--EVA参号機エントリープラグ
「くっ!」
『ギャハハハハハ!!』
EVA参号機と漆黒のErzengelの格闘戦は、以前のような格闘家同士の戦い方ではなく、ヒトとケモノの戦闘になっていた。
Erzengelは腕も地に着けて四つ足の肉食獣のように素早く動き回る。
時には牙だらけの口を大きく開けての噛みつき攻撃だったり、腕を2倍以上に伸ばしての攻撃だったりと多彩。一度見ているから何とか防げているが、このままではジリ貧だ。まずは動きを押さえないといけない。
トウジはEVAを一歩後退させバランスを崩したように見せかける。相手はその隙を狙って飛び掛かって来た。EVAがErzengelの両手を掴む。まるでプロレスの力比べのような体制になった。
「つ、捕まえたでっ」
『ギャハハハハハ!ムダムダムダムダ!!!』
両腕同士で全力で押していくが、パワーは拮抗しておりこれ以上動けない。その時Erzengelの背中がバキバキと割れ何かが伸びてくる。
「なんやと!?」
背中からもう2本の腕が生えてきた。
『シネ!!』
追加の腕がEVAの首を掴もうと伸びて来る。こちらの腕は掴まれて払うことができない。
「あかんっ!」
思わず目を閉じてしまったが、攻撃は来ない。追加の腕を、後ろから伸びてきた二本の腕が掴んでいた。
「ケンスケ!」
『間に合ったな。大丈夫か?』
EVA参号機の後ろにケンスケのEVA五号機がいつの間にか来ており、サポートしてくれたようだ。EVA2機とErzengelとの力比べが開始される。
『ギャハハハ!!2機くらいで止められると思うなよ!!』
ヴィンターの言う通り、EVA2機掛かりでも力負けしており、徐々に押されている。Erzengelは装甲が割れ内側から押されるように筋肉が膨張していく。どんどん力が増していた。
『トウジ。合図したらバックジャンプで下がってくれ』
ケンスケが秘匿通話で伝えてきた。何か作戦があるようだ。
『3,2,1,今だ!』
タイミングを合わせ2機のEVAがバックジャンプをした。Erzengelは体制を崩すがそのまま前に突進する。
『逃がすか!ボケ!!』
しかしErzengelは前のめりに倒れてしまう。Erzengelの足に金属製の牙が食い込んでいた。
『なんじゃこりゃ!!』
Erzengelの足を咥えているのは、EVAサイズのいわゆるトラバサミだ。
ケンスケは2機が戦闘中にEVA参号機の影で、罠をこっそり仕掛けていた。
『ケモノを捉えるには罠が一番ってね』
「さすがやケンスケ!!」
Erzengelは罠を外そうとするが、トラバサミは鋸歯状の歯が付いており、完全に足に食い込んで外れない。
「もう降参せい。終いや」
『ふざけんな!!!ボケ!!!』
ヴィンターはまだ諦めていない。
2機のEVAは腕からの攻撃を警戒して下がるが、Erzengelの腕は地面を掴み無理やり罠から逃れようとしている。トラバサミはEVAの特殊装甲と同じ材質で作られており、そう簡単には破壊できないはずだ。
しかしErzengelの筋肉がさらに膨張し漆黒の装甲をバキバキと割って一回り体が大きくなった。
『ギャギャギャギャgygygygygygyg!!!!!』
もはや人間ではないような声を上げるヴィンター。Erzengelは、残りの足と4本の腕で無理やり前に進み、ブチブチと音を立て、罠が食い込んでいる足を引きちぎろうとする。
『まじか。狂ってやがる』
ケンスケも狂気を感じているようだ。トウジは説得を諦め、構えをとる。
遂には足が千切れ、罠を脱出する。血のような体液が迸ってもまったく気にせず、トウジの方に襲い掛かってきた。迎撃をしようと前蹴りを繰り出すが、Erzengelが消えた。
「なに!?」
EVA参号機の目の前で直角に曲がり別方向に飛ぶ。信じられない運動性能だ。
『うわ!!!!』
「ケンスケ!!」
ケンスケの悲鳴が聞こえる。トウジの方ではなくケンスケのEVA五号機を狙われた。EVA五号機の首に完全にErzengelの牙が刺さっている。
