ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」 作:ていとくン
☆10:mom panties様
☆9:BlackPants様
☆8:sho000様
高評価下さった皆様、ありがとうございます!前回投稿時には評価数0でちょっぴり凹んでたので、嬉しい限りですね。
11/20 16:30 日間ランキング65位
二次日間ランキング51位
皆様のご愛顧に感謝です!ランキングに入れたのは約3週間振りですね……これは嬉しい!
書き終えるのに予想以上に時間がかかってしまって、いつもの投稿時間からズレてしまいました。すみません。
物語もぼちぼち佳境。風呂敷を畳みに行きましょう。
今回も前話同様、ちょっと時系列が前後したりします。お話の展開の都合ですね。ご了承頂ければと思います。
「……………………落ち着いた?」
アルマニャックが志保に問いかける。彼に近しい者でも滅多に聞くことがない、柔らかい声に、端で聞いていたキュラソーがむしろ驚いていた。
「えぇ。恥ずかしいところを見せちゃったわね」
当の志保は慣れっこなのだろう。目尻に残る涙を拭くと、僅かにはにかんだ。
この場にコナンがいたら目を剥いて驚いていただろう。少なくとも彼は、灰原哀のこんな顔を見たことがないから。
「何を言ってるのか分からねェな。俺の目には再会を喜んで泣いてくれた、いい女しか映ってなかったぜ。恥ずかしい姿?生憎心当たりがないな」
「あら、随分キザな台詞を言えるようになったのね。成長したみたいでお姉さん嬉しいわ」
「なにおう」
軽口を叩き合う2人の雰囲気は、とても温かく柔らかい。
そこに、水を差す者がいた。わざとらしい咳払いが聞こえたことで、両者共に音源へと視線を向ける。
「……あの、そろそろいいかしら」
「あん?………………へぇっ!?キュラソー!?なんでここに!?」
「いや、最初からいたじゃない」
「…………まさか、貴方から話しかけておいて、私のこと忘れていたなんて、言わないわよね?」
先程までの自分の姿を思い出し、それを見られていたことに今更ながら気づいて頬を赤らめる志保を置いておき、キュラソーが笑いながら問いかける。
その据わりきった目を見たアルマニャックは慌てて両手をぶんぶんと振る。
「い、いやいや!そんな訳ねェだろ!?なァ志保!?」
「私に振らないでくれる?」
「流石に冷たくねェか!?」
「あら、丁度いいでしょ?」
「くぅん……」
露骨にしょげてみせたアルマニャックだったが、急に真面目な顔になってキュラソーと向かい合う。
「いやいやそんなこと言ってる場合じゃねェ。…………キュラソー、頼みがある」
「シェリーちゃんのことは黙っていてくれ、でしょ?いいわよ」
「そうだ。報告を握りつぶすってのはお前さんにとっちゃ何のメリットもねェだろうが………………えっ?」
鳩が豆鉄砲食らったような顔とは、正にこういう顔のことを差すのだろう。両目を大きく見開き、口をぽかんと開けているアルマニャックを見て、苦笑が漏れる。
裏社会で生まれ育っておきながら、よくもまぁここまで分かりやすく感情を発露出来るなと半ば感心しながら、キュラソーは本題を切り出す。
「だって私、組織辞めるから」
今度は顎が外れてしまったらしい。いよいよ立派な間抜け面を晒しているアルマニャックに耐えきれず、腹を抱えて笑うキュラソー。
数秒。ようやく意識を取り戻したアルマニャックが、驚きをそのままに問いかけてくる。
「な、なんで?なんか、嫌なことでもあったのか?」
「あら、意外ね?すぐさま殺されるのかと思っていたのだけれど」
「いや、理由を聞かねェことには何とも……」
裏切り者と対面しているとは思えない温い発言に、当のキュラソーは心底愉快そうに笑みをこぼす。
「そうね……私達なりの言い方をするなら、"絆された"とでも言うのかしら」
「絆されたって、誰に?」
「私を拾ってくれた、子供達よ」
「ベルモットの報告にあった子か。遊園地を、一緒に回っていたとかいう……」
「あら、聞いていたのね」
既に真剣な顔に戻っているアルマニャックの目には、しかし今でも荒涼とした殺意が宿ることはない。
達観しているキュラソーと、ただ話を聞くに徹するアルマニャック。側で話を聞いている志保の方が、むしろ焦りを露わにしている。
「組織での日常も悪くはなかったわ。スリリングでやり甲斐のある仕事。貴方のような友人も出来たことだしね。……でも私は知ってしまった。
「……だから、足を洗うと?」
「そうよ、だから…………」
「その道は止めておけ」
シェリーの心配は要らない、キュラソーがそう言い切る前にアルマニャックは強い口調で彼女の言葉を遮る。
彼女は、自分を射抜くように見つめる彼の目を見る。
(…………?)
