ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」   作:ていとくン

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これで過去編は終わりです。今回も日記形式と普通の文章を混ぜた形になります。
ちなみに月日の記号は適当です。一応月だけは同じものを使う=1年経過というニュアンスで使っていますが、順序に意味はありません。日の方は本当に何も考えていません。



side:志保③

 

 

 

✕月☆日

 

彼と出会って、二度目の誕生日。部屋に戻れば、お姉ちゃんと彼とウェディングケーキ。……またウェディングケーキなのね……お姉ちゃんもあの馬鹿も、全部食べきるのにあれだけ苦戦したのをもう忘れたのかしら。……完全に忘れてるわね。性懲りもなくケーキの周りをぐるぐる回っているわ。

貴方はともかく、お姉ちゃんまでお馬鹿さんにするのは止めてもらえるかしら。

 

冷蔵庫は満タンにはならなかったわ。……新しく大きいのを買ったから。私もすっかり毒されちゃったのかしらね……

 

 

 

いい?もっと大きいケーキを買ってほしいなんて思ってないから!フリじゃないわよやめなさい!お姉ちゃんも!いいわね!?

 

 

 

 

 

○月□日

 

彼と出会って、2年。流石にもう彼の奇行にも慣れてきたわ。

一人の人間に慣れるまで2年かかるのが普通とは思えないけど、そこはもういい。考えてもロクなことはないし。

 

この2年、平穏とは程遠い日々ではあったけど、平和な日々ではあったわね。お姉ちゃんと会える回数が増えたことは、ちゃんとお礼を言ったわ。彼はすっとぼけてたけど。……嘘つくのが本当に下手くそって、裏社会でよく生きていけてるわね……

 

彼は特に変わりがないみたいだけど、私や私を取り巻く環境は大きく変わった。……試しにと書かされたいくつかの論文が、研究部門で大きく評価されたみたい。もうしばらくしたら、研究員として採用されるだけじゃなく、私専用のラボまで貰えるみたい。

 

それを彼に伝えたら、自分のことのように喜んでた。おめでとうって、頭を撫でてきた。私はもうそういう年齢じゃないんだけど!髪もぐしゃぐしゃになっちゃうし、レディの扱いがなってないわ。まったく……まったく!

 

ついでに体も随分と鍛えられたわ。……どこかの誰かさんが性懲りもなく馬鹿みたいにケーキを買い込むせいで、意識して毎日運動をするようになった結果、かえってシェイプアップに繋がったみたい。

スタイルが良くなるのはいいことなんだけど、きっかけが彼の奇行ってところがすごく引っかかるのよね……

しかも彼、ちゃんと気づくのよね。最近シュッとした?って。ちゃんと食べてるですって?えぇ沢山食べさせられてるわ。どこかのお馬鹿さんが買ってきた大量のケーキをね!……まったく!

 

 

 

 

 

□月▽日

 

彼の識字能力も随分と向上してきたわ。私に単語の意味や読みを聞いてくる回数も減って、代わりに自分で辞書を引く回数が増えてる。……やっぱり漢字の読みは難しいみたいだけど。

 

なんか、こんなこと書いてると本当に彼の先生やってるみたいな気になるわね……成長の痕跡が見られるせいで、つい気になっちゃうのがタチが悪いわ。

 

それと、今度は遊園地に連れて行ってくれるんですって。今更そんな場所に行って喜ぶ年齢じゃないんだけど、お姉ちゃんも一緒なら、まぁたまにはそういうのもいいかもね。

外の世界で遊べる機会なんて、彼がいなければ掴めないものだった訳だし、せっかくの好意を無駄にするのも気が引けるしね。

 

 

 

 

 

□月☆日

 

 

 

遊園地に行く約束の日。

 

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

 

約束を忘れたのなら、まだいい。後で沢山叱ってあげるから。

なんで連絡が通じないの?今どこで、何をしているの?

