--イギリス ロンドン
ロンドンの少し開けた場所、深夜も大分過ぎて、いつもだったら誰もいないはずだが、今日に限っては、仲間同士、家族連れなど多くの人が起きていた。
集まっている人々の目的は、久々の天体ショーである皆既月食。望遠鏡を持ち出したり、カメラやスマホで写真を取ったりしている。
皆既月食が起きると月は真っ暗にはならず、赤黒くなる。 太陽光の赤い光は波長が長くて散乱されにくく、地球の大気を通過できる。 この光が大気で屈折して地球の影に入り込むため月が赤く照らされるという。
そんな天体ショーを楽しんでる、ある一人が声を上げる。
「あれ?」
彼は望遠鏡で月の表面を眺めていた。しかし違和感を抱く。傍にいた友人が声を掛ける。
「どうした?」
「いや、なんか赤い点が……」
皆既月食中の月は赤黒く見えており、赤くても問題ない。ただ、一点明らかに赤い点が見えていた。彼は何度見ても赤い点が観測できていて、望遠鏡の故障かな?とさえ思った。
しかし周囲も徐々にざわざわとしてきた。同じように赤い点を確認している。
どうやら他の人にも見えているようだ。彼は望遠鏡にデジタルカメラを接続して撮影し、PCに繋げ拡大しようと試みた。
「あれ?写ってない?」
--EVA初号機エントリープラグ
(兄さんごめんなさい。イヴを覚醒させてしまったわ。でもリリスの協力があれば阻止できるかもしれない。兄さんにすべてを託すわ)
うん、良く分からないけど分かったよ。レイの頼みじゃしょうがないね。
(後は、お前とお前の仲間達に託す。やれるな?)
そうだね、父さん。みんなのために頑張ってみるね。
(シンジ、母さんと約束しましょう。この先なにが起こっても世界中の人達の幸せをあなたが守るのよ)
母さん、このことだったのかな。良く分からないけどやってみる。
(でも……僕はもう一度会いたいと思った。その時の気持ちは本当だと思うから)
EVAの中の『シンジ』くんも、そう思ったんだね。僕と同じだ。よかった。
(行くわよ!月へ!)
うん今度は地球だね。アスカ。今から会いに行くよ。
さあリリスさん。行こうか。力を貸してね。
--1日後
夜明けを待たすに世界中が大騒ぎになった。
月に見えた赤い点は、その大きさを増していた。しかもまるで人の形に見える。大勢の天体研究家が分析をしているが、何も分からない。なにせ肉眼では見えるが電子的にもフィルムカメラにも写らない。巨大な望遠鏡や電波望遠鏡でも認識できない。首を傾げるばかりだ。
地球統合政府からもなに情報を出せていない。分析中としか発表されていない。
そんな中、別の現象が発生した。
月と反対側。月と地球と同じ距離くらいに、白い点が見えた。これも肉眼でしか見えない。
--2日後
月からの赤い点、反対側からの白い点。それは徐々に大きさを増していた。今でははっきりと見えている。赤い点は、少女の形、白い点は、少年の形。
ネット上では、赤い少女を少女Z、白い少年を少年Xと呼ぶようになった。
少女Zは手を広げて、少年Xは手を組んで祈るようなポーズだった。
不思議な現象で、宗教家は神の力だと喧伝し、少女と少年の役割を競って妄想している。
人類の終末を嘆く人もいれば、神の救済が始まったという人もいる。
しかし段々と巨大になってくると、恐怖が勝って来た。確実にこちらに迫っている。
--3日後
赤い少女Zと白い少年Xは、表情が分かるくらいに大きくなっていた。
少女Zは、長い髪を靡かせながら、手を広げ地球を掴み掛かるように見える。その表情は、笑顔というより、嘲笑うかのようだ。対して少年Xは、瞼を閉じたまま祈るような表情を変えていない。
ここに来て評価が固まって来た。少女Zは、人類に対してなにか攻撃的であり、少年Xは味方なのではないか?というものだ。もちろん妄想の範疇を超えるものではない。
--4日後
パニックが加速している。
少女Zと少年Xが全天を覆うほど迫ってきていた。昼は全天で少女Z、夜は少年X、またはその逆のように、一日中どちらかが見えるようになった。
特に少女Zの手はまるで地球を左右から握り潰そうとするように見える。
世界の終わりを嘆き、自殺する人まで現れた。そうでなくても恐怖を感じ山奥や地下シェルターに逃げ込む人も増大している。パニックに乗じて盗みや強盗をする人間まで増えた。
地球統合政府は、全世界で戒厳令をしき、航空機の飛行禁止令や公共機関の停止などパニックを押さえようとしたが、全く収まらない。
それはそうだろう見上げれば恐怖しか感じない。
人々は、恐怖で縮こまるか現実逃避をするか、祈るしかない。
--5日後
空が真っ赤だった。
少女Zの手のひらが、地球を覆う様に見えている。このまま握り潰されるのか。
そしてついに地表に真っ赤な手が降りてきた。
少年Xは間に合わなかったのだ。
--少女Z
全人類が少女Zに飲み込まれた。地下数千メートルに隠れた人も衛星高度に逃げた要人も。等しく全ての人類が、だ。
人々は自分が無くなるのを感じた。人の形が保てなく、全てに溶け込んでいく。恐怖を感じる暇もない。
