ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」   作:ていとくン

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ちょっと今回話の展開や〆の都合などにより、時系列ちょっとごちゃごちゃしてます。
ジンニキの動きとかコナン君の動きとか、まぁぶっちゃけ原作とほぼ変わらないのですが、ノータッチは流石にアレかなと思いまして。軽く触れることにしました。



禍福は糾える縄の如し

 

 

 

 

 

 

長針を、左に少し。

 

 

 

観覧車に到達したコナンは、公安の刑事がゴンドラに乗ろうとするのを阻止しようとするも、あと一步届かなかった。

その為、自分の目でゴンドラの様子を確認すべく、観覧車の裏側に回る。

 

それなりの階段を駆け上がった時、コナンは車軸から伸びる多数のコードを見つけた。コードの先には、何やら四角いものが付いている。

コナンの背筋に悪寒が走る。もし、車軸についているものが、想像しているものであったなら。

 

コードが伸びるその先を目指し、駆け抜けた先。消火栓の目の前で、コナンは予想外の人物に出くわす。

 

 

 

「安室さん!?」

「………………あぁ、コナン君か」

 

 

 

何やら作業をしていたところからゆらり、と顔を上げた安室。その顔を見てコナンは思わず絶句する。

一瞬、彼が自分の知る"安室透"であるのか疑った。常日頃、彼の顔に浮かんでいる笑みは欠片もなく、幽鬼の如く褪せた顔には憔悴と絶望が塗りたくられている。

死人。そう錯覚してしまうほどに、今の彼には覇気がなかった。

だが奇しくも、コナンの存在が安室の目に光を呼び戻した。

 

"子供がこんなところにいてはいけない"

 

それは、彼の中に今なお強く強く根付いている、警察官としての正義感であった。

 

 

 

「…………?……!?コナン君!?何故ここに!?」

「NOCリストの居所が分かったんだ!」

「何っ!?」

「キュラソーだ。キュラソーの記憶こそが、NOCリストの記憶媒体なんだ!」

 

 

 

そこからコナンは、病院で聞いた話を、キュラソーの脳が抱える異常やこれまでの彼女の様子から導き出された推測を話す。

話を聞いているうち、安室の目が鋭さと冷たさを増していく。コナンは一抹の不安を覚えた。

話を聞き終わった安室は数瞬目を瞑った後、再び作業に戻った。

 

 

 

「完全記憶、いやそれに近いが異なるものか。成る程……やはり、彼女を消すしかないか

「安室さん?」

「あぁ済まないねコナン君。今の話は僕から赤井に伝えておこう。生憎、僕はここから動けないからね」

「安室さん、それって爆弾解体……?」

 

 

 

安室の手元から聞こえる、カチャカチャという音。背後から覗いたコナンは僅かに驚く。多芸だと知ってはいたが、爆弾解体までこなしてしまうとは。

 

 

 

「安室さんって、ほんと多芸だね」

「はは、昔ちょっとね。前の職場で同僚に教わったことがあったんだ」

「へぇ〜……あっそうだ!そのコードだけど、車軸全体に伸びてて、それぞれのコードの先に何かくっついてたよ。恐らくは、爆薬が」

「センサー式となると、C4かな?となると、これを解除した後に回収しないといけないな……」

 

 

 

話している間も手を休めず動かし続ける安室は、視線を向けることこそないもののコナンに礼を言う。

 

 

 

「ありがとう、コナン君。君のお陰でだいぶ助かった。……後は僕達に任せて帰りなさい。ここは危険だ」

「そんな!俺だって……」

「ここは戦場になる。いや……もうなっている」

 

 

 

そこでようやく手を止めた安室は、再びコナンと向き合う。

その目には、どろりとした闇が凝縮されていた。

人間の欲望を。残酷さを。醜悪さを。数々の悪徳と悲劇を見てきた者特有の、あらゆる負の念がどろどろに溶かし混ぜ込まれた瞳だ。

普段、彼の瞳にこの色が灯ることはない。心身共に極限まで追い込まれたこの状況が、彼の眼に闇を灯らせていた。

表の世界で生きていたコナンの知らない色。その凄みに、思わず後ずさる。

 

