--Nerv本部 中央発令所
「シンジ君のクローン?しかし外見は違うぞ?」
冬月はゲンドウの言葉で資料のグラオベ・アンカーの顔を思い浮かべる。確かシンジと違い金髪で碧眼だったはずだ。車椅子のゲンドウはバイザー越しに冬月を見て答える。
「デザインクローンらしい。シンジのDNAをベースに強化しているそうだ」
「しかし、なぜシンジ君のクローンを?」
「紅玉でリリスの情報を手にいれ、リリスベースでErzengelを作っているかもしれない」
「リリスベース?……まさか!」
「そうだ。キール議長の言っていた代わりとは、これのことだろう。シンジのクローンと、リリスベースのErzengelでサードインパクトを起こすつもりだ」
--アダムズ・クレーター EVA初号機エントリープラグ
Nervの部隊がアダムズ・クレーターに到着したとき、既に迎えが来ていた。
「あれは綾波の……」
クレーター内側の淵に巨大な扉があり、既に黒々とした内部を晒して開いていた。その扉の前に青色のErzengel弐番機が立っている。そのErzengelの手のひらに誰かが乗っていた。
シンジは、画像をズームして確かめる。
「あれは!!!」
手のひらに乗っていたのは、シンジが何よりも会いたかった銀髪の少年。笑顔で手を振っている。なにか口をぱくぱくしているが、こちらには聞こえない。鋭敏なEVAのマイクでも拾えていない。それもぞのはず、アダムス・クレーターは他の3つと違い空気がなかった。
少年は手をポンと叩き、何かに気が付いたようだ。背にあったヘルメットを被る。
『ああ、これを忘れていたよ』
まぎれもない渚カヲルの声だ。思わずシンジは通信を繋げる。
「カヲル君!!生きてたんだね!!」
『やあ、シンジ君。ああ、僕の名前はタブリスっていうんだ』
「でもカヲル君だよね!」
『……そうだよ。シンジ君』
「よかった!」
喜色満面なシンジの声に思わず認めてしまったタブリス。すかさず別の声が割り込む。
『こらこらこら、タブリス。君は本当に……おっほん、遠い地球からようこそNervの諸君』
割り込んで来た声は、思わずといった感じだった。途中から老人の声で挨拶をする。
『そして久しぶり碇ユイ君』
『ええ、お久しぶりです。キール議長』
シンジはEVA初号機の足元に立っている自分の母親に視線を移す。2人の会話は和やかな声のトーンとは裏腹に緊張感を感じる。特にユイは静かに怒っているときの声色だ。シンジに向けたものはないが思わず背筋を伸ばす。
『本来であれば、君はSeeleの一席だったはずなんだがね。何故かねユイ君』
『あらキール議長。私は、そんなこそこそ裏で動くのは趣味ではないと申しましたわ』
『ほう、大戦中は特務機関として暗躍し戦後も裏で日本を操る碇家の次期当主とは思えない言葉だな。まあいい。貴女のレポートがなかったら、葛城ヒデアキ博士の人類補完計画発案もなかったんだ。感謝するよ。碇ユイ君』
『私もゲンドウ君に会わせて貰った点は感謝していますわ。ところでいつまで、この茶番を続けますの?キール議長。いえ、アダム』
一拍置いて、笑い始めるキール。今度は枯れた老人の声ではなく少年の声で答える。
『あははは!そうだね!いつまでも玄関で立ち話もなんだし、こちらに来てもらおう。タブリスよろしく』
『了解アダム。ミサト先生』
『は、はい!?』
突然タブリスに呼ばれたミサトは、ビクっとしてしまった。キール改めアダムとユイで、さらっと重要な情報が話されていたような。気を取り直してタブリスに応答する。
『今は先生ではないわ。何?』
『はい、ここの入り口の奥にエレベータがありますが、それほど大きくないのでEVA全部は乗れません。3機に絞って貰えますか?』
今アダムス・クレーターに居るのは、アスカ率いる第一小隊とソウスケ率いる第四小隊だ。
『長良君!この場に留まって退路の確保をお願い』
『了解です。葛城少佐』
『ちょちょちょ、待ってミサト!』
長良ソウスケが即答すると、アスカが慌てた様子で通信に割り込んで来た。
『大丈夫なの?敵の罠じゃないの!?』
「大丈夫だよアスカ、カヲル君と綾波も居るんだし」
『アヤちゃんはいい子だよ~』
お気楽な碇兄妹が割り込む。
『アンタらは黙ってなさい!シンジも見たでしょ!アイツ真空でも平気だったわ。人間じゃない』
それはシンジも分かっている。しかし既に空中に浮きながらA.T.フィールドを発生させるところまで見ている。今更だった。それよりも生きていたことの方が嬉しい。
『大丈夫……ではないかもしれないけど、例え罠でも行くしか選択肢はないわ。そのためにここまで来たんだから』
覚悟を決めているようなミサトの声に嘆息する。
『ああ、もう分かったわよ。こっちも覚悟を決めるわ。これが最後の戦いね』
アスカのEVA弐号機が持ってきたEVAサイズの薙刀ソニックグレイブの柄を握りしめる。
--アダムズ・クレーター 大型エレベーター
エレベータは箱型ではなく斜行式のエレベータだった。開放された台座でトンネル内の傾斜面勾配を降りていく。
台座は広いがEVAとErzengelで一杯だった。Nerv探索隊は跪いたEVAの足元に集まっている。作戦部隊員は不安な様子で周囲を警戒していた。
日向が接触通信のためミサトの肩に手を置く。
「葛城さん。気が付いていますか?」
「ええ、このエレベータに重力が発生しているわね」
「はい。他のクレーターでもそうだったんですが、人類の技術ではないですよね。重力制御なんて……」
エレベータに乗った途端、地球の1/6の月の重力から地球と同等の1Gになった。トンネルのランプがものすごい勢いで通過しているのをみると相当なスピードが出ているようだが、重力制御のお陰で乗っている人間は安定している。空気もないので吹き飛ばされることもない。
「恐らくEVAなどと同じ技術ね」
「第一始祖民族ですか……」
技術部が全力で解析しているが、未だ原理の分からないものが多数ある。使い方によってはどうなるか分からない技術も多い。しかし使徒に対応するためには使えるものは手探りでも使っていくしかない。その第一始祖民族の技術を使いこなしているようなSeeleいやアダムは一体何者なのか。
「随分深くまで降りますね」
「ええ……」
かなりの速度が出ているが、未だ目的地にはついていない。月の中心部まで行くのか。
その時、単調だったトンネルの壁に何かが居た。
「!?」
一瞬だったため、何かは分からなかったが一つだけでなく、両側に等間隔で居るようだ。
それは巨人の影。恐らくEVAサイズだ。格納庫のようなところに立っていた。
「なんか邪な感じしません?」
「さながら偶像の神殿ってところね」
「あれですかね、追加で建造していたEVA」
「上海経由の情報だっけ?それにしてもなんのために」
「我々の撃退のためでしょうか」
「今更そんなことはしないと思うけど。パイロットも居ないはずだし……」
そんな会話を接触回線で続けていると、台座が速度を落し始めた。終点が近いらしい。