ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」   作:ていとくン

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☆10:十六夜 櫻様、ラゼ様
☆9:佐山長千様、五月雨ボーイ様、銀鹿様、睦月@かーふぁ様、八尺瓊ノ勾玉様、のぶーき様、どるちぇ様、セシリア-2様

高評価を下さった皆様、ありがとうございます!皆様一人一人の投票が私の力になります。感謝!!



11/27 19:30 日間ランキング72位
       二次日間ランキング57位
11/28 10:30 日間ランキング48位
       二次日間ランキング40位

皆様のご愛顧に感謝です!やっぱりランキングで自分の作品を見かけると嬉しいですね!
これ、ランキングの天辺に君臨し続けているあの御方のおかげでコナン原作のss全体がUA上がってるよな……感謝しかない……
正にバブル。乗るしかないこのビッグウェーブ。という訳でぶっちゃけ忙しくてしんどいですが更新しちゃいました。
字数マシマシで、普段よりだいぶ時間ズレちゃいましたけどね。てへぺろ。



さて。純黒の悪夢編、最終話でございます。前回同様、最後にアンケートを設置しております。よろしければご協力頂きたく思います。



彼も人なり予も人なり

 

 

 

 

 

 

事件から24時間後。警察庁、公安部。

 

 

 

そこで、2人の男が向かい合っていた。両者共に、その顔色は非常に険しい。

 

まず、口火を切ったのは座っていた男だった。顔の片側に引きつったような火傷の痕を残す彼の名前は黒田兵衛。警視庁捜査一課の管理官にして、警察庁警備局警備企画課所属の降谷を部下に持つ、公安部の重鎮である。

彼は厳しい顔で何枚かの書類をパラパラとめくると、瞑目し深いため息をついた。

 

 

 

「死者36名、行方不明者10名。……未曾有の大損害だ。現在ゼロは壊滅状態、公安部という組織が出来上がって以来の犠牲者だ」

 

 

 

向かいに立つ降谷は沈黙を保つ。黒田の発言は、自分に向けられた物ではないものだと分かっているから。

黒田は右手で頭を抱えつつ、尚も独り言をこぼしていく。

 

 

 

「正直、正式な報告が上がった今でも信じられん。これだけの犠牲が出てしまったことも、これをたった1人でやってのけた存在がいるということも」

「僕も、信じたくないというのが正直なところです。しかし、当の本人から報告を受けてしまったもので」

「……例の、"ジャバウォック"か」

「はい。組織では"アルマニャック"で通っていますが。……ちなみに、行方不明者10名というのは?」

「現場となった駐車場では大きな爆発の後がいくつもあった。クレーターすら複数確認出来ているらしい」

「まさか、遺体が……」

「ああ。36名というのは、"体のパーツが全て揃っていることが確認出来た"数だ。残りは爆発によって細かく離散し、火災で炎上した。今鑑識が総出で繋ぎ合わせているが、状況は芳しくない。……4()6()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

まるで、戦場。治安の良さでは世界トップクラスである筈の日本で起きたとは思えない惨状だ。

軍人と違い、公安の刑事は認識票(ドッグタグ)など付けていない。そんなものを付けなければならない事態を想定した組織ではないのだ。

その為、身元照会も遅々として進んでいない。

落ち込んだ空気を一度入れ替えるべく、黒田は敢えて話を変える。

 

 

 

「……ちなみに、お前から見て"アルマニャック"とはどういう人物だ」

「……そうですね、ざっくり言えば"マフィア"、でしょうか」

 

 

 

黒田は目線で先を促す。降谷は一つ頷き、アルマニャックに対する自身の印象を語っていく。

 

 

 

「彼は非常に情が深い人間です。仲間の命と自分の命、天秤にかける機会があれば、彼は迷うことなく自身を切って捨てるでしょう」

「それ程の男があの惨状を…………成る程、奴の情が注がれる相手は身内に限られるということか」

「えぇ。ですが"組織"の中では、こういう言い方も何ですが比較的良識派です。彼は表社会の人間を巻き込むことを好みません。"組織"でも、彼が請け負う任務に表の人間が関わるものは存在しないと聞いています」

「……公安部は表の人間には換算されないということか」

「それもありますが、一番は敵だからでしょう。彼は元少年兵です。敵に情けをかければ自分や仲間が死ぬことになる、それが骨の髄まで染み込んでいるのが要因でしょうね」

「捜査官として、己の意志で敵対した以上容赦はしない、と」

「恐らくは」

「………………話を纏めるに、少なくとも奴の人間性に関しては、脅威は薄いな」

「はい。むしろそこがつけ込む隙になるでしょう。ただ……」

「奴の実力がそれを許さない、か」

 

