ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」   作:ていとくン

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☆9:くらき様、拝見します様、神の雫様

高評価を下さった皆様、ありがとうございます!ここの数字が一人増えるたびに小躍りしてます。



ちょっと間隔が開いてしまいましたね、すみません。その代わりここしばらくに比べるとちょっとだけ長め。



ちなみに今回は公安が酷い目に遭います。ご注意を。



弱り目に祟り目

 

 

 

 

 

 

米花警察病院。そこから少し離れた、人気のない裏路地の空き地。

そこで、二人の男が向き合っていた。片方は、体格のいい若い男。もう片方は、細身だが身なりの良い壮年の男性。

 

アルマニャックと、ラムの側近だった。

 

 

 

「これがご注文の品です」

「ありがとう。悪いが確認させてもらう」

「どうぞ、心ゆくまで」

 

 

 

複数のアタッシュケース。中に入っていたのは須らく武器弾薬。爆弾の類まで豊富に用意されていた。

今回の任務の為、アルマニャックが事前に注文していたものだ。尤も、細かい種類までは指定していない。用途から推測して、ざっくりとした要望だけ投げた形だ。故に確認は必須だった。

一つ一つ丁寧に、しかし迅速に確認をしていく。手に取り、構え、スコープやサイトを覗く。弾薬を確認し、また次の銃を検分する。

 

数分程で全ての確認を終えたアルマニャックは、次々とそれらを装備していく。総重量50キロに迫る武装を纏った彼は、しかしその動きを微塵も鈍らせることはない。

用意された武器の全てを装備し終えた彼は、待機していた側近に声をかける。

 

 

 

「今回の武装は、誰が?」

「僭越ながら、私が見立てと用意を」

「いいね、最高だ。質・量共に文句のつけようがない。今後もアンタに頼もうかな」

「恐縮です」

「これなら米国(グリンゴ)とも一戦交えられるぜ。全く、ラムの旦那はつくづくいい部下に恵まれてる」

「お褒め頂き感謝の極み」

 

 

 

アルマニャックの軽口混じりの称賛に、深く礼をして応える男性。

大型のバイクに跨ったアルマニャックは、アクセルをかけつつ側近の男性に視線を投げる。

 

 

 

「任務は必ず遂行する。期待は裏切らないと伝えてくれ」

「必ずや」

 

 

 

そのまま走り去った彼を見送る。ふと、懐が震える。電話だ。手に取り、通話を繋ぐ。

 

 

 

『受け渡しは、終わりましたか?』

「はい。先程出立されました。武装には満足頂けたようで」

『結構。多少騒ぎになってしまうでしょうが、今回ばかりは必要経費。致し方ありません』

「それと、伝言が」

『ほう、彼は何と?』

「任務は確実に遂行する、期待は裏切らない、と」

『フフフ、士気も十分ということですか……であれば彼の心配は要りませんね。後はジンが上手く事を運んでくれるかどうかですが』

「確認に向かいますか?」

 

 

 

数秒の沈黙。しばし黙考した後、ラムは指示を出す。

 

 

 

『いえ、その必要はありません。彼は空を移動する以上、此方から確認するのも難しいでしょうから。君はそのまま帰投してください』

「かしこまりました」

 

 

 

通話を終えた男は、そのまま車に乗り込み、その場を後にする。

ハンドルを握る彼の脳裏をよぎるのは、先程のアルマニャックとのやり取り。

 

メインアームであるアサルトライフルをはじめ、弾薬・手榴弾共に多数。ロケットランチャーまで装備した彼は、一体如何程の戦禍を齎す気なのか。

 

(公安の連中も、可哀想なことだ)

 

ラムが長きに渡って"あの方"に仕えているように、彼も側近として長くラムの脇を固めている。当然、アルマニャックのことも彼の加入当時から知っている。

それなりに長く裏社会にいる彼をして、アレほどの暴虐は見たことがない。単騎で戦場を作り上げる災禍の化身、それが側近たる彼からの、アルマニャックに対する評価である。

そんな彼が全力の装備で戦場に向かうのだ。地獄が顕現することなど、火を見るより明らかなことだった。

 

(敵ながら、流石に同情する)

 

口の端に微かな苦笑を乗せつつ、彼は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東都水族館へ到着した多数の警察車両。

20台を超える覆面パトカーが駐車場の一角を占拠する様は、それを目撃した一般人に不安感を植え付けた。

パトカーから次々と降りてくるのは、警察庁公安部所属の警察官。一人一人がエリートの名を冠するに相応しい、優秀な人材だ。

それ故に、現場の僅かな違和感に気づく者もいた。そして、最初に異変に気付いた男は、そのまま最初の犠牲者となった。

 

 

 

「……ん?なんだ、この臭いは?」

「どうした?」

「いや、なんだか変な臭いがしないか?まるで、ガソリンのような……」

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォン!!!!

