ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」   作:ていとくン

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これでスコッチ・バーボン編は終わり……に出来ませんでした。次回エピローグ書いて終わりです。
おかしい、ピンガ書きたくてss書き始めたのになんかこの二人がぶっちぎりで長くなっている……




side:スコッチ・バーボン③

 

 

 

走る、走る、奔る、疾走る。

 

 

 

街灯に照らされた闇夜の中、立ち並ぶビルの合間を、バーボンは、"降谷零"は全速力で走っていた。

その顔に普段の余裕に満ちた笑みはなく、焦燥に支配されていた。

切っ掛けは、スコッチから届いた一通のメール。

 

 

 

ー悪い、降谷。組織(奴ら)に俺が公安だとバレた。逃げ場はもう、あの世しかないようだー

 

 

 

ここしばらく、ジンの動きが不穏だった。裏切り者を絶対に許さず、幾人もの諜報員を確実に仕留めてきた、組織きっての始末屋。彼がネズミの所在を嗅ぎつけたらしいとの噂が立っていたのだ。

一体誰が哀れな犠牲者となるのか、根っからの悪党達は酒の肴として楽しみに嗤い、組織に潜伏するNOC達は自分がマトにかけられるのではと戦々恐々としていた。

そして、今回の一報。嗅ぎつけられてしまったのは、自らの相方スコッチだったらしい。メールを見たバーボンは思わず天を仰いだ。

 

(最悪だ……!よりにもよって、ジン相手にバレるとは……!)

 

見捨てるなどという選択肢は存在しない。大切な同僚であり、大事な仲間であり、掛け替えのない友。その命をみすみす組織(奴ら)にくれてやるつもりはない。どうにか隙を突いて逃がしてやらなければならない。

スコッチが公安だとバレたことで、よくつるんでいた己にも疑いの目が向くことだろう。スコッチが無事逃げ果せればその疑いは尚の事強まり、自分が公安であることが露見してしまう可能性さえある。

だからといってスコッチの死を見過ごせるほど、バーボンに流れる血は冷たくない。自分諸共組織から逃げる羽目になろうとも、スコッチを助ける。その覚悟で走っていた彼が、思わず足を止める。

彼の目線の先、ビルの非常階段を上る一人の男。黒いニット帽を被った、奴の名は。

 

(ライ……!!)

 

ジンだけでも厄介な上、あの男まで動いているともなれば、いよいよ猶予はない。

バーボンは、ライが実はNOCなのではないかと疑いをかけていたものの、同時に、ジンが動いている状況ではライも迂闊な動きは出来ないだろうとも考える。

ジンとライ、二人に先んじてスコッチと合流する。無理難題など承知の上、バーボンは駆ける。全ては、友を救う為。

 

 

 

 

 

いくつものビルを探し回り、ようやくスコッチがいるビルを突き止めた。階段を数段飛ばしで駆け上がり、屋上へ続くドアを蹴り開ける。

 

そこにはスコッチがいた。柵を背に座り込む彼に目立った傷はない。だが同時に、黒ずくめの男達複数に囲まれており、一刻の猶予もないことが伺える。

 

だが、今のバーボンにそんなことを気にする余裕はなかった。スコッチの無事を確認すると同時、彼にリボルバーを突きつける一人の男の姿を確認したバーボンの思考は真っ白になる。

 

(な、何故……何故、()()…………!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、はっ、はっ……クソっ、しつこい、連中だな!」

 

 

 

ビルの合間をがむしゃらに走り回る一人の男。彼の名はスコッチ。その正体は公安の刑事であり、NOCとして"組織"にしばらく潜入していたが、遂にスパイであることが発覚してしまった。

今は彼を亡き者にせんとする追手から必死の思いで逃走している真っ只中である。

 

(ゼロ……)

 