宿っている感情が、分からない。裏切り者に対する怒りでも、腑抜けた自分への失望でも、シェリーが助かったことへの安堵でもない。
自分が向けられたことのない感情。
(いえ、違う。私は、
そうだ、これは、誰かを案ずる者の目だ。あの子達が、自分へと最初に向けていた目。
元太君を助ける為に飛び降りた自分を心配して。観覧車で頭痛を起こした自分を案じて。
あの子達が向けてくれた感情。それを、今の彼は自分に向けていた。
あまりに場違いなソレに、キュラソーは混乱する。
「
「えっ?」
「その子達は、その子達の在り方は、眩しかったんだろ?」
「………………えぇ、そうね。眩しかったわ」
「これまでの全てを擲っても、構わない程に」
「…………よく分かったわね」
組織の価値観からすれば、自分は特大の愚か者だ。まさか、心境を理解されるとは思っていなかった。
その理由も、次の発言で判明する。
「分かるさ。……
「……貴方にも?」
「少年兵やってた頃にな。俺達を地獄の底から引き上げようとしてくれた人がいた。NGO職員って言ってたかな」
「それはまた、奇特な……」
「だよな、俺もそう思う。仲間でもないのに、助けたって得なんかねェのに。彼は俺達から少年兵という肩書を外そうとしてくれた。そのまっすぐな在り方が、優しさが。すごく眩しかったよ。俺も、
「…………それで、その人は?」
「死んだよ。俺達の上司に殺された」
あっさりと。残酷な結末を、アルマニャックは口にした。
「使う側からすりゃ、少年兵ってのは便利な奴隷だ。一度殴れば逆らわないし、安く手に入るから気まぐれに殺したって文句言われない。盾にも特攻にも使える。いいことづくめだ」
「……胸糞悪いわね」
「ハハッ、ありがとよ。付け加えるなら、俺達の部隊は戦績が良かったからな。上司共も手放したくなかったのさ。だから殺された。生きたまま切り刻まれて豚の餌になってるところを見せられたぜ」
尤も、その上司共も俺達が豚の餌にしちまったが。そう言ってカラカラと笑うアルマニャックの目は、孔のように黑かった。
だがそれも束の間。再び光が差し、キュラソーを案ずる目に戻る。
「俺が言いたいのはさ、裏の人間が表の人間に関わったところでロクな結末にならないってことよ。そんでそういう時真っ先に死ぬのは、
「ッ……………!」
「俺はさっき"足を洗う"なんて言い方したが、あれは正しくないよな。……足なんて洗ったところで無意味だ。望む望まざるとに関わらず、一度闇に身を浸した奴は骨の髄まで黒く染まってる。洗ったところで落ちやしねェ」
奇しくも、この場にいる全ての人間に刺さる言葉だった。3人のうち誰一人として、望んで裏社会に来た訳でもなければ望んで身を置いていた訳でもない。
そういう生き方しか出来ないから。そこから抜け出す術を知らないから。
だが、個人の意思など関係なく闇は常に付きまとう。シェリーが今なお組織から追われ続けているように。
「俺達はどこまで行っても闇の人間。光に焦がれたところで、手を伸ばすには余りに遠過ぎる。それでも尚縋ろうとすれば、今度は闇がその光を喰らおうとするのさ。周り全てを巻き込んで破滅することになる。……きっと、そんな結末を一番望んでないのはキュラソーだろ?」
「…………そうね。あの子達に危険が及ぶのは、到底許容出来ないわ」
「なら、」
「いつ、私があの子達の元へ行くなんて言ったかしら?」
眉を上げるアルマニャック。それを見て不敵に笑うキュラソー。
彼はまだ殺気も敵意も放っていない。今、自分が死んでいないのはこれまでのよしみ故のことだ。だが、アルマニャックは一線の見極めを誤る人間ではない。
この先答えを1つでも間違えば、この首は即座に叩き落されるだろう。
剃刀の上を滑るような問答。背中に冷や汗が伝う感覚を、どこか楽しんでいる自分がいることに気づき、内心苦笑する。
生と死の狭間、そこを揺蕩うスリルに脳を灼かれている。結局自分は、戦場に生きるべき人間であることを改めて認識する。