 

 

 

 

 

 

1台の車が、耳を劈く爆発音と共に天高く舞い上がった。数百キロの車を10メートル以上吹き飛ばす程の爆発に、側にいた人間は粉微塵となる。

天高く燃え上がる爆炎と、その頂点を舞う1台の車。周囲に響き渡る爆発音。公安が、通行人が、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

()()()()()()()()()、という言葉がある。注意を別方向に向けさせるテクニックのことで、主にマジックで用いられる用語だ。

 

 

 

パシュッ、パシュッ、パシュッ

 

 

 

非日常極まる光景で注目を引き付けた裏で、正確無比な銃撃が警察官達の頭蓋を的確に撃ち抜いていく。サプレッサーを付け、極限まで発砲音を抑えることで注意を向けさせない。

自分達の仲間を襲う異変に公安の警察官達が気付いた時には、優に10名以上の犠牲が出た後だった。

 

 

 

「は……?…………なっ、て、敵襲!敵襲ヴッ゙!!」

「伏せろ!我々は何者かから襲撃を受けている!!」

 

 

 

一瞬で状況を理解し、車の影に身を潜める公安達。敵がどこにいるのか、何名いるのか、影から探ろうとする。

そんな中、ある男の耳が、微かな音を捉える。コロコロ、と何かが転がる音だ。

音の発生源は車の下。身を屈めて覗き見た男は思わず悪態をこぼす。

 

 

 

「クソッ―――」

 

 

 

直後、また爆発音。転がってきた手榴弾が炸裂し、車のガソリンに引火して大爆発を起こした。至近にいた数名が血煙となる。

同時に数ヵ所で同じような爆発。周辺の車両を巻き込んだ影響で、既に駐車場は火の海と化している。

当初は映画の撮影か何かだと呑気に眺めていた野次馬達も、様子のおかしさに気づき始める。携帯を手に電話をかける者もいた。

そんな中、未だ危機感もなく動画を撮っていた野次馬の足元に、何かが飛んできた。

 

 

 

「ん?なんだこ、れ…………ヒッ!?」

 

 

 

爆発で焼け焦げ、一部が吹き飛んだ人間の頭部だった。

 

 

 

「きゃあああああああああああ!!」

 

 

 

その悲鳴を引き金に、散り散りになって走り去る野次馬達。

公安達はそれを気にも留めない。留めている余裕がない。東都水族館に駆けつけた警察官は、既にその数を半数以下にまで減らしていた。

今もまた、炎の隙間を縫って飛来する弾丸に撃ち抜かれ、2人が殉職した。

だが、彼らの犠牲は無駄ではなく。遂に公安は下手人の場所を特定した。

 

 

 

「あそこだ!ジープの影!黒ずくめの男がいる!!」

「あの男……まさか…………!?」

 

 

 

揺らめく炎の向こう側に見えた姿は。

 

パーカーにカーゴパンツ、軍用ブーツ。顔にはガスマスクを装着し、手袋をつけている為一切の露出がなく。身に纏う全てが黒ずくめの男。

彼らの上司たる降谷から名指しで"脅威"と指定されていたその男は。"決して無計画で立ち向かってはならない"と厳しく念押しされていた、その男は。

 

 

 

「"ジャバウォック"……!!」

「至急降谷さん……は駄目か!風見さんに報告しろ!急げ!!」

「風見さんも今は例の女の件で手が離せない!」

「じゃあ風見さんの側にいるやつだ!とにかくどうにかして耳に入れさせろ!俺等がまだ生きているうちに!!」

 

 

 

この瞬間、彼らは()()()()()()()()()。降谷から対策の一貫として見せられた映像は、そして今、眼の前で引き起こされた被害の大きさは、彼らに決死の覚悟をさせるには十分過ぎた。

