--Erzengel四番機エントリープラグ
「あらあらシュヴェーアトが、倒されてしまいましたのね。だらしのないこと」
あちらのEVAは全機健在で、これで六対一になってしまう。状況的には不利になるが、モルゲン・ツェッペリンは余裕の笑みを見せる。
「では、そろそろ終わらせましょう。裏コード:トリノの聖骸布」
Erzengelのコックピットの後ろにあるディスクが高速回転を始める。そしてモルゲンの背中に座席から注射器が差し込まれた。薬液が注射されると体中の血管が浮き始める。
--EVA六号機エントリープラグ
第三小隊が3機とも健在で良かった。Erzengelは近中遠距離とも武器が揃い、攻めあぐねている今、マナは3機と合流して6機で対抗しようと考える。6機で囲めば隙もできるだろう。
しかし第三小隊が来る前に、Erzengelが動いた。両腕の装甲が弾け飛び中身を晒す。
「また使徒武器が増えるの?!」
両腕は包帯のようなものでグルグル巻きになっていた。その包帯が解けて垂れ下がる。
次の瞬間マナの視界で、ムサシのEVA七号機とケイタのEVA八号機の首が飛んだ。
「え?」
2機のEVAの首から大量の体液が噴き出す。切断したのは、マナがベルリンで対峙した使徒の武器と同じ伸び縮みする帯だ。その時の様子がフラッシュバックする。
『マナごめん!離脱する!』
『僕も!』
EVAは破壊されたが、ムサシとケイタはエントリープラグで脱出できたようだ。
「う……あ……」
だがマナの耳には届いていない。フラッシュバックで恐怖が蘇っていた。真っ赤な初号機の暴走も含めて。
『聞こえているのか!マナ!しっかりしろ!!』
『マナさん!』
「はっ!」
2人の檄でマナは正気に戻った。頭を振ってブラウンのショートカットを揺らし最後に両手で頬を挟むように叩き気合を入れる。
「よし!」
『あの帯の攻撃は直線で来るから動き回れば早々当たらない!止まるな!』
『正面じゃなくて、横から見れば避けられるかも!がんばれ!』
「ありがとうムサシ!ケイタ!」
『おう!』『うん!』
直後に通信が切れた。クレーター外に出たようだ。
チームメイトの助言を受け、再びErzengelに向き直った。2本の帯をシュルシュルと戻している。使徒ほど自在に伸縮はできないようだ。再度の攻撃を警戒し周りを走り始める。
第三小隊にも状況を伝え、合流と同時に仕掛けることにした。帯は2本なので4機で対峙すれば、2機は回避に専念、2機で攻撃ができる。そのタイミングに賭けたい。
Erzengelは何もしないで佇んでいる。何かを狙っているのか。
『マナ!』
「来たわねユキノ。さっき話した通りでお願い!」
『了解!』
4機のEVAで囲み移動しながら牽制射撃を行う。Erzengelは棒立ちだが、しっかりA.T.フィールドで防いでいる。
『腕が2本だから隙ができる……と思ったかしら?』
「え?」
突如、モルゲンから通話が入った。マナは一瞬あっけにとられる。
棒立ちだったErzengelの全身の装甲が弾け飛ぶ。腕以外も包帯が巻いているようになっており、まるでミイラみたいだ。その包帯が全身で解けていく。解けても中身がなかった。全身が包帯だけで構成されている。肩より上以外は解けた包帯になりブラブラとさせる。
その本数は8本。
『残念!8本ですわー!オーッホッホッホッhxhxhxhxhxhxhxhxhxhxhxhxhxhx』
クラゲのようにフラフラ浮き、帯をくねくねと動かす。その状態で高速で回転を始めた。
8本の帯が4機のEVAに襲い掛かる。
「あぶない!避けて!」
回転しながら次々と襲ってくる帯を全て避けるのは難しい。まずマユミのEVA十四号機が掴まった。帯に巻かれると同時に首を切断される。
『マユミ!』
『すみません!脱出します!』
エントリープラグで上空に脱出。さすがにエントリープラグまでは攻撃しないようだ。
Erzengelはさらに回転速度をあげ、8本の帯で攻撃する。周りの建物も薙ぎ払うように吹き飛ばす。
マナは、ベルリンで戦ったときの状況を再度思いだす。あの時は暴走初号機が帯の攻撃をものともせず鋭い刃を正面からあっさり掴み攻撃に転じていた。プログレッシブ・ナイフの刃はあっさり負けて切断されたのに。手に持っているナイフでは負けてしまう。
あの帯より硬くできれば……と考えているとふと思い浮かんだ。衛星軌道でやったこと。
「ユキノ!キミコ!両側から一瞬でいいから帯を掴んで!」
『なにか作戦があるのね!了解!』『こちらも了解です』
マナの考えは作戦と呼べるようなものではなく単なる思い付きで成功するかわからない。しかしこのままではジリ貧だ。そしてマナのポジティブな性格が後を押す。
タイミングを合わせ、2機のEVAが左右から何とか帯を掴んだ。Erzengelの回転が止まる。このままでは他の帯で攻撃されてしまうが、マナのEVA六号機がすかさず真っ直ぐ突進する。
当然こちらに向けて帯の攻撃が来る。改めて見ると帯の薄さで正面がらだと見えにくい。それでムサシとケイタはやられたのだろう。EVAはナイフを正面に構える。ナイフだけでは刃が切断されてしまうが、マナは拒絶するイメージを浮かべる。
「シンジ君のばかー-!」
マナは冗談でも軽い気持ちでもなくシンジが好きだった。
ただ最近はアスカと急接近していることを女のカンとして感じていた、まだ告白もしていないのに振られた気分だ。
その気持ちを込めて咄嗟に出てきた言葉は、奇しくも以前のムサシと同じものだった。
きっかけはどうあれ、言葉と共に赤い光る壁が生まれる。その赤い光はナイフをコーティングした。そのまま正面から突進し鋭い帯を切り裂く。
「でりゃああああああ!」
その勢いのまま突進して、帯の中に丸見えになっていた赤いコアを切断する。コアが割れ、Erzengelからエントリープラグが射出された。使徒ならこれで殲滅完了だが、割れたコアから光が漏れ始める。マナは強烈にイヤな予感がした。
「みんな!脱出して!」
予感が的中し、Erzengelが大爆発を起こす。間一髪で3人ともエントリープラグで脱出、EVAは爆発に巻き込まれた。
ティコ・クレーターの戦闘の結果、EVA6機喪失。Erzengel2機喪失。しかし人的被害はなかった。
--月軌道上 EVA初号機エントリープラグ
「(ぞくぞくっ)ひっ」
『どうしたの?シンジ』
「なんか悪寒が……」
--赫き月 中央制御室
「アリスタルコス・クレーター、ティコ・クレーターのErzengel四番機、五番機、六番機、七番機、全て自爆しました。NervのEVAも全滅です」
銀髪でストレートロングの少女サキエルはオペレータとして作業しており状況を報告する。
中央制御室には大型モニターが複数あり、月の各クレーターの状況が一目瞭然だ。Adamsチルドレンが何名かオペレータとして動いていた。
意識を持ってから直ぐにこのような高度な作業ができるのは、赤木ナオコ博士が作った脳へダイレクトに知識を書き込むの学習装置のお陰だ。
中央にある席にアダムが座り、そばにタブリスが控えている。
「……Erzengelに脱出装置なんてあったのか?」
「ああ、それは僕が付けてもらったんだ」
「タブリス、彼等は生き残ってもまともに生きられないぞ。裏コードで更に薬が投入されるからな。生きていても薬漬けになる」
「これまで一緒に居たんだ。死なれるのも気分が悪いのでね」
「もう君はカヲルではなくタブリスだと言ったろう?まあどうせサードインパクトで意味なくなるからどうでもいいが。そろそろAdamsチルドレンは儀式の準備に入ってくれ」
アダムが命令すると、オペレータ作業していた数人の少年少女が立ち上がり部屋を出る。
部屋にはアダムとタブリスだけ残った。
「彼らは気づいているかな。本命がアダムズ・クレーターだと」
「ミサト先生は、逆に怪しんでいると思うよ。アダムがアダムズ・クレーターに居るなんてまんま過ぎて。だから他の可能性を潰しているんじゃないかな」
「ははは、確かに出来過ぎだな。アダムズ・クレーターの命名は別に私がしたのではないが」
「アリスタルコスとティコが外れだと分かれば、こっちに来ると思うよ」
「ふむ。私達も準備しよう。丁重にお出迎えしないとな。オモテナシはタブリスに頼む」
「分ったよ。シンジ君にやっと会える」
「もう好きにしろ」
続く