--ティコ・クレーター EVA十四号機エントリープラグ
月面に何故か建設されてるビル街を慎重に進む第三小隊の3機。その隊長の加賀ユキノから
通信が入った。
『マユミ、スナイパー戦に関しては、あなたが一番知識があるわ。作戦任せるわね』
「了解です。建物の影から出ないでくださいね」
山岸マユミは、センサーで作成した三次元マップで街並みをスナイパー視点で観察する。
(私が狙撃するなら、こことこことここ。背の高いビル三か所の上だけど……)
自分の思考で大体の位置を決める。しかし確定はできない。
周りを見ると人影はまったくないものの建設車両や
建設資材なのか鉄骨が山積みで残されている。
ふと思い浮かぶ案があり、同じ小隊の工作が得意な飛龍キミコに通信を繋ぐ。
「キミコさん、ちょっと作って欲しいものがあるんですけど」
『はい、何を作ればいいのでしょう?』
「その辺りの建築資材を使ってですね……」
--Erzengel七番機エントリープラグ
「くそ、モルゲンのやつ、スナイパーの存在は知られるだけで不利なんだぞ」
シュヴェーアト・ティルピッツは、己の存在をばらされ愚痴をこぼす。
とはいえ、自分の狙撃の腕には絶対の自信がある。今も熱光学迷彩を使用しつつ、狙撃体制を油断なくとっていた。クレーターに建設された疑似都市の構造は頭に入っており、どのルートから来ようが撃ち抜けるポイントは把握している。
「!」
その狙撃ポイントに人影が飛び出してきた。すぐさま反応し距離と相手の速度を考慮して、偏差射撃で命中させる。
「!?囮か!」
人影らしきものは、大きな布に鉄骨で人型を作って無人の車両で移動させたようだ。
--EVA十四号機エントリープラグ
隠れながらEVAの指先のカメラで状況を確認していたマユミは、狙撃地点を特定し、すかさずポジトロンライフルで反撃を行った。予想した三か所のビルの内の一つだ。着弾し屋上が大爆発を起こす。
『やった!?』
「いえユキノさん、手ごたえがありません。逃げられたようです」
狙撃手は撃ったら即移動は基本だ。ましてやErzengel七番機は翼を持ち飛行できる。さらに熱光学迷彩もあると相田ケンスケが言っていた。移動先該当箇所は後二か所だが、こちらから姿を見せて攻撃すると先に打たれるだろう。
「キミコさん、次をお願いします」
『了解!』
囮は一つだけでなく沢山作っていた。この短時間で作成できるのはキミコくらいだろう。
2台ほど続けて、囮を動かす。が、今度は撃って来ないようだ。さすがに引っかからないらしい。さらに4つ布を被った物体が飛び出すが、やはり撃って来ない。
しかし今度は2つは囮、2つはEVAだった。布の中からユキノのEVA十ニ号機とキミコのEVA十三号機がパレットガンで、打ち合わせしていた二か所のビルの屋上を攻撃、すぐビル影に逃げ込む。ビルの屋上に着弾するが、また何の反応もない。
--Erzengel七番機エントリープラグ
「ちっ、ウザイな」
シュヴェーアトは、直ぐに空中に退避し、事なきを得た。今度は最初のビルに移動する。こちらが熱光学迷彩をしている限り、三か所以上に絞れないだろう。近づいて来ればこちらのものだ。
Erzengelは羽ばたいてビルに降りる。
--EVA十四号機エントリープラグ
「やっぱりですね」
EVA十四号機はポジトロンライフルから武器を持ち換え、実体弾のライフルを構えていた。
マユミの狙いは、敵を撃つことではなく3つのビルで煙を上げること。そして読み通り、狙いを定めていた最初のビル屋上の煙が微かに揺らいだ。Erzengelの羽ばたきによって。
即座にライフルを発砲する。弾種は……
--Erzengel七番機エントリープラグ
「なんだこれは!!!」
頭上で炸裂したのはペイント弾。
熱光学迷彩をしていたErzengelは黄色で塗装されていた。
--EVA十四号機エントリープラグ
『ふざけるな!!!裏コード:アマクサの魔鏡の本質は光を操ることだ!強力なレーザーをぶち込んでやる!』
発狂したような声の通信がErzengelから入るが、マユミは冷静に答える。
「でも、丸見えですよ」
またポジトロンライフルに持ち替え、Erzengelの頭を撃ちぬいた。
『ナイス、ヘッドショット!』『やったー!』
「ありがとうございますユキノさん、キミコさん」
何かをしようとしていたErzengelから、エントリープラグが射出され爆発を起こす。離れているため、こちらに影響はない。
「姿は消せても、実体は消せない。って相田君が言ってました」
--月軌道付近