 

数名が必死に連絡を入れる中、残り全ての警察官が銃を構え、"ジャバウォック"に立ち向かう。通信が繋がる、僅かな時間を稼ぐ為に。

彼らの覚悟を肌で感じたか、黒ずくめの男が身構える。

 

 

 

「殿か。その意気や良し。……いいだろう、全力で闘ってやる。来な」

 

 

 

銃を下ろし、代わりに一振りのナイフを構えてもう片方の手でくいと手招きする。

 

 

 

「黙れ!テロリスト風情が!」

「仲間の仇だ!ここで仕留めてやる!」

 

 

 

死兵となって吶喊する公安の警察官。対するは黒ずくめの男、"ジャバウォック"。絶望的な第2ラウンドが、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東都水族館敷地内、とあるファミリーレストラン。

既に己の仕事を終わらせ、その一席にて待機していたベルモットはジンに通信を入れていた。

 

 

 

「キュラソーがゴンドラに乗ったわ。そろそろカウントダウンに入るわよ」

『了解だ。頂点に到達するタイミングで起動しろ』

「任せてちょうだい」

 

 

 

一度通信を切ろうとしたベルモットは、そこで人の流れに違和感を覚えた。

 

 

 

「あら……?」

『どうしたベルモット』

「いえ……人の流れが何やらおかしいわ。まるで()()()()()()()()()()()()……」

 

 

 

ベルモットの発言に眉を上げたジンは、戦闘ヘリの小窓から眼下に広がる東都水族館を見る。

視界の端。そこで僅かに光るオレンジ色。火柱が上がっているのを、ジンの目は確かに捉えた。

 

 

 

()()()()()()()

「なに?」

『この方角……駐車場か。その付近で火災が発生しているらしい。火柱を確認した』

「火災?でも、なんで駐車場で……?」

『十中八九、あのクソガキだろう。蝿の如く群がってくる公安を潰せと、ラムに命じられでもしたんだろうよ』

「それにしたって火柱?一体何をしているのかしら……」

『相変わらず場を散らかしやがる。組織(我々)の存在は表沙汰にしちゃならねぇと何度言えば分かるんだあの馬鹿は』

 

 

 

ため息をつくベルモットに舌打ちで答えるジン。

アルマニャックが大立ち回りを演じている影響で、遊園地区画の人間の動きに想定よりだいぶ大きな乱れが生じている。

 

 

 

『公安の作戦にも影響が出る可能性がある。お前も注意を怠るなよ』

「分かったわ。貴方も気をつけて」

『フン。地を這う蟻共には、空飛ぶ烏に触れることさえ出来ねぇだろうよ』

 

 

 

通信が切れる。ベルモットは思わず大きなため息をこぼす。

ラムといえば、組織のナンバー2。"あの方"から寵愛を受けるベルモットをして、丁寧な対応を心掛けなければならない程の大物だ。

そんな大物は、露骨なまでにアルマニャックを贔屓している。"秘密"をこそ旨とする組織で、並の幹部がここまで騒ぎを起こせば、厳しい罰則は免れないだろう。それどころか粛清の可能性すらある。

彼が組織に入って6年。毎年のように問題を起こしているにも関わらず、彼が重い罰則を食らっていた記憶が、ベルモットにはない。

 

 

 

「それだけの価値が彼にあるのは分かるけど……困ったものね……」

 

 

 

双眼鏡で観覧車を観察しつつ、周囲への警戒も怠らない。

それでも。こぼれ落ちるため息までは、止められなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供達が家に帰ってきていない。その報告を受け、慌てて東都水族館へと向かった灰原。

 

(あの子達は観覧車を大いに気に入っていた……!まさか、また乗りに行くなんて!)

