--赤木ナオコの研究室
ミサトは葛城ヒデアキの声をしたモノと会話をしていた。家族の誕生日、初めての旅行、海水浴に行ったときのこと。父親を名乗るモノは、淀みなく葛城ヒデアキの声で答える。
しかしどうしても信じられない。父親はあのとき南極でセカンドインパクトに巻き込まれ死んだはずだ。幼いミサトをカプセルに乗せた直後に。マイクを持つミサトの手が震えた。
ミサトの会話が止まるとナオコがガラスの向こうの機械を振り替えりながら説明する。
「葛城博士は死んではいないわ。セカンドインパクトのアンチA.T.フィールドでL.C.Lに戻っただけ。それをこの第8世代コンピュータの試作機で魂を繋げているの」
「ちょっと待って母さん!第8世代!?いや魂って……」
「さすがりっちゃんは分かるわね。そう第7世代有機コンピュータMAGIよりも先進的なシステムよ。MAGIは人間の脳を有機物で再現しているんだけど、まだまだ脳自体に解明していないところが多いわ。量子脳理論って知っているかしら?脳が量子コンピュータかもしれないと言われているけど、私はさらにもっと別の機能があるように思っているの。それが未知のエネルギーの制御」
「未知のエネルギー?」
「ええ、葛城博士の提唱したS2理論。それは魂からエネルギーを取り出すEVAやErzengel、使徒の力の源。でもそのエネルギー自体は未知のもの。そしてエネルギーを制御しているのは、脳に当たる部分。そしてその機能はヒトの脳にもあるの。この仕組みが解明できれば人工知能の領域を超え、いずれヒトも超えるわ!」
どこか陶酔した感じで説明するナオコ。リツコはあくまでも冷静だ。そんななかミサトがマイクを握りなおす。
「……これが最後の質問です。十字架についてどう思いますか?」
『十字架かい?特に思い入れはないなぁ。無宗教なのはミサトも知っているだろ?』
葛城ヒデアキの声でそう答える。そしてミサトは確信した。プラグスーツの中にある十字架のペンダントを押さえる。父親はどんな思いでこれをミサトに渡したのか。
「そう分かったわ」
思えば、調べれば分かるようなことばかりだ。旅行の件も確かWebに日記を付けていたはず。やはり作られた記憶だろう。父さんではない。あの時南極でミサトを助けた父はもう居ない。魂が繋がっているというのであれば開放が必要だ。
ミサトは無言で右手を上げると、作戦部隊員が小銃を構える。
「え?な、なにをしているの?ミサトちゃんやめて!」
隊員は銃口をガラス窓の向こうの大きな脳のような機械に向けていた。ナオコが焦った声を上げる。
「待ってミサト」
「あ、さすがりっちゃん!りっちゃんは、この崇高なシステムの意味が分かるのね!」
ナオコは縋るように、リツコの元に駆け寄り抱きしめる。リツコも背中に腕を回す。
「ねえ母さん」
「ん?なにりっちゃん?」
「なんでNervを出たの?」
ナオコの体がびくっとした。
「な、なんで?」
「ユイさんが居たからでしょ?」
焦るナオコに対してリツコはどこまでも冷徹な声だ。ナオコはリツコを手で押しのけ咄嗟に離れる。
「だ、だってしょうがないじゃない!ユイさんが居る限り、ゲンドウさんはこちらを見ないもの!私は自分を見てほしかったのに!あの女さえ居なければ!!」
「碇総司令はユイさんしか見ていないわ。ミサトもういいわよ」
リツコの言葉でミサトは手を振り下ろす。作戦部隊員の小銃から発砲された。
部屋のガラス窓が割れ、脳のような機械が穴だらけになりガラスケースのL.C.Lが零れる。
「ああ、葛城博士!!」
ナオコが焦燥とした感じで隣の部屋に飛び込みぶちまけられたL.C.Lを手で掬おうとする。
「母さんは『女』の部分が強かったのね。『科学者』だったら、Nervを離れることはなかったし、『母』だったら、私から離れていかなかったのに……」
ミサトの指示で作戦部隊員が行動を始める。ナオコはぐったりとして抵抗しない。
「ナオコ博士を拘束して、怪我はさせないようにね」
そのとき、大きな音と共に地響きが起きた。