ジグザグに走りつつ、先程一通のメールを送った人物を思い浮かべる。自分と共に"組織"へと侵入した友人、"バーボン"こと降谷零を。

当然メールは消去した。携帯そのものも処分したいところだが、追手を振り切ることすらままならない現状では、それも難しい。

自分はしくじってしまったようだが、彼が狙われているという情報はまだ入っていない。自分に代わって、職務を全うしてほしい……いや、せめて無事でいてほしいと思う彼の前に、一人の男が立ちはだかった。

 

 

 

「あれだけの数の追手に追い立てられて尚、まだ息があるか。流石だな……スコッチ」

「お前は、ライ……!」

 

 

 

黒いニット帽を目深に被った男は、組織きってのスナイパーだが、格闘戦もかなり出来る、遠近共に隙のない豪傑。何度も任務を共にしたからこそ、敵に回った時の厄介さもよく分かる。間違っても、すぐ後ろに追手がいるこの状況で悠長に相手出来る男ではない。

スコッチは一切の躊躇なく、懐に手を突っ込んだ。それを見たライが一気に詰め寄る。

 

 

 

「悪いが、お前と今、話してる暇はない……!」

「!……させると思うか!」

「遅い!」

 

 

 

スコッチが懐から取り出したのは、掌サイズの円柱形。それを見たライが顔色を変えて阻もうと手を伸ばす。

 

 

 

閃光手榴弾(スタングレネード)……!」

「違うんだな、これが!」

 

 

 

だがスコッチの方が速かった。叩き付けられた円柱形から飛び出すは、大量の煙。閃光手榴弾(スタングレネード)に偽装した、発煙弾(スモークグレネード)だ。

咄嗟に目と耳を庇ったライは、反応が遅れる。その隙を突いて、スコッチはまた懐から円柱形を取り出し、地面に叩きつける。溢れ出すは、爆音と、閃光。

煙を払おうと、目元から手を離したそのタイミングでの一撃。不意打ちの衝撃に大きく揺らいだライの胴体へ、スコッチは腰だめからの正拳を見舞った。

遂に崩れ落ちたライを尻目に、スコッチはどうにかその場を離れることに成功した。

 

(ありがとな、アル。おかげで助かった……!)

 

この装備をくれたのはアルマニャックだった。その時のやり取りがスコッチの脳内によぎる。

 

 

 

 

 

「そういえば、スコッチは近接の対策札、何にしてる?」

「近接の対策札?なんだそりゃ」

「おいおいマジか。スコッチはスナイパーだろ?取り回しが利かない得物持ってるんだから、万一気づかれて近寄られた時用の道具は別で持ってなきゃ駄目じゃん!」

「あ〜〜成る程……考えたこともなかったな」

「しっかりしてくれよな〜。しょうがないから、俺がいくつか見繕ってあげるよ」

「おぉ、ありがとな」

「ふふん、感謝してくれたまえ」

 

 

 

 

 

後日、彼は装備と共に、効果的な使い方を教えてくれた。それが今の戦法である。

閃光手榴弾に見せかけた発煙弾を投げ、相手が頭部を咄嗟に庇ったその隙に今度こそ閃光手榴弾を取り出して炸裂させるという二段構え。

煙を払うべく腕を頭部から離すタイミングで閃光手榴弾をぶつける為、確実に衝撃を与えられる方法だ。しかし、煙が充満している為、音はともかく閃光の威力は半減する。普通なら戦術たり得ない悪手だ。

 

(手練れであればあるほど、こんなやり方は考慮すらされない。()()()()()()()()、か。本当に助かったよ)

 

まさか"組織"に入ってから出来るとは思わなかった友人。彼に感謝すると共に、心がちくりと痛んだ。

自分が裏切り者だったことは、彼も早晩知ることになるだろう。その時、彼は何を思うのだろうか。

裏社会にまで堕ちながら、善良さの欠片を失わずにいる友人を思うと、罪悪感に苛まれる。

 

(すまん、アル。だが俺は、ここで死ぬ訳にはいかないんだ……!!)

