ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」   作:ていとくン

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ちょっと週末忙しかったので、更新がいつもより遅くなりましたね。4日空いたのは初めてかな?
投稿時間間違えてしまったので、一旦消しました。失礼しました。

今回で宮野姉妹編は〆となります。

それと一つだけ。今回初登場の人物は、全編オリジナルです。独自設定100%です。解釈違いありましたら笑って流してください。



断じて行えば鬼神も之を避く

 

 

 

「おいおい……アルの奴、無事なんだろうね!?」

「多分、大丈夫。組織の医者は……優秀」

「ならいいんだけど……まったく、今回の仕事は寝覚めが悪いったらありゃしない」

 

 

 

血まみれで倒れたアルマニャックが、バーボンとキュラソーの二人がかりで運ばれていったところで、映像が切られた。

コルンとキャンティがアルの身を案じる横で、ベルモットは呆れた表情を隠さない。

 

 

 

「貴方達、流石に絆されすぎじゃない?一体いつから組織は仲良しグループになったのかしら」

 

 

 

数年前まではもっと殺伐としていた筈。コルンとキャンティは元々よくつるんでいたが、逆に言えばその程度。たった数年でよくもまぁここまで変わったものだと感心すら覚える程だ。

一方、軽く嘲られた側の両名は不満を露わにする。

 

 

 

「絆された?何を言ってるんだい」

「任務に支障、出してない」

「あらそう?それにしては随分とアルマニャックに入れ込んでるみたいだけど。まさか、友情だなんて言い出すんじゃないでしょうね?」

()()()()()()()()()()()。アイツは友達だからね、心配くらいするだろう?」

 

 

 

今度こそベルモットは驚愕する。狙撃手としては有り得ない程の血の気の多さで名を馳せていた、あのキャンティからそんな台詞が出てくるとは。

 

 

 

「組織の一員としての自覚すら忘れてしまったのかしら。私達は裏の住人よ?それが友達ごっこなんて」

「アル、言ってた。表も裏も、善も悪も拘らない……()()()()()()()()()()、それが本物の悪党」

「そうさコルン。アタイらは根っからの悪党。なら、誰かの顔色も、世間が決めた善悪も関係ない。やりたいことを、やりたい時に、やりたいようにやるのさ」

「アルと飲む酒、美味い。だからアイツ……友人」

「アタイもさ。アルと一緒にいるのは楽しいからね。だから大事にする、それだけさ」

「…………あぁそう。勝手にしてちょうだい。任務にさえ支障を出さなければ何でもいいわ」

 

 

 

付き合ってられない、そんな様子でその場を後にするベルモット。

その裏で、彼女は思考を巡らせる。

 

(たった数年で、あの二人をあれほどまでに変えるなんて)

 

裏社会にいる者は皆総じて我が強い。だからこそ裏まで堕ちてくると言ってもいい。

そう、裏社会に身を置くような人間が、他者から容易く影響されるなど、そうそうあることではない。そんな半端者は長生き出来ないと言った方が正しいか。

だが、キャンティとコルンはどちらも一流の狙撃手だ。半端者とは程遠い。

ならば、そんな連中にさえ影響を及ぼし、変えてしまう者がいるとしたら、それは一体何者なのか。

 

(アルマニャック……今回の一件といい、組織にとって劇毒になるかもしれない)

 

ただ、彼に関しては、"あの方"でさえ気に入っている節がある。ただ危険を煽ったところで今更だろう。

どう報告したものか、ベルモットは一人頭を悩ませていた。

 

一方彼女の悩み事など知りもしない二人は先程までのアルマニャックの行動について愚痴を吐いていた。

 

 

 

「まさか……本当に逆らうとは、思ってなかった」

「ホントあのバカ!見てるこっちの胃がキリキリしちまう!おまけにあんなにバカスカ撃たれちまって……意識が戻り次第お説教だよ!コルン、アンタもしっかり言ってやんな!」

「ああ。あんな生き方……命、足りない」

「全くだよ!」

「アル……大丈夫かしら」

 

 

 

先程まで人質として捕らえられていたキールが不安を口にする。二人の顔が一瞬曇るも、キャンティは気丈に応える。

 

 

 