 

 

トントン、と蟀谷を叩く音。厳しい顔は変わらないが、手がかりが出たことで先程より眉間の皺が心なしか薄くなっていた。

 

 

 

「戦士としての奴の実力はどれほどだ」

「僕では底が見えませんでした。加えて、彼の真骨頂は近接戦だとか」

「FBIから提供された映像は私も観た。……人間とは、あそこまで動けるものなのか?今なお信じ難い気持ちだ」

「同感です。僕も彼の近接戦を見たことはないので……ただ、ラムは彼にいたく拘っています。組織内部においても、彼の情報はその多くが意図的に隠蔽されていることを考えると、信憑性は高いかと」

「"組織"のナンバー2が、か」

 

 

 

黒田は椅子に深く腰掛けると、大きくため息をついた。

しばしの沈黙。降谷も黙って先を待つ。

 

 

 

「お前の話を聞いて、改めて決断した。奴の案件は、我々"刑事"の手に余ると」

「……残念ですが、同感です」

「だが、"公安"以外に奴への対処が出来る組織はこの国に存在しない」

「……自衛隊はどうですか?」

「"組織"に絡む作戦は基本的に表沙汰に出来ない。自衛隊に死者が出た場合、隠し通すことは難しい」

「成る程。となると……」

「あぁ。奴はSAT案件とする」

 

 

 

特殊急襲部隊(SAT)

 

警察の警備部に編成されている特殊部隊だ。対テロ作戦を専門としており、組織的な犯行や強力な武器が使用されている事件の対応を請け負う他、刑事部の特殊事件捜査係だけでは対処できない凶悪事件にも出動する。

 

日本警察が保有する精兵にして最高戦力。今後、"アルマニャック"に関する捜査或いは捕縛・抹殺の判断は公安ではなくSATに委ねることを、黒田は決断した。

 

 

 

「FBIから"ジャバウォック"に関する情報を更に引き出せ。こちらで精査した後、全国のSATに共有する」

「分かりました。……アルマニャックの処遇は抹殺、ですか?」

「ああ。そのつもりで行かねばSATと言えど全滅もあり得る。生きていれば我々としても助かるが、奴を相手取るにあたってそこまで要求するのは、流石に酷だ」

「……えぇ、分かっております」

「尤も、それで殺せるかと言われればだいぶ厳しい話になるだろうが」

 

 

 

表面上は同意しつつ、降谷は内心臍を噛む。出来れば、アルマニャックは逮捕したかった。たとえどれほどの時間がかかろうとも、己の罪を償う機会を与えたかった。

だが、彼は分水嶺を超えてしまった。甚大な被害を受けたゼロは事実上の機能停止。最早降谷がどうこう出来る領域の話ではなくなってしまった。

組織の面子としても、戦力としても、彼はゼロの手を離れた。今後は熾烈な戦争になるだろう。

 

 

 

「僕の動きは、今後どのように?」

「"組織"での活動は、まだ可能なのか?」

「えぇ。どうやらキュラソーは僕がシロであるとメールを送っていたようで……時間帯からして本人が送ったものではないと思うのですが、その後彼女自身が内容を追認していると、ベルモットから通達がありました」

 

 

 

観覧車が謎の爆発で停止した後。ベルモットからバーボンの元に電話がかかってきた。

曰く、"キュラソーからバーボンがシロであるとの報告が上がっていた"、"本人からも追認が取れたのでひとまず疑惑は撤回する"、"キュラソーは死亡した"とのこと。

 

 

 

「……キュラソーのその後は?」

「死亡したようです。アルマニャックが報告を上げています。"組織"でも、それを受理したとのこと」

「……彼女の思惑が読めんな」

「罠の可能性も考えましたが、そんな回りくどいことをせずとも僕を消す手立てはいくらでもある筈です。他の幹部達の動きを見ても、キュラソーの死亡は確実。彼女が送ったメールも、僕の耳に入った内容のまま信用されているみたいです」

 

 

 

何一つ背景が分からない情報ではあったが、以降"組織"からも追手は来ていない。あのアルマニャックならいつでも自分を殺せるだろうが、彼も来ない。

どうやら本当に疑いは晴れたらしい。キュラソーの思惑だけが分からないが、死人に口なし。真相は闇の中だ。

黒田も眉を顰めていたが、確かめようもない情報で悩むのも無意味。ため息一つついた後、降谷に続投の指示を出す。

 