だからどうした。光に手を伸ばして何が悪い。欲しいものは手に入れる。それが悪党というもの。
「貴方の言う通り、自分が足を洗えるなんて思っていないわ。きっとこれからも、私は裏社会を生きるのでしょうね」
「そこまで分かっているなら何故……」
「闇を生きているから光に手を伸ばしてはいけない、そんなこと誰が決めたの?」
一閃、首元。薄皮一枚を切り裂いて、黒鍵が止まる。
極寒の殺気を向ける鋭い瞳がキュラソーを刺す。志保が慌てて止めに入ろうとするのを彼女は目で制する。
「……カタギを、巻き込むつもりか?」
「話聞いてたかしら?あの子達に近づくつもりもなければ、表の人間に特段関わるつもりもないわ。私が勝手に焦がれ続けるだけ。闇に身を浸しながら光を目指して生きるだけ。1人でね」
「それ、は…………その生き方は、辛いぞ」
殺意は霧散し、一転して沈鬱な表情を浮かべる彼に思わず苦笑いが浮かぶ。
「1人は、寂しい。俺だって耐えられなかった。だから俺は、ラムの手を取ったんだ」
「随分と寂しがり屋なのね」
「吹くなよ。人は1人じゃ生きていけない。それにその生き方、いつか理想と現実の乖離に耐えられなくなる。そうなっちまえば、地獄だぞ」
「逆に聞くけど、絶対に欲しいものがあったとして、そこまでの道のりが辛く険しいものだったとして、貴方なら妥協する?諦める?」
挑むような物言い。アルマニャックは瞠目した後、静かに目を瞑り、そして、笑った。
諦めたように。認めたように。嘲るように。敬うように。楽しそうに。彼は笑った。
「…………いいや?する訳ねェよなァ?」
「私も同じよ。それに貴方、前に言っていたじゃない。"表も裏も、善も悪も拘らず自分にしか縛られない。それが本物の悪党"って」
「そりゃ言ったがよ」
「私は悪党よ?裏の人間が光を目指してはいけないなんて、
「…………ギハハハハ!!驚いた!お前さん、そんなにアツい女だったか!?」
「それだけ強く、焦がされちゃったのよ」
「それなら仕方ねェな!どうやら見くびってたのは俺の方みてェだ!」
腹を抱えてひとしきり笑ったアルマニャックは、涙を拭きつつ黒鍵を仕舞うと、リボルバーを抜いてキュラソーの眉間に突きつけた。
「キュラソー、お前の所信表明は確かに受け取った。では、この状況はどうする?貴様の眼前にいるのは、組織最強の始末屋アルマニャックだ。アルマニャックは裏切り者を決して許さない」
「えぇ、よく知っているわ。本気の貴方相手に、私1人じゃあまりに分が悪いわね」
「ならばどうする?俺を突破出来なきゃ、先程の戯言は戯言のまま終わりだ。
さぁ
試すように、愉しそうに、ギリギリと口角を吊り上げるアルマニャック。
対するキュラソーは、あくまで穏やかな表情だ。僅かな苦笑すら浮かべている。
「楽しそうなところ悪いけど、私は戦わないわよ」
「おいおい、まさか俺がこのまま黙って見逃してくれるとでも?」
「えぇそうよ。だって私は裏切り者じゃないもの」
「ほう?続けてみろ」
「私は別組織に移籍する訳でもなければ、諜報機関に出戻りする訳でもない。ただ辞めるだけ。足を洗うのであって、裏切る訳ではないわ」
「そりゃ屁理屈ってもんだろう!」
「屁理屈も突き通せば真理よ。貴方は貴方のルールに従って、私を裏切り者と断ずることは出来るかしら?」
数秒。目を細めてキュラソーを見やったアルマニャックは、表情を真面目なものに戻す。
空気が、張り詰める音がした。
「成る程、俺をよくよく分かっているな。確かに俺は現段階でお前を不義理な奴だと思っちゃいるが、裏切り者とまでは思えない。第一段階はクリアだな」
「第一段階?」
「おうよ。忘れてないか?俺は此度の経緯をラムに報告しなきゃならない。俺はこう報告するぞ。"キュラソーは足を洗いたいと言って組織を抜けました"とな。ラムは血眼になってお前を捜し出し、そして殺すだろう」
