突然だが、私、冴羽 光香には前世の記憶がある。今の現代に似た世界だ。向こうの方が、科学は進んでいたけれども……。
私は前世で、VRRPGゲーム、アステラの魔法使い。そのゲームがとても大好きだった。16歳になった時、何度もやったゲームのオープニングを真似した。
前世のゲームをパクって漫画にしようとしていたのだから、そらもう必死だった。
高校生になってバイトして得たお金と時間を素材にコスプレとケーキ、同人誌を錬成し、商業化を願ってコスプレしつつ前世のゲームの神様にお供えしたのだ。
デカデカと書いた魔法陣が光ると、魔法陣と制作時間3時間のケーキと同人誌は消滅して、いちごの鍵とクローバーの鍵束がコロンと転がった。二度見、三度見する。魔法陣とケーキと本が消えて知らない鍵が出たらそりゃそうなる。
「は? え? 魔の神様がいらっしゃる?」
恐る恐る、震えながら鍵を持ち上げる。
【初めて神様に貢物をした事により浮遊大陸が解放されました】
【帝都に浮遊大陸へのゲートが開かれました】
【帝都にアステラへのゲートが開かれました】
【同人誌を捧げて浮遊島の鍵を入手しました】
【ケーキを捧げていちごの鍵を入手しました】
【服が強化されました。認識阻害の効果が付与されました】
【魔力操作のスキルが使用可能になりました】
【鑑定眼のスキルが使用可能になりました】
【いちごの鍵に持ち主登録されました】
【浮遊島の鍵に持ち主登録されました】
【天使の鍵が目覚めました】
【天使の鍵に再登録されました】
「て、天使の鍵?」
手の中に、見覚えのある鍵が落ちてきて、受け取るも恐怖に落とした。
間違いない、ゲーム中に使っていた鍵だ。
恐る恐る、持ち上げる。天使の意匠の、可愛らしい鍵。
え、ええっとぉ。震える手でいちごの鍵をまず握った。
力が入らなかったので、もう片方の手でしっかりと握らせてから、空中に刺して回す。体温が鍵へ移動していくのを感じる。
苺の意匠のドアが浮き出てきて、私はそこに入った。
「お、お邪魔しまーす……」
広い玄関から入り、中へ。ホイップクリームみたいなクッションと、ホールケーキみたいな丸テーブル兼収納箱。中央には錬金窯。
扉が五つあり、お風呂トイレ、台所、書斎、寝室、倉庫となっていた。
玄関には2階の階段もあり、そこを登ると、一階と同じような部屋割りで、七部屋の空室があった。丸い部屋を囲む六つの部屋である。
書斎の本のあるべき場所は全て空。
収納箱を開いてみる。初期装備とか魔法の教科書、錬金ノートが入っていた。
「……チュートリアルの内容か。差異はないみたいね」
ついで、天使の鍵。
ギュンギュンと手のひらから熱が吸われていく。
【実体化には魔力が足りません】
そっと鍵から手を離す。
そして、最後に、浮遊島の鍵を握った。
【実体化には魔力が足りません】
拍子抜けである。だが、安心した。
この二つには毎日少しずつ魔力を注いでいくとしよう。
その日の夕方には、浮遊大陸が大和の国の近くに浮かんでいるとか、ゲートが二つも現れたとか大騒ぎになっていた。
私はそっと同人誌を差し替え、バイトをしてお金を貯めることとした。
イベント後、私はヨモギを買っていた。
鍵を使った台所で、レッツクッキングである。
用意したるはみんな大好きヨモギ。
刻んで魔力と水と包帯と混ぜて煮込みます。
緑の包帯の出来上がりー!
効能・血止めと痛み止め。殺菌。よしよし。
現代の材料でもイケるではないか。
早速錬金ノートにメモして、神様に捧げよう。
この調子で魔法の箒も作っちゃおう〜。
時止めのカバンも作らないと!