 

 

「分かった。ならば引き続き"バーボン"として活動し、"組織"の情報を集めろ」

「分かりました。流石にしばらくは大人しくしている必要がありそうですが」

「構わない。公安もしばらくは休業状態だ。立て直しの間はFBIに協力をしてもらう」

「彼らは杯戸中央病院の件で壊滅状態だった筈では……?」

「公安上層部からFBIに増援派遣の要請を行い、それが受理された。近々日本に到着するから、そちらとの連携も頼むぞ」

 

 

 

露骨に嫌そうな顔をする降谷。それを見た黒田は目を丸くした後、薄く笑った。

 

 

 

「嫌いか、FBIが」

「いえ、その……」

「FBIというよりは、赤井秀一か?」

「……意地悪ですね、管理官」

「お前がそこまで感情を露わにするところを見るのは、随分珍しく思えてな」

「ご安心を。任務に私情は挟みませんので」

 

 

 

憮然とした顔で言い放つ降谷を、黒田は面白そうに眺めていたが、咳払い一つして空気を切り替える。

 

 

 

「では、此方からは以上だ。何か聞きたいことはあるか」

「いえ。問題ありません」

「よろしい。下がってくれ」

 

 

 

一礼をして退出する降谷。それを見送った黒田は、椅子に深く腰掛けると"アルマニャック"に関する資料をパラパラと見ていく。

 

 

 

「……惜しいな。これ程の男、是非とも公安に欲しかった」

 

 

 

仮に彼が公安にいれば、警察の歴史に名を残す刑事になれていただろう。

そんな男が、自分達の敵に回っている。

 

 

 

「全く、ままならんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事件から72時間後。阿笠博士邸、その一室。

 

 

 

パソコンに向かい、一心不乱に作業をしているのは、灰原哀。

彼女は今、必死の思いで調べ物をしていた。

そんな彼女の様子を、ドアの隙間から覗き込む2人。江戸川コナンと阿笠博士は顔を見合わせていた。

 

 

 

「なあ博士、灰原は何を調べてるんだ?」

「さぁ……昨日までは難しい顔で何かを考えていたようなのじゃが、今朝何かを閃いたようでな。以降ずっとあの調子じゃ」

「今朝、って……もう夕方だぞ?まさか、ぶっ通しか?」

「うむ……流石にまずいと思って軽食を持ってきたのじゃ」

「あぁ、それ博士のおやつじゃなかったのか」

 

 

 

ギク!と分かりやすく動揺する博士をからかうコナン。

いつしか内緒話のトーンではなくなっているが、灰原の耳には一切入っていない。

今、灰原の脳内を占めているのは、アルマニャックからの伝言だった。

 

 

 

"太陽は、未だ沈まず"

 

 

 

何かの隠喩であることは理解出来た。だが、そこで手詰まりだった。

彼がわざわざ"大切な"と前置きした上で残したメッセージである以上、無意味なものである筈がなく、また自分が持つ情報だけで解ける内容であることも確実。

だが、分からない。あらゆる暗号を想定して解読を試みたが、どれも当てはまらなかった。

脳が茹だる程に思考を回しきった果て、ふと気付いた。

 

(この暗号を作ったのはアル。なら、さほど難しくないものなんじゃ?)

 

彼は馬鹿ではないが、学がある訳では無い。つまり、15歳の若さで研究者としてコードネームを貰う程の秀才である自分を以てして解けない暗号に関する知識を持っている可能性は薄い。

暗号と隠喩、ということで無意識に難しく考え過ぎていた。恐らく、もっと単純なものなのだろう。

 

(太陽、沈まず。それぞれが何を何に例えているのかしら)

 

あの場にいたのは既に脱退が確定していたキュラソーのみ。つまり、アルマニャックは組織を抜けるキュラソーにさえ知らせたくない情報を自分に託した。

恐らくは、世界で()()()()()()()()()()()()()()()

 

そこまで思考が至った時、脳の奥底から泡が浮かび上がってきた。

小さな、小さな泡。あり得ないが故に考慮すらしていなかった、可能性。

 

(アルが"太陽"と呼んでいたもの…………)

 

 

 

「ま、さか―――」

 

 

 

あり得ない。だって()()は、もう……。

そこまで考えて、更に気付く。彼が、密やかに示していた事実に。

 

 

 

 

 

 

「アルは、一度も"死んだ"とは明言してない……!」

 

 

 

 

 

 