「さっき心配しちまったアタイが言うのも何だけど、あの程度で死ぬようなヤワなタマじゃないだろ、アルの奴は」

「アルが死ぬところ……想像出来ない」

「それは私もそうだけど、私は彼が傷を負う姿すら想像出来なかったわ。でも、彼は銃弾を何発も食らって……」

「そりゃ……」

 

 

 

彼らにとって、アルマニャックはこと武力面においては絶対の存在だった。彼が負けるところも、傷を負ったところさえ、今まで見たことはなかった。

それが今回いきなり血溜まりに伏したのだ。内心誰もが不安に思っていた。

 

 

 

「医務室、行くか?」

「……そうね、ここでじっとしているよりかはその方がいいわね」

「仕方ないね。アタイらにここまでやらせて……治ったら何をさせてやろうか」

 

 

 

結局三人連れ立って医務室へ向かうこととなった。

向かう道すがら、キャンティはキールに質問を投げかけた。

 

 

 

「そういえば、ベルモットじゃないけど、アンタ随分アルに入れ込んでるじゃないか。何かあったのかい?」

「入れ込むなんて、別にそんな……」

 

 

 

僅かに言い淀んだキールは、しかし首を打って先の言葉を否定する。

 

 

 

「いいえ、そうね。入れ込んでるのかもしれないわね。……私が"キール"になって4年、一番任務を共にしているのが彼なの。助けられた事だって一度や二度じゃないし、命を救われたこともある。だから、無事でいてほしいわ」

「へぇ、そうかい」

 

 

 

そちらから聞いておいて淡白な返答だな、とキールは思ったが特に何も言わず。

以降は会話らしい会話もなく、黙々と歩く三人。ふと、キャンティが囁やきを零した。

 

 

 

「……何でアタイが()()()じゃないんだよ」

「?何か言った?」

「別に。……アンタの()()が羨ましいって言っただけさ」

「位置?」

「…………何でもない、忘れな」

 

 

 

それきり、彼女は口を噤んだ。

何に対して苛立っていたのか、キャンティは口にしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャン、ガシャン

 

ガシャン、ガシャン

 

ガシャン、ガシャン

 

 

 

長らく使われておらず、埃がうっすらと積もっているガス室。

中には、片手を手錠でパイプと繋がれた一人の女性。

彼女の名前は、宮野志保。"シェリー"のコードネームを与えられた彼女の胸中を占めるのは、罪悪感と絶望。

 

研究に進展が見られない自分への見せしめとして、姉が消された。そして、研究を止めた自分を守る為に、アルマニャックは血の海に沈むこととなった。

どうやらピンガは彼を生かすつもりらしいが、それは決して朗報ではない。

今後彼は、奴隷のように酷使され続けるのだろう。「シェリーを死なせたくなければ言うことを聞け」と脅されて。

自分一人などの為に、組織相手に啖呵を切ってくれた彼のことだ。その脅しはさぞ有効であろう。

 

そう、全て自分がいるせいだ。大事な家族が死に、大切な人が死に瀕しているのも、これから暗黒の未来が待ち受けているのも、全て自分が存在しているせいだと、シェリーは考えてしまっていた。それを否定してくれるだろう人物の姿は、ここにはなく。

ガス室内部には、彼女が手錠を引っ張る金属音と、啜り泣く声が響いていた。

 

 

 

「うぐぅ、ひぐっ、うぅぅぅぅ………!ごめんなさい、ごめんなさい……!!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………!!」

 

 

 

姉が、宮野明美が殺された。それが不幸の底だと勝手に思い込んでいた。

 

違った。()()()()()()()()()()

 

今回アルマニャックが重傷を負った。そしてこの先、使い勝手の良い兵力として死ぬまで使い潰されるだろう。……己の軽はずみな行動のせいで。

少しでも考えれば分かる筈だった。自分達姉妹を守るべく尽力してくれた人間が、自分が殺される段になったらどのように行動するかなど。

そこにさえ考えが至らず、サボタージュなどしていた自分を、彼は一体どんな気持ちで見ていたのか。

ここまで愚かな自分を、それでも守ってくれた彼に対して、感謝の気持ちとそれを遥かに上回る罪悪感が止め処なく湧き出てくる。

 

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……!!私が、貴方を巻き込んでしまった……このままじゃ、本当に殺されてしまう……私のせいで……!!」

 

 

 