ゲームの知識も活かしつつ、頑張ろう。
9月。
浮遊島の実体化に成功した頃、私は夢を見た。
同い年くらいのイケメンの少年二人が、屋上から放り投げられる夢だ。
神託だとすぐに分かった。
助けてあげて欲しいらしい。
私は魔法の箒で神託のあったビルにスタンバイした。
争いごとの気配がして、少年二人が落とされる。
今だ。
私は、認識阻害のコスプレ装備で、魔法の箒で飛び出して少年二人をキャッチした。
「しっかり捕まって」
「わっ」
「魔女さん?」
そして、私は少年二人を人気のない廃墟ビルまで運ぶことに成功した。
「危なかったわね」
「助かったよ。ありがとう」
「ごめん。静流。巻き込んだ。あんたも、ありがとう」
「事情を聞いても?」
「俺、レックス・ハンターって言って、命を狙われてるんだ。18歳になったら、遺産相続の権利がもらえるから、後見人はそれまでに俺を殺して遺産を奪いたいんだ」
「18歳になれば、問題はないのね?」
「うん」
「じゃあ、それまで二人とも匿ってあげる。その遺産とやらで、依頼料はもらうからね?」
「良いのか?」
「後二年でしょ。なんとかなるわ。その代わり、こっちの指示には従ってもらう。そうだ、大事な質問があるわ。貴方達、宗教を鞍替えする覚悟はある?」
「私は問題ないよ。レックスは?」
「俺、日本育ちだし、宗教にこだわりはないよ。大丈夫」
「なら、貴方達を助けろって啓示をした神様を信じて、お礼の捧げ物の一つでもしなさいな」
私は鍵を開けて、二人を招いた。
朝食と昼食を用意して、私は部屋に二人を置いて行って学校に向かった。
帰りにバイトをして、ケーキの材料を買って、レッツクッキングである。
「遅かったね」
「ごめんね。私も学校とバイトがあるから。じゃあ、早速神様に捧げるケーキを焼きましょうか」
「ケーキ、俺大好き」
それから、夜遅くまで掛かってケーキを焼く。
神様に捧げて鍵を手に入れると、二人は喜んだ。
「これで俺、魔法使えんの?」
「ええ、練習が必要だけどね。土曜日になったら修行の場に案内するから、それまでは簡単な錬金術を試しているといいわ。私の錬金ノートを見てもいいから。勉強もね」
「思ったんだけど、これで学校に行けないかな。行きと帰りは部屋に逃げれば」
「それも土曜日まで待って」
そして、土曜日。
私は、浮遊島の鍵を二人に渡して、一緒に島を見てまわっていた。
「危険な動物もいるから、いつでも逃げ帰れるようにしておくこと。魔物の捌き方や戦闘は土曜、錬金術は日曜日の午前に教えるから。今日はそうね。食べられる果物を教えていきましょうか」
「ここって浮遊大陸!?」
「いいえ、ここは浮遊島よ。私の私有地みたいなもの」
「すげー」
すごいすごいと感嘆する二人を案内する。
食事はこれでだいぶ節約できそう。ただ、二人の生活費を肩代わりしないといけないのは変わらない。頑張ってバイトしないと。
それから、私は頑張って二人を育てた。
神様から選ばれただけあって、覚えがとても良い。魔力量もある。
教えれば教えるだけ食らいついてくる二人に、そして神様への祈りと捧げ物を忘れない二人に、私は好感を持っていた。
レックスが18歳になって遺産を得たら、3人で起業しようという話になるくらいには打ち解けていた。
8月は私はバイト三昧だったが、二人は浮遊島で有意義に過ごしたようだった。
錬金術師3人分の必要な物は割と多いので、バイト三昧は仕方ない。
夏休みが終わると。
神妙な顔で、レックスと静流が相談に来た。
「光香師匠。浮遊島で遊んでたのが軍にバレました」
「学校に軍人が来て……結界の外から浮遊島を伺っていたらしくて」
「国には浮遊大陸もアステラもあるじゃない」
「魔女様の私有地だからって言ったんだけど、なら魔女様を紹介して欲しいって」
「光香師匠の事も調べてる事を匂わせてきたから、すぐに断る事もできなくて」
「それで、貴方達の現状は相談したの?」
「え?」
「ギブアンドテイクって奴よ。せめてそれくらいはしてもらいましょう」
そして、レックスは後見人と「和解」できたのだった。
元々、レックスはそれほどお金に執着しているわけではない。
私たちは将来、アステラで商売を行おうと考えているが、それにお金はそれほど必要ないのだ。
多額……と行っても、レックスの遺産を考えると少額だが……和解金を支払う代わり、遺産を譲る事で話はついた。その代わり、私は大和の護衛軍とお話しすることとなったのだが。
「光香さん、お会いできて光栄です。護衛軍の遠田 貴一です」
「光香です」
「アステラ以外にも魔女が居た事が驚きですが、失礼ですが魔術はどこで学ばれましたか?」
「神託と独学ですね」
「神託……そんなものが。どのような魔法が使えますか? それは伝授可能ですか?」
「私も修行中の身なので……ですが、最初はゲート付近での露店から始めて、将来はアステラのトリス魔道王国の首都で学院向けに魔具品店を開きたいと考えています。できる事もその辺りですね」
「なるほど、トリス魔道王国ですか。向こうで唯一魔法を学校形式で習得させている所ですね。ただ、通えるのは同国人に限るという話でしたが」
「そのようですね」
「我が国でも魔法学校を作りたいと考えているのですが、協力してくださいませんか?」
「協力、というと?」
「教師をして欲しいのです。魔力値を測る石などは準備できてます」
私はそれに驚いた。結構な貴重品だからだ。
「教師は? 魔法の教師が最重要ですよ」
「4人ほど快いお返事をいただいています」
なるほど、4人も教師がいるのか。じゃあ期待出来るかな。
何か学べる事もあるかもしれない。
「そう、ですか。浮遊大陸の資源は使えますか?」
「もちろんです。学校は浮遊大陸にあった建物を利用するつもりです」
「給与体系ですけど」
「もちろん、ご相談に乗らせていただきますよ」
「私、高卒ですけど先生できますか?」
「専門学校ですから問題ありません」
こうして私は、就職先を決めたのだった。
が。
「ええっ 先生って静流とレックスとこのお婆さんと幼女なの?」
「私、ティアラです。師匠が亡くなってしまって、まだ半人前で……よろしくお願いします」
「サラだよ。儀式をできる人がいると聞いてね。私が儀式をしたのは小さい頃だからねぇ」
「結局私頼りってこと???」
「みたいだな。がんばれ、光香師匠」
「予想はついたろう?」
「はぁー⁉︎」
そんなこんなで、最後の夏休み。
潤沢な資金を持たされ、魔法学校の準備をすることになってしまったのだった。
生徒はなんと100人。20人ごとに分けるという。
でも実質的な教師は私一人なんだよなぁ。サラおばあちゃんも伝統的な幾つかの魔法しかできないって話だったし。三年もいらん。一年で終わる。なんなら一ヶ月でいい。
その割にいろんな道具はコーティングが必要だし、素材は必要だし、先生にも授業が必要だしで忙しい。
夏休み期間、先生方を総動員して頑張った。
魔法の儀式の紙も頑張って描いた。なぜかプリントアウトできなかったので。
それぞれに課題も与えて頑張ってもらう。
4月になって、150人の生徒が入ってきた。
1.5倍になってるんですが、それは?
