ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」   作:ていとくン

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9/27 16:00 日間ランキング75位
ありがたやありがたや……皆さんのおかげです!

あと、評価バーが満タンになりました!嬉しすぎる……皆さん、本当にありがとうございます!

☆10:通りすがる誰か様、とんも様、開店ガラガラ様
☆9:神崎百鬼丸様、Maya摩耶様、ファニー・ヴァレンタイン様、アイス4013様、taniki様、來霖様、トライデントシルバーホーンカスタム様、唐揚げ が 大爆発様、ヨッシーノブ様、ブーーちゃん様
☆8:機巧猫様

高評価を下さった皆様方、ありがとうございます!今後も皆様の応援を励みに頑張っていきますね!



今回は遂にコナン君、赤井さんが初登場です。ちょろっととはいえ、物語の主役を登場させるというのは、いやはや緊張しますね。

それと、今回のお話は全部繋げて書きたかったので、少し字数が多くなってしまいました。1万字超えたのは久しぶりな気がします。

追記:なんかタイトルがしっくり来なかったので変えました。



為せば成る

 

 

 

 

 

 

「聞こえるか?毛利小五郎……」

 

 

 

氷のように冷たい声が、盗聴器から聞こえる。コナンの蟀谷に、冷や汗が一筋走った。

 

(ジン!!)

 

 

 

「動くなよ……お前の背中は完全に取った……。その背広に風穴を開ける前に聞きたいことがある……。お前とシェリーの関係だ……」

 

 

 

(まずい……やはりジンは、おっちゃんと灰原、シェリーを結びつけてる!)

 

きっかけは、全く別の仕事の些細な事柄だった。

女子アナウンサーの水無玲奈。毛利小五郎が彼女から依頼を受けた際、彼女の自宅玄関に仕掛けた盗聴器が彼女にくっついてしまったのだ。……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

完全に想定外の事態だった。万一この盗聴器が見つかれば、直前まで会っていた毛利小五郎が、ひいてはその周辺人物が黒ずくめの組織に関与を疑われて消されてしまう。

最悪の事態を避けるべく追跡していたコナン達は、途中出くわしたFBI捜査官のジョディ達と行動を共にするも、ジンに盗聴器の存在を嗅ぎつけられてしまった。

どうにか追いつきこそしたものの、ジン達は既に毛利探偵事務所の向かい側に立つビルの屋上に到着し、布陣を敷いていた。事態は一刻の猶予もなかった。

 

 

 

「10秒くれてやる……答える気になったらそのイヤホンから左手を離して上に上げろ……」

 

 

 

まずい。どうにか奴らの誤解を解かなければならない。その為にも、まずは注意を引く。

キック力増強シューズのダイヤルを回す。威力を最大にし、サッカーボールを渾身の力で事務所の窓へ向かってシュートした。

足を振り抜いた、ちょうどその時。

 

 

 

ビルの天井を飛び跳ねて移動し、ジン達の元へ到達した一人の男が、コナンの視界に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルからビルへと高速で駆け抜け、隙間を飛び越え続け、アルマニャックはようやくジン達を視界に入れた。

ひときわ高く飛び上がろうとしたその刹那、彼の目に一人の子供が映った。

 

 

 

鬼気迫る表情で、とてつもない威力のシュートを放つ、一人の子供の姿が。

 

 

 

(いやいやいやいや、ガキが出せる威力じゃないだろ。もしかして……俺と同じ体質か?)

 

子供が蹴ったボールはものすごい速度で飛んでいき、毛利探偵事務所の窓ガラスに特大のクレーターを作った。

 

(…………え、なに、コロシ?あのガキ、サッカーボールであの探偵を殺そうとしてたのか?…………最近の子供、コワ……)

 

事実は全くもって違うのだが、遠目から見ているだけのアルマニャックに真相など分からず。

何より、今の彼に()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

(あぁ最悪だ、()()()()()()())

 

 

 

毛利探偵事務所に向かって左側。高層ビルの頂上から降り注ぐ、凍りつく程の鋭い視線。

何故これだけ熱い視線を向けられて、誰もそれに気づかないのか分からない。

 

そんなことを考えている間にも、ジンがつまみ上げた何かが狙撃された。

アルマニャックの着地と同時、コルンから銃を奪って構えていたジンがスコープを撃ち抜かれ、上半身に二発の銃弾を食らっていた。

 

 

 

「アル!」

「悪い、遅くなった」

 

 

 