--赫き月 EVA零号機エントリープラグ
「お兄ちゃん!あぶない!」
あの光る紐がなにかを知っている碇レイは、咄嗟にEVA初号機の前に零号機を割り込ませた。
なんとか光る紐を押さえるが零号機の手を浸食し始める。強烈な痛みに耐えながらErzengelとの通信を繋ぐ。通信ウィンドウは苦悶の表情の綾波レイを映し出した。
「アヤちゃんだめ!」
『碇妹……だめ離れて、これは私の心……碇君と一緒になりたい気持ちが、暴走させられている。A.T.フィールド反転して抑え込むわ』
綾波レイの乗るErzengel弐番機のA.T.フィールドが全力で展開され、光る紐が抑えられる。
「機体を捨てて逃げて!」
『だめ、私がいなくなったらA.T.フィールドが消えてしまう。だから、だめ……』
通信ウィンドウ越しに綾波レイがシートをなにか操作しようとしている。EVAと同じレイアウトならば、そこには自爆用のレバーがあるはずだ。
「アヤちゃん!自爆する気!?」
綾波レイは自爆のための操作を続けようとするが、碇レイは光る紐を零号機の胸部装甲に押し付けた。浸食が一気に進む。以前のように綾波レイと碇レイが『繋がる』。
繋がった意識の中で、綾波レイと碇レイが対峙した。
『なにを……』
「だめアヤちゃん、そんなことをしたらお兄ちゃんが悲しむ」
『でもこのままでは……』
「他に方法がないなら、私と一つにならない?」
『え?』
「前に繋がったとき分かったの。私達は同じだよ。同じ魂から分けられているだけ」
『……』
「だから一緒になろ?お兄ちゃんと家族になれるよっ、やったね!」
『家族に……でもあなたはいいの?』
「うんアヤちゃんが一緒なら」
『分かったわ……』
そのときErzengel弐番機とEVA零号機が弾けた。特殊装甲を残してオレンジ色の液体と化す。そして零号機のエントリープラグのみが射出される。
--赫き月への通路
グラオベ・アンカーの操る銀色のErzengelが、翼を広げ猛スピードで飛び赫き月へ向かっていく。
通過するとき通路の途中にあった巨像が次々に動き出した。
それは顔のないEVAだった。
赤い大きな唇だけが目立つ頭。目や鼻はない。全身はEVAに似ているが、肌が白くどこか爬虫類を連想させる。それが銀色のErzengelが通過するとのっそりと踏み出し翼を広げる。
その数14体。
--EVA初号機エントリープラグ
「レイ!!」
『シンジ!?』
「アスカ!ここをお願い!!」
シンジは、射出されたEVA零号機のエントリープラグを追った。ここは重力があり、エントリープラグが落下したら無事では済まない。研究都市のような赫き月の街並みを全力で走る。
先ほど起こったことが理解できない。綾波のErzengelから光る紐が伸びたと思ったら、レイの零号機がそれを防いで、その後2機とも装甲を残し消えた。綾波がどうなったか分からないが、射出されたレイのエントリープラグは、ほっては置けない。
エントリープラグのブースターの燃料が切れたのか、落下を始めた。パラシュートも開かない。
「間に合え!!」
周囲の建物をなぎ倒しながら、ダイビングキャッチする。
「あ、あぶなかった……」
なんとか間に合ったようだ。エントリープラグをそっと地面に置く。L.C.Lが吐き出され、周囲を濡らす。
レイとの通信が繋がらない。中の様子が心配だ。シンジはEVAを座らせ、エントリープラグから降りる。
レイのエントリープラグまで走っていき、緊急用のレバーを操作した。
「あちちちち」
ブースターの影響かレバーがとても熱くなっていたが構わず回す。エントリープラグの扉が開くとぐったりとしていたレイが居た。
「レイ!大丈夫!?」
すぐさま駆け寄って意識を確かめる。レイはゆっくりと瞼を開いた。
「……兄さん」
「よかった。無事みたいだね……兄さん?」
シンジの妹碇レイは、『お兄ちゃん』と呼ぶ。表情もいつものレイらしくない。
「レイ……だよね?」
「ええ、レイよ。でも碇レイでも綾波レイでもないわ」
「え?」
「だって私は3人目だから」