の捜索、制圧。よろしい?」
『日向了解!第一次突入隊、第一班16名+EVA2個小隊は、アリスタルコス・クレーターに突入します!』
『衣笠了解!第二班は、ティコ・クレーターに降下します!』
月往復船24機の内、8機から月着陸船が切り離され、EVAに護衛されながらそれぞれ目的のクレーターに向かう。一度に4つ全てへ突入しないのは突発的事態での全滅を防ぎ、半分の部隊で状況を確認するためだ。
「第一次突入隊、降下始めました」
「了解。ユイ副司令。作戦開始しました」
「ええ。最初で施設の構造が分かるといいんだけど……」
ユイは月強襲部隊の総責任者ではあるが、作戦指揮自体はミサトに任せている。ただ、何かあれば自身も降下するつもりだ。そのため既に宇宙服替わりのプラグスーツに着替えている。他のスタッフも同じだ。居住区兼司令室モジュールは気密されているため、まだヘルメットは付けていない。
リツコもプラグスーツだが、何故か白衣をその上に羽織っていた。手元のタブレットを操作しながら作戦を見守る。
「アリスタルコス・クレーターは直径40km。ティコ・クレーターは85.3kmか……広いわね。施設を捜すだけでも大変ね」
「そうね。でもそのための探索装置は準備しているんでしょ?」
ミサトの言う通り月着陸船に接続されている月探索車には、様々な機器が装備されていた。電波探知、金属探知などで人工物がないか捜索する。
「ええ、ただクレーターが今見えている状態とは違うかもしれない。光学迷彩を使っているならば、全体をカモフラージュしているかも」
「突入して直接見ないと分からない状況ね……皆無事でね」
--月着陸船
「クレーター上空3,600m!そろそろクレーター内部に突入するぞ!注意しろ!」
「「「了解!」」」
マコトを含め4名の作戦部隊員は、月着陸船でアリスタルコス・クレーター内に着陸を試みている。
第一次突入隊、第一班は4機の着陸船に分乗しており、それぞれが同じタイミングで下降中だ。
着陸場所はクレーターの影部分。しかし本当の影かどうか不明。カモフラージュされた空間に飛び込む形になる。EVAが護衛に付いているが何があるか分からない。
姿勢制御をしながら慎重に降下していく。しかし影の部分に入った途端異常が起きた。
「何!?」
影の部分に入った途端、ガクンと衝撃が伝わって来た。着陸船の降下速度が急上昇し、月に引っ張られている。いや急に重力が大きくなった。本来月は地球の6分の1の重力だ。
「なんだ!?何が起こってる!?」
「逆噴射!!急げ!!月面に激突するぞ!」
パニックになる隊員にマコトが檄を飛ばす。操縦を担当していた隊員が、着陸船の着陸脚にあるノズルから逆噴射し減速させ、大きく揺れる。
「月面まで後、500……300……100、タッチダウン!!」
着陸時、大きな振動があったが着陸脚のショックアブソーバが衝撃を吸収し無事に降下できたようだ。安心したのも束の間、小さな窓からみた景色に愕然とする。
窓の外は一面緑色の草原だった。
「確かに月面に降りましたよね!日向大尉!?」
「慌てるな。カモフラージュされていた以上、何があっても可笑しくない。外の分析は?」
「はっ!……空気があります!成分も地球上と同じです。気圧も……重力も1G!」
「そうか。これは幻ではないんだな」
改めて窓の外を見ると、辺り一面が足首くらいの草が生い茂った草原で、風も吹いているのか草が揺れている。大気の無い月面に着陸したはずなのに。
「空気と草はともかく、重力まで一緒とは……重力制御技術を持っているということでしょうか」
「分らん。他の着陸船は?」
「健在です。少し離れた場所に着陸しています」
「了解、これより外に出て合流すると伝えろ。操縦士兼通信士以外は着陸船から下船するぞ」
マコトを先頭に気密室から出て、月面に降り立つ。
「本当に大気がある。風も吹いていますね。本当に月面なんでしょうか」
「そうだな」
マコトは首を上に向ける。本来であれば見えるはずの星空はなく、雲一つない青空だった。
しかし草原の先にはクレーター外延部が見えており、知らない場所に転移したとかいう訳ではなさそうだ。
「大尉、呼吸もできるようですけど、ヘルメット脱ぎますか?」
「……いや止めておけ。ここが敵地だということを忘れるな」
「了解」
着陸船の下部に接続していた月探索車を降ろして、チェックする。
「まずは集合しよう。月探索車は無事か?」
「はっ、問題ないようです。ただ本来は月面の重力上で走行するはずでしたが……」
「地球上でも走行テストしていたはずだから問題ないだろう」
他の着陸船からも月探索車に乗った隊員が到着し、突入隊12名全て集合した。他の隊員もこの風景に困惑した顔をしている。
「大尉、これは一体……」
「分からん。しかしヘルメットは取るなよ。これから何があるか分からないぞ。通信士、EVA部隊状況は?」
『EVA部隊も問題なく、着陸できたそうです。敵Seeleチルドレンはまだ見えないとのこと』
「分った。司令船との通信はできたか?」
『いえ、クレーター外への通信はできないようです』
「想定通りだな。軌道上まで着陸成功の信号弾を上げておいてくれ」
『了解』
「ではこれから敵施設の捜索に入る」
--EVA四号機エントリープラグ
「日向さんたちが無事でよかった……」
『せやな。てかなんで草原やねん』
洞木ヒカリが安堵していると、鈴原トウジが外の景色にツッコミを入れていた。
アリスタルコス・クレーターに突入したEVA部隊は、EVA第二中隊、第一小隊と、第三小隊の計6機のEVAだ。
月面の影に入った途端、1Gの重力になり急激に落下したが、EVAのフィジカルで全機問題なく着陸できた。背にあったⅩ状のフレーム装備は役に立たないのでパージする。
「周囲を確認して!SeeleチルドレンのErzengelを警戒!」
外の景色は気になるが、EVA部隊の任務は敵Erzengelから突入隊を守ることだ。何故重力が地球と同じなのかは分からないが、返って戦いやすい。
『……いいんちょ、おいでなすったで』
トウジの通信から、振り返ると上空を羽を広げて飛んでくる機体が見えた。黒と黄色のErzengel。奇しくもトウジとヒカリが以前相手した機体だ。
漆黒のErzengel五番機と、カナリア色のErzengel六番機が翼を羽ばたかせ草原に降りる。
『よう黒いの。また会ったな。リベンジ戦や』
『えー、またアンター?きらーい』
敵対しているのに堂々と映像付き通信が入る。ウィンドウには金髪短髪の少年『Erzengel05 Winter.Bismarck』と金髪ツインテールの少女『Erzengel06 Licht.Seydlitz』が映った。
『いいんちょ、黒いのはワシとケンスケでやる。黄色いのを頼む』
「分ったわ。気を付けてね」
『おう』
ヒカリは第三小隊のユング、ノリコ、ナディアと連携し、カナリア色のErzengel六番機を引き付ける。