「ムーンキャリア03から05,15から17加速行動開始しました」
脱出してきたEVAのエントリープラグを回収し、一足先に地球に帰還してもらう。全員無事でケガも無いようだが、一刻も早く精密検査が必要。作戦部の隊員も全員無事だった。EVAは6機失ったが、チルドレンが無事であればそれでいい。
「第一班のチルドレン帰還軌道に入りました」
「了解」
「しかし良かったので?Seeleチルドレンも助けてしまって……」
オペレータがミサトに確認する。Nervチルドレンの他にSeeleチルドレンの脱出エントリープラグも回収し、帰還部隊で運んでいた。
「ほっとく訳にもいかないでしょ」
攻撃してきた敵。ではあるが全員14歳の少年少女だ。無闇に死なせるわけにはいかない。
「あ、ティコ・クレーターからも信号弾が上がりました。外れだったようです」
「了解、第二班の回収作業に入って頂戴」
軌道上で待機していた月往復船に指示を出す。
残りは2つ。ラングレヌス・クレーターとアダムズ・クレーター。
「ミサトちゃん、どちらが本命だと思う?」
司令席のユイから質問されたミサトは、ちょっと考え答える。
「そうですね、最初は引っ掛けかと思いましたが、ここまでくると本命は、そのまんまアダムス・クレーターでしょうね。敵の狙いはこちらの戦力分散のようです」
「なるほどね。じゃあ私はアダムス・クレーターに降りるわ」
「はい……って本気ですか!?」
「ミサト、私も降りるわよ」
「リツコも!?危険です!何があるか分からないんですよ!」
ミサトは、ユイとリツコには司令船に残って全体の指揮をしてもらうつもりだった。
「ミサトちゃん、私はキール・ローレンツ改めアダムと話したことあるけど、私達を全滅させるつもりなら、こんな回りくどいことはしないわ。きっと何かを見せつけたいのね」
「はあ」
「必ずそこに母さんも居るわ。会話させて頂戴。ミサト」
「……ああ、もうしょうがないですね。作戦部メンバーから絶対離れないでくださいね!」
--ティコ・クレーター EVA六号機エントリープラグ
『探索班の衣笠だ。ここは外れだった。脱出しよう』
「霧島了解でーす。脱出気を付けてくださいねー」
捜索班の作戦部隊員たちは、脱出行動に移ったようだ。こちらもSeeleチルドレンの牽制から殲滅へ行動を変更しないといけない。
「ムサシ、ケイタ」
『おう』『はい』
「ケース21、行動開始」
『『了』』
マナの言葉はこれまでのような軽い感じではなく、ひどく冷たい声音になった。ムサシとケイタもスイッチが入ったかのように機械的に返答する。
これまで暗い赤色のErzengel四番機が移動しないように光る鞭の範囲外から牽制していたが、ケイタの援護射撃を契機にマナとムサシが一気に距離を詰めるような行動に移る。
Erzengelも鞭で応戦するが、間合いに入る直前で後退したり、その瞬間別方向から襲ってくるなど急に防戦一方になった。
3人は無言で完璧な連携を見せる。戦自学校時代からの経験が生きている。
何度か接近、後退を繰り返して最接近するチャンスを得た。鞭は中距離武器なので、ここまで接近すると迎撃できない。ムサシのEVA七号機がプログレッシブ・ナイフで背後から襲う。
しかしErzengelの手のひらに穴が開いていることに気が付き咄嗟に防御態勢を取った。その手のひらの穴から光の槍が飛び出しEVA七号機を襲う。槍が腕の長さ以上に伸び、EVAを遠ざける。
「ムサシ!」
『大丈夫。ナイフで防御した!』
光の槍は、最初に第三新東京市を襲って来た使徒が持っていた武器だ。
どこまでも伸びる槍と光る鞭に警戒していると、Erzengelの胸の装甲が剥がれ落ち、内側から何かが盛り上がってきた。
黒い空洞の目のようなものがある白い仮面。これも最初の使徒と同じものだ。
目のような空洞の奥に光が見え始める。
「ケイタ!避けて!」
『おおっと』
白い仮面から強力な光線が発射されるが、ケイタのEVA八号機は辛うじて避けた。その先で着弾した光線が巨大な十字架の光を上げる。
「いくつ使徒の武器仕込んでるのよ!」
思わずツッコミを入れてしまうマナ。これで3つ目だ。まだあるかもしれない。
と、そのときビル街で大爆発が起こった。スナイパーを追っていた第三小隊になにかあったのかと心配していると、加賀ユキノから通信が入った。
『こちら第三小隊加賀。スナイパーのErzengel七番機を破壊したわ。Seeleチルドレンはエントリープラグで脱出した模様。こちらは被害なし』
「ナイス!こちらはまだ健在だから支援お願い!」