群体生物が単体生物へ。人の意思を無視したまま。
しかし誰も観測できないが、地表を覆う赤が、白に包まれる。
--少年X
「会いたい人は居ますか?」
消えかける全人類に語り掛ける少年がいた。老若男女。全ての人に。
彼は少年という以外は顔も体も人種も言語も分からなかった。ただ声色でやさしさだけが伝わって来た。
「父さん、母さん、兄さん、姉さん、弟さん、妹さん、お子さん、おじいちゃん、おばあちゃん、友達、先生、お世話になったひと。会いたい人は居ますか?」
少年は手を差しのべて、こう言った。
「自らの心で自分自身をイメージできれば、誰もがヒトの形に戻れるよ。自信がない?大丈夫、全ての生命には、復元しようとする力があるんだ。生きてこうとする心があるんだ。さあ会いたい人を思い浮かべて」
少年の手から、なにかを受け取った。
「これは僕からのプレゼント。『生命の種』っていうらしいよ。きっと立ち上がる力になってくれるはず。生きていこうとさえ思えば、幸せになるチャンスは必ずあるよ」
少年は笑顔でこう言った。
「会いたい人を強く思い浮かべて。さあ帰ろう。皆のところへ」
--地球
地球より巨大な赤い少女と白い少年は、手から崩れだした。粉々になり消えていく。
少女も少年も消えた。
後に残ったのは、青い地球。
--EVA初号機エントリープラグ
「レイ、これで良かったんだよね」
(ええ、兄さん)
コックピットのディスプレイには、青い地球が映っている。南極の海も青くなっていた。
「『生命の種』だっけ?あれでよかったのかな?」
(あれはお母さんが、EVA初号機に仕込んだみたい。まだ種だから、ちょっと体が丈夫になるくらいだけど、いつか種が育ったら全人類はもっと遠くにいけるって。これがお母さんが計画した真・人類補完計画、そしてサードインパクト・リバースだそうよ)
「全人類かぁ。でも帰るのを拒んだ人も居たんだ。会いたい人は居ないって」
(……それは兄さんのせいではないわ)
「うん、でもできれば助けられたらよかったな……あ、そっちはどんな感じ?」
(まだ私が目を覚ましていないので分からないわ。さあそろそろ帰らなくちゃ)
「そうだね……どうやって?」
宇宙空間に漂うEVA初号機。ディスプレイに映る地球は結構小さい。
(エントリープラグの機能にあったはずよ)
「ああ、脱出したときに動作するやつだっけ」
月で戦闘するときに、どうしても回収できない場合、自動で地球に帰還する機能があったはずだ。結構時間が掛かるからパイロットもスリープ装置で眠ることになる。
「……動くかな?」
(リツコさんだから大丈夫。……きっと、……多分)
「あはは。じゃあ帰るね」
(ええ、待ってる)
レイの思考が切れた。シンジはコックピットで帰還の準備をする。
「あ、リリスさんはどうするの?」
(……なんで居ることがわかった?)
「さっきまで一緒だったからね。で、どうするの?一緒に地球に行く?」
(いえ、私、私達は旅に出る。また何年も何億年もかけて新しい星を見つける)
「いいの?」
(ええ、あの星は貴方達リリンのものよ。アダムも消えたようだし)
「そっか」
(さあ、リリン達の元に戻りなさい)
「うん、分かった」
(この体、EVANGELIONはリリンの作ったものだから、リリンの生きた証は残るわ。永遠に)
「ありがとう。母さんが聞いたら、きっと喜ぶよ。じゃあ元気でね」
(リリンもね。さようなら私達の子供達)
シンジがトリガーを引くと、エントリープラグが射出される。ブースターが点火し加速し始めた。外部カメラでEVAを映す。
手を横に伸ばし十字架のような姿のEVA初号機が見えた。
スリープモードが開始されL.C.Lに薬が撒かれたのか、急激に眠くなってくる。
「さようならEVANGELION」
その言葉を最後に眠りにつく。
--EVA初号機エントリープラグ
シンジはアラーム音で目覚めた。L.C.Lは既に抜かれ、空気がプラグ内を満たしている。起き上がろうとすると体が重い。重力があるようだ。地球に着けたのか。
通信は繋がらないようなので、プラグを出る準備をする。簡易な水、食糧、救急キットなどが入っている救命ユニットを操縦席の後ろから取り出して背負う。
「よいしょっと」
手動で扉を開け外にでる。開いたパラシュートが横たわっており軟着陸できたようだ。
周囲は一面霧でなにも見えない。場所がどこかも分からない。途方に暮れていると周りが少しだけ霧が晴れた。
地面に水が張って、鏡のように青空を写している。まるで空に浮かんでいるようだ。
シンジは、この世でないような光景に、もしかして死んじゃった?実は人類は全滅した?と思い始めた。
呆然とするシンジ。
そのとき
「……っジ!!シンジ!!」
ヘリの爆音と共に一気に霧が晴れた。
眼前に広がる赤みがかったロングの金髪。
「アスカ!!」
ヘリから飛び出してきたアスカに抱きしめられる。
2人抱きしめ合ったまま、しばらく相手の体温を感じていた。
「ただいまアスカ」
「おかえりバカシンジ」
終わり