 

 

「コナン君。僕はね、一人の大人として、子供がこんな場所にいることを見過ごすことは出来ないんだよ」

「安室さん……」

「帰るんだ。今ならまだ間に合う―――」

 

 

 

瞬間、光が消える。

 

大規模停電。ベルモットの仕掛けが作動した。

それは即ち、組織がキュラソーをピックアップする体制が整ったことを意味する。

それを理解しているコナンは駆け出す。一刻も早く、ゴンドラへ向かう為に。

 

 

 

「なっ!待つんだコナン君!」

「キュラソーが奪還される!NOCリストを守らないと!」

 

 

 

安室の制止も虚しく、コナンは闇へと消えていった。

大きな舌打ち一つ。らしくもない行為は憔悴の裏返しか。端末を取り出し、通話をかける。

 

 

 

『赤井だ。どうした降谷君』

「NOCリストの記憶媒体はキュラソー自身だ。キュラソーの脳が、NOCリストの内容を記憶している!」

『!』

「それを突き止めた少年が、ゴンドラへ向かった!お前はその子を保護しろ!」

『その少年は……江戸川コナンという子ではないか?』

「あの子を知っていたのか……?チッ、後で話を聞かせてもらうぞ。いいから早く彼を保護してキュラソー奪還を阻止して彼女を捕縛か抹殺しろ!」

『俺だけ仕事が多すぎないか?』

「僕は爆弾解体で忙しいのでね!」

『君だけ仕事が少なすぎないか?』

 

 

 

尚も何かを言おうとしていた赤井を無視して通話を切る。

降谷は降谷で忙しい。照明が落ちたせいで、携帯で手元を照らしつつの作業になる。当然、片手が塞がれる為にそれまでに比べて速度は落ちることとなる。

いつ起爆されるか分からない爆弾を前にするには、あまりにじれったい時間だった。

 

 

 

「あと少しというところで……全く」

 

 

 

格闘すること、数分。最後のコードを切り終わった。爆弾に変化はない。

解体は、無事に完了した。降谷は額の汗を拭う。

 

 

 

「ふぅ……神経を削るよ、全く」

 

 

 

休憩もそこそこに立ち上がる。残ったC4の回収に、キュラソーへの対応。やるべきことはまだまだ多い。

むしろここからが彼にとっての本命だ。己の命を繋げるか否か。自らの命運を、赤井のみに任せる訳にはいかない。

 

ゴンドラの方向へ向かおうとした、その時。

 

 

 

彼方より、無数の弾丸が降り注いできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり。

 

 

 

アルマニャックを目の当たりにして、警戒レベルを最大まで引き上げるキュラソー。

アルマニャックは裏切り者に容赦がない。両の手では効かない程のNOCが彼の手によって消されている。

彼の戦闘能力を最もよく知る者の一人として、また今の自分が組織にとっては裏切り者であることを踏まえれば、当然の反応ではある。

一方、仲間の前ということで一時的にガスマスクを外し、素顔を現したアルマニャック。当の彼はそんなキュラソーの反応を訝しげに見ている。

 

 

 

「俺ァキュラソーはゴンドラごとお空に飛んでくって話を聞いてたんだが……もしかして迷子?ダイナミック過ぎない?」

「……ちょっとね。色々と、事情があるのよ」

「ん~~???まァ別にいいんだけどさ……てか、なんでそんなに身構えてるん?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「それは……そうね、確かに」

 

 

 

と、そのタイミングで、キュラソーの背後に隠れていた影に気がつく。

途端、彼の眉根に皺が寄る。不機嫌さが混じり、オーラが露骨に重みを増す。

 

 

 

「おい、なんで子供がここにいるんだ?」

「!それは……」

「俺達の作戦に、子供を巻き込むつもりか?流石にそれは看過出来ねェぞキュラソー」

「私もついさっき出くわしたのよ。その、迷子になっていたみたいで……」

「迷子ォ?……弱ったな、流石に送り迎えしてやる程の余裕はねェぞ……?」

 

 

 

途端に困り顔となり、フード越しに頭をバリバリと掻いていたアルマニャックは、本人から話を聞くことにしたようだ。

キュラソーの背中を冷や汗が伝う。そういえば、先程からシェリーがいやに静かだ。一切の反応を示していない。

アルマニャックの動きに合わせて、それとなく視線をやる。

 

 

 

シェリーは、目を限界まで見開き、唇をわなわなと震わせていた。

 

 

 

それに気づかず、アルマニャックはキュラソー越しにシェリーを視界に収める。収めてしまう。

 

 

 

「ようお嬢ちゃん。お名前聞いてもいいかな?ママかパパ、は……どこ…………に………………」

 

 

 

みるみるうちに顔から表情が削げ落ちていくアルマニャック。

ぞっとする程の無表情となった彼と、驚きを全面に出しているシェリーが向き合う。

 

 

 

 

 

 

「志保…………………………?」

「アル…………………………!」

 

 

 

ふらふらと。吸い寄せられるようにシェリーの元へ歩み寄るアルマニャック。

彼女の正面に立ち、膝を折る。両の眼がシェリーを射抜く。

彼女はどうにか言葉を紡ごうと、はくはくと口を動かすものの、肝心の言葉がまるで出てこない。

 

 

 

「あ、わ、わたし、私は……」

「……………………志保、なのか

「……!」

本当に、志保なのか

 

 

 

アルマニャックの、重く、確かめるような問いかけ。

シェリーは数度深呼吸をする。彼の目を正面から見据えて答える。それが、彼を死地に追いやった自分が払える、せめてもの礼儀だと思っているから。

 

 

 

「そうよ。私は、宮野志保。組織から逃げ出したシェリー……」

 

 

 

言葉は、続かなかった。

 

アルマニャックに、全力で抱き締められたから。

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

 

予想外の行動に、反応もとれず固まる志保。

ふと、彼女は耳元で何やら音がすることに気づいた。

その音は。段々と強くなっていく、その音の正体は。

 

 

 

 

 

 

………………かった

「え?」

「…………良がっだ……」

「……!」

「生ぎでで、良がっ゙だ…………!」

 

 

 

 

 

 

アルマニャックの、嗚咽だった。彼が涙ながらにこぼした言葉に、今度こそ志保の思考が停止する。

そんな言葉を、かけられるなんて、思ってもいなかったから。

アルマニャックは嗚咽を漏らし、途切れ途切れになりながらも言葉を紡いでいく。

志保の心を、的確に射抜いていく言葉を。

 

 

 

「ずっと、謝りたかった……!」

「え……」

「ごめんな……!最後まで、守れ、なくて……!!俺が、弱いせいで、志保が、こんな……ごめん、ごめんな……!」

「なん、で……貴方が、謝るのよ…………」

「でも、良かった……志保が、生きてて……本当に……!!」

 

 

 

 

 

 

「生きててくれて、ありがとう……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

組織が、嫌いだった。

 

物心ついた時から、自分の人生にはレールが敷かれていた。科学を学び、研究者となり、組織に尽くす。そういうレールが。自分の生き方を決める自由は、なかった。

その環境を作る要因となった両親は早々に死んでしまった。残されたのは姉と自分の2人だけ。

たった2人の家族、身を寄せ合って生きていく、それすら組織の横槍が入って制限をかけられた。

常に監視される日々。自分の家族と会うのに誰かの許可がいるなど、一体どういう了見なのか。

アルマニャックとの出会い以降、幾分かマシにはなったが、それでも私は組織が嫌いだった。

 

数ヵ月前、姉が組織に殺された。私に残された、世界でたった1人の血を分けた家族。それすら奪われた。

生きる道すら選べなかった自分が全てを奪われ、奪った側の殺し屋達が今ものうのうと生きていることに憤怒し、絶望した。世界とは斯くも理不尽なものかと、改めて思い知らされた。