最早彼女は自分こそが一番信じられなかった。何をしても、何をしなくても大事な人から巻き込んで死なせてしまう。自らは無事なまま。そんな己こそが一番罪深い。

 

いっそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

自分さえいなくなれば、アルマニャックを縛る枷はなくなる。今回の一件でそれなりに重い処分が下されるだろうが、きっとそこで終わる筈だ。でなければ組織に逆らった時点で彼は消されているに違いないから。

 

そこまで考えた彼女は、白衣の懐から一粒のカプセルを取り出す。

赤と白のカプセルに入った薬品の名は、APTX4869。……シェリーが開発していた、証拠が残らない毒薬。

 

思えば、これを開発した時点で自分は罪人だったのだと彼女は悟った。自分が作りたかったのは毒薬ではなく、使用も組織が勝手に行っていたことではあるものの、自分が作った薬で多くの人間が殺された事実は変わらない。

自分も、立派に組織の一員だった。

 

 

 

「最期まで、貴方には迷惑をかけっぱなしだったわね。……今更だけど、巻き込んでしまってごめんなさい」

 

 

 

自分の死を以て、全てを終わらせる。

 

彼女は意を決して、薬を飲み、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと目を開ける。病院特有の白い天井と、自身に繋がる点滴が視界に入った。

 

 

 

「……死んだかと思ったんだがな」

「……信じられない。あれから1日経ってないのよ?何で意識がある訳……?」

 

 

 

独り言に応える声。視線を向けると、そこにはベルモットが立っていた。信じられないような顔でこちらを見ている。

そのまま周囲に視線をやると、他にも幹部がおり、自分を見下ろしていた。

ジン、ウォッカ、キャンティ、コルン、バーボン、キール、ベルモット、キュラソー、ピンガ。……あの時あの場所にいた幹部全員が揃っていた。

 

 

 

「だから言ったろ。アルなら直に目を覚ますとな。……俺特製の睡眠薬を原液で打たれても動けた奴だぞ?コイツを1日寝かせられる麻酔なんかこの世に存在しねぇよ」

「だとしても重傷よ?普通は昏睡状態な筈……」

「じゃあ聞くが、コイツは果たして普通の人間か?」

「……呆れた。そんな理由で、よくもまぁ私達全員を集めたものね」

「そんなことはどうでもいい。どうせまた眠りにつくんだ。永遠の眠りにな……とっとと尋問をするぞ」

 

 

 

ピンガとベルモットのやり取りを強引に切り、一歩前に踏み出すジン。最後にアルマニャックが負わせた傷は未だ治らず、手には包帯の痛々しい痕がある。そのせいもあってか、彼の視線はいつも以上に冷たく、鋭い。

 

 

 

「てめぇが仕切ってんじゃねぇよジン。コイツは俺の獲物だぞ」

「そうだぞジン。俺を倒すという大手柄を上げたのはピンガだ。お前の出る幕じゃない」

「黙れガキ共。裏切り者の処断は俺の領分だ、口を挟むな」

「お?なんだジン、苛々してると思ったらお手々を怪我しているじゃないか。痛い痛いだな。大丈夫か?」

「今すぐ殺してやってもいいんだぞ……!」

「そうすりゃ"あの方(ボス)"に消されるのはお前だよジン。聞きたいことがあったから生かしてたんだろう?最初から俺を殺す気なら、俺は今この場にいねェんだからな」

 

 

 

今アルマニャックは重傷患者としてベッドに寝かされ、その周囲を名だたる幹部達複数名に取り囲まれている状態だ。ジンやウォッカに至っては銃口を突きつけてさえいる。

絶体絶命という言葉すら生温い状況で何故要らぬ喧嘩を売るのか。キールは真剣に考え始め、キャンティとコルンは額に青筋を走らせている。

 

 

 

「いい加減にしなこのバカアル!ただでさえ組織の決定に逆らったがばかりにそんな有り様なのに、要らん喧嘩なんかこさえてるんじゃないよ!」

「うぉっ、いきなり怒鳴るなよキャンティ。びっくりしたぜ」

「黙りな!こっちがどれほど心配したと思って……!これ以上無駄口叩くなら、アタイが縫ってやるからね!」

「あ~、心配かけたのはごめん。……ん?いやまて今回に限っちゃ先に喧嘩売ったのはジンの方じゃ……」

「返事!!」

「い、イエスマム!!」

 