彼はかつて、自分の仕事は()()()()だって言っていた。この組織で荒事なんて言ったら、十中八九その内容は……。であれば、()()が起こってしまった可能性だって、なくはない。……まさか、死んじゃいないでしょうね……!?

 

電話くらい出なさいよ。心配、かけさせるんじゃないわよ、馬鹿……!!

 

 

 

 

 

□月◎日

 

約束の日から数日後、彼は私の自室にやってきた。

 

何の連絡も無しに約束をすっぽかして、私達を心配させて、そう怒鳴りつけてあげるつもりだった。

 

 

 

()()()()()()()()()()()。彼の顔に、いつもの笑みは、一切なかった。

いつもの明るい様子は欠片も見られない、とても同じ人物とは思えない位、萎れた彼が、そこにはいた。

 

 

 

約束を破ってしまったことを、連絡もしなかったことを謝って、彼は帰ってしまった。

 

 

 

何よ、何があったのよ。いつものヘラヘラした態度はどうしたのよ。……何で、そんな辛そうな、苦しそうな顔をしているのよ。何で、何も教えてくれないのよ……!!

そんなに私は頼りない?信用が出来ない?たまには、私のこと、頼りなさいよ、馬鹿……!!

 

 

 

 

 

△月○日

 

根気強く彼と向き合った結果、ようやく、あの日何があったのかを教えてくれた。……そして、彼が私に話したがらなかった理由も、分かった。

 

 

 

裏切り者を始末したと。とても親しくしていた、友人だと思っていた、組織に潜入していたNOCを、自らの手で始末したと。

 

 

 

彼が涙を流すところなんて、初めて見た。……こんな理由で、見たくはなかったわ。

 

 

 

友人を殺す為に、彼に引き金を引かせた組織のやり方にも、潜入捜査官なんてやっておきながらバレた挙げ句、彼の心に傷を残して逝ってしまった男にも、腹が立つ。

 

……嗚呼、こんな仕打ちを受けながら、それでも貴方は、組織への義理立てを優先するのね。

貴方の唯一の過ちは、その義理堅さを発揮する相手を、間違えてしまったことよ。……馬鹿な人。本当に、馬鹿な人。

……本当は分かっている。きっと、組織だけが、彼に手を差し伸べたのだろうと。

打算と欲に塗れた手であっても、取ってしまいたくなる位、彼は孤独を味わってきたのでしょうね。

 

自分のことを差し置いて、彼が生まれた環境を、育った環境を呪う。もっと真っ当な世界に彼が生まれていたなら、こんな思いをすることもなかったのに。誰かが彼に手を差し伸べていてくれたら、ここまで堕ちてくることもなかったのに。神様なんてものがこの世にいるのなら、きっとそれは大層性格がネジ曲がった存在なのだろう。

目の前で嗚咽を漏らす彼に、何も出来ない自分の無力さにも、腹が立つ。

 

 

 

 

 

△月✕日

 

 

 

彼は、変わってしまった。

 

 

 

笑顔を見せなくなった。ずっと難しい顔をして本を読んでいる。こちらが話しかければ答えはするものの、彼から言葉を投げかけてくることもなくなった。

 

甘いものも食べなくなった。あれだけ私の冷蔵庫を埋め尽くしていたケーキも、最近はすっかり姿を潜めてしまった。

食事に拘るのもやめたらしい。彼が食事をしているところを見かけたが、カロリーバーを水で流し込んでいた。……あれだけグルメに拘っていた彼が、だ。

 

お姉ちゃんもすごく心配していた。色々と頑張って話しかけてくれているけど、結果は芳しくない。

 

原因は分かりきっている。だからこそ、何も出来ない。彼の心が、立ち直ってくれるのを、ただ待つことしか出来ない。……私って、こんなに無力だったのね。

 

 

 

 

 

▲月□日

 

組織から、私にコードネームが与えられた。今日から、私の名前は"シェリー"になった。

 

正直、今の私にそれを喜べる余裕はなかった。……彼の、久しぶりの笑顔を見るまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コードネームを、貰った?」

「えぇ、今日から私は、組織の中では宮野志保ではなく"シェリー"よ。……貴方の言う通り、それなりに出世したわ」

「…………そっか。そっか…………」

 

 

 

良かった。

 

そう言って、アルマニャックは笑顔を浮かべた。何の憂いも籠もってない、柔らかな笑みを。

思わず息を呑む志保。彼の笑顔を、本当に久しぶりに見た気がした。

まだ、彼は笑える。まだ、その心は壊れきってはいない。……先の見えなかった道に、一筋の光明が差したのを確信した。

気づけば、言葉が口を衝いていた。

 

 

 

「久しぶりに、笑顔を見せてくれたわね」

 

 

 

ここのところ、ずっと辛気臭い顔をしていたから。そう言うと彼の目が大きく見開かれた。意識せず笑顔を浮かべていたのだろう。

途端に笑みは姿を消し、ここしばらく常に浮かべていた表情が顔を見せる。……憂いと、罪悪感。

 

 

 

「また、その顔に戻るの?」

「…………」

「いつまで、その辛気臭い顔を私に見せるつもりかしら」

「……ごめん。……今後は、ここに来る回数も減らすよ。……志保も、幹部の一角にまで成り上がった。もう、俺が監視する必要も、あんまりなさそうだしな」

「〜〜ッッ!!」

 

 

 

パシン

 

 

 

気づいたら、手が出ていた。彼の頬に浮かぶ紅葉模様。

志保自身でさえ己の行動に驚いているのだ。叩かれた彼の思考は完全に停止していた。心底驚いた顔で張られた頬を撫で、志保を見る。

 

 

 

「私が、本気でそう言っていると、思っているの?」

「……え?」

「貴方に会いたくないと、私が、そういう意味で、さっきの言葉を吐いたと、本気でそう思っているの?」

「………………違うの?」

「ふざけないでっ!!」

 

 

 

もう、我慢の限界だった。いつまでも辛そうな顔をしているアルマニャックにも、彼に手を差し伸べられない己の無力さにも。

ここで動けなければ、もう二度と足を踏み出すことは出来ない。何故だかそう確信した彼女は一歩詰め寄る。思わず後ずさる彼を見て、志保は更に一歩詰め寄る。

 

 

 

「私はそこまで冷たい女に成り下がった覚えはないわ!それとも、貴方の目にはそう映っていたのかしら?私のことを、血も涙もない、冷酷な女だと思っていたのかしら!?」

「違う。志保はそんな奴じゃ……」

「なら!!……大切な人が、ずっと苦しそうな顔をしているのを見ていることしか出来ないことが、どれだけ辛いか、貴方には分かる?」

「……ッ!それ、は……」

 

 

 

後ずさって逃げようとするアルマニャックの手を掴み、ぐいと引き寄せる志保。そのまま彼の顎を掴み、自分の顔に向き合わせる。

身長の都合上、アルマニャックの顔を見上げる形になってはいるが、志保はまるで自分が彼を見下ろしているかのような錯覚を感じていた。それほどまでに、今の彼は、小さく見えた。

 

 

 

「もし。もし……私がお姉ちゃんを殺さなければいけなくなったとしたら。私が、お姉ちゃんに向けて引き金を引いてしまったとしたら。私はきっと折れてしまう。……だから、そんな私が、貴方に対して、立ち直りなさいなんて言う資格がないことも分かってるわ。私が今抱いているこの感情が、身勝手なものなのも分かってる」

 

 

 

でもね、と言葉を続ける。

 

 

 

「身勝手だとしても、それでも私は、貴方に笑顔でいてほしいの。今までの、明るい姿を見せてほしいの。後先考えずにやらかしを連発する、お馬鹿な貴方でいてほしいの」

 

 

 

その明るさに、私は救われたから。

 

泣きそうな顔をする彼をしっかりと見据えて、志保は言の葉を紡ぐ。

 

 

 

「無理に笑えとは言わないわ。貴方が今も、罪の意識に苛まれていることも分かってる。だけど、喪ったものだけに囚われるのはもう止めて。貴方の幸せを願う人間だって、ちゃんと存在しているの」

「志保……」

「それに……えぇ、死者の言葉を騙るなんて趣味じゃないけれど、敢えて言わせてもらうわ。貴方が看取った彼は、貴方がこれからも不幸な顔して生きていくのを、望むような人かしら?」

「…………違う。アイツは、スコッチは、優しい男だった。自分が殺されるってのに、俺を案じるような、馬鹿で、抜けてて、優しい奴だった……!!」

 

 

 

(そう、スコッチって言うのね。いつかあの世で会うことがあれば、ビンタの一発は食らわせてやるわ)

 

遂に膝から崩れ落ち、嗚咽を漏らす彼を優しく抱き締めながら、志保は静かに誓う。自分にここまで後始末を押し付けるなんて、そう簡単には許してやるものかと。

 

 

 

「ゆっくりでいいわ。これからも、貴方の笑顔を見せて。貴方のお馬鹿な振る舞いも、多少なら目を瞑ってあげる。だから、貴方が幸せになることを咎めないで」

「ゔん…………ゔん……!!」

 

 

 

随分と大きな弟が出来ちゃったわね。こっそりぼやきつつも、アルマニャックの背中を撫でる志保の顔には、慈しみの笑顔が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇月◇日

 

あれから数週間。この部屋に珍しいお客さんがやってきた。

"コルン"、"キャンティ"と名乗る二人組の男女はどちらも組織きっての狙撃手であり、彼の呑み友達らしい。

 

そんな人達が何をしにやってきたのかと思ったら、私にお礼を言いに来たなんて聞いた時は流石に驚いたわ。

曰く、

 

「ある日を境に、明るさが取り柄だったアルがずっとふさぎ込むようになってしまった」

「こちらが話を聞こうとしても口を噤むばかりか、最近ではバーにさえ顔を出さなくなってしまった」

「それ以来、酒を呑んでいてもアルの沈んだ顔がチラついて美味しく感じられない。かつての明るかったアルと、また酒を呑みたいと思っていた」

「最近、アルが少しずつ明るさを取り戻してきた。聞くところによると、シェリーと名乗る幹部がアルを立ち直らせたのだと。だから礼を言いに来た」

 

 

 

…………私の知らない間に、組織ってのは随分と義理堅い人達が集まるようになったみたいね。任侠道でも目指してるのかしら。

 

……なんて。本当は、彼に関わった人間が、彼の性格に少しずつ感化されている。そんなところでしょうね。

こんな組織(ばしょ)で幹部にまでのし上がるような人間に、義理堅さなんてあるわけない。なら、彼らがここに来るような人間に変えたのも、きっと彼の影響なのでしょうね。

これっぽっちも自覚してないんでしょうけど、やっぱり貴方はすごい人よ。本人には絶対教えてあげないけど。

 

 

 

なんて、思っていたけど。

 

「殺して欲しい奴がいたらいつでも言え。格安で請け負ってやる」

 

ですって。……やっぱり血腥いじゃない!!

 

 

 

 

 

 

☆月▲日

 

またお客さんが来たわ。金髪をコーンロウに束ねた男は、"ピンガ"と名乗っていたわ。

 

「久しぶりにアルと顔を合わせたと思ったら随分と辛気臭いツラしてやがったからムカついてた」

「そんなアイツを立ち直らせてオトした女がいると聞いてツラを拝みに来た」

 

……ですって。彼って、随分と友達が多いのね。それも、とびきりガラの悪いお友達が。

 

人を魔性の女みたいに言わないでくれるかしら?そう抗議したら、彼も同調してくれたわ。

ただ、その後が最悪だった。

 

「志保をそういう対象として見るのは、ちょっと……」

 

 

 

どういうことかしら???こんな美女を前にして、出てくる台詞がそれ?

それは私の台詞というか、確かに私だって貴方のことをそういう対象としては見ていないけれど、でも貴方がそれを言うのは違うわよね?

少なくとも花も恥じらう乙女に対してかけていい言葉じゃないわ。信じられない程にデリカシーに欠ける発言、到底見逃す訳にはいかないわよね?

 

 

 

そう思って、彼の股を思い切り蹴飛ばしてあげたの。

そしたら彼、世にも悍ましい鳴き声をあげたと思ったら、白目を剥いて倒れてしまったわ。……避けられると思って蹴ったから、当たってしまって私が一番驚いてるわ。

 

それでふと横を見たら、ピンガがドン引きしているの。

 

「たとえ悪党と言えども越えちゃならない一線があるだろ!?それを躊躇なく踏み越えやがった……信じらんねぇ。なんて女だ……!」

 

そう吐き捨てたピンガは最後まで私に対してドン引きしながら、彼を引きずって逃げるようにこの場を立ち去ったわ。

 

 

 

え?悪いの私?……凄く納得が行かないんだけど。

 

 

 

 

 

✕月☆日

 

彼に出会って3度目の誕生日。もうウェディングケーキも見慣れたわ。……結婚式の招待客すら未経験だっていうのに……

 

今回もお姉ちゃんと彼はケーキの周りをぐるぐる回っているわ。……楽しそうね。本当に。

 

彼が立ち直ったことをお姉ちゃんはすごく喜んでた。当の本人は顔が真っ赤になってたけど。ざまぁないわ。心配かけた分困ればいいんだわ。ふん。

ちょっとお姉ちゃん、こっちを見てニヤニヤするのやめてよね。別にそういう仲じゃないって言ってるでしょ。……ちょっと!貴方、何で股なんか押さえてるのよ!変な誤解生むでしょ!やめなさいよ馬鹿!

 

 

 

あと、毎回思うんだけど、ウェディングケーキの半分を一人で食べるって、彼の胃袋どうなってるのかしら……

 

 

 

 

 

✕月◎日

 

 

 

最悪……本当に最悪。

 

 

 

お姉ちゃんの彼氏、コードネームは"ライ"だったかしら……諸星大が、FBI捜査官であることが発覚して、組織から逃げ出した。

そのせいで、お姉ちゃんに「FBIの潜入捜査を手引きした裏切り者候補」「今後も組織の情報を外に漏らす原因を作る可能性が高い危険因子」の疑惑がかかってる。

 

今日朝早く、彼が研究室に飛び込んできた時は何事かと思ったけど、いち早く情報を届けてくれたことには感謝しなきゃいけないわね。……お姉ちゃんを、守ってくれていることにも。

 

彼は、私から話を聞いてすぐ、"ラム"という人物に電話をかけていた。

 

その姿を見て、ようやく私は実感したわ。あれだけ好き勝手に振る舞ってる彼が、何故粛清されていないのか。何故、"あの方"やナンバー2に重用されているのか。一部とはいえ、曲者揃いの幹部達にさえ、彼が慕われるのかを。

 

 

 

殺気とも威圧とも違う、重々しくも人を惹きつける、「カリスマ」というものの存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラム!すまねェ緊急だ!!」

『落ち着いてください。どうしましたか?』

「宮野明美を、シェリーの姉の身柄を至急保護してくれ!大至急だ!ジンが動いてからじゃ手遅れになる!」

 

 

 

困った時のラム頼み。何かあったらラムに頼る。いつもの習慣でラムに電話をかけるアルマニャックだが、しかしその顔にいつもの余裕はない。冷や汗を流し、拳を握りしめる彼の目は血走っていた。

その焦りは、電話越しでも容易に伝わってきた。

既に仔細な情報は手元に来ている。……面倒な事になった。ラムは大きなため息をつく。

 

 

 

『…………やはり、そう来ましたか。ですが、彼女の罪状は余りに重すぎます。FBIの手引など、今生きていられるのが何かの間違いのようなものです』

「彼女は"ライ"がNOCであることなんて知らなかったんだ!」

『その言葉に何の意味もないことなど、裏を長く生きている貴方であれば十分理解していることでは?』

「……ッ!!」

 