私に何も与えず、全てを奪った組織が憎かった。組織さえなければ、自分はこんな辛い人生を送ることなどなかったのにと思えば、目に映る全てが憎かった。

 

 

 

 

 

 

()()()

 

 

 

組織が嫌いなことは事実だ。彼らを憎んでいることも事実だ。自分が置かれた環境が劣悪であったことも、全て事実だ。

 

それでも、それが底ではない。

 

自分が生きた世界よりも、更に下。地獄の最下層に産み落とされた人物がいた。私をして身の毛もよだつ絶望を味わわされた人物がいた。

そんな世界でどうにか生きて、大切なものを作り上げ、そしてそれら全てを一度奪われた彼は、それでも笑っていた。再び出来た大切なものを守るべく、日々を全力で生きていた。

そうだ。人間は、置かれた環境で生きるしかない。世界とは残酷で、だがそういうものだ。

それが嫌なら、己の力で環境を変えるか場所を変えるしかないのだ。

 

私は、それをしなかった。姉が死んだあの日以降、私は現実から目を背け、自分がすべきことから目を背け、()()()()()()()()()から目を背けた。

ただただ無意味に世を儚んでいた。

 

その結果が、あの日だ。

自分にまだ残されていた、本当に最後の一欠片。自分を、姉を、最後の最後まで慈しんでくれた、守ってくれた、()()()()()()()

彼が血の海に倒れ伏している、あの光景。

愚かな私は、血溜まりに沈む彼を見てようやく、自分にまだ残されたものがあったことを知ったのだ。

 

 

 

組織は嫌いだ。憎んでいる。どうか惨めに滅び去って欲しい。

だが、それ以上に。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 

環境を変える努力をせず、ただただ自分の境遇を恨み儚み、そして差し伸べられた手を振り払った。まるで、駄々をこねる子供のように。

幼稚で怠惰な己が、嫌いだった。

無知で傲慢な己が、嫌いだった。

守られた恩を仇で返した己が、心底嫌いだった。

 

APTX4869を飲んだあの時、私は本当に死ぬつもりだった。こんな愚か者がのうのうと生きていることが許せなかった。

だが死ねなかった。そこから先はただの流れだ。紆余曲折の果て、私は阿笠博士の元に身を寄せることになった。

以降は、ただ惰性で解毒薬の研究を続ける日々。大きな目的も感情も、私にはなかった。

 

 

 

皮肉なことに、全てを喪った先で得た今度の環境は、極めて良好だった。場所も、自由度も、人間関係も。

 

阿笠博士。組織出身の私を匿ってくれた人。何のメリットもないのに、それどころか組織に狙われる可能性すらあるのに、それでも彼は私を守ってくれた。

私生活はずぼらで隙あらば揚げ物を食べようとするメタボ親父。彼の食生活を徹底的に管理するのは私なりの恩返しだ。

 

工藤君。ある意味、私は彼にとって加害者だ。私が作った薬のせいで、彼は"江戸川コナン"として生きることを強いられているのだから。事実、初対面ではそのことを強く詰られた。

それでも、彼は私を受け入れてくれた。どれほどの苦境に立たされても、前を向き続ける人。闘う意志を捨てない人。私にとって、たった1人の運命共同体。私の手を取って、前に進んでくれる人。

 

吉田さん、円谷君、小嶋君。少年探偵団のみんな。子供ながらの純粋さと優しさを持ったいい子達。無鉄砲さに振り回されることもあるけど、私にとって大切な日常。守るべき対象だ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、私は知らなかった。私が今曲がりなりにも生きることに前向きでいられるのは、間違いなくあの子達のおかげなのだ。

 

 

 

彼らのお陰で、少しずつ、前を向いていけるようにはなった。抜け殻だった私に、少しずつ中身が出来てきた。

それでも私は、私が好きになれなかった。生きていていいのか分からなかった。

今の恵まれた環境は、私を守ってくれた人の屍の上にあると思っていたから。

 

 

 

杯戸中央病院での一件。工藤君から齎された情報で、彼が、アルマニャックが生きているかもしれないと分かった時。

 

心の底から安堵し、そして恐怖した。

 

彼がまだ生きていることが本当に嬉しかった。私なんかの為に死んでしまったのではないのだと、心の底から安心した。

そして、恐怖した。もし、彼が私を組織に連れ戻そうとしたら。

組織から離れ、冷静になった目で過去を振り返った時、彼がどれほど手を尽くして私を守ってくれていたのか、痛感した。

そんな彼を、私は死地に追いやったのだ。愛想を尽かされていても、何もおかしくはない。憎まれている可能性すらある。

もし彼に、そんな感情を向けられたら。"お前のせいで"などと言われたら。

私には、その先の人生を生きていける気がしなかった。

自分でさえ自分を好きになれないのだ。誰かに愛されている自信など、欠片もありはしなかった。

 

 

 

そんな彼が、目の前にいた。あらゆる感情が心の奥から沸き上がってきて止められない。

それでも、一番強い感情は、安堵と恐怖だった。

彼の生存が確定した安堵。彼に拒絶されることへの恐怖。

 

あの雪の夜。ジンに銃口を向けられた時すら比較にならない程に、私は彼の目を見るのが怖かった。彼の言葉を聞くのが怖かった。

 

 

 

 

 

やっぱり私は、心底愚か者だった。

 

 

 

彼は私を憎んでなどいなかった。私の生存を、涙を流して喜んでくれた。

この期に及んで、私は彼の優しさを理解出来ていなかったのだ。

そうだ。いつだって彼は、自分など二の次だった。私を、お姉ちゃんを、何より優先してくれていた。

組織内部での立ち位置がどれほど悪くなろうとも、己の命に危険が及ぼうとも、それらを"些事"と嘲り、私達に笑いかける。そんな人物だったのだ。

 

自分の恐怖が杞憂だと分かった時。次いで沸き上がった感情は、燃え上がるような羞恥だった。

こんなに自分を大切に思ってくれていた人物の手を、私は突っぱねたのだ。彼からの愛を受け取る資格など、私にはない。

彼は私の生存を喜んでくれたけど、だからこそ、私は私が許せなかった。周りの誰かを犠牲に生き続けてきた私が、これからも生きていていいとは、思えなかった。

 

 

 

そんな私のうじうじした悩みすら、彼は吹き飛ばしてくれた。

 

 

 

 

 

 

"生きててくれて、ありがとう"

 

 

 

 

 

 

もう、限界だった。

 

ずっと自分が嫌いだった。ずっと自分が許せなかった。生きる理由が、生きていていい理由が、分からなかった。

彼の言葉は、そんな感情全てを、揺るぎなく否定してくれるものだった。私の生存を、未来を、存在を言祝いでくれるものだった。

 

 

 

どうして、貴方はいつも私を守ってくれるの?

どうして、そこまで私を大切にしてくれるの?

 

どうして、私すら知らなかった、私が一番欲しかった言葉が、分かってしまうの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして……

「えっ?」

「どうして、貴方は、そうなのよ……!!」

「志保……?」

「どうして!?謝るべきは私でしょう!?私が貴方の手を振り払ったから、貴方の忠告を無視したせいで、貴方は血を流すことになったのに!!あれほどの傷、死んでてもおかしくなかったのよ!?」

「志保……」

「組織から離れてようやく分かったわ。貴方が、私達を守る為にどれほどの犠牲を払ってくれていたのかを!そんなことも知らなかった私は、貴方からの恩を仇で返した!愚かなことにね!!」

「…………」

「私に、私なんかに、貴方に愛される資格なんてないのに!!……なんで、どうしてよ……なんでそこまで……

 

 

 

 

 

 

「好きだから」

「!」

「志保のことが好きだから。大切な人を守るのに、理由なんか要らないだろ?」

「……なんで…………?」

「分からない。理由なんて分からない。でも、好きっていう感情に理屈なんて要らないのよ。話をしていて楽しかったから?なんだかんだ俺のわがままに付き合ってくれたから?遊んでいて楽しかったから?明美さんには世話になったから?全部かもしれないし、どれも微妙に違うかもしれない。でもそんなこと、どうでもいいんだ」

「…………」

「俺にとって大事なことは、志保は俺にとって数少ない友達で、大切な人で、身内同然な人ってこと。だから守る。志保に拒否されたとか、そんなこと関係ない。()()()()()()()()()()()()()。それだけ」

 

 

 

自分勝手だろ?と笑う彼が、その笑顔が、どこまでも眩しい。

 

 

 

「俺のこと、ずっと心配してくれてたんだな。ありがとう。ごめんな、心配かけて」

「アル……」

「でも、これだけは言わせて。"私なんか"じゃない。俺の大切な人を"なんか"だなんて言わないで。自分を、卑下しないで」

「アル……!」

「でも、そう思っちゃったのは俺のせいなんだよな?なら、俺は何度でも言うよ。志保が自分に自信を持ってくれるまで、何度でも言う」

 

 

 

 

 

 

「生きててくれて、ありがとう」

 

 

 

 

 

………………か

「ん?」

馬鹿…………

「志保?」

「貴方は、本当に馬鹿よ……!大馬鹿者……!!」

「へへ、よく言われる」

「馬鹿、馬鹿馬鹿、本当に、このおバカ……!どうして、どうして貴方はそんなにおバカなの……!?」

「う~ん、学校行ってないから?」

「そういう意味じゃないわよこのおバカ!……もう、もう!貴方って人は……もう……!!うぅ……うぅ…………!!」

 

 

 

視界が滲む。目の前にいる彼の顔が、よく見えない。

そんな私を、彼は再度抱きしめてくれた。優しく、力強く。

彼の大きな背中に、手を回す。今の顔を、彼にだけは見られたくなかった。

 

きっと、とびきり不細工な顔になってしまっているだろうから。

 

 

 

「ううっ、うう……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!!!」

「ごめんな、ごめんな、志保」

「謝らないでよ……このバカ……!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!!」

 

 

 

涙が止まらない。泣いている場合ではないのに。今この瞬間も組織が動いているかもしれないのに。

安心と、贖罪と、歓喜と、その他あらゆる感情が洪水の如く暴れ狂い、制御出来ない。

 

彼に対する罪悪感から、私を長らく苛んでいた鎖。それを解いてくれたのは、やっぱり彼だった。

今ようやく、私は私を赦せた。私を嫌いにならなくてもいいのだと思えた。

 

だって、こんなにも自分を愛してくれる人がいるのだから。

その人にここまで言われたのだから、それはもう、仕方ないでしょう?

 

我ながら本当に面倒臭い女だと思う。でも私はこういう人間で、こういう生き方しか出来ないのだから仕方ない。

こんな自分に愛想を尽かさずにいてくれた彼を、愛おしく思う。

 

 

 

愛おしくて、嬉しくて、温かくて、悔しくて、恥ずかしくて、悲しくて、寂しくて、やっぱり嬉しくて。

 

 

 

これからも闘いは続くのだけど。休んでいる暇などないのだけれど。どうか今だけは。

 

このぐちゃぐちゃな喜びを、噛みしめていたかった。

 

 

 

 

 

 





ここを書く為に、これまで志保にそこそこな尺を割いてきました。まだもう少し続きます。
完璧かどうかは分からないけど、今俺がかける最高のものを頑張って書いたつもりです。物語を、人の心を書くって本当に難しいですね。
拙作を読み、応援してくださる方々には頭が下がる思いです。いつもありがとうございます。



次回はここの続きから。キュラソーがずっと放ったらかしのせいでチベットスナギツネみたいな目をしているので、それを拾うところから進めていこうと思います。



最後までお読み頂き、ありがとうございました。よろしければ、感想・評価・お気に入り登録の程よろしくお願いいたします。
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どうか、よろしくお願い致します。
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