 

故に、いるならそこに違いないと当たりをつけ一目散に向かう道中、灰原の耳が遠くから聞こえる爆発音を捉えた。

咄嗟にその方角を見る。駐車場の方向、遠く離れた自分の位置からも見える高い火柱が煌々と燃え盛っていた。

 

 

 

「火事?」

「えっ、やばくね?」

「誰か通報しろよ」

 

 

 

初戦は対岸の火事。そう思い他人事として眺めていた野次馬の顔色が、遠くから全力で走ってくる人達を見て変わる。

 

 

 

「た、大変だ!大変だ!大変だ!!」

「な、何かあったのか?」

「爆発だ!駐車場で!車がどんどん爆発して!ひ、人が、巻き込まれて……!」

 

 

 

にわかにざわめき出す多くの来場客。内線を繋いで事態の確認を取る従業員。

彼らとは違い、灰原はある程度正確に事態を想像出来ており、それ故に顔面を蒼白にしていた。

 

(組織が仕掛けてきた……!!恐らく、巻き込まれているのは公安警察!)

 

キュラソー奪還の為送り込まれた幹部が、それを阻止せんとする公安と接触し、戦端が開かれたのだろう。

このままこの場にいては、自分の身が一番危うい。それを理解した上で、彼女が向かう先は。

 

(公安が彼らを引き付けているうちに、あの子達をここから連れ出さなきゃ……!!)

 

小さな体を全力で振るい、観覧車へ向けて走る。

 

 

 

自分の命より、大事な者を守りに行く為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東都水族館に到着したバーボンとキール。二人はそのまま観覧車の内側へと向かい、そこでバーボンが待ち合わせしていたらしい一人の男と邂逅する。

 

 

 

「待っていたぞ」

「すみませんね。待ち合わせ時間は特に決めていませんでしたがお待たせしてしまったようで、此方としては大変遺憾に思っていますよ。ですが僕は本日色々と予定が立て込んでおりまして。ジン達の追求を躱しつつ組織の追手を撒いたり、幹部一人を此方につけたり、大変だったんですよ。決して遊んでいた訳ではないことはご理解いただきたいですね。あぁ、忙しさをことさらにひけらかして自身の優秀さをアピールしているように聞こえましたか?でしたら申し訳ありませんね、そういうつもりではなかったのでご容赦いただきたいです。そういえば貴方は今日はどういったお仕事を?FBIきっての敏腕捜査官である貴方のことだ、きっとさぞお忙しかったことでしょう。にも関わらず貴重な時間を僕なんかの為に割いて頂いて、感謝の言葉もありませんよ。それで?此度はどういった成果を……」

「分かった分かった俺が悪かったからそうまくし立てるな」

「人の話を途中で遮るとは、随分偉くなったものですね赤井秀一。天下の星条旗(スターズ・アンド・ストライプス)麾下のFBIたる自分が、極東島国の警察官如きの与太話なぞに割いてる時間はないと?傲岸不遜は合衆国(ステイツ)のお家芸という訳ですね。わざわざ披露して頂いて恐悦至極感謝の極み、とでも言えば満足ですか?そもそも……」

「FBIと公安が揃って漫才をしているつもり?震え上がるほど寒いわね。帰っていいかしら?」

 

 

 

顔を合わせるや否や赤井に食って掛かる降谷を絶対零度の瞳で射竦めるキール。

既に不機嫌の絶頂にいる彼女は、赤井が猛禽の如き眼で見定めるような視線を向けてきてもびくともせず、むしろ不快さを隠しもしない。

 

 

 

「初対面の女性をじろじろと睨めつけて、レディに対する接し方をママから教わらなかったのかしら?不愉快ね」

「俺と君は初対面ではなかったと思うが……」

「まさか、昏睡状態の私の寝顔を覗き見たことを初対面に数えているつもり?度し難い程の無神経さね。セクハラがFBI(ビュロウ)のお家芸だなんて初めて知ったわ。CIA(カンパニー)を職場に選んだ私の判断は間違っていなかったようね」

「おやおや、散々な言われようですね赤井秀一。女性にここまでコテンパンに言われるなんて初めての経験では?良かったですね、その年で新しい経験を積めて……」

「黙りなさい公安。FBIも良く聞きなさい。貴方達と馴れ合うつもりは毛頭ないの。下らないじゃれ合いをこれ以上聞かせるつもりなら本気で帰るわよ」

「……せめて名前で呼んでもらいたいのだが……」

「何か言ったかしら、FBI?」

 

 

 

ほぼ初対面にも関わらずあんまりな接し方に思わず閉口する赤井だが、キールの凍てつくような視線を向けられて思わず黙り込む。

一体どんな誘い方をしたらこうなるんだと、思わず降谷に目で問いかけるが、彼はいつもの笑みを浮かべるばかりだ。赤井は内心嘆息する。

 