「そうね。脱退するなら、私は死んだことになっていなければならない」
「俺はラムに恩義がある。生半可な理由では嘘をつくつもりはねェぞ。さて?どうやって俺の口を塞ぐ?」
ここが最後の関門だ。キュラソーも、アルマニャックも、志保でさえそれを空気で理解した。
この後キュラソーが放つ言葉で、結末が定まる。
そしてキュラソーは、賭けに勝った。
「借り1つ、でどうかしら」
「弱いな。なんせお前の存在は秘密にしなきゃならない。俺が貸しを作ったところで使い所が……」
「
「……………………なに?」
「私が、シェリーちゃんに借り1つ。つまり彼女は今後一度だけ、私を好きなように使える。……彼女の今後を考えたら、今この場で貴方が一番欲しいものだと思うけど」
痛い程の、静寂。志保は目を見開き口元に手を当てている。アルマニャックの顔は、見えない。
実際には数秒程度の時間だったが、キュラソーには数時間程にも長く感じた沈黙の果てに、彼は判決を下した。
「この場から、志保を無事に連れ出すと誓うか」
「少なくとも、私の命よりかは優先するわ」
「彼女の要求に、必ず応えると誓うか」
「確約は出来ないわね。ただ私のベストを尽くすことは約束出来る」
「…………………………お前は、俺に、ラム相手に嘘をつかせるんだ。その重さが、分かるな?」
「…………………………えぇ」
「…………組織からキュラソー抹殺命令が出た場合、俺はそれを拒否しない。ただ、俺からお前の生存を話したりはしない。これが最大限の譲歩だ」
「最高よ。感謝するわ」
「……志保を、頼むぞ」
アルマニャックがリボルバーを下ろし、懐へと収めた。
空気が一気に弛緩する。キュラソーは思わず額の汗を拭い、志保は腰からへなへなと崩れ落ちた。
「つー訳で志保。キュラソーに続いてこの遊園地から離脱してくれ」
「つー訳で、じゃないわよこのおバカ。全く、心臓に悪いわ……」
「ごめんよ。ただ、これは必要なやり取りだったんだ。分かってくれ」
力なく怒る志保を宥めるアルマニャック。フイと顔を逸らされて消沈しているその姿に、先程までの覇気など見る影もない。
再び咳払いをするキュラソー。放って置くとこの2人は永遠に戻ってこないので仕方ない。
「おお、悪い悪い。それじゃ、志保はとっとと撤退してくれ。ここにはまだ公安が数名いるし、恐らくFBIも来ている。戦場になるだろう。キュラソー、くれぐれも頼むぞ」
「任されたわ。でも、その前に子供達を助けないと」
「子供達…………?は?まさか、観覧車に乗ってるの?」
「そうよ。そして、その子供達は私の今の友人でもあるわ」
「おまっ…………はぁ〜〜〜〜!?」
このタイミングで受けるには最悪な報せに、思わず頭を抱えるアルマニャック。
だが志保にとって大切な人ともなれば、彼の中で見捨てる選択肢は取れない。
「しゃあない。先に子供達を回収してから撤退しろ。俺はちとやることがある」
「やること……?」
「俺のことはいい。早く行動に移すんだ。急がないと……」
彼が2人を急かした、ちょうどその時だった。
彼らの頭上を、彼方から無数の弾丸が通り過ぎていった。
少々時間を遡る。
キュラソーが乗っているゴンドラをピックアップしていたオスプレイ。
その操縦を任されていたコルンが、異常を唱える。
「観覧車頂上、8時方向。何か動いた」
「動いた?……おいウォッカ、ゴンドラ内部を探れ」
「了解!」
サーモグラフィー装置でゴンドラ内部を熱探知するウォッカ。すぐに異変に気づき、声を上げる。
「このシルエットは……男1人とガキ1人!兄貴、キュラソーがいませんぜ!」
「何!?…………キュラソー……!!」
土壇場で裏切った。直感でそう悟ったジンは即座にゴンドラを投棄し、目的をキュラソー抹殺に切り替える。電話先のベルモットには"せっかち"と揶揄されたが構うことはない。
"疑わしきは罰する"、それがジンのモットーであるからだ。