 

 

キャンティの気迫に思わず背筋を伸ばすアルマニャック。それを見た大半の幹部達は白けた顔をしている。

 

 

 

「あ~、キャンティのおかげで場が整ったな。んじゃ、準備は出来たぜ、ラム」

『えぇ。キャンティには後日金一封を進呈しましょう。して、アルマニャック。体調は如何ですか?』

「ぼちぼちだ。まァあと数日もすりゃ問題なく動けるだろうよ」

『…………銃弾を8発食らったと聞いているのですが。1発は心臓をかすめたとも』

「掠っただけなら問題ないだろ。……そろそろ本題に入ろうぜ。シェリーはどうなった?」

『えぇ、その事で貴方に聞きたいことがあるのですよ』

 

 

 

筋力だけではなく、回復力まで怪物なのかと内心慄きつつ、ラムもまた話題を切り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シェリーが()()()()()。心当たりは、ありますか?』

「………………………………は?()()()?」

 

 

 

相変わらず分かりやすい男だな、とラムは苦笑する。いちいち見なくとも分かる。今アルマニャックはとびきり呆けた顔をしている筈だ。となると本当に心当たりはないのだろう。

意外だった。シェリーが逃げたと思われる時間帯に彼は手術が終わったばかりだった以上、直接何かをしたわけではないことは明白だが、万一の際の脱出手段等は何かしら授けているものだと思っていたからだ。

 

 

 

 

『ピンガ、ガス室の内装をアルマニャックに見せなさい』

「了解。ほらよ」

『貴方が倒れた後、彼女はこの部屋のパイプに手錠で繋がれていました。それが数時間前、様子を見に行ったところ……』

「影も形もなかったと。……通気孔は?ダストシュートもあるじゃんか。ここから逃げたんじゃないの?」

『写真だと分かりづらいですか?元々そこはガス室、大の大人が入って逃げられるような大きさはしていません』

 

 

 

(……()()()?)

 

何かが頭に引っかかったアルマニャックだが、それを即座に消し去った。この引っ掛かりこそが、恐らく志保が逃亡に成功したカラクリであり知られてはならないタネだと、直感で察したから。

 

 

 

「じゃあ分からん。お手上げだ」

『貴方があれだけ大事にしていたシェリーに、逃亡手段を授けていないとは思えないのですが』

「逆だ、()()()()()()()()()()()()()。……シェリーの力じゃ、この施設から逃げたところで先がないし、何より逃げ続ける生活なんざ送らせたくなかったからな」

『……成る程、貴方が彼女に出世を促していたのはそういう事情も込みだったと』

「そうだ。どうせ逃げられないならせめてのし上がれと、俺を顎で使える位になれば、誰もお前を脅かすことなど出来なくなると。彼女が"シェリー"になる前から、俺はそう言っていたんだ」

 

 

 

筋は通っている。声を聞く限り嘘はついていないと判断出来るし、周囲の幹部達も何も言わないことから、挙動や表情に不審な点はないのだろう。

であれば、いよいよ本題に入るしかない。……即ち、シェリーの今後について。

 

 

 

『分かりました。では次の件に行きましょう。……シェリーの今後についてです』

「彼女の追跡、捕縛、抹殺……その他あらゆる手段で彼女を組織に戻そうとする試みに、俺は一切助力しない。何なら抹殺については妨害する」

『……貴方は、今自分が置かれている状況が分かっているのですか?』

「おう、俺の命はアンタの掌の上、そうだろ?」

『……この件は"あの方"たっての命令です。これに逆らえば、次こそ貴方は処分されるかもしれません。それでも、変わりませんか?』

「変わらんね、俺は仲間を売るつもりはない。それに、俺はもう、最早"()()()"()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、ラムの思考は完全に停止した。それだけの衝撃だった。断固たる意志を感じることもそうだが、その発言の内容が常軌を逸していた。

"組織"の頂点は"あの方"を置いて他になく。そして何より、裏切りを絶対に許さない。

鉄の掟と血の制裁。これこそが曲者揃いの組織をまとめ上げ、曲がりなりにも秩序をもたらす秘訣となっている。

それを分かっていながら、満身創痍の彼は多くの幹部に囲まれた上で尚も言い切ったのだ。ラムの理解を、完全に超えた行為だった。

 