そこからの行動は早かった。例のあの日、その前後に起きた事件を徹底的に洗い出した。

何か、決定打となりうる事件がある筈だ。テレビの特番から地方紙の4面に至るまで、全ての出来事に目を通していく。

そして。

 

 

 

 

 

 

「―――見つけた!これよ!!」

 

 

 

灰原が辿り着いたのは、とある刑事事件。

指定暴力団の泥参会。その系列二次団体である出酸組の事務所が一つ、襲撃を受けて壊滅したというものだ。

この襲撃により当時その場にいた組員のうち11名が死亡、3名が行方不明になったとのこと。

 

 

 

「行方不明になったのは……男性組員が2名と女性組員が1名。この3人の動向は?」

 

 

 

ニュースでは、警察は高飛びの為に他の組員を3人が殺害したと考えていると報道されていた。

報道によれば、現場には戦闘の後がほとんどなかったとのことだ。

あり得ない、と言っていい。たかが暴力団員ごときに、たった3人で11人もの敵をさしたる抵抗も許さずに殺せる技術などある訳がない。

荒事に詳しくない灰原でも分かる。()()()()()()()()()。つまり、()()()()()()()()

焦点をこのニュース一本に絞り、続報を追っていく。

事件発覚から3日後、そして1ヵ月後。2人の暴力団員が遺体となって発見された。

 

 

 

「2人はいずれも男。なら、()()()()()()?」

 

 

 

続報はここで途絶えている。いくら探しても、最後に残った女性暴力団員の消息は見当たらなかった。

 

 

 

「そう言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

アルは、死体を用意すると言っていた。その死体をキュラソーの身代わりにするつもりだったのだろう。

"千の顔を持つ女"と呼ばれる変装の達人ベルモット。それに次ぐ実力を持つピンガ。アルはその両者から変装や化粧の技術を受け継いでいる。()()はお手の物だろう。

 

状況証拠は揃った。自身の頭脳も結論を出している。

でも、俄には信じられない。本当に、"組織"を騙し切ることが可能だったのか。

あと一ツ、何かダメ押しになるものがあれば。そのタイミングで、覗き魔達が部屋へと入ってきた。

 

 

 

「灰原、お前に郵便が届いてる。……誰だ、これ……?」

「見たところ、特に危険なものは入っていなさそうじゃが……」

 

 

 

封筒には郵便局の消印はついておらず、つまりポストに直接投函されたことが分かる。コナンや博士が警戒するのも頷ける。

だが、宛名を見た灰原は警戒心など欠片も抱かなかった。

 

 

 

―甘党な研究者様へ A.A.A.より―

 

 

 

アルマニャックの綴りはArmagnac。そこから子音だけを取り除くと、Aが3つ。アルがかつて戯れに作った、彼と自分しか知らないちょっとした暗号だ。

 

 

 

「貸して!」

「おい灰原!何か危ないもんでも入ってたら……」

()はそんなことしないわ!」

 

 

 

ひったくるようにコナンの手から封筒を奪い取る。綺麗に開ける、その数秒すら惜しいと言わんばかりにビリビリと破いていく。

中に入っていたのは、1枚の紙と1封の封筒。

紙には数字の羅列が書いてあった。

 

 

 

「これは……座標かの?」

「どこを指してるやつだ?」

 

 

 

2人を尻目に、もう一つの封筒を開ける。今度は丁寧に、慎重に。

 

中身は、写真だった。それを見た灰原は、ややあって腰から崩れ落ちた。

 

 

 

「灰原!?」

「哀くん!?」

 

 

 

2人が心配して駆け寄ってくるが、それすら気づかず、写真を胸に抱える灰原。その目から、大粒の涙が次々とこぼれ落ちていく。

 

 

 

 

 

 

「あぁ、私って、本当に馬鹿……」

 

 

 

 

 

 

私達を()()()()()()()()()()()()?何を愚かな。思い違いも甚だしい。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真に映っていた人物は、宮野明美。"組織"によって殺された筈の、宮野志保の、実の姉だった。

彼女と共に映っているデジタル時計が示している日付は、彼女が死んだとされている日時より1ヵ月以上も後のもの。

 

()()()()()()()()()()

 

 

 

「お姉ちゃん……お姉ちゃん……!!」

 

 

 

涙が溢れて止まらない。止まる筈がなかった。

この世でただ1人、血を分けた家族。誰よりも優しくて、温かくて、正に"太陽のような"人。大好きな姉。殺されたと思っていた、姉。

 