 

 

彼女が本心から裏切ったかどうかなど、最早問題ではない。状況証拠から裏切りの疑惑がある、裏社会ではそれだけで始末する理由に足りてしまうのだ。

疑わしきは罰する、ジンがよく使う言葉だが、これは何も彼だけの話ではない。闇を生きる者達にとっては、ごく普通のお話なのだ。

 

つまり、宮野明美に逃げ道はない。…………()()()()

 

 

 

そして、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

『貴方の気持ちはお察ししますが、流石に今回は……』

「ボスに、伝えてくれ」

『!』

 

 

 

近くで見ていた志保だけではない。電話を隔てたラムでさえ、息を呑んだ。

 

アルマニャックの背で、波が揺らめく。彼の覚悟が熱となり、陽炎の如く立ち昇る。

 

 

 

スコッチは守れなかった。一度ならず二度までも、俺は仲間を守れなかった。

 

宮野明美は、違う。彼女は裏切った訳では無い。彼女を守ることは、裏切りにはならない。

ならば、迷うことはない。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「俺が、責任を取ると。万一の時は俺が始末(ケジメ)をつける!必要なら、俺も詰め腹を切る!だから、彼女は俺がもらい受ける。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!……そう、ボスに伝えてくれ」

 

 

 

ラムは大きくため息をつく。これだ。これこそが、彼を彼たらしめる、制御不能な力の源泉。

仲間と見なした者への、余りに深い情。これこそが、アルマニャックという人物の最大の強さであり、彼が抱える唯一の弱点である。

ラムは確信した。こうなった彼は、もう止まらない。この世の誰にも止められないだろう。

であれば、ラムの取るべき選択肢は一つだった。

 

 

 

『………………ハァ………………貴方は、情が深すぎます。それはいつか、貴方の命を刈り取る死神となりますよ』

「悪いな、俺はこういう生き方しか出来ねェんだ」

『………………分かりました。私も"あの方"に口添えしましょう。私と貴方の連名なら、ある程度時間は稼げる筈です』

 

 

 

彼に乗る。それしかない。

 

アルマニャックは単騎で戦局を変えうる、とびきりの鬼札(ジョーカー)。一人で"波"を起こしうる人物だ。

彼が起こす流れを止められる人材に、生憎ラムは心当たりがなかった。

であれば、乗ってしまった方が利がある。それに、ここで彼に乗れば、結果如何に関わらずアルマニャック相手に莫大な貸しを作れる。この機会を逃すほど、ラムは耄碌してはいなかった。

 

 

 

「…………いいのか?アンタにとっても、危ない橋になるだろう?」

『おや?私と貴方が最初に出会った時の口説き文句をお忘れですか?』

「?」

『「貴方を味方につけられるなら、釣りの上に特典まで付く」、そう伝えた筈ですが』

「………グッ、ギハハハハハハ!!やっぱアンタは最高だよ!…………ありがとう、ラム、恩に着る」

『お気になさらず。ですが、それでも予断は許さない状況です』

「分かってるさ。シェリーには、()()()()()()()()()

 

 

 

"あの方"肝煎りの計画。かの「秘薬」の完成という功績をもってすれば、たかが末端一人の身柄程度、どうとでもなる。

ラムとしても、そうなってくれた方が望ましい。シェリーは優秀な科学者だ。アルマニャックのみならず、シェリーとその家族まで手中に収められるのであれば、己の地位はより盤石となる。

 

 

 

『えぇ、宮野明美を確実に守りたいのであれば、最早それしか方法はありません』

「彼女には伝えておく。それと、俺にもなるべく()()の任務を回してくれ」

『フッ、話が早いですね。最近の貴方は大人しめでしたから、そろそろ()()()()()()でしょう。それもまた、彼女の延命に繋がる』

「おうよ。"組織"に"アルマニャック"有り、ってのをそろそろ平和ボケしてきた裏社会の皆々様にお伝えしなきゃなァ……!!」

 