 

 

「……一応聞くが、君は今後我々と共同歩調を取ってくれると認識していいのかな?」

「共同歩調?笑わせないでくれるかしら。貴方達と?共同?未来永劫有り得ないわ。私はただ貴方達に脅されて仕方なく情報を切り売りするだけ。それ以上でも以下でもないわ」

「降谷君、君は一体彼女をどうやって誘い込んだんだ」

()()()()()()を使いまして。彼女には嫌われてしまったようで、残念です」

 

 

 

いつも通りの笑み(うさん臭い笑顔)を浮かべる降谷に、大きなため息をつく赤井。それを心底不機嫌な顔で眺めるキール。

 

 

 

「…………まぁいい、過ぎたことは仕方ない。敵にならないというだけで十分だ。それで、今後の動きについてだが……」

 

 

 

赤井が作戦会議を開こうとしたその時、キールの懐が震える。

端末を取り出し、僅かに目を見開く。アルマニャックからだった。バーボンと先程交わした会話が脳裏をよぎり、通話ボタンを押す手が震えた。

 

 

 

「……はい、キールよ。どうしたの、アル」

『おォキール、今いいか?ちと急ぎだ』

「構わないけど、急ぎ?何かあったの?」

『あぁ。さっきベルモットから情報をもらってな……突然だが、キールは爆弾解体って出来るか?』

「爆弾解体?……ごめんなさい、そっち方向の知識はないわ」

 

 

 

突然振られた話題に驚くも、何事もなく受け答えをするキール。その側で、爆弾解体という言葉に目を細める赤井と降谷。

電話先のアルマニャックは、そうか、と呟いて代案を出す。

 

 

 

『じゃあバーボンに聞いてみてくれ』

「バーボンに?……分かったわ」

 

 

電話を代わろうとしたタイミングで、赤井がジェスチャーをしていた。スピーカーにしろ、との要求に内心ため息をこぼしてその通りにする。

 

 

 

「スピーカーにしたわ。どうぞ」

『代わってくれりゃ良かったんだが……まァいいか。なァバーボン。お前さん、爆弾解体は出来るか?』

「ええ、出来ますよ。なんです?解体のお仕事ですか?」

『そうだ。東都水族館にデカい観覧車があるだろ?その内側に、ジンが大量にC4を仕掛けやがった』

「なんですって!?」

 

 

 

唐突の爆弾発言に、バーボンだけでなくその場にいた全員が驚きを隠せない。

東都水族館中央に存在する巨大観覧車。あれが崩落するようなことがあれば、被害は甚大なものとなる。

 

 

 

『キュラソー奪還の為にやってくる俺達。それを妨害するべく、必ず公安がやってくるだろう?下手すりゃFBIも。それをまとめて始末する為の代物らしい』

「なるほど。その為に、こんな大きな観覧車を……」

『パンジャンドラムの出来損ないだな。巻き添え食った人間がどれだけ地面の染みになるか知れたもんじゃねェ。ジンの阿呆が癇癪起こす前に解体しておきたいんだが、俺にはその知識がねェからよ』

「そういうことでしたら構いませんが……いいのですか?一応、公安への備えだったのでしょう?」

 

 

 

この話を聞いてしまった以上、観覧車を無視して動くことは降谷零には出来ない。

だが、ジンの行動はほぼ例外なく組織の意向に則ったものだ。ただでさえNOCと疑われている自分がジンの作戦を妨害してしまえば、今度こそ問答の余地なく消されてしまいかねない。

その危惧を見越してか、アルマニャックは何でもない様子で、またもや爆弾発言を投下した。

 

 

 

『ジンには俺から言っとく。それに公安についちゃ心配は要らねェ―――』

 

 

 

 

 

 

『ついさっき、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「は……?」

『東都水族館に到着した後詰めの公安、46名。()()()()()()()()()()()()。生き残りは観覧車周辺、キュラソーの側を張ってる数名だけだ』

「な、なっ…………」

『武士道精神、というやつなのかな。最後の一人まで、俺から逃げようとはしなかった。俺と戦い、俺を観察し、一つでも多くの情報を伝えようと、どこかに通話を繋げつつ戦場に残り続けていた。ここまで骨のある敵と戦ったのも、殺すのを惜しいと思ったのも、本当に久方ぶりだ。敵ながら見事だったよ』