彼女が、生きていた。写真の中の彼女は、どこかはにかむように、柔らかい笑顔を浮かべていた。

写真を見ていたいのに、とめどなく流れ落ちる涙のせいで前が見えない。それすら嬉しい。愛おしい。

 

(ずっとそう、私は貴方に貰ってばかり……貴方の献身に、何も答えられていないのに……)

 

一体、彼はどれほど自分に注いでくれるのだろうか。自分は何を以てすれば、彼の愛に応えられるのだろうか。

 

 

 

「ありがとう……本当にありがとう、アル……!!」

 

 

 

恐らく、彼女は国外にいる。ちらと見えた座標は日本国内のそれではなかった。

万一にもこのことが"組織"に露見してはならない。再び会えるようになるには、しばらく時間が必要だろう。

 

だが。それでも。

 

未来に望みが出来た。明日を生きる希望が出来た。

 

今はただ、それが嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事件から144時間後。日本某所。

 

 

 

 

 

 

「……どうした?何をそんなにソワソワしてんのよ」

「うるせぇ。お前と違って俺はラムに会うのは初めてなんだよ」

「そんなに緊張することもないと思うけど……まァ、確かに顔はイカツイし風格はあるが」

「そういうことじゃねぇ」

 

 

 

一般道を、黒塗りのベンツが走っている。運転手はアルマニャックで、助手席に乗るのはピンガだ。

 

先の一件で、組織は小さくない損害を負った。最新鋭のヘリ一基が全損、そしてエージェント"キュラソー"の死亡。

とりわけラムにとっては後者が大きかった。数年前、ベルモットによって消されそうになっていたキュラソーを拾って以来、ラムは彼女を自身の右腕として非常に重用していた。

彼女の失墜は、ラムにとって切り札を一枚失うことに等しかった。アルマニャックとは別の意味で、代えの効かない切り札を。

 

キュラソー死亡の報告を受けたラムは、2つのことを決断した。

1つ。予定より早いがピンガを昇格させ、自らの新しい右腕とすること。

2つ。それに伴い、ピンガと直接会い、改めて見定めること。

後者はアルマニャックからの提案もあった。一度ピンガと会ってほしい、と。

自身の素性を晒すことに最初ラムは難色を示したが、アルマニャックが中々譲らない為受け容れた。

そこまでこだわる何かが、きっとあるのだろう。そう判断した。

 

 

 

そして、今に至る。とある料亭に到着したアルマニャックとピンガは一番奥の個室へと通される。

個室は畳張りのこぢんまりとした部屋だった。質素な、それでいて品の良さを感じさせる調度品が喧しくならない程度に飾られ、高雅な雰囲気を醸し出している。

部屋中央。3人分の膳が並べられたそこには、既にラムが座っていた。徳利から酒を注ぎ、優美に味わっている。

 

 

 

「悪い、待たせちゃったか」

「お構いなく。先に始めておりましたので」

「そっか。……なんか、ラムの旦那と飯食う時ってこういう店多いけど、いいよね。雰囲気が静かっていうか」

「ほう、侘び寂びが理解出来ますか。海外の人間には中々理解されづらいのですが、いい感性ですね」

「いい大人にいいものを教えて貰ったからかな」

「フフ、おだてるではないですか」

 

 

 

気安いやり取りをしていたラムが、ふとピンガの方へ意識を向ける。

 

 

 

「そう言えば、直に君と会うのは初めてでしたね、ピンガ」

 

 

 

 

 

 

ラムの隻眼が、キロリと動く。ピンガと、目が合った。

 

 

 

 

 

 

「―――ッッッ!!!」

 

 

 

瞬間、ピンガの総身に怖気が走る。

 

(なんだ、あの目は……!?)

 

絶対零度。激昂したアルマニャックが向ける目と同じだ。

否、違う。両者の目は似ているようで全く違う。ラムの目からは、()()()()()()()()()

一切の感情を映さない、虚無。絵の具を塗りたくったガラス玉を眼窩に嵌め込んだかのような。マネキンの目だけをくり抜いたかのような。

 

(―――あぁそうだ、()だ。()()()())

 

蛇が獲物を見つけた時の瞳。餌となる生き物が動いているその様子を、呑み込む隙を伺うために、ただ眺める時の、瞳。

対象を無機質に観察する者の瞳。言ってしまえばそれだけだが、その目で見られたピンガは肌が粟立つのを抑えられなかった。

 

(人間が、ここまで無感情な目が出来るもんなのかよ……!)

 

視線が合う。ただそれだけで、ピンガは己の身の程を知らされた。

悪党としての、格が違う。たった数秒の時間が、永劫にも感じられた。

正に、蛇に睨まれた蛙。唾を飲み込むことすら躊躇われる緊張感。それを壊したのは、隣の男だった。

 

 

 

「ハハ、また懐かしい目をしているな。俺が旦那と初めて会った時も、そんな目をしていたぜ」

「えぇ、こればかりは私の習性みたいなものでして。……何の反応も示さなかったのは、貴方が初めてでしたが」

「まァこういう業界にいれば、多少観察されることもあるだろ。内心びっくりはしてたんだぜ。……こりゃあまた、随分な悪党が出てきたぞ、ってな」

「フフ、光栄ですね」

 

 

 

ラムがピンガから視線を外す。瞬間、冷や汗がどっと吹き出る。がくつく足を気力で押さえる。

隣の相方は、同じ目を向けられてこゆるぎもしなかったという。これ以上の醜態を晒す訳には、いかなかった。

 

 

 

「顔合わせも済んだし、仲良く夕飯としゃれこもうや。ラムの旦那が選ぶ店は、どこも飯が美味いんだ」

「それなりに長く生きていますからね。舌は肥えてるつもりですよ」

「おこぼれに預かる俺としちゃ嬉しい限りだぜ。……どうしたピンガ、お前も座れよ」

「あ、あぁ……」

 

 

ちょうどそのタイミングで食事が運ばれてきた。ラムと向かい合う形で、2人も卓につく。

いざグラスを持った段階で、アルマニャックが再度口を開いた。

 

 

 

「それじゃ、乾杯の音頭は俺に取らせちゃくれないか?」

「構いませんが、またどうして?」

「キュラソーを、最後に見送った者としてな」

「……最期に言葉を交わしたのは、貴方でしたね」

 

 

 

ラムが、スッと目を細める。ピンガとしても意識せざるを得ない名前だった。

自分の前任にして先輩。自分が超えるべき目標であり、またその実力を認めていた人物でもあった。

殺しても死なない女、というのがピンガからのキュラソーに対する評価だ。正直今なお彼女の訃報が信じられない自分がいる。

あの女が、そう簡単にくたばるものなのか、と。

 

 

 

「報告で聞いてはいましたが、まさか子供を守る為に死ぬとは……」

「意味が分かんねぇ。たかが数時間行動を共にした程度で、なんでそこまで……」

「初めてだったんだろうよ。無償の親切を受け取ったのが。闇に生まれ闇に育った人間には、それが余りに眩しすぎるのさ。……例えその眩しさが、近づく俺達を焼き焦がすと分かっていても、手を伸ばしてしまいたくなる位に、な」

 

 

 

どこか沈痛な、それでいて晴れやかな顔付きで苦笑するアルマニャック。ラムが、ふと疑問をこぼす。

 

 

 

「意外ですね。貴方はもう少し悲しむものかと思っていましたが」

「いや?悲しんでいるよ。でも喜んでもいるんだ」

「喜ぶ?それはまた、何故?」

「あいつは、キュラソーは、己の死に様を選べたんだ。こういう世界に生きていれば分かるだろ?俺達悪党が、望む死に方出来るなんてそうそうない」

「理解は出来ますが……」

「あいつは、自らの意志で進むべき道を決めて、旅立って行ったんだ。悲しいさ。寂しいさ。でも俺は、彼女の友として、()()()()()についたキュラソーを笑って見送ってやりたいんだ」

 

 

 

どこか、達観したような顔。それを見て、ピンガはストンと腑に落ちるような気がした。

 

(ああ、あの女は、本当に死んだのか)

 

ラムも、同じ心境だったらしい。静かに瞑目すると、ややあって苦い笑みをこぼした。

 

 

 

「私としては喜ぶ訳にはいかないのですがね……」

「あ~、まァ、側近を1人失った訳だしな」

「……まぁ、いいでしょう。死人をどうこう言っても仕方ありません。ここは貴方の顔を立てるとしましょう。今回、貴方だけは大金星だった訳ですし」

「ありがとうな」

 

 

 

3人が、グラスを掲げる。

 

 

 

「キュラソーに」

「「キュラソーに」」

 

 

 

ぐいと一息に飲み干し、グラスを脇に避ける。

そこからはただ普通に食事が始まった。和やかな雰囲気で話すラムとアルマニャックとは対照的に、ピンガは終始背筋が伸びっぱなしだった。

 

しばらくした後、アルマニャックがお手洗いに行くと言って席を外した。

その場に、ラムとピンガが残される。瞬間、途絶えた会話。

気まずい沈黙に、ピンガが軽く身じろぎをしていると、ラムと視線が合った。今度は先程の瞳をしていなかったものの、ピンガは反射で僅かに身構える。

その様子を面白そうに見ていたラムは、ピンガに問いを投げかけた。

 

 

 

「それで、どうです?私と会った感想は?」

「……感想?」

「君も、私を見定めに来たのでしょう?私は、君の眼鏡に適いましたか?」

「ッッッ」

 

 

見透かされていた。辛うじて動揺を内側に抑え込むが、それすらラムは愉しそうに眺めている。

 

 

 

「私は安心しましたよ。君に、君と私の間にある差を理解出来る程度には、見る目があったことにね」

「……そう、ですか」

「君は優秀です。これからも()()()()()()()、優秀な働きを期待していますよ」

 

 

 

そう言って、ラムは再び目線を外した。内心安堵のため息をこぼすピンガ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(違うだろ)

 

 

 

何を安心しているんだ。圧倒的な強者の視線から外れたことにか?これ以上睨まれずに済んだことにか?……これからも、彼の側近としてそれなりの足がかりと栄光が約束されていることにか?

 

(それで満足するために、ここに来たんじゃねぇだろ!)

 

そうだ。俺は確かめに来たんだ。自分の主人たるラムと己の間に、どれほどの差があるのかを。俺がラムの位置に行くまでに、どれほどの障害があるのかを。

成る程確かに、ラムは想像を遥かに超える男だった。今の自分では、影さえ踏むことが出来ない程に、遠く、高いところにいる。

直に会って、ようやく理解した。組織のナンバー2の地位を守り続けてきた、それを成し遂げた男がどれだけ外れているのかを。

 

 

 

意思を持った厄災。その武力で以て、この世に地獄を顕現させる者。絶対強者、アルマニャック。

千の目耳を持つ男。その叡智で以て、全てを見通し絡め取り操る者。神算鬼謀、ラム。

 

 

 

武力の頂点と叡智の頂点。この2人こそ、真に組織を支える両翼に他ならない。

自分など、たかが一幹部。彼らを前にすれば、吹き飛ぶ程度の弱卒でしかない。

 

 

 

(だからどうした。上には上がいる。んなこと、アルと初めて拳を交えた時から、分かっていたことだろうが)

 

暴力、智恵、技能。己の持つ全てが彼らに遠く及ばない。

 

 

 

だが。それでも。

 

 

 

アルマニャックは、自分を"相棒"と呼んでくれたのだ。

 

(そうだ。俺はアルマニャックの相棒(バディ)だ)

 

俺はまだ、奴の背中を預かるに足りない。

なら、現状に甘んじてはならない。アルの相棒で居続ける為にも、真の意味でアルの隣に立つ為にも、上を目指し続けなければならない。

 

今、アルマニャックの背中を預かっているのはラムだ。あの目を見て確信した。

なら、いずれは俺がその椅子に座る。側近如きで満足など、話にならない。

 

今に甘んじるな。妥協を許すな。魂を燃やせ。己に、()()()()()()()()()()()()、恥じない生き様をしてみせろ。

 

 

 

 

 

 

ピンガの瞳に焔が灯ったのを見て、ラムが眉を上げる。

今、彼の中で何かが変わった。それに、僅かな好奇心が立つ。

 

 

 

「確かに、俺はアンタには遠く及ばない。それが分かる程度には、俺は自分の身の程を分かっているつもりだ」

「いいことです。傲慢さは己を滅ぼす。なればこそ……」

「だけどな」

「!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

ラムの目が極限まで細められる。

今、自分の眼の前にいる若造が、何を言い出すのか。それを見極めようとしているのだ。

それを分かった上で、ピンガは身の程知らずにも大言を吐く。

 

 

 

「俺は、アルの相棒だ。組織の最高戦力たるアルマニャックの相棒だ。奴の隣に立つ為に、俺はどこまで登ればいいのか、今ようやく分かった」

「ほう、それで?」

「俺はいつか、必ずアンタの椅子に座る」

「…………出来るとでも?」

「やるさ。必ず。今、アルマニャックの背中を預かっているのはアンタだ、ラム。今の俺にはその度量がねェ。それは痛いほど分かってる。だから腕を磨く。その果てに、必ずアンタを追い落として、俺はその椅子に座るぜ」

 

 

 

ラムの目を見て、そう言い切ったピンガ。その手に、震えはない。

ラムの目が大きく見開かれる。瞳孔まで開いたその目は正しく蛇のそれだ。

 

やがて、彼の口角がつり上がった。

 