 

 

アルマニャックから立ち昇る戦意が、此方にまで伝わってくる。……しばらく、裏社会には血の雨が降り注ぐことだろう。

組織に逆らう愚か者や、潜伏するネズミ達は戦々恐々となっている筈だ。その様子を想像し、ラムの口角がぐいと上がる。

 

 

 

『フフフ、楽しみにしていますよ。……保護が完了次第、此方から連絡します。また詳細を詰めていきましょう。では』

「あぁ、重ね重ねありがとう。助かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……後で聞いたところ、"ラム"とは"あの方"の右腕、つまり組織のナンバー2なんですって。…………とんでもない大物の名前が出てきたことに、お姉ちゃんの前に立ちはだかる運命の苛酷さを思い知らされたわ。

 

幸い、タッチの差でお姉ちゃんの保護が間に合ったみたい。……手を回してくれた彼には大き過ぎる借りが出来てしまったわね……。あるいは、"ラム"という人物にも。

ただ、予断を許さない状況だとも言っていた。"あの方"からの指令には"ラム"も逆らえないから、と。

 

彼は「成果を急いだ方がいい」と言っていた。

理屈は分かるわ。私が組織において目に見える成果を出すことで、お姉ちゃんの助命に一役買えるってことでしょう。

研究って、急いでどうこうなるものでもないのだけれど、科学に明るくない彼にそれを伝えてもよく分からないでしょうし…………恐らく相当な綱渡りをしてくれている彼に、その発言をするのは流石に論外ってことぐらいは分かるつもり。

 

 

 

……時間がない。急がなきゃ。

 

 

 

それと、彼は諸星大に対して怒り狂っていた。元々裏切り者ってだけでも許せないのに、友人を巻き込みやがったと。大切な人を危機に追いやったと。

お姉ちゃんが彼の中で"身内"のカテゴリに入っているのは、素直に嬉しかったわ。……でも、部屋の中で殺気をばら撒くのはやめてくれないかしら?直接向けられてないのに心臓が止まったかと思ったわ……

かつて、ケーキを蹴り飛ばしたジンに対して彼は殺気を飛ばしていたけど、その時の比ではない程の殺気が部屋中を暴れまわっていた。……迸る殺気でガラスが割れたように見えたのは、私の見間違いよね?漫画じゃあるまいし……。

 

 

 

 

 

▼月◇日

 

ここしばらくは研究に次ぐ研究で、ロクに寝る暇もなかった。……日記を書くのも、2年振りかしら。本当に久しぶりね。

 

 

 

"あの方"たってのお望みである、例の薬。その試薬が完成した。

 

ラットでの実験は終了。もう2、3種類くらい別の動物で試したら、後は人間での臨床実験まで持っていける。

 

これが完成すれば。間違いなく大きな功績となる。……裏切り者予備軍の一人や二人、その罪を容易くもみ消せるだけの力を、私が手に入れることが出来る。

 

 

 

……彼には借りを作りっぱなしね。この2年、彼は組織に睨まれながらもお姉ちゃんを守り通してくれた。"ラム"も随分と力を尽くしてくれたらしい。……尤も、"ラム"の場合は俺に借りを作れるからだろう、と彼は言っていたけれど。

 

この借りは、たとえ一生かかっても、返しきれるか分からない。たった一人の、大切な家族を守ってくれた貴方に、私は感謝してもしきれないわ。

 

 

 

ありがとう、アル……!!

 

 

 

私も頑張らなきゃ。お姉ちゃんを守り切るまで、あと数歩。私は、駆け抜けてみせる……!!

 

 

 





ピンガ来訪時の一幕

志保「フン!」
アルマニャック「イギギギィェェェオオオアガガガガギャババァァァァ……」
ピンガ「」ガタガタガタガタガタガタガタガタ



これにて原作前のお話は終了です。次回は登場人物紹介を挟み、いよいよ原作へと突入していきます。



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