 

このまま走っていてもジリ貧と判断したスコッチは、一か八か、朝が来るまで隠れ潜むことにした。

入口が封鎖されたビルを見つけると、背中からフックショットを取り出す。アルマニャックから譲り受けたそれを発射し、たまたま開いていた窓に引っ掛け、上っていく。

窓へ入ろうとした瞬間、感じる悪寒。咄嗟に身をよじると、先程まで頭があった場所を一発の銃弾がかすめていった。

慌てて下を見ると、そこには黒ずくめの男が一人。長い銀髪をたなびかせ、こちらに向けて銃を構えていた。煙草を咥えるその口に浮かぶは、悪辣な笑み。

 

 

 

「ジン……!?」

「随分面白い玩具(オモチャ)を持ってるじゃねぇか。その逃げ方は想定していなかったぜ……俺が到着するのがあと数秒遅ければ、取り逃がしていたかもな」

 

 

 

最悪だ。よりにもよってこの男に見られてしまった。すぐさま窓からビルに入ったが、下の方でガラスが割れる音がした。ジンが、迫ってくる。

下に退路はない。可能性があるとすれば、屋上から別のビルに飛び移る他はない。

一目散に階段を駆け上り、屋上へと到達する。周囲をざっと見回し、一番近いビルに狙いを定めてフックショットを撃とうとした時。

 

 

 

「そんなに急いで、どこ行くんだ」

「ッ!」

 

 

 

馬鹿な。もう追いつかれたのか?否。流石にまだ早い。ジンは確かに優秀だが、そこまで人間を辞めた身体能力はしていない。

では他の人間が屋上に潜んでいた?ありえない。俺がこのビルを選んだのはたまたまだ。それを予測するなど不可能だろう。

 

ではこの声は?どこから聞こえてきた?

 

ふと思い至り、自分が出てきたドアの方を見やる。……いた。黒ずくめの男が。自分が想像さえしていなかった人物が。…………ある意味、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

()()……………………」

「やぁ、()()()()

 

 

 

出来れば、ここにはいてほしくなかった。そう口にするアルマニャック。パーカーのフードを脱ぎ、出てきたその顔は、ぞっとする程の無表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は少々遡り。

 

 

 

「…………こんな時間にどうした、ラムの旦那」

『もしや寝ていましたか?すみませんね。ですが緊急の案件なのですよ。他ならぬ貴方は知っておいた方がいいと思いましてね』

 

 

 

夜遅く、とうに寝静まった頃に鳴り響いた電話。熟睡していたところを叩き起こされたアルマニャックの声は不機嫌さを隠そうともしていない。脳も微睡みの最中にいた。

しかし、ラムから放たれた次の一言で、彼の脳髄は一気に覚醒することとなる。

 

 

 

『ジンが組織に潜入していたNOCを突き止めました。……コードネームは、()()()()

「…………………………は?」

『ここしばらく、貴方が仲良くしていたという人物ですよ。疑惑はかけられる前に晴らした方がいいでしょう?……尤も、私含め貴方にNOC疑惑をかける人物などいないでしょうが』

 

 

 

そんな回りくどいことをするメリットも動機も、貴方にはありませんからね。そう言うラムは苦笑混じりだ。

 

 

 

「……………………裏取りは、出来てるのか?」

『部下を使って既に済ませてあります。彼の裏切りは確定事項です』

「そう、か」

『貴方の価値観からして、裏切りはタブーな筈。他ならぬ自らの手で、始末をつけたいのではないかと思いましてね、一応連絡を入れたのですよ』

 

 

 

 

そう語るラムの口調には、悪意も、嘲りも、疑念さえ感じられない。

当然だ。この時、ラムはそれなりの善意から、アルマニャックに連絡を入れていたのだから。

自分がそれなりに親しくしていた人物が、実は裏切り者であった等、誰であっても気分は良くない。このままこちらで始末してしまえば、彼は自分の手で恨みを果たす機会さえ掴めなかったことになる。裏切られた彼の心情を考えれば、あまりよろしい結果ではないだろう。