30人ずつ、5日に分けてケーキ作りをさせたが、もう大変だった。
ケーキはもう食べたくない。
無事全員が魔力操作スキルを得たので、まず魔力操作を教える。
鑑定眼が得られなかった? 真剣に祈らなかった自分を恨め。
一番簡単なのは、鍵だ。鍵は魔力を吸ってくれる。これで魔力を覚えてもらう。
次に、簡単なライトの魔法を覚えてもらう。
そして、最後に錬金術だ。
皆大好き、薬草を刻んで水と魔力を注いで煮ると一番簡単なポーションが出来る。
ここまでは全ての先生が出来る。なんなら神様がくれる本にも書いてある。
そして習うべき本質はここで終了である。
あとは本来、それぞれが試行錯誤するのだ。はい解散。
1週間で基礎を覚えてもらい、後は素材を使って好きに応用しなさいとした。
素材は申請すれば学校が買ってくれる。ただし、レシピと成果物は提出である。
結構悪辣だとは思うのだが、そういう学校なので仕方ない。
ただし、ちゃんとその都度報酬は出る。
一ヶ月に一回、それなりの成果物を提出するか学校の依頼をこなさなければ留年とした。
普通の授業もあるので、うっかり課題を忘れてこなさなければ簡単に留年する。
非難轟々である。
何をしていいかわからない?
公開されてるレシピ、全部作れるのかな? そう。まずはそこから。
新作レシピは図書室に保存されるから定期的に行ってね。
当然、私も幾つかのレシピを提出している。ヨモギの包帯とか。
もちろん、全部ではないけどね。
「5月。春だ。お前ら、いい天気だから空飛びたくねー?」
「飛びたいでーす」
「よーし、光香先生に魔法の箒の作り方聞きに行くぞー」
ということで、レックスが材料を持って教室に授業中に来た。自由だ。
「錬金の腕は?」
「全員、一定以上の品質で作れるようになった」
「じゃあいいか。レックス先生のいないとこで練習しちゃダメよ? あと慎重にね」
私は注意点をいいながら箒を作っていった。
魔具品店の目玉にするつもりだったので、品質には自信がある。
完成した箒をレックスに渡し、レックスは一番できるっぽい生徒に渡した。
「じゃあ、皆、今月は箒月間だ。校庭を全員が一周できるのが目標なー」
そうしてレックスは去っていった。うまくやっているようだ。
「せんせー。俺らも箒っ」
「魔法の箒は危険物なので、材料を貰うには先生の許可が入ります。で、クラスのレベルが一定にならないと先生の許可は貰えません。このクラスはまだね」
「ええーっ」
「誰だよ、一定レベルじゃない奴」
「はいはい、作れるかどうかだけじゃなくて先生は品質も見てますよってことよ」
その後、静流のクラスは攻撃魔法のレッスンに来た。
サラおばあちゃんは自前の技術を教えているようだ。
ティアラちゃんのクラスはティアラちゃんから言葉巧みに基準を聞き出し、さっさと両方クリアしてきた。
では私のクラスはというと……。
うーん。
私のクラスって、ほら、私が一番錬金術に優れた先生ってのは分かりきってたからさ。コネ関係がやたら多いのよ。そもそも魔力が基準に達していない子もいるの。魔法の箒は結構レベルの高い錬金術であって……。
まあ、そういうことです。
ティアラちゃんのクラスから基準を聞いても、まだ全員達成できてなかったりする。
「せんせーっ 成績悪い子は置いてきましょうっ 仕方ないじゃないですかっ」
7月。泣きそうな顔で言うのは成績悪い子。気持ちはわかる。
「泣かない泣かない。求められれば個別のレクチャーはするから。来年は実力順にクラス替えするし」
生徒達に緊張が走った。
「それと、8月のお休みはないからね。八月はサバイバル実習だよ。気を抜くと死ぬからね」
生徒達の受難は続く。