 

 

『……死にたいのですか?』

「自殺志願な訳じゃない。ただ、命より大事なものがあるってだけだ」

『シェリーが、そこまで大事ですか』

「それもあるが、別に俺は今のシェリーの立場にいるやつが他の仲間でも同じことをするさ。それこそラム、アンタだったとしてもな」

 

 

 

別に特段シェリーに拘っている訳では無いと、彼は言う。

では何故、何が彼をここまで駆り立てるというのか。

 

 

 

「俺は不義理や裏切りを許さない。そして、今回先に不義理を働いたのは組織だからだ」

『……宮野明美のことですか』

「そうだ。宮野明美と宮野志保、彼女らはお互いに人質だった筈。シェリーは研究員として優秀な働きを示していたにも関わらず、姉が殺された。これが裏切りでなくて何だと言うんだ?」

『彼女は組織から脱退を目論んで……』

()()()()、の間違いだろ。彼女は筋を通そうとした。それを切り捨てたのは"組織"だ」

 

 

 

これ以上は本当に危ない。アルマニャックと親しくしていた者達が何とか彼の口を塞ごうとするが、彼はそれを目線一つで制した。

 

 

 

「スコッチの時は、裏切ったのは彼の方だった。だから嫌だったけど、本当に嫌だったけど、組織の命令に従った。だが宮野明美もシェリーも、先に不義理を働いたのは組織の方だ。明美さん亡き今、残ったのはシェリーだけ。なら彼女は殺さないし殺させない。"あの方"なんざ知ったことか。裏社会にも通すべき筋がある筈、それすら弁えない奴なんざ蚊トンボも同然。そんな奴の命令なんざ、誰が聞くかよ

 

 

 

誰も、何も言えなかった。組織に対して忠誠心を持っていない幹部ならいる。面従腹背を地で行く者や、捜査の為に潜り込んだスパイなど、挙げればキリがない。

だがそんな者達でさえ、"あの方"へ唾吐くような発言はしなかった。当然だ、誰だって好き好んで消されたくはない。

 

彼は今、()()()()()()()()()()()

 

そして、それに最も早く反応したのはジンだった。

 

 

 

「なら、もう殺してもいいよな?」

「まだ俺の殺害命令は出てないだろ?」

「待つまでもねぇな。"あの方"への反逆を口にしたんだ。生かしておける訳がねぇだろうよ……!」

「お前に俺が殺せるのか?引き金引くより俺が避ける方が早いぞ?俺が死ぬのが先か、弾がなくなるのが先か、試してみるのも一興かな?」

「ズダボロの体でそこまで吠えたことは褒めてやる。安心しろ、一撃で終わらせてやるよ。俺は優しいからなぁ?」

 

 

 

どちらも凶悪な笑みを隠さず、濃密な殺気を撒き散らしている。部屋にいた面々は、温度が急速に下がった錯覚を覚える。

ジンに次いで再起動を果たしたピンガが舌打ちを一つ、二人を止めようとした。その時だった。

 

 

 

「何二人で盛り上がってやがる。まだ指令は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―蚊トンボと来たか―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に聞こえた音声に、全員の脳裏に疑問符が浮かんだ。誰の声だ?互いを見回すも、皆首を振るばかり。

そもそも、どこから聞こえた?

 

 

 

―長く生きてきたが、虫けらに例えられたのは初めての経験だ―

 

―物を知らぬ白痴でも無し。壁の高さを知った上で尚も吠えるか―

 

―先の戦いといい、つくづく常識を外れた男よ―

 

―屈辱より、好奇が勝る―

 

 

 

どうやら部屋のスピーカーから響いているらしい。ラム同様に加工された音声は、ラム以上に温度や色を感じない、あまりに無機質な声だった。

誰もこの声を聞いたことはなく。だが、この場でラムだけは、この声に心当たりがあった。

 

(まさか、いや()()()()()!肉声ではないとはいえ、()()()()()()()()……!)

 

 

 

『まさか、いや何故、貴方が……』

 

 

 

―ラム―

 

―今は、私が話をしているのだが?―

 

 

 

『……ッ、失礼しました……!』

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

 

 

ことここに来て、居並ぶ幹部達は声の主を察知した。

組織の次点、"あの方"の右腕として辣腕を振るうラムがへりくだる相手など、この組織には()()()()()()()()()()

だが、誰もが驚愕を受けていた。たかが幹部一人の処遇を決める、その程度の盤面で出てくることなど前例がない。そもそもここ数十年、表どころか裏からさえ完全に姿を消していた程の御仁だ。

特に、直接指令を受ける立場のジンや、寵愛を受けるベルモットが受けた衝撃は大きい。

だが、その驚きを口にする前に、宣託が降りてきた。

 

 

 

―ジン、しばし銃を降ろせ。話がしたい―

 

「……はっ」

 

 

 

あのジンが素直に言うことを聞いた。そればかりか、声の主に対する敬意すら感じられる振る舞いに、他の者達はまた驚きを隠せない。

 

 

 

―アルマニャック―

 

「……何だ?」

 

 

 

あくまで普段の振る舞いを変えないアルマニャック。だがその背中には、一筋の冷や汗が軌跡を描いていた。

 

 

 

―何故、義理にそこまで拘泥する―

 

「それが俺の生き方だからだ。そんなこと聞いてどうする?」

 

―お前の行動言動、全てが自身の生存を度外視したもの―

 

―だが、それは生物としては大きな矛盾。全ての生命は己の存続に重点を置くもの―

 

―無論、中にはそういう事例もあろう。だがそういった者には須らく「動機」がある。身を焼き焦がす程の、強い()()が―

 

―お前の「動機」は何だ。何がお前を、そこまで死に駆り立てる―

 

―私は、それが知りたい―

 

 

 

未だかつて無い事態を前に、この場にいる全ての目がアルマニャックを注視している。

それらを意にも介さず、彼は思索していた。これから話す言葉によって決まるのは、己の運命のみに非ず。シェリーの命運もまた定まることだろう。下手なことは言えないが、元より偽りは得意ではない。……少なくとも、この声の主相手に通じる程の技量はない。

 

ならば悩むだけ無駄。正直に隠し事なく全て話してやろうじゃないか。

いつも通り覚悟を決めたアルマニャックは口角をぐいと上げる。

 

 

 

「あんたの言葉を借りるなら、()()()()()()()()()()()

 

―義理が、か?―

 

「…………多分7歳の頃、歳上の同僚にパンを一欠片、分けて貰ったんだ。誰かに物をもらったのは、初めての経験だった。次の日、今度は俺がパンを一欠片そいつにくれてやった。借りを作りたくなかったからな。そしたら、そいつは笑って礼を言ってくれた。…………それが、俺の原点だ」

 

―続きを―

 

「俺の素性は知っているよな?少年兵として戦場を駆け、終わったら仲間同士で食料の奪い合い。そんな日常が、あの日を境に変わったんだ」

「自分以外の全てが敵だった。隣で戦っている奴でさえ例外じゃない。そんな世界で、誰かに親切にしてもらえたことがどれだけ嬉しかったか」

 

―それだけの為に、お前は今の生き方を選んだのか―

 

「そう言えるってことは、つまりあんたは望まれて生を受け、何不自由なく育った証だな。羨ましい話だ。()()()()()()()()()()。だからあの日生まれて初めて、己の存在を肯定してもらえたんだ。俺は生きていていいんだと、そいつに認めてもらえた。……尤も、そいつは割とすぐ死んじまったがな」

「俺があの日パンを返すことを選んだから、俺はあの笑顔に出会えたんだ。自分の渇望を知れたんだ。だから俺は義理や恩義を重んじる。人から受けた施しは決して忘れないし、仲間の命を見捨てない。そうやって俺はあの戦場を最後まで生き延びたし、それこそが唯一、俺の餓えと渇きを癒やしてくれると知ったからだ

 

 

 

俺の話はこれで終わり、そうアルマニャックは締めくくった。誰も言葉を発さず、必然部屋には痛い程の沈黙が満ちる。

どれくらいの時間が経っただろうか。再び無機質な声が聞こえた。

 

 

 

―無欲よな。目に見えぬ、彼程にささやかな物の為に、お前は死へと向かうのか―

 

「欲の形は人それぞれだ。欲しい物もまた同じ。それに、俺はかなり()()だと思うぜ」

 

―ほう、その理屈は?―

 

「だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。欲求を満たすのに他者の存在を前提としているんだからな。……そういう意味では権力と一緒さ。皆に認めてもらえて初めて、権威は力となる」

 

―成る程、一理あるな―

 

「欲望が己一人で完結しない。自分が満たされる為に誰かを使うんだ、これほど強欲なことはないだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―呵呵。成る程成る程。お前はそう捉えているのか。確かに、お前は業突く張りな男だ。裏の世界で最も手に入りづらいものを、求めて止まないのだからな―

 

「そういうことだ。んで?もう俺から喋ることはない。シェリーの処遇は、俺の今後はどうなる?」

 

―求めるのはその順序か。……良かろう、()()()()()()()()()()()()()()()。久方ぶりに、私に好奇の念を湧かせた。その褒美と思えばいい―

 

「許可、か」

 

―不満か?―

 

「そりゃ、許可なんか得るまでもなく生きるのは自由だ、って言いたいが、今の俺にはその力もないからな。甘んじて受け入れるさ」

 

―結構。身の程を知るのも成長の一歩だ、小僧。精々これからも組織に忠誠を尽くすがいい―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音声が途絶えた。静寂が支配する部屋の中で、最初に動きを見せたのは、やはりジンだった。得物を懐に仕舞い、部屋を後にしようとする。その背中に、ベルモットが声をかけた。

 

 

 

「あら、どこへ行くの?」

「帰る。そのガキの始末が無くなった以上、俺が留まる理由もない」

「えらくせっかちね。"あの方"の決定がそんなに不満?」

「黙れ。行くぞウォッカ」

「へ、へい、兄貴!」

 

 

 

ウォッカを連れてジンが部屋を出ていったのをきっかけに、一気に部屋がざわめきに満ちる。

いの一番にアルマニャックへ声をかけたのはキールだった。

 

 

 

「肝が冷えたわ……もうこういうのはやめてちょうだい、アル」

「いやすまん。でもこればっかりはなァ……同じような盤面になったら、多分同じことをすると思うぞ」

「思うぞ、じゃないんだよ!一体どこまで死に急ぐつもりだい!アンタがいつか組織に消される時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

「後始末、押し付けるのは……卑怯だぞ、アル」

「あ~それは……うん、すまんかった」

「安心しろよ、そん時は俺がキッチリ殺してやるから」

「俺が同じ相手に二度も負けるとでも?あまりナメてくれるなよピンガ」

「なら私も混ぜてもらおうかしら」

「ざけんなキュラソー。コイツは俺の獲物だ」

 

 

 

がやがやと騒がしいベッドの横で、バーボンとベルモットが密やかに会話をしていた。

 

 

 

「ベルモット、貴方は"あの方"と言葉を交わしたことはありますか?」

「さて、どうかしら。貴方はどっちだと思う?」

「そう簡単には教えて頂けませんか、残念です」

「一つ忠告してあげるけど、"あの方"に対して探り屋の本性を発揮するのは止めた方がいいわよ」

「分かっていますよ。僕は彼ほど勇気がある訳では無いので、身の程はきちんと弁えますとも」

「あれを勇気と呼んでいいのか判断に迷うけれどね」

 

 

 

バーボンがアルマニャックを見る時特有の切なげな顔を、ベルモットは見ないふりをした。この数分で、えらく精神をすり減らした。流石の彼女も、他人を弄ぶ余裕はなかった。

 

 

 

『アルマニャックの監視は無用になりました。この数日で仕事が滞っているので、皆さんさっさと解散して任務に当たってください』

 

 

 

ラムの言葉と共に、アルマニャックを除く全員の端末が震える。途端に空気がパキリと冷えた。全員の目が怜悧な光を帯びる。

 

 

 

「なんか、俺だけ休んでるみたいで悪いな」

『ご安心を。今回のペナルティも込みで、治った後にはそれなりの仕事を用意しておきます。しばらくは休めると思わないでくださいね?』

「げ」

「ざまぁないね、アル。それが終わったら今度はアタイらに付き合ってもらうからね」

「……はぁ~分かった分かった。甘んじて受け入れますよ」

 

 

 

全員が立ち去った後、ラムは改めてアルマニャックに声をかける。

 

 

 

『思えば、貴方の渇望の話を聞いたのは初めてですね』

「そういえば話したことはなかったか。意外かな?」

『内容そのものに意外性はありません。組織に刃向かってまで貫こうとする拘りの強さは想定外でしたが』

「難しく考えることはない。欲の器に穴が空いた人間は、欲でなければ満たされない。同じように、心に穴が空いた人間は心でなければ満たされないのさ」

『貴方は、後者だと。成る程、参考になりました。…………最後に、一つだけ』

「なんだ?」

『結果的に、今回貴方は助けが入ったことで命を拾いました。……もし仮に、それがなかったら。貴方はどうするつもりでしたか?』

「ジンだけは道連れにしてたよ」

 

 

 

迷いなく答えたことに、ラムは僅かに驚く。その内容についても。

 

 

 

『てっきり、貴方はピンガを一番評価しているのだと思っていましたが』

()()()()()()()。殺し屋として、あるいは志保の未来を考える上で、一番危険なのはジンだ。奴が生きている限り、彼女に安寧はない。……本当はベルモットも仕留めたいが、この体であの状況となるとそこまでは欲張れないだろ。一人だけ選ぶならジンだな」

『成る程、危険性ですか。それなら理解出来ますね。彼は一際嗅覚が鋭いですから。……やはり己の命は度外視なのですね』

「あの盤面で自分の命を優先するとか、ここまで意地張った意味ないでしょ!」

『違いない』

 

 

 

どちらともなく笑いが零れた。ひとしきり笑った後、アルマニャックは謝罪の言葉を口にする。

 

 

 

「今回は済まなかった。旦那が板挟みになっているのは理解してたが……それでも、俺には譲れなかったんだ」

『……過ぎたことを責めるつもりはありませんし、貴方は同じ場面が来たら同じ行動をするでしょう?謝罪は不要。罪悪感があるなら行動で示してください』

「分かってるさ。とっとと治して戦線復帰するよ」

『結構。では私もこれで。……お大事に』

「フッ、ありがとよ、旦那」

 

 

 

 

通信が途絶え、今度こそ部屋に静寂が訪れた。アルマニャックは目を瞑り、思いを馳せる。

 

(そうか……無事に逃げられたんだな。良かった、本当に良かった……!)

 

彼女に会うことは、もう二度とないだろう。自分が会いに行けば、せっかく逃げた彼女が危険に晒される。あくまで生存を認められただけであり、捕縛命令は撤回されていないのだから。

残念ではある。寂しくもある。だが、彼女の安寧に比べれば、己の感傷など屁でもない。

 

(どうか、元気でな……)

 

そのまま彼は、襲い来る微睡みに身を委ねた。

 

 

 





凄く難産でした。アルマニャック君が思った以上に強情だし、一連の話でどう風呂敷を畳むか中々納得が行くものが出来ず、気付いたら未知の登場人物が生えてました。

とりあえず、今自分が作れるものとしては一番納得が出来るものを形にしたつもりです。



Q.何故、"○○○"は出てきたの?
A.気まぐれ半分好奇心半分です。
そもそも"ジャバウォック"を勧誘する時点で、彼のイカれた戦闘ぶりに興味を示していました。
それがリアルタイムで見れるかもしれない、ということで何の気なしに今回の戦闘を眺め、その戦闘力に大いに満足していました。
あれほどの力を持つ男が敗北を突きつけられた時、何を語るのか。それに興味が芽生えてこっそり病室を覗き見していたところ、本編に繋がるといった形です。
年を重ねるにつれて「未知」に触れる機会はどんどん減っていきます。用心深く狡猾なお年寄りでも、安全圏から劇を眺められる好奇心には勝てなかったということで、どうか一つ。
ちなみに気に入られる確率とキレられる確率は半々です。キレられたら当然死亡なので、かなりの綱渡りでした。

次回は1〜2本ばかり閑話を挟もうかなと思っています。その次から本編を進めまるつもりです。



最後までお読み頂き、ありがとうございました。よろしければ、感想・評価・お気に入り登録の程よろしくお願いいたします。
特に感想は本当に嬉しいです。一話書くたびに楽しみにお待ちしています。何かを作る立場になって初めて知りましたが、感想って本ッ当に励みになるんですよね。どうかよろしくお願いします。
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