先程同様、ウォッカにサーモグラフィーで観覧車全体を探らせ、キュラソーを捜索する。
探しているうち、またしてもウォッカは異常を検知した。先程同様、看過出来ない異常を。
「ん?内部を動く影……ガキが二人と大人……?…………!こいつはやべぇ!兄貴!起爆装置の近くに誰かいやすぜ!」
「何!?」
「ほらここ!確か、この消火栓に設置してあった筈……あっ、離れやしたね!」
「チッ……公安に気づかれていたのか!」
即座に懐から起爆スイッチを取り出すジン。そのまま何の躊躇いもなくスイッチを押した。
カチッカチッカチッ、カチッ、カチッカチッ、カチッカチッ
何度もスイッチを押すものの、観覧車に仕掛けていた筈の爆弾は一向に炸裂しない。
解体された。それを突きつけられたジンはニヤリと笑うと、スイッチを床に叩きつけて踵で思い切り踏み抜く。
起爆装置の側にいた公安と思しき男が解体したのは、あくまで全ての爆弾を一斉に炸裂させる為の装置のみ。車軸へと大量に設置したC4までは解体・回収出来ていない筈だ。
であれば、C4を直接爆破させてやればよい。
そこまで考えたジンは命令を下す。戦争の幕を切る、命令を。
「浴びせてやれコルン……弾丸の雨をな!!」
「殺す!ジンのクソボケ野郎!マジで殺す!俺がまだ観覧車にいるっつうんだよあのハゲ!」
「どうするのアルマニャック?この状況じゃ迂闊に動けないわ!」
「子供達が!アル……アル……!!」
「落ち着け!今から電話するよ!あのド阿呆にな!!」
機関銃による掃射。慌てて分厚い壁の向こうに逃げ込んだものの、流れ弾だけで薄い壁を容易く貫通する威力に、アルマニャック達は動きを縫い留められていた。
激昂した彼は端末を取り出し、ジンにコールをかける。
『なんだクソガキ』
「クソはテメェだこのハゲ!いきなりぶっ放してんじゃねェ!俺にも当たるだろうが!」
『お前も観覧車に来ていたのか。知らなかったぜ、悪かったな。用はそれだけか?』
「撃ち方やめろって言ってんだ殺すぞ!!」
『駄目だ。観覧車に仕掛けた爆弾を解体されたからな。C4を直接爆発させて観覧車を倒壊させる。それよりテメェはキュラソーを探せ。奴は組織を裏切った』
あまりに傍若無人なジンの言い様に、アルマニャックの顔が紅潮する。
頭上すぐを弾丸が飛んでいったこともあり、思わず上を睨みつけた。
上を見上げたのはたまたまだ。故にそれは、ただの偶然だった。
アルマニャックの視界。その端に映った、長身にニット帽を被った男。スナイパーライフルを携えた、猛禽の如き目をした男。
赤井秀一だ。
怨敵の存在を目視し、殺気が津波の如く荒れ狂う。それは観覧車一帯に伝播し、その場にいた全ての者に、束の間死を想起させた。
感情のまま赤井の元へ向かおうとしたアルマニャックの肩が叩かれる。
振り返れば、それはキュラソーだった。彼女が指差す方向を見ると、殺気に当てられた志保が顔面を蒼白にして蹲っていた。
即座に殺気を収める。血の気が引き、頭が一気に冷えたが、そのおかげで図らずも名案が彼の脳裏をよぎった。
「キュラソーなら、ここにいる。彼女は裏切った訳じゃない」
『何?じゃあ何故ゴンドラにいない?』
「赤井秀一だ」
『………………何だと?』
「彼女はゴンドラから赤井秀一を見つけたらしい。それを見て即座に追跡を決断、今に至るということだ。生憎すれ違ってしまったようだがな。俺も今、赤井の姿を確認した」
『………………裏切った訳じゃねぇと?』
「そういうことだ」
唸り声、数秒。電話先から聞こえるジンの声に、黙って耳を傾ける。
ややあって、一旦納得したらしい。射撃が止まった。
『成る程、分かった。で、どうする?てめぇは何か考えがあるのか?』
「お前らは射撃を続行してくれればいい。上から下に、追い詰めるようにな」
『てめぇらはどうするんだ』
「一旦下に行く。そこで網を張って、後は待つさ。追い込まれた魚が、自分から囚われに来るのをな」