 

 

 

 

 

 

降谷の頭は、真っ白だった。

 

後詰めとして展開する予定だった部隊には、自分の部下が大勢いた。日本を守るため、一人の警察官として共に職務を全うしてきた仲だった。

風見程ではないが、それなりに面倒を見ていた者もいた。未熟ながらもその才や努力は本物で、将来が楽しみな原石達もちらほらいた。

彼ら全員の顔を、名前を、性格を、趣味を、降谷零は過たず正確に答えられる。

警察学校の同期には届かずとも、苦楽を共にした紛れもない同志だった。

 

それが、一晩で全滅。流石の降谷も言葉が出なかった。

 

完全に停止してしまった降谷を見て内心舌打ちをこぼすキール。仕方無しに会話を引き継いだ。

 

 

 

「つまり、もう観覧車を爆破する必要はないってことなのね?」

『そゆこと。残り数名程度なら、直接殺った方が早いし被害も少ない。余計な殺しはすべきじゃないだろ?』

「同感だわ。なら解体はバーボンに任せましょう。……いいわよね、バーボン?」

 

 

 

キールの呼びかけにようやく再起動を果たした降谷はどうにか会話に復帰したものの、その顔は土気色だ。

 

 

 

「え、えぇ……確かに、任されました」

『?よし、なら頼んだ。消防栓……だったか?のボックス内に根っこがあるらしい』

「それで、私はどうするの?バーボンの監視を続けるべき?」

『うんにゃ、あれはジンやベルモットの手前ああ言っただけで、もう監視はいらねェ。キールには足の確保を頼みたい』

「足?……撤退用の車ってこと?」

『そ。俺はここにバイクで来たんだが、キールにバーボンまで乗せるのは流石に無理だ。何ならベルモットも回収することになるかもしれねェ。かと言って、空に合流するのも無理だからよ』

「分かったわ。アル、貴方はどうするの?」

 

 

 

駐車場が壊滅している状態で足を用意しろという、何気に無茶振りを食らったが、普段の任務に比べればどうということはない。

既に任務を終えたであろうアルマニャックが何をするのか興味本位で聞いてみたところ、電話口から戦意と殺意が吹き上がってきた。思わず体が硬直する。

 

 

 

 

『当然、残りの公安の掃除だな。後は何より、赤井秀一よ』

「赤井秀一……キュラソーの情報通り、公安とFBIがタッグを組んでいたとして、彼がここに来るかしら?」

『来るさ。必ず出張ってくる。今度こそ確実に殺してやるよ……!』

「随分と恨んでるみたいだけど、何かったの?」

『あったも何もねェさ!あいつさえ、あいつさえいなけりゃシェリーも明美さんも……!!』

 

 

 

溢れ出る殺意に混じるのは、喪失と悲哀。

キールとしても色々と忘れられない名前が出たことで、そういえばアルマニャック討伐戦のきっかけはシェリーだったことを、そしてシェリーが命を狙われるきっかけとなった事件のことを、今更ながらに思い出した。

キールが気圧されている間に、アルマニャックは平静を取り戻したようだ。いつの間にか殺気は途絶え、声の調子も戻っていた。

 

 

 

『…………悪い、話が脱線した。とにかく、脱出はキールに任せる。頼むぞ』

「分かったわ。貴方も、気をつけて」

『へへ、ありがと。んじゃ、またな』

 

 

 

通話が切れた携帯を懐にしまいこむ。ふと視線を感じてそちらを見ると、赤井が大きく目を見開いていた。

 

 

 

「そう、か。そうか……よもやとは思っていたが、俺が抜けた後、彼女達を守っていた"アルくん"というのは……」

「何をぶつぶつ言っているの?」

「フッ、なるほど……彼が俺にああまで殺意を向ける理由が、ようやく分かった。…………弱ったな、これに関しては彼に理がある」

 

 

 

深い、深い自嘲の笑みを浮かべる赤井に、思わずキールは目を見張る。

CIA時代から、赤井秀一の名前は耳にしていた。FBIきっての切れ者捜査官にして、狙撃の名手。沈着冷静にして完全無欠、捜査官の中の捜査官。

そんな男が浮かべるにしてはあまりに弱々しい表情に、キールは驚きを隠せない。

だが、そこへ思考を巡らせる前に、バーボンが動いた。自分を悪辣に追い立てた時の笑みは最早なく、強い憔悴に塗りつぶされていた。

 