キャンティの呼びかけに、声だけで応対する。視線も意識も、ビルから1ミリも離していない。

突然の登場に、ジンはしかめっ面を、ウォッカは驚きを隠せない。ベルモットも僅かに目を細めていた。

 

 

 

「アルマニャック!?どうしてここに……」

「キャンティから探偵狩りに誘われてたんだよウォッカ。さて、急で悪いが……状況を教えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウォッカから駆け足で状況を伝えられたアルマニャックは、露骨に眉を顰める。赤井秀一単体だけでも面倒な上、他にもFBIの捜査官がやって来るらしい。

 

(装備がロクにないのが痛いな)

 

今、アルマニャックが装備しているのは度重なる酷使で金属疲労を起こした死にかけの黒鍵4本と一振りのナイフのみ。愛用のリボルバーすら持ち合わせていない。

 

ここ2カ月ほど、アルマニャックは毎日戦場に立っていた。そこで主武装である黒鍵を湯水のごとく使っていた為、とうとう在庫が尽きてしまったのだ。

黒鍵はあまりに癖のある武器であり、アルマニャックの他に使う者がいない。それでも組織はそれなりの量を生産し、余裕を持ってストックしていたのだが、今回とうとうそれを使い切ってしまった。

加えて緊急の渡航ということもあり、彼専用の武装を密輸する手続きが間に合わなかった。

黒鍵に限らず、アルマニャックが使う得物はワンオフのものが多い。今回それが明確に仇となっている。

 

(リボルバーは密輸が間に合わず。村正も流石に刃毀れしてたからメンテに出しちまってるしなァ)

 

相手は赤井秀一。万全の準備をして戦いに臨まねばならない敵を相手に、自分の装備は極めて貧弱。その上、己のコンディションは連日の激務で最悪に近いときた。

 

 

 

 

 

 

迷わず撤退すべき。そう考えて、アルマニャックは自身を嘲笑った。

何を、腑抜けたことを考えているのかと。

 

(武器は足りねェ、人も足りねェ、飯も足りねェ時間も足りねェ。ないない尽くしの戦場で、それでも俺達は生き残ってきたんだろうが)

 

物資、装備、資金、手段、仲間。全てが潤沢に揃った組織にいる内に、随分とぬるま湯に染まってしまったようだ。

今あるもので戦う。今あるもので勝つ。今、出来ることをやる。そうやって自分達は生き残ってきたことも忘れてしまったのかと。

 

 

 

(これよりキツい戦場なんざ、いくらでもあった。……今一度立ち返れ、誰よりも生に飢えていた、あの頃に!)

 

 

 

意識を切り替える。世界を切り替える。自分を含めた全てを駆使して生き残っていた、あの頃の世界に。

 

 

 

そうして改めて、己の装備を確認する。

 

黒鍵4本、ナイフ一本。言うまでもなく、700ヤードを貫く武装とはならない。

 

やはり赤井秀一には足りない。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ただ、彼は一人ではない。仲間がいる。信頼に足る、優秀な戦友が。

つまり、鍵となるのは自分ではなく。

 

 

 

「コルン、キャンティ」

「なんだい!?」

「どうした?」

「俺の武装じゃ、赤井には届かない。今、奴に牙を剥けるのは、二人だけだ」

 

 

 

この二人をおいて、他にない。

 

 

 

「黒鍵、4本。ナイフ一振りで、3回は保つか……そこまでは弾ける。俺が盾になって時間を稼ぐ。二人で、赤井を斃すんだ」

 

 

 

そう言って、アルマニャックは歩き出す。その場にいる面々を背後に、赤井がいる方角へ向かい、正対する。自らが、盾となる為に。

そんな彼の発言に、二人は揃って同じ顔をする。怒りと、それ以上の悔しさを滲ませた表情を。

 

 

 

「……600ヤード。それがアタイらの最長記録。それもシミュレーションでだよ。650で、掠りもしなかった」

「ここからあのビルまで……700ヤードは、ある。俺達じゃ……届かない」

「じゃあ今届くようになればいい」

 

 

 

今度こそ、二人は怒りを露わにする。

 

 

 

「何を言ってるんだい!?狙撃で有効射程を10ヤード伸ばすのが、どれだけ大変か、アルは知らないだろ!?」

「そんな簡単に、出来ることじゃない。狙撃……そんな、単純じゃない」

「何故だ?だって、赤井は出来てるだろ」

「そ、れは……」

 

 

 

その先は言えない。自分に、自分達にその技量はないと。自分が、赤井秀一より劣っていることを、認めてしまうことになるのだから。

 

本当は分かっている。分かっているのだ。どちらが上か、なんてことは。それでも虚勢を張ってきた。あんなの大したことはないと。……あの男の恐ろしさを、凄まじさを、誰よりも分かっていながら。

だが、この盤面で虚仮威しを口に出来るほど、二人の脳は茹だっていない。

でも認められない。認めたくない。子供のような駄々をこねるしかない、不甲斐ない自分への屈辱と怒りに、思わず拳を握る。

だが、アルマニャックはそんな二人の苦悩すら、容易く超えてきた。

 

 

 

「赤井が出来るなら二人にも出来るだろ。……俺は、二人が赤井秀一に劣っているとは欠片も思っちゃいない。組織最優のスナイパーは、コルンかキャンティのどちらかだと、本気で思ってるぜ」

「…………………………過大評価だよ。アタイらじゃ、アイツには届かない」

「…………………………あぁ。俺達じゃ、実力……足りない」

 

 

 

アルマニャックは、本気だった。声を聞けば分かる。この場限りの発破じゃない。友人への世辞でもない。彼は本気で、自分達が赤井秀一を上回ると思っている。

仲間からの信頼を前に、それでも駄々をこねるなぞ、それこそ恥知らず。遂にキャンティとコルンは吐露した。認めたくなかった、事実を。

そんな二人の、血を吐くような苦悩を聞いたアルマニャックは、フッと笑った。

 

 

 

「赤井秀一と比べて、もし二人に欠けてるものがあるとしたら、そりゃ()()だな。意識の持ち方と言い換えてもいい。この一発を、何が何でも、死んでも当てるって覚悟だ」

「何を寝ぼけたこと言ってるんだい!そんなことで……」

「そんなことじゃあない、大事なことさ。肉体ってのは、存外心に引きずられるもんさ。……それに、俺が何回お前達と戦場を共にしてきたと思ってる。技能が足りてることなんざ分かってんだ」

「でも、シミュレーションでは……届かなかった」

「シミュレーションだからだろ。リハーサルは何度やってもリハーサル、本番じゃあない。だから、外したら死ぬって思って撃ってないだろ?当たらないのはそれが理由さ」

 

 

 

二人に背を向けている為、コルンとキャンティからアルマニャックの表情は見えない。ただ、自信満々に笑っている。そんな気がした。

 

 

 

「もう一度言う。二人なら出来る。幾度も戦場を共にした俺が保障する。技能は十分、装備も上々。あと必要なのは、覚悟だけだ。一射入魂ってな」

「アル……」

「俺の背中を預ける。その代わり、俺が二人の盾になろう。万全の一射が出来るまで、その準備の時間を稼ごう。だからやってみろ。今まで出来なかった、だからどうした。二人なら出来る、絶対にな!」

「「……!」」

「頼んだぜコルン、キャンティ。今ここで、700ヤードの壁を超えてみせろ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狙撃手の正体は赤井秀一だった。つまり、盗聴器を始めとする、今の状況は全てFBIの罠。準備を整えていない現状で、連中とやり合うのは得策ではない。

ずらかるぞ、そう言おうとしたジンは、自分の手元から銃を持っていくコルンと、既にうつ伏せになって銃を構えているキャンティを見て眉間に皺を寄せる。

 

 

 

「これを使ってくれ。俺の単眼鏡だが、スナイパーのスコープ仕様になってる。ないよりかはマシだと思う」

「ありがとう。……やってみせる」

「おォ、その意気だぜ」

「オイ、何をしていやがる。とっととずらかるぞ」

 

 

 

ジンが冷えた声で威圧するも、キャンティとコルンは揃って一瞥を向けるのみ。二人並んで銃を構えていた。不安定な立位ではない。本気で狙いを定めに行く伏臥位で、スコープを覗き込んでいた。

 

 

 

「聞こえなかったのか!ずらかるぞ!」

「悪いねジン、そいつは聞けない話なのさ。……アタイらは今から、赤井を殺すんだからね」

「何を……!」

「俺達、700ヤードに挑む。あそこまで言われて……引き下がれない」

「そうさコルン。仲間にああまで言われてイモ引いたら、女がすたるってもんさ。アタイはやるよ。やってやるさ……!」

 

 

 

その言葉を最後に、二人の目つきが変わる。

同じスナイパーだからこそ、ジンには分かった。今、この二人には自分の姿すら見えていない。本気の集中に入ってしまったのだと。

 

(つくづく余計なことをしやがる)