『すまんトウジ!!』
ErzengelがEVA五号機の首を引きちぎる直前に、エントリープラグが緊急脱出する。そのまま上空に飛んで行った。
EVA五号機の首から大量の血が噴き出し倒れる。漆黒のErzengelはEVA五号機の頭を咥えたままトウジを睨む。
『gygygygygygygygygyg!!!!!!』
もはやケモノの唸り声しかできないようだ。EVAの頭をペッと放り出し四つん這い、いや四本の腕と一本の足の計五本で伏せ力を籠める。闘牛の突進前のように足で地面を何度も蹴る。
ケンスケのエントリープラグがクレーター外に出るのを確認するとトウジは息を吐く。
EVA参号機は構えを解き、足を肩幅に広げ腕を下げ脱力した。
「次で決着を付けたる」
Erzengelは徐々に後ろ脚の蹴りを止め、全身に力を入れ始める。EVA参号機は脱力した自然体のままだ。緊張が最高潮に達する。
そのとき
『探索班の日向だ!探索を終了し、クレーターから脱出する!基地で爆破が起きている!何が起こるか分からない!君らも早く脱出してくれ!』
日向の通信を受けた直後にErzengelが動き始めた。縮み切ったバネを解放したように飛び出す。
と、同時に青空だったクレーター上空が星空になった。
周囲の空気も凄まじい勢いでかき回され暴風となっている。草原の草は一気に凍り付き風によって散らばった。重力も月の重力に戻っている。
そんな状況でもトウジは微動だにしない。ただErzengelだけを見ている。
漆黒のErzengelが牙だらけの口を大きく開いて襲い掛かった。Erzengelの口がEVAの頭を噛み砕こうとした瞬間、EVA参号機が動く。
「セイ!!!」
両手を握り、右手を胸の中央に突き出し、左手を脇腹につける。空手の基本技正拳突きだ。
正拳はErzengelの口に入り、喉ごと後頭部を貫く。
周囲が普通の月面に戻りつつあるなか、頭を貫かれたErzengelはぐったりと倒れる。そのときヴィンターを乗せたエントリープラグが射出され、上空に登っていく。
トウジは力を抜き構えを解こうとした瞬間、頭に大穴を開けたErzengelが動き出した。パイロットは既に居ないはずなのに。
「何や!?」
Erzengelは、ぐにゃぐにゃの腕をEVAに巻き付け拘束する。トウジはとても嫌な予感を覚えエントリープラグで緊急脱出した。
エントリープラグが離れると同時にEVA参号機に巻き付いたErzengelが大爆発を起こした。
--EVA四号機エントリープラグ
『探索班の日向だ!探索を終了し、クレーターから脱出する!基地で爆破が起きている!何が起こるか分からない!君らも早く脱出してくれ!』
「EVA部隊洞木です!了解です!」
日向からの通信に返信するも、今は脱出できる状態ではない。加粒子砲は溝から発射されるため、方向を予測でき、なんとか被弾せずにすんでいるが近寄れないし、攻撃もできない。
『kykykykykykykykykykyk!!!』
リヒトは、もはや人間の言語とは思えない声を発している。
カナリア色のErzengelは、ずっと体の溝から強力な加粒子砲を連射していた。正八面体の使徒でも全力の加粒子砲は連射はできなかったはず。何故Erzengelはあんなに連射できるのだろうか。ヒカリがそう思っていると、Erzengelの溝が激しく発光し始めた。
『いいんちょ!!Erzengelは自爆するぞ!!逃げろ!』
「スズハラ!?」
トウジから突然の通信が入ると、Erzengelから光が漏れ、エントリープラグが発出された。ヒカリは咄嗟に、自身のエントリープラグを脱出モードにする。
脱出後、エントリープラグのモニターから月面を見ると、大規模な爆発が2か所で起きていた。トウジの通信がなかったら、巻き込まれていただろう。
『いいんちょ!大丈夫か!?』
「ええ、なんとか脱出できたわ」
トウジもエントリープラグで脱出したようだ。他のEVAチルドレンと探索班隊員も無事なことが確認できた。
「ありがとう、スズハラ……」
『お、おうよ』