 

 

「フフ、フフフフフ…………!学が多少あるだけのチンピラ崩れが、言うようになったじゃないですか」

「アンタ、俺のことそんな風に思ってたのかよ……」

「ええ、さっきまではそう思っていましたよ。……ですがそれは撤回します。貴方は、今正に強くなった」

 

 

 

男として、殻を破った彼を言祝ぐように。両手を広げるラムはとても嬉しそうだ。

 

 

 

「やれるものならやってみなさい。貴方がどこまでのし上がれるか、楽しみにしていますよ」

「あぁ。楽しみに待っていてくれよ」

 

 

 

ラムにつられて、ピンガもギリリと笑う。

ちょうどそのタイミングで、アルマニャックが帰ってきた。彼はピンガの顔を見て、首をかしげる。

 

 

 

「わり、遅くなった。……おん?」

「あん?なんだよ」

「なんか……ピンガ、変わった?」

「!」

「キリッとしたっていうか、熱くなったっていうか……」

「ハッ、何言ってるか分かんねぇけどよ、早く食わねぇとお前のテンプラは熱くなくなっちまうんじゃねぇか?」

「あ゙っ゙!いけないいけない!」

 

 

 

弛緩する空気。ピンガもラムも、先程までのやり取りなどなかったかのように食事と酒を楽しんでいた。

ふと。視線を感じたラムがアルマニャックの方をちらと見る。

 

彼は、心なしか済まなそうに苦笑しながらウィンクをしてきた。

 

(嗚呼、成る程。全て計画通りという訳ですか)

 

アルマニャックが全ての展開を読んでいた訳では無いだろう。

だが、かつて天狗の鼻だったピンガがアルマニャックという壁にぶつかったことで成長したように、今度は自分にぶつけることで、彼にとって何かしら成長のきっかけになり得るものがあれば、などと考えていたのではないか。

キュラソーの後釜につくピンガを高める為。貴重な人材を失った組織の損害を人材の質で補う為。

新たな側近を登用した自分にとっても、ピンガの成長は歓迎すべきものだ。きっと、そこまで考えた上で今回の席をセットしたのだろう。

理解はした。彼らしいと、納得もいった。しかし、

 

(私を焚き付けに使うとは。やってくれるじゃないですか)

 

からかい半分で軽い非難の意を込めて視線を送ると、彼の顔に浮かぶ申し訳無さが少し濃くなった。

おかしさがこみ上げて、つい笑みをこぼす。

 

 

 

「どうした、ラム」

「いえ。何でもありませんよ、ピンガ」

「そうかぃ」

 

 

 

悪党、3人。宴は静かに進み、夜も静かに更けていった。

 

 

 

 

 





はい、伏線のようなものの正体は"宮野明美の生存"でした。ずっと温めていたので、ようやく出せて良かったです。
作中で語っていた話の詳細については、17話「破鏡再び照らさず」18話「竜虎相搏つ」にて語られているので、よろしければそちらを参照して頂けたらと思います。



アルマニャックはキュラソーのこと、どうやって誤魔化すの問題。それの答えが「一切嘘をつかず押し切る」です。
"アルマニャックは感情が表に出やすく分かりやすい"、"明け透けで嘘をつかない"、これまで彼が積み上げてきた印象を活用した形になります。



ピンガ「憧れは止められねぇんだ!」
アルマニャック「おやおやおやおや」
ラム「ピンガは可愛いですね」

アルマニャックに続いて、ラムにも脳を灼かれたピンガ君の明日はどっちだ。



本編はこれにて終了。次回は閑話です。活動報告にて、閑話のお題をゆるりと募集しています。よろしかったら覗いてみてください。
次回から2つ閑話を挟んだ後、次章からは黒ずくめの謀略編に入っていきます。
かつて読者様から、魚影→謀略が正規の時間軸だとお教え頂いたのですが、私が考えているお話の展開上、魚影編が終わったらすぐ最終章に行かないと流れがおかしくなってしまう為、順序を逆転させていただきます。
何卒、ご了承頂きたく思います。


最後までお読み頂き、ありがとうございました。よろしければ、感想・評価・お気に入り登録の程よろしくお願いいたします。
特に感想と高評価は凄く嬉しいです。本当に励みになります。高評価頂くたびにニッコリなりますし、感想通知来るたびにテンション上がりすぎて動悸がヤバいです。
どうか、よろしくお願い致します。

今後の構成について

  • 話数少なめ字数マシマシ展開早め
  • 1話毎の字数少なめ話数マシ
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