 

アルマニャックの背中を見て、思わず舌打ちを溢す。

あれだけ自分の指揮に従順だった二人が、テコでも動かなくなってしまったのはこの男が原因だ。

 

温くなった、ジンはそう考えている。アルマニャックが組織に入って6年、信頼だの義理だの腑抜けたことを抜かす輩が一部のコードネーム持ちにすら出てきてしまったのは遺憾を通り越して憤怒すら覚える。

見捨ててしまおうかと一瞬考えたが、この盤面で幹部3名が失墜するのは流石に戦力低下が甚だしい。

大きな舌打ちを一つ、ウォッカに指令を出した。

 

 

 

「おいウォッカ、下行って車を準備しろ!キャンティの方の車もな……いつでも出せるようにしておけ!」

「へ、へい、兄貴!」

 

 

 

キャンティのポケットからキーを抜き、駆けていくウォッカを横目に、3人を睨めつける。そこにベルモットが音もなく近づいてきた。

 

 

 

「いいの?時間がないわ」

「良かねぇが、仕方ねぇ。今後を考えると、ここで3人失うのは痛い」

「…………はぁ、組織はいつから仲良しサークルになってしまったのかしら」

「"あの方"にも困ったもんだぜ。あの時アルマニャックを殺しておけば、こうはならなかった」

「たらればの話をしても仕方ないわ。……探偵はどうするの?」

「放置だ。顔と名前、居所まで押さえた。必要とあらばいつでも殺れる。それより俺はこのバカ共を見張ってなきゃならねぇからな……!」

「分かったわ」

 

 

 

下へ降りていくベルモットをしばし見送った後、アルマニャックに釘を刺す。その声にはありったけの不快感が乗せられていた。

 

 

 

「一発だ。それでずらかる。てめぇが焚き付けたんだ、責任持って引きずってでも連れて帰れ。文句があるなら殺す。いいな」

「問題ない。()()()()()()()()()()。どのみち、今の俺の武装じゃ二発分の時間は稼げないからな。……お前も俺の後ろに回っとけ。死ぬぞ」

「黙れ。てめぇに庇ってもらうほど落ちぶれた覚えはねぇよ」

「そうかい」

 

 

 

いつの間にか抜いていた黒鍵を構え、腰を落とすアルマニャックをもう一度睨むと、懐からジッポを取り出し、ゴロワーズに火を灯す。

紫煙が肺を満たし、ニコチンが体を巡る。それを吐き出すと多少は気分が落ち着いた。

 

 

 

「これを吸い終わるまでに、片をつけてほしいもんだ」

 

 

 

ジンは、一人ぼやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消えていく、消えていく、消えていく。

 

周囲の景色が、消えていく。

世界の色彩が、消えていく。

心の鼓動さえ、消えていく。

 

狙撃に必要なもの、それ以外の全てが急速に遠ざかっていく。最早、隣にいるはずのコルンの存在すら感じ取れない。

 

(南南西から微風……1、いや……2クリック修正)

 

コンマ毎に、自らの感覚が研ぎ澄まされていく。それすら他人事に感じるほど、キャンティはスコープの先に見える景色に集中していた。

 

(な~る、確かに、これが最高の集中なら、今までの狙撃は注意力散漫なお遊びみたいなものだね)

 

僅かに苦笑が漏れる。……自分が初めて、狙撃銃を握った時の気持ちを思い出していた。あの時はたった数十メートル先の的を撃ち抜くだけの為に、今ほどに集中していた気がする。

 

いつしか、極限の集中をしなくても的に当てられるようになっていった。それは成長であると同時に、一射に全てを注ぐことが億劫になっていく退化でもあった。

だが今の自分にそんな甘えは存在しない。全てを込めて狙撃に臨む自分は、間違いなく成長しようとしている。自分の前に立ちはだかる壁に、挑もうとしている。

ここまで熱くなったことなど、いつ以来だっただろうか。原因など明白だ。

 

(戦友にあそこまで言われたら、やるしかないじゃないか。女を焚きつけるなんて……アンタは悪い男だよ、アル)

 

仲間の背中を預かることがどれだけの重圧か、キャンティは初めて知った。

自分がしくじれば、今自分の前で盾となっている男は死ぬのだ。自分の腕を信じて託してくれた男が、自分を守る為に鉄火の最前線に立っている男が、ただの骸となって地べたに転がるのだ。

 

(アンタは、これをずっと背負って戦ってたのかい。道理で折れない訳だよ)

 

震えそうになる指先を抑えられるのは、それ以上の歓喜があるからだ。

誰かから全幅の信頼を置かれることが、こんなにも嬉しいのだと、キャンティは初めて知った。

彼女もまた、裏社会で生まれ裏社会で育った。義理や道理、信頼など鼻で嗤うものでしかなかった。

アルマニャックに出会って、いつの間にか自分は変わっていた。

 

(温くなった?そんなことはないね)

 

シェリーの時だって、命令さえ入れば自分は最終的にキールを撃つつもりだった。仮にアルマニャックが組織と決定的に対立して討伐命令が出た場合、彼を仕留めるのは自分の弾丸であってほしいとも思っている。

だが裏を返せば、そういう事態にでもならない限り、義理や信頼を重んじることに何ら不都合はないということ。

自分は悪党だ。()()()()()()()()()()()()()

 

(見てなアル。アタイは、今ここで超えてやるよ。赤井秀一をね……!)

 

逸る心を落ち着ける。呼吸を整え、スコープの景色を元に微調整を重ねていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コルンは常に冷静だ。沈着冷静を地で行く彼は、基本的に戦闘で感情を揺れ動かすことはない。不測の事態にも慌てることなく敵を仕留める様子は狙撃手の鑑だ。

 

その彼の心は、未だかつてない程に熱を持って昂っていた。

 

 

 

コルンはあまり人付き合いが得意ではない。数ある武器から狙撃銃を選んだのも、狙撃とは基本的に孤独な戦いだからだ。他者に煩わされることが少ないこの兵種は、そういう意味でもコルンに最適だった。

 

それが、組織に来てキャンティに出会った。姦しく落ち着きのない彼女は、何故かコルンと馬があった。誰かと共に任務をこなすというのは、存外やり甲斐もあるのだと、初めて知った。

任務終わりに呑む酒も、誰かと共にすることでより美味くなることも、初めて知った。

 

 

 

そして、アルマニャックと出会った。

 

コルンにとってキャンティが初めての戦友なら、アルマニャックは初めての友人だった。酒場で会った彼とは、すぐさま意気投合した。そこで呑む酒も、美味かった。不思議な気分だった。

キャンティと合わさると途端に喧しくなるのは少々困ったところだが、それもたまには悪くないと思い始めていた。

 

初めて彼と任務を共にした時は、それはもう度肝を抜かれた。

人が、文字通り紙屑のように吹き飛んでいく。先程まで命だったものが、一面に散らばっていく光景は、まるで地獄のようだった。彼に蹴散らされる敵に同情さえした。

単騎で戦場に地獄を顕現させる、厄災の権化。それが自分の友人だったことに、恐ろしさと頼もしさを同時に感じたものだった。

 

 

 

ずっと孤独で、それを心地よく思っていた、当たり前だと思っていたコルンのモノクロな世界に、少しずつ色がさしてきた。

他者との交流に喜びを感じる機能が自分に備わっているなど、組織に入るまで思ってもみなかった。

今やアルマニャックはキャンティと並んで信頼に足る戦友。彼が生み出す地獄を幾度も目の当たりにしたからこそ、その実力の程をよくよく認識している。

彼こそ正に、組織最強の鬼札(ジョーカー)

 

そんな彼が、自分に背中を預けてきた。壁を超えてみろと、背中を押された。

心が、魂が、烈火の如く燃え盛っている。自分という人間は、こんなに単純だったかと僅かながら苦笑さえ漏れた。

思えば、挑戦なんて行為すら久しぶりだったかもしれない。自らの眼前に立ちはだかる壁を乗り越えた経験を最後にいつしたか、もうコルンには思い出せなかった。

 

(アル……俺から、狙撃、学んでる。今でも、成長……強くなろうとしている)

 

自分よりも一回り以上若い戦友が、今のままでも敵などいないであろう最強の存在が、自らに教えを請うてまで成長しようとしている。

読み書きを学び、知識を身につけるべく、日々多くの書物を読んでいることも知っている。

 

彼ほどの存在でも、前へ前へ進もうとしているのだ。彼と同じ戦場に立つのなら、()()()()()()()()()()()()、己も前へ進むことを止めてはならない。

 

(700ヤード……超えてみせる)

 

コルンは歴戦の名狙撃手だ。いくら心が昂ろうとも、脳髄は冷え切っている。沈着冷静が揺らぐことはない。

あくまで冷徹に、彼は狙いを定めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一本。

 

彼方のビルから飛来した銃弾を、黒鍵で弾く。甲高い破砕音と共に、弾いた黒鍵が砕け散った。

 

(やっぱり、2回は保たないか)

 

機関銃の銃弾すら弾くことが出来る黒鍵は、それ故に基本的には任務数回ごとの使い捨てを前提としている。

連続した任務の時や、軽い戦闘しかなかった場合は次の任務に持ち越すこともあるが、そういう場合は金属疲労による破砕に気を遣う必要がある。

今回持ってきた黒鍵は、いずれも複数回任務で使用し、既に限界を迎えている。一度でも狙撃銃の一撃を弾けたことをこそ褒めるべきだろう。

赤井秀一を相手にするともなれば新品を使いたかったが、ないものねだりをしても仕方ない。

 

 

 

二本。

 

ギャリィン、という音と共に黒鍵が砕け、銃弾が遥かに逸れた方向へ飛んでいく。

自分に当たらなければいい訳では無い。コルンとキャンティを守ることこそが目的である以上、普段行っている最小限のズレではなく、大きく進路を捻じ曲げなければならず、腕と武器にかかる負担は非常に大きい。

 

 

 

三本。四本。

 

立て続けに飛んできた銃弾を弾き、遂に黒鍵の残基が尽きた。

すぐさま残骸を放り捨て、懐からナイフを取り出し、しっかりと握って構える。

ここからが本番だ。二人が準備を整えるまで、赤井が放つ魔弾から護り続けなければならない。

 

額を、冷や汗が一筋流れた。

 

 

 

五発。

 

ナイフの腹を銃弾に添え、最小限の力でずらして受け流す。

刃の上を歩くかのような集中力を要される絶技。涼しい顔でやってのける彼は、しかし滝のような汗をかいていた。

 

2ヵ月半。実に70日以上、彼は毎日戦場に赴いていた。移動時間の大半は、次の任務の資料を読むことと武器の手入れに費やされた。

ロクに休みもなく戦場を駆け続けた彼の肉体は、ここに来て限界を迎え始めていた。

 

 

 

六発。七発。

 

二連発。しかも異なる方向へ撃たれた銃弾を弾くのはかなりの難易度だったが、アルマニャックは体を回転させ、一発目を弾いてから二発目を弾くまでの腕を戻すタイムラグを消すことで対応してみせた。

 

(流石は赤井秀一、厭な手を打ってきやがる)

 

過集中の代償か、頭痛が止まらない。それを押し殺すべく、悪辣に嗤ってみせた。

 

 

 

八発。

 

遂にナイフが逝った。見立てでは三発分が限度だった筈のナイフは、見事に四発の銃弾を防いでくれた。

 

(ありがとな)

 

砕け散った破片に礼を言う。この場面で稼いだ一発分の時間は、千金に勝る価値を持つ。

 

 

 

九発。

 

もう防げる手段はない。

 

(いや、まだだ)

 

手に持っていたのは、ナイフの柄。刃が砕けても、柄は無事だった。

銃弾の横腹に、思い切り叩きつける。大きな罅と引き換えに、明後日の方向へ飛んでいった。

 

 

 

今度こそ、装備は尽きた。

 

否。右腕と左腕、骨を使えばまだ一発は逸らせる。

どちらを先に捧げるか。それを考えていた、正にその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の背後から、二羽の飛燕が音を超え、空を斬り裂き飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コルンとキャンティは、奇しくも同じタイミングで引き金を引いた。

銃弾は空気を裂き、赤井へと向かい。

 

 

 

「どうだ?」

「………………俺の弾丸は、帽子を飛ばした」

「アタイのは………………頬を抉ったよ」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()

拳を強く握り締め、悔しさに歯を食いしばる二人。

それとは対照的に、アルマニャックは楽しげに笑っていた。

 

 

 

「ほら……言ったろ?当たったじゃねェか」

「…………慰めはいらないよ。アタイらは揃って、獲物を仕留め損なったんだ」

「650ヤードで掠りもしなかったのが、700ヤードオーバーでニアミスまで行ったんだ。明確な成長だろ。後はその感覚さえ忘れなきゃ、すぐだ」

 

 

 

そう言って振り返り、たたらを踏んで体勢を崩したアルマニャックを咄嗟にコルンとキャンティの二人がかりで支えた。

 

 

 

「大丈夫かい!?」

「わりィ……流石に、俺が限界だ。撤退しよう」

「赤井……追撃して、来ないか?」

「二人が、十分、プレッシャーを与えて、くれた。問題ないさ」

 

 

 

ジンはもう既に階段を下りている。三人も追いかけるように、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんだ、あの男は)

 

毛利探偵事務所の向かい側。ビルの屋上に立つ、"組織"の幹部達。遥か遠方のビルから彼らを狙撃する赤井秀一は、戦慄を隠せなかった。

 

 

 

ライフルによる銃撃を、刃物で弾く。

 

 

 

弾丸を見切る動体視力。弾丸に追いつく反射神経。音速を超えて飛来する物質を押しのけるだけの膂力。

これら全てを兼ね備えることで、初めて成立する絶技の中の絶技。だが、あくまで理論上だ。それを実戦で成し得た人間など、赤井を以てしても心当たりがない。

 

そんな人間が、今スコープの中にいる。猛禽の如き目で、こちらを見据えている。……背後にいる二人の狙撃手を、護るかのように、立ち塞がっている。

 

狙撃手二人には心当たりがある。コルンとキャンティ。いずれも組織で名を上げていたスナイパーだ。……尤も、自分には劣るが。

だがその前に立つ男には一切の心当たりがない。"組織"に潜入していたのは三年ほどだったが、あれだけの武を持つ男であれば耳に入らない筈がない。だが知らない。

 

(…………()()()()?)

 

そうだ、一人だけ心当たりがあった。直接会ったことは一度もなく、顔すら知らない。詳細な戦歴も、スタイルも、()()()()()()。ただ一つ知っているのは、風の噂で流れてきた名前だけ。

明らかに情報が隠蔽されている節がある、一人の幹部。しかし一部の幹部達の間では、あのジンすら差し置いて"組織"最強の武闘派と言わしめる程の存在。

 

(もしや、彼が"アルマニャック"か……?)

 

あくまで消去法による直感。故に決めつけは禁物であり、そもそも今の盤面で彼の名前を知ることにさしたる意味はない。

大事なことは、彼を倒さねば背後にいる狙撃手を抑えられないという事実。

どうやらジンは手出しする気はなくなったらしい。アルマニャックと思しき男を睨みつつ紫煙を吐いている。

 

既にあの二人との格付けは済んでいる。彼らの技量では、700ヤードを超える距離でのスナイプを成功させられないことは分かっている。

ジンは戦闘を放棄し、怪しい男が持つものは近接武器のみ。つまり、自分を脅かすものは何もない筈だ。

であれば即座に引くべき。そう分かっていながら、今なお銃を構え続けている理由は、ただの直感だった。

 

 

 

今、コルンとキャンティに背を向けてはならない。

 

 

 

数多の修羅場をくぐり抜けてきた自分だからこそ察知出来た、微かな違和感。首元をチリチリと焚きつける厭な空気が、あの二人を無視して撤退することを許さなかった。

既にウォッカとベルモットがその場を離れた。自分の位置は判明している以上、さっさと二人を無力化して撤退したいのが本音だ。

だが、あの男がそれを許さない。独特な形をした短剣を使い、それを使い切ったと思ったらナイフで、しまいには刃が砕けたナイフの柄で弾丸をずらしてのけた。

 

(まずい、これ以上の時間をかけるのは……)

 

危険を承知で撤退をしようか迷った、その矢先。

 

 

 

背筋を走る、強烈な悪寒。

 

 

 

首を傾けたのは、ほとんど本能だった。それでも避けるのが間に合わず、帽子を飛ばされ頬を切り裂かれた。

 

(当ててきた……!?見立てを誤ったか!)

 

咄嗟に物陰へと隠れ、息を殺す。

 

十秒。二十秒。三十秒。追撃は来ない。

ジョディへとコールをかける。

 

 

 

「シュウ!?」

「ジョディ。ビルの上にいた連中はどうなった?」

「えっ?もう車で逃げてしまったわ。一応追いかけてはいるけれど……」

「そうか、分かった」

「ちょっと、シュウ!」

 

 

 

電話を切り、階段を駆け下りる。敵が去ったと分かった以上、長居は無用だ。

 

当初の目的は達成した。盗聴器を破壊し、ジンに手傷を負わせ、撤退へと追い込んだ。自分以外の誰にも出来ない、完璧な勝利と言える筈だ。

 

だが、どれだけ客観的な事実を羅列しても、心の内に燻る僅かな敗北感は消えなかった。

コルンとキャンティがあの距離を当ててくるとは思いもしなかった。……もし、彼ら二人に変化を齎した者がいるとすれば、きっとあの男なのだろうという確信があった。

FBIにとって、否、"組織"と戦う全ての者にとって、奴はとてつもなく高い壁となるかもしれない。

 

(あの男……何としても調べなければ)

 

猛禽の如き眼と、特徴的な短剣を振るう男。その顔を、赤井は強く脳に焼き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街中を駆け抜ける青色のダッジ・バイパー。

その助手席にて、アルマニャックは眠り込んでいた。

本来そこはコルンの位置だったが、「もう一台の方ではアルの気が休まらない」と、ジンが運転するポルシェに乗っていった。彼が気を遣った形だ。

 

すやすやと眠るアルマニャックの横顔を見ながらハンドルを握るキャンティは、悔しさに顔を歪ませていた。

たった一射外しただけ。今までならさっさと切り替えていた。否、切り替えすら必要としていなかった。運良く死を逃れた敵に対する苛立ちこそあれ、己の腕に悔しさを感じたことなどなかった。

コルンもきっと同じだ。あの時自分が出来る最高の一射をした。技能、集中、覚悟。あの一射に、自分の全てを乗せていた。

だが届かなかった。

 

(自分の全てを出すってのは、怖いね)

 

お前は足りないのだと、明確に突きつけられる悔しさ。己の未熟さに対する苛立ち。次も同じなのではないかという恐怖。

 

(駆け出しの頃以来だよ、こんな感情)

 

それに加え、仲間の信頼に応えられなかった不甲斐なさ。

聞けば、アルマニャックは実に2ヵ月以上もの間毎日戦場に立っていたという。そこから最速でこちらに駆けつけ、赤井秀一相手に時間を稼ぎきって見せた。

対して自分はどうだ。一射にあれだけ時間をかけて、仲間の補助すらもらって、あのザマ。羞恥で気が狂いそうだった。

 

悔しい。悔しい。悔しい。

 

 

 

 

 

 

このままで終われるか。

 

 

 

 

 

 

「コルン、聞こえてるかい」

 

 

 

FBIに追われている状況だ。万一に備えて、無線は常にオープンにしていた。

コルンからはすぐに応答があった。一足飛びの、応答が。

 

 

 

『帰ったら……シミュレーション、潜る。キャンティは、どうする?』

 

 

 

思わず口角が上がる。

コルンもまた、同じことを考えていたこだ。

彼は冷静な男だ。だが、この状態で尚も悔しさを感じないほど、その身に流れる血は温くない。

 

 

 

「アタイもそれを言おうとしてたところさ!」

『競争。どっちが……先、700ヤード超えるか』

「望むところさ!コルンと言えど、勝ちは譲らないよ!!」

『先、謝っておく。多分……俺が、早い』

「言うじゃないか!負けた方は一回奢りだよ!」

『キャンティ、ご馳走様』

「ほざきな!」

 

 

 

軽口を叩き合う二人。いつの間にか、顔に貼り付いていた悔しさは姿を潜め、凶悪な笑みが浮かんでいた。

悔しさはある。それ以上の対抗心に、取って代わったのだ。

 

(な~る、これを原動力にするって訳かい。表の人間の"正しいやり方"ってのも、存外馬鹿に出来ないもんだね)

 

 

 

「せいぜい首を洗って待ってな、赤井秀一。次は当てる。……必ず当ててやるよ」

 

 

 

心の奥で燃え盛る灯火。キャンティは、強くハンドルを握りしめた。

 

 

 

 

 

 





ちょっと詰め込みすぎましたかね……ただ、ここはどうしても一話でやりたかったもので。話を削る能力が足りねェ……!

コナン君とアルマニャック。今回は本当にチラッと顔を見ただけ。コナン君はともかく、アルマニャックの方は言われないと思い出せない程度の記憶。

次回からキール奪還回ですね。ちなみに現段階でアルマニャックはキールがFBIの手に落ちたことはおろか、消息を絶っていることすら知りません。
話の流れは考えてますが、書いてるうちに書きたいこと増えてくるので何話かかるかは分かりません。案外一話で終わるかもしれない。予定は未定。



また個人的な話になりますが、今週から二〜三週間ほど仕事が忙しく、更新ペースが落ちます。というか落ちてますね。
これまでは週3〜4話ペースでしたが、しばらくの間週1〜2話ペースに落とします。
基本的に土曜更新で余裕があれば水曜にも、という形でやっていきます。よろしくお願いします。



最後までお読み頂き、ありがとうございました。よろしければ、感想・評価・お気に入り登録の程よろしくお願いいたします。
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