であれば一報は入れたほうがいいという善意。その方が、彼との信頼関係を今後も円滑に進めやすいだろうとの打算も込めて、ラムは電話を入れたのだ。

故に、この電話を受けて、アルマニャックが動くかどうかはラムにとってあまり問題ではない。連絡をした、という事実が大事であり、後の事は彼次第だから。

 

 

 

『これはただの情報提供であり、任務ではありません。既にジンが指令を受けて動いていますから。……ただ、もし動くのであれば、急いだ方がいいでしょう。彼もまた、仕事は早い人間ですから』

「分かっ、た。……ありがとう、旦那」

『お気になさらず。では』

 

 

 

眠気など疾うに醒めた。通話が終わった携帯を穴が開くほど見つめるアルマニャック。その目には一切の感情が見受けられない。純黒の闇が、そこにはあった。

どれくらいそうしていたのか、アルマニャックは弾けるように立ち上がると、仕事着に袖を通す。迅速に装備を整え、家を飛び出す。

 

向かう先は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は戻り。

 

 

 

「アル……何故ここに……」

「何故、か……それは俺が聞きたいんだけどな。なんでここにスコッチがいるのか」

「ッ!そ、それは……」

「まァ、いいか。まずは質問に答えよう」

 

 

 

無表情のまま、アルマニャックがスコッチの元に近づいてくる。一切の武器を構えず、無手で近づく彼からは、殺気も、敵意も、気配さえも感じられない。完全な無だった。それがスコッチには恐ろしかった。

 

 

 

「俺が教えた通りの戦術を使ってるなら、目眩ましには成功している筈。数名の追手はそれで振り切れるだろう。それでも、走って逃げるには限界がある」

 

 

 

ならばどうする?そう言ってアルマニャックが指を差した先にあったのは、スコッチが持つフックショットだった。

 

 

 

「このビルは入口部分は締め切ってたが、窓は開いてた。それがあればここに入れる。隠れるならこのビルだろう。万一見つかっても、飛び移って逃げられるように屋上へ。そう思ってここに来た」

 

 

 

スコッチが到着するまでにこのビルを見つけられたのはたまたまだ、そう言うアルマニャックを呆然と見るスコッチ。

罰なのかもしれない、彼はぼんやりとそんなことを考えていた。自分の身を案じる友人がくれた道具を、友人を裏切った自分が使ったから、今の結末を迎えてしまったのかもしれないと。

逃避にも近い思考を突き破ったのは、一発の銃声だった。抱えていたフックショットが破壊され、その衝撃で尻餅をつくスコッチ。ガン、と背中が柵に当たる。

 

 

 

「まだここにいるとは、ネズミの癖に随分のんびりしてやがると思ったが……何故てめぇがここにいる?アルマニャック……!」

 

 

 

階段を上り、追いついたジンが銃を構えていた。

ジンは銃口をスコッチに向けつつ、アルマニャックを睨みつける。

 

 

 

「ラムから連絡を受けた。……裏切り者が見つかったと。そいつの名前はスコッチだと」

「ラム……?」

「ラムが?……なら何故そいつはまだ生きている。銃も構えずに突っ立って、何のつもりだ」

 

 

 

まさか逃がそうとしたんじゃないだろうな、とジンが殺気を向けるも、アルマニャックの無表情に揺らぎは見られない。

 

 

 

「聞きたいこと、話したいことがあったから。それだけだ」

「フン……元よりこれは俺が受けた任務だ。てめぇは下がってろ」

「それなんだが、ここまで追い詰めたジンには悪いが、以降は俺に預けてほしい」

「あぁ?……何をふざけたことを言ってやがる。コイツは俺の……」

 

 

 

瞬間、一発の銃声。ジンが構えていた銃が弾き飛ばされ、転がっていく。

いつの間にかアルマニャックの手にはリボルバーが握られていた。銃口から僅かにたなびく煙を見て、ジンとスコッチは驚愕する。

 

(いつ抜きやがった……!?)

(抜いてから撃つまでが、見えなかった……!)

 

恐るべき速度の早撃ち。スコッチを見据えたまま、銃だけを吹き飛ばす正確さ。それを事もなく成し遂げたアルマニャックは、やはりジンの方向に視線を向けることなく言葉を重ねる。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「てめぇ……!!戯言ほざいてんじゃねぇ!まさかお前、ネズミじゃ……、!?」

 

 

 

そこで初めて、アルマニャックはジンに視線を向けた。その顔を見たジンは、思わず目を見張り口を噤む。

 

 

 

ここまで追い詰めたジンには悪いが、以降は俺に預けてほしい

「…………!!……………………チィッ!!」

 

 

 

獲物を横から攫われた怒りはある。この男に限って可能性は低いだろうが、裏切り者の疑念もある。

だがそれら全てを一旦飲み込んで、成り行きを見届けることに決めた。ジンをしてその決断をさせるだけの凄味が、今のアルマニャックにはあった。

さて、と一言。アルマニャックは再びスコッチに視線を向ける。ジンに向いていたリボルバーの銃口が、スコッチと向き合う。

 

 

 

「スコッチの質問には答えた。今度は俺の質問に答えてくれ。……何で、スコッチは今ここにいる?ラムは、君を裏切り者だと言っていた。組織に潜り込んだネズミだと。……それは、事実なのか」

「……誤解だと言ったら、その銃を下ろしてくれるか?」

「質問に答えてくれスコッチ」

 

 

 

ここに至り、最早自分がここから生き残る術はないことを、スコッチは理解していた。

組織は自分がNOCであることを確信している。今ここでしらを切ったところで、"バーボン"に疑念が向くのは避けられない。

ならば、せめて最期は誠実でありたい。"組織"で、まさか出来るとは思ってなかった友に対して、これ以上嘘を付きたくない。そう思ったスコッチは大きく深呼吸をした。

 

 

 

「……あぁ、そうだ。Non Official Cover。所属は明かせないが、俺はとある機関から送り込まれたNOCだ」

「…………嘘じゃ、ないんだな」

「あぁ。政財界にも深い繋がりを持ち、世界各地で犯罪を犯す秘密結社。その内情を探り報告するのが俺の職務だった」

「……最初からか」

「そうだ。最初から、その目的で潜入してた。俺は潜入捜査官だ」

「……()()()()()

「!」

 

 

 

もう一人の、大事な友人の名前を出されて一瞬揺らぐ。ジンがそれを見て目を細めるも、やはり口出しはしてこない。いつの間にか拾い上げた銃を片手に、こちらを監視している。

 

 

 

「バーボンは、このことを知っているのか」

「ハハ、()()()()()()()()()。組織から情報を抜き取る為に、幹部との繋がりは欠かせない。そういう意味で、諜報を担うバーボンは俺の相方に最適だった。……尤も、奴は脇が固かった。望むものは、得られなかったけどな」

 

 

 

俺は上手く嗤えているだろうか。いや、問題ないだろう。もう嘘はつきたくない、などと思った矢先に、友を貶めるような嘘を平然とつける自分なら、きっと悪党のように嗤えている筈だ。

内心自嘲しつつ、スコッチはアルマニャックにも言葉を投げかける。

先程までは誠実でありたいと思っていたが、考えを改めた。どうせならとことん偽ろう。とことん嘲って、罵ってやろう。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その時だった。バン!という音と共に、扉が蹴り破られる。倒れる扉を踏み越えてやってきたのは、バーボン。

バーボンは無傷のスコッチを見て一瞬安堵した後、アルマニャックの姿を確認して凍りつく。

 

 

 

「な、何故……何故、君が…………!?」

「……おい、何でてめぇまでここにいやがる、バーボン」

 

 

 

ジンが睨みを効かせ、銃を突きつける。その時初めてジンの存在に気づいたバーボンが顔を驚愕に染める。

 

 

 

「ジン……!?」

「スコッチ抹殺の指令を受けたのは俺だ。ラムから直接情報を貰ったアルマニャックはともかく、何故お前がここにいる?誰から、どうやって情報を得た?」

「(ラムから!?アル、君は一体……!?)……当然、僕は諜報担当なのですから。貴方とは別のやり方で、ネズミ探しは定期的に行っています。今回はそれに引っかかっただけですよ」

「フン。てめぇがよくつるんでたスコッチがあの様だ。お前にもネズミ疑惑はかかっていることは分かってるんだろうな?」

「大変心外ですが、承知していますとも。その話はまたいずれ。……それで、彼をどうするつもりです?」

 

 

 

心なしか声が固いバーボンだったが、どうにかこの場での追求を躱すことには成功した。

バーボンからの質問に、ジンは顎をしゃくって答える。

 

 

 

「それはアイツに聞け。アイツが自分から預かると言ったんだからな。……温い対応しやがったら、その時は纏めて地獄に送ってやらなくちゃならねぇがな」

「……そうですか」

 

 

 

ここで、この場にいる全ての人間の視線がアルマニャックに向かった。彼の一挙一投足に全員が注目している。

当の本人は一貫してスコッチを見ている。沈黙を保っていたが、ややあって口を開いた。

 

 

 

「ずっと、騙してたのか」

「あぁ、そうだ」

「俺を、俺達を、友人だと言ってくれたのは、嘘だったのか」

「そうだ。バーボンにもお前にも、情報が欲しくて近づいた。バーボンは口が固くて大した役に立たなかったけどな。だがアルマニャック、お前は噂話でさえほとんど情報が得られなかった。直接関係を築けたのは幸運だったぜ」

 

 

 

(ヒロ……!)

 

スコッチの嘘の意味を、バーボンは正確に把握していた。そして同時に理解してしまった。……彼はここで死ぬ気なんだと。

バーボンは歯噛みする。ここからスコッチを連れて無事に逃げ果せる策が思いつかない。ジンだけでも強敵だが、アルマニャックの行動が読めない。

 

 

 

「どこの所属か、言うつもりはあるか?」

「ないね。何をされようがそれだけは喋らない。お前らの中に潜り込んでいる同志を、これから潜り込む同志を危険に晒したくないからな」

「……そうか。……最期に、何か言い残すことは?」

「別に。お前らはあくまで敵。敵相手に残す言葉なんかない。さっさと殺せよ」

 

 

 

 

 

「そうか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

全力を以て己の内側に感情を閉じ込めた自分を褒めてやりたい位だった。スコッチにとって、それだけ衝撃的な言葉だったのだ。

 

 

 

「何を、言って、」

「前に話した俺の過去、覚えてるか?」

「……あ?あ、あぁ、あのお涙頂戴の昔話だろ?欠伸が出そうな位退屈だったが、それがどうした?」

「かつての仲間達が戦場で残らず死んで、一人ぼっちだった俺を拾ってくれたのが、ラムなんだ」

「その、ラムってのは誰だ?」

「ボスの次点、組織のナンバー2さ」

「!?」

 

 

 

スコッチとバーボンが揃って驚愕に目を見開く。ここでナンバー2の名前が出てきた事に。アルマニャックが、ナンバー2直々の勧誘を受けて組織入りしたという事実に。

 

 

 

「ずっと一人で生きてくもんだと思ってた。一人で生きて、一人でくたばるもんだと思ってた。でも組織に来て、背中を預けられる相棒が出来た。友達が出来た。……俺は一人ぼっちじゃなくなった。それがどれだけ嬉しかったか」

 

 

 

アルマニャックの鉄面皮。荒野の如きそこに少しずつ、少しずつ罅が入り始める。

 

 

 

「だから、俺は組織に恩がある。世間様から見たらクソッタレかもしれないが、俺にとっては何より大事な居場所なんだ。だから組織を、組織(ここ)に誘ってくれたラムを、裏切りたくない。……だから、裏切り者は、殺さなきゃならない」

 

 

 

罅が、広がっていく。

 

 

 

「だけど、あの日話した筈だ。俺は、この手で楽にしてやった仲間の事を今でも夢に見ると。俺の人生で、何より辛く苦しい出来事だったと。……なァスコッチ。何故だ」

 

 

 

罅の隙間から零れ落ちるものは、

 

 

 

「何故俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何故だ、何故裏切った、スコッチ……!?」

 

 

 

重く苦しい、血を吐くような悲嘆の表情だった。

 

 

 

「アル……」

「フン……」

 

 

バーボンとジン。二人の態度は対照的だ。バーボンは拳を固く握り締め、対してジンはアルに対して冷淡な目を向けるのみ。

 

そしてスコッチは、大きく目を見開いた後、アルマニャックに苦く笑いかけた。

 

 

 

「譲れないもの(正義)が、あったから」

「!」

「ごめん、ごめんな、アル。俺はまた、お前を悲しませちまったらしい」

「…………二重スパイ(ダブルフェイス)

「?」

「それなら、どうだ。何処の所属かは知らないが、お前は今後組織につき、かつての居場所から情報を抜き取る間諜になる」

「アル、貴方何を……!?」

「おい、裏切り者を生かすつもりか……!?」

「ボスとラムには俺から話す」

「「!!」」

「ボスへの直通回線は、何もお前の専売特許じゃねェんだ、ジン。今後は厳重な監視がつくだろうが、これならお前の首を繋げられる。俺なら話を通せる。……だからスコッチ、此方につけ(うんと言ってくれ)

 

 

 

銃を突きつけているが故に辛うじて脅しの形になっているものの、実態はほとんど懇願に近い。そんなアルマニャックの発言を得て、やはりスコッチは穏やかに笑う。

 

 

 

「ありがとな、そこまで庇ってくれて。でも駄目だ」

「……………何故」

()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺も、俺もなんだ」

「!!……………………そう、か」

 

 

 

その発言を聞いて、今度こそアルマニャックはスコッチの生存を諦めた。この男の覚悟を変えることは、無理だと。

 

 

 

「無粋なことを言った。忘れてくれ」

「いいよ。こっちこそ、ごめんな」

「…………言い残すことは、あるか?」

 

 

 

スコッチは自分の心臓を指差し、笑う。

 

 

 

心臓(ここ)を撃って、終わらせて欲しい。顔が飛び散って死ぬのは、嫌だなって」

「…………分かった」

 

 

 

立つ位置を変え、改めてリボルバーを構える。撃鉄を起こし、引き金に指をかけた。人差し指が、小さく震える。

 

 

 

「バーボン、お前は下がれ。友達が死ぬところなんて、好き好んで見るものじゃない」

「駄目だ、お前はここに残れ、バーボン」

「ジン、てめェ……」

「お前も組織を裏切ればこうなる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

 

 

銃を突きつけられ、バーボンは身動きが取れない。歯を食いしばり、スコッチを見据えることしか出来ない。……動けば、言葉を交わせば、スコッチの覚悟を無駄にしてしまうと、分かってしまったから。

アルマニャックはため息を一つ吐き、スコッチと向き合う。

 

 

 

「バーボン、()()()()()()()()。………………じゃあな、スコッチ」

「あぁ、じゃあな。       」

「ーーーーーッ!!」

 

 

 

(最期まで、辛い役回りをさせちゃったな。ごめん、アル……)

 

引き金が引かれる刹那。スコッチの脳裏に過るのは、友への謝罪と。

 

(ゼロ、後は頼んだ……!!)

 

 

 

 

 

一発の銃声。

 

桜の花弁がまた一片、はらりと落ちた。

 

 

 

 





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