『……フン、いいだろう。てめぇの策に乗ってやる。だがキュラソーには伝えておけ。次から勝手な行動は慎めとな』
「はいはい了解了解」
通話が切れる。ややあって、掃射が再開されたが、音は先程よりだいぶ上の方で鳴っている。
アルマニャックは志保に頭を下げた後、キュラソーへと指示を出す。
「ジンはさっきの通り誤魔化した。お前さん方はとっとと撤退してくれ。あまり時間がない」
「分かったわ。貴方は何をするの?」
「お前さんの死亡工作だよ。骸を1つ用意して、お前とすり替える。キュラソーはここで死ぬんだ。そうすればお前は自由さ」
「………………ありがとう。恩に着るわ」
「その恩は志保に返してくれればいい」
そう言うとアルマニャックはキュラソーとの会話を切り上げ、しゃがみ込む。志保と目線を合わせると、思い切り抱き締めた。
「アル……?」
「志保。多分、
「!」
「俺と志保が会う。それだけで、志保に絶大なリスクが伴うのは分かるだろ?組織の目を晦ますことを考えるなら、俺達が会う訳にはいかない」
「でも……でも…………!」
「最後に、一目会えて良かった。志保が無事で、本当に良かった。ありがとうね。…………どうか、元気でな」
最後にもう一度。強く抱き締めた後、優しく離すと、彼は立ち上がった。
志保に笑いかけ、踵を返す。その背中に、志保は呼びかける。アルマニャックが振り返る。
「アル…………!!」
「どうした?」
「アル…………今まで、本当にありがとう!貴方から受けた恩は、決して忘れないわ!!………………貴方と過ごした時間は、本当に楽しかった。どうか、元気でね」
「…………ありがとう。志保も、どうか元気で」
柔らかい笑顔を見せ、再び踵を返したアルマニャックだが、再度志保の方へと振り返る。どこか、バツの悪そうな顔をしながら。
「そうだそうだ。志保はもう組織から離れたんだから、これを伝えても大丈夫だよな。危ない危ない」
「…………?」
「いいか志保、今から言うメッセージを、しっかりと覚えておいてくれ」
いやに真剣な顔付きになった彼の言葉に、自然と背筋が伸びる。
そうしてアルマニャックの口から放たれた言葉は、志保にとってやや要領を得ないものだった。
「太陽は、未だ沈まず」
「太陽……?」
「よく覚えておいてね。
「……えぇ、分かったわ」
「うん、よろしくね。……それじゃキュラソー、急いでくれ」
「分かったわ」
今度こそ、駆け足で影へと消えていったアルマニャック。その背中を名残惜しく見つめていた志保だったが、キュラソーの言葉で我に帰る。
「それじゃシェリーちゃん、急いで子供達をピックアップしに行くよ!」
「……えぇそうね。まずはそこからよね。よろしくお願いするわ。行きましょう!」
アルマニャックが残したメッセージも気になるところではあるが、後でゆっくり考えればいい。
今はとにかく、子供達を。
闇を生きてきた自分達を明るく照らしてくれた、大切な光達を助けるべく。シェリーとキュラソーはゴンドラへと駆けていった。
キュラソーの扱いには賛否両論あると思います。私も直前まで足りねぇ脳みそをひねってひねって考えたのですが、この√で行くことにしました。ご理解頂けたらと思います。
シェリーが受け取った伝言の意味に関しては、もうちょっとしたらそれっぽく解説します。
次で映画本編は終わり。その後事後処理やエピローグを入れて、残り2〜3話で純黒の悪夢編は終わりになります。長かったな……!
残りあと少し。最後までお付き合い頂けたら幸いでございます。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。よろしければ、感想・評価・お気に入り登録の程よろしくお願いいたします。
特に感想と高評価は凄く嬉しいです。本当に励みになります。高評価頂くたびにニッコリなりますし、感想通知来るたびにテンション上がりすぎて動悸がヤバいです。
どうか、よろしくお願い致します。