 

 

「では、行きましょう。僕は爆弾の解体を。キールは車の確保を。赤井、貴方は観覧車の頂上付近で、ジン達の動きを注視していてください。可能なら、妨害も」

「分かった。キュラソーはどうする?」

「…………彼女が生きている限り、僕に未来はありません。他にどうしようもなくなった場合は、始末してください」

「了解した」

 

 

 

それでは。そう一言、消えるように呟いて降谷はその場を後にした。

次いで赤井も無言で階段を上り、その場を立ち去った。

一人残されたキールも、ややあって動き出す。目的地は当然、駐車場ではない。

 

(アルが本気で戦ってたなら、多分あそこに無事な車は残ってない。直に警察もくるでしょうし、彼らの目を盗みつつ足を調達……)

 

地味に面倒な仕事を請け負ってしまった。バーボンの監視よりかは遥かにマシだが。

彼女が彼を許すことは決してない。バーボンという男は、間違いなく本堂瑛海の逆鱗に触れた。

部下を大量に喪い、茫然自失とした彼を見た瞬間、心の奥底に浮かんできた昏い愉悦。次の瞬間には強い自嘲に変わったが。

 

(私が、どの面下げて彼を憎むのでしょうね)

 

裏切り者など、自分も同じだというのに。

キールの口元から、儚い笑みがこぼれ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東都水族館、駐車場。

 

 

 

数え切れない程の車が大きな松明となり、轟々と燃え盛っている。

その周囲には多数の死体が転がっており、この風景だけを見て、ここが平和な国日本であることを信じられる人間はいないだろう。

 

その一角。数少ない無事な車のボンネットに座る、黒ずくめの男。彼こそがこの地獄を作りし張本人、アルマニャック。

彼は武装の点検をしていた。カチャカチャという音が、炎上音の合間からかすかに聞こえてくる。

 

やがて、確認を終えた彼はすっと立ち上がる。伸びをしつつ周囲をきょろきょろ確認し、耳元のインカムを操作する。

 

 

 

「ようラムの旦那。今いいかい?」

『構いませんよ。仕事は終わりましたか?』

「おうよ。技術は拙かったが、中々に歯ごたえのある敵だった」

『ほう、随分な高評価じゃないですか。珍しい』

「かもな。今キールには撤退の足を確保してもらってる。バーボンには観覧車の爆弾解体をさせてるぜ」

『ふむ……まぁいいでしょう。貴方が公安を軒並み始末した以上、敢えて観覧車を吹き飛ばす必要もありませんしね。ですがバーボンは解体をやり切ると思いますか?』

「俺直々の依頼だ。四方八方から疑われている状況で投げ出すほど、あの男は馬鹿ではないよ」

『成る程、分かりました。とにかく第一目標はキュラソー奪還です。それさえ踏まえているのなら、貴方は自由にして結構』

「了解。また何か大きな動きがあったら連絡するわ。じゃな」

 

 

 

ラムへの途中報告を終えた彼は、迷うことなく観覧車へと向かう。

 

 

 

「赤井が来るとしたら、まァあそこ一択だろ。ようやく直にお目見えだ。楽しみだなァ、楽しみだなァ……!」

 

 

 

ガスマスクの内で、彼は愉快そうに、楽しそうに、腹立たしそうに、嗤う。嗤う。嗤う。

 

 

 

 

 

 

かくして役者は全員揃った。各々の野望や目的が複雑に絡み合い、惨劇は終幕へと向かう。

 

 

 

 

 

 





露骨な繋ぎ回。次回から山場ですわね。キュラソーの結末をどうするか、未だに決めかねております。
リアルも引き続き忙しいので、もうしばらくは更新速度ノロノロです。ご了承頂きたく……



最後までお読み頂き、ありがとうございました。よろしければ、感想・評価・お気に入り登録の程よろしくお願いいたします。
特に感想と高評価は凄く嬉しいです。本当に励みになります。高評価頂くたびにニッコリなりますし、感想通知来るたびにテンション上がりすぎて動悸がヤバいです。
どうか、よろしくお願い致します。
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