ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」   作:ていとくン

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☆9:プロヴィデンス吉村様
☆8:黒威道化師様

高評価を下さった皆様、ありがとうございます!そろそろ評価数200が見えてきました。マジか……本当に、皆様ありがとうございます!



前回のタイトルにミスがありました。④ってなってましたけど⑤ですよね。すみません。修正しておきました。



更新がまた遅くなってしまってすみません。地味に難産でした……。
今回は、だいぶ前に頂いていたリクエスト回です。
活動報告より、【信長公記】様から頂きました、「ベルモットに奢って貰ったのを女性メンバーに語ったら不機嫌になって首を傾げるアルマニャック(一部抜粋)」をお送り致します。
ベルモットをちゃんと書くのは初ですね。閑話をちゃんとにカウントしていいのか諸説ありますが……中々に難産でした。ご笑納頂けたら幸いです。



Interlude⑥ じょせいたちとしゅらば

 

 

 

 

 

 

そこは、正に地獄であった。

 

 

 

時が凍りついた世界。空気そのものが重力を帯びたかの如き圧。その重みに耐えかね、地に這い蹲り侘びるかのように頭を差し出す男。それを睥睨するは四対の瞳。

 

 

 

愉悦と好奇、純粋な快のみが揺蕩うは山藍摺。総てが死に絶えたこの空気すら愉しんでいるその瞳は、妖しさを湛えつつも艶やかな光を周囲に放っている。

 

気遣いと非難、矛盾を孕むは次縹。地を這う者を案じつつもその深くに不満が揺らめくその瞳は、平静を保ちつつ場の動向を伺っている。

 

 

 

だが、それらなど、残り二対の瞳に比べればそよ風のような穏やかさだ。いっそ慈悲すら感じさせる。

今、この場を死界と化しているのは、間違いなく残り二対の瞳であった。

 

 

 

 

 

 

凍てつくは浅葱。宿すは幻滅。絶対零度の氷雪地帯。吹雪轟く山脈を思わせる極寒の視線は、氷柱と成りて蹲う男を地に縫い留める。

 

燃え盛るは翡翠。宿すは憤怒。赫灼焦土の火山地帯。豪炎揺らめく太陽の如き赫奕とした視線は、溶岩と成りて咎人を地に押し固める。

 

 

 

そして、それら四対の視線を一身に受け止める男は、滝のような汗を流しながら必死に思考を巡らせていた。

 

(間違えた!俺は確実に()()()()()()()!だが、何を?()()()()()()()()()()()()!?)

 

男は脳髄を全力で駆動させ、今日一日の出来事を、立ち振る舞いを振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2週間前、とあるホテルの最上階。ロイヤルスイートルーム。

 

 

 

家具や調度品の全てが一級品。豪奢ながらも品の良さを醸し出すペルシャ絨毯が敷かれたリビングルームには、マホガニーで統一された椅子や机が備え付けられ、クッションやカーテンなどの小物が嫌味にならない程度の華やかさを演出している。

その部屋で、ソファに腰掛ける一人の美女。磨き上げられたスタイルに妖艶な空気を纏わせ、豊かな金髪をたなびかせる彼女の名は、世界にその名を轟かせる大女優シャロン・ヴィンヤード。

 

又の名を、"ベルモット"。

 

彼女は、"あの方"と呼ばれる組織の総帥から直々に任務を受け、このホテルに宿泊していた。

任務の内容は、暗殺。裏社会と太い繋がりを持つハリウッドのとある大物プロデューサーが、組織のビジネスに首を突っ込んでしまったらしい。

当然組織は報復を決定したが、その際女優として怪しまれることなく彼に近づけるベルモットがヒットマンとして選ばれたという訳だ。

だが、標的はマフィア組織と繋がっており、()()()()()()を抱えている。プロデューサー本人はともかく、護衛まで相手するとなるとベルモット1人では些か荷が重い。

その為"あの方"は補佐を付けると言っていたが、その人選が彼女の顔を曇らせていた。

 

 

 

「アルマニャック、ねぇ……」

 

 

 

知らない顔ではない。かつて他ならぬ"あの方"の命令で、自身が持つ変装技術の全てを叩き込んだ。

自身が誇る最大の武器を他人に売り渡すというのは決していい気分ではなかったものの、"あの方"の命令ともあれば逆らう選択肢はない。

そういう訳で。半年程度ではあったものの、彼とは師弟関係にあると言っていい。教えを受けている際の彼は、常識知らずではあったものの常に謙虚であり、その姿勢はベルモットが多少なりとも溜飲を下げることにも繋がった。

そこはいいのだ。問題は、彼の普段のふるまいと、組織における彼の扱いである。

 

 

 

「そろそろ、一般常識位は身につけてくれたかしら……」

 

 

 

とにかく常識が通用しない。その腕前も、立ち振る舞いも、何もかも。

地上最強。そんな馬鹿げた文字列が、彼の前では冗談にならない。それだけの戦闘能力を誇る彼は、当然の如く組織から特別な扱いを受けている。

とりわけラムの贔屓はあまりに露骨だ。並みの幹部なら間違いなく粛清されているようなミスを犯しても、彼の一声でお咎めなしになっている。

天狗になっている訳ではないのだろうが、そのせいか彼の"やらかし"は未だに耳に届く。とにかく彼は仕事が派手なのだ。"秘密"を旨とする組織にいながら。

今回の任務は繊細だ。戦力としてはともかく"護衛"として彼が務まるのか大いに不安が残る。"あの方"からの推薦である以上、やはり選択肢はないのだが。

 

 

 

「はぁ…………」

 

 

 

ベルモットは、ため息をこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果として、仕事は実に上手く行った。完璧と言っていい。

 

アルマニャックは、今回武器を使わなかった。ベルモットが"女優"として動く以上、側仕えの彼が武装していれば怪しまれる為当然といえば当然なのだが、彼の強さは比較的情報を入手しているベルモットをして想定外もいいところだった。

 

 

 

「恐ろしいわね、全く見えなかったわ」

「へ?何が?」

「貴方の動きよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。随分物騒な手品もあったものね?」

「大したことじゃない。普通にこう、バッとやって、ぐるっと?」

「…………聞いた私が間違いだったわ」

 

 

 

眉間に風穴を開けて倒れ伏すプロデューサー。彼の周囲には骸と化した護衛がそこかしこに転がっているが、一人の例外もなく首が180度回転している。

今回、アルマニャックは"すれ違いざまに首をへし折る"という離れ業一つで全ての敵を制圧した。メインの標的であるプロデューサーだけはベルモットが処理した為銃を使っているが、結果としてかなり異様な光景が出来上がっていた。

 

 

 

「人間の首を片手でへし折るなんて聞いたことがないわ」

「片手でやれれば一度に2人殺せて便利だろ?だから頑張って練習したんだ」

「……色々と突っ込みたいところはあるけど、貴方意外に努力家よね。私から変装を学んでいた時もそうだったわ」

「当たり前だろ。負けたら死ぬのが戦場だぜ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。当然のことだろうが」

「貴方のそういうストイックなところは好きよ」

「そりゃどうも」

 

 

 

話している間にも、組織の構成員達が入れ替わり立ち替わりで死体を運び出している。プロデューサー以外の死体はノイズにしかならない為の事後処理だ。

彼らはアルマニャックの子飼いらしい。一幹部が子飼いの構成員を部隊規模で抱えるなんてことも、前代未聞だ。

 

 

 

「さて、後始末はこいつらが完璧にやってくれる。俺達の仕事は終わりだよな?」

「えぇ、これで任務は終了ね。……ところでアルマニャック、貴方この後空いてるかしら?」

「この後?特に予定はないが……どうした?」

 

 

 

だからそう、これはちょっとした好奇心だ。

組織における異端児、アルマニャック。彼がどういう存在なのか。何者なのか。

思えば師弟関係時代はほとんどプライベートな会話をしていなかった。

だから少し、話をしてみたくなった。ただそれだけだ。

 

 

 

「良ければこの後食事でもどう?いいお店を知っているの。ご馳走するわ」

「行きます」

「……返事が早いわね」

「奢りなら基本は断らないようにしているんだ」

「……随分、現金な弟子ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガツガツガツガツガツガツ

 

 

 

「……………………」

 

 

 

ガツガツガツガツガツガツ

 

 

 

「……………………」

 

 

 

ガツガツガツガツガツガツ

 

 

 

「…………本当によく食べるわね」

「むぉ?…………ゴクン、まァな。食える時に食っとくってのは、もう癖でね。多分一生治らん」

「フレンチレストランでここまでがっつく人、初めて見たわ」

「俺も、ここまで美味いフレンチは初めてだわ。……すまない、このステーキのおかわりを3枚ほど頼む」

「え、ええと……」

 

 

 

普通はフレンチでおかわりなどという言葉が出ることはない。せいぜいパンでその言葉が出る程度であり、間違っても肉料理で口にしていい言葉ではない。

だがこの店はベルモットのお気に入り。幾度も通っており、店も金払いのいい彼女を上客と認識している。店としてはそんな常連の機嫌を損ねたくはない。

チラリ、とウェイターがベルモットの方に視線を向ける。思わず額を押さえたまま、ウェイターに言葉を返す。

 

 

 

「…………持ってきてあげて」

「か、かしこまりました」

 

 

 

一礼をして去っていくウェイターを見送るベルモットの顔には既に疲労の色がチラついている。

やはり、アルマニャックには常識が通用しない。おかわり以外のテーブルマナーは完璧なのがまた癪に障る。

こうなったら多少の収穫が得られないと割に合わない。何かしら弱味でも握ってやろうか。半眼でアルマニャックを睨みつつ、そう思い立ったベルモットは彼に質問を投げかける。

 

 

 

「他の幹部達とは食事に行ったりするの?」

「ムグムグ……そうだな。この前はスコバボ……スコッチとバーボンの三人でハンバーガーショップ巡りをしたな。その前はキャンティコルンと明け方まで飲み明かしてたぞ。一番食事に行く回数が多いのはキールかな。任務で一緒になることも多いし」

「……随分と人生を楽しんでいるみたいね」

「当然。裏稼業やってんだ、いつ死ぬか分からねェ以上、今をありったけ楽しまないと損だろ。……あっ!そういえばこの前はシェリー達とウェディングケーキを食べたな」

 

 

 

出るわ出るわ幹部の名前。思わずベルモットも目を見張る程だ。

個人主義者が多い組織において、これだけの数の幹部と食事を共にする程度には親密な関係を築いているなど、尋常ではない。

 

 

 

「(ウェディング?なんで???)……そういえば、シェリーの監視も貴方の任務だったわね」

「別に任務って程じゃないけどな。逃げる素振りもねェし。そういや前に遊園地へ連れ出したらめっちゃ怒られたわ、ラムに」

「…………監視対象を外へ連れ出したの?」

「駄目なの?俺ちゃんと側にいたよ?」

「…………ラムは何て?」

「監視という言葉の意味を辞書で引いてみろってさ。んでしばらく監視から外された」

「それで済んでるのはだいぶ特別扱いされてるわよ貴方」

 

 

 

何かしら面白いネタを引き出そうとしたのに出てくるのは頭痛の種ばかり。

もう切り上げようかしら、と萎えかける心を奮い立たせる。このまま引いたらただの疲れ損だ。自分のプライドにかけても只では引き下がれない。

 

どうでもいいが、ベルモットは賭け事にはのめり込むタイプだった。

 

 

 

「それで、一番仲が良いのはキールなの?」

「う~ん……ピンガも同率1位ってところかな?一応相棒はピンガなんだが、アイツ潜入先からあんまし帰ってこないからなァ。一番一緒にいる時間が長いのはキールかな」

「ピンガ、ねぇ……」

「あ。でも知り合った歴はコルンとキャンティのが長いな。ご飯の回数はキールが多いけど、飲んだ回数多いのはキャンティ達かも」

「あら、両手に花ね。随分女性陣と仲が良いじゃない」

「そう?」

 

 

 

ベルモットが片眉を上げる。ようやく面白そうな話が出てきた。

女性としてのカンが告げていた。ここを掘り下げると、きっと愉快なことになると。見逃すつもりなど毛頭ない。

 

 

 

「ねぇアルマニャック……正直な話、誰が一番好きなの?」

「あん?だからピンガとキールだって……」

「そうじゃないわ。貴方の言う"好き"はLikeの方でしょ?私が聞いてるのはLoveの方よ」

「………………………………Love?」

「そう。()()()()()一番好きなのは誰なの?私気になるわ〜」

 

 

 

数秒ほど無表情を続けた後、任務中より数段険しい顔で唸り声を上げるアルマニャックを見て、ベルモットの口角が強く上がる。

 

(そうそう、やっぱりこういうのが見ていて一番面白いのよね)

 

今までそういう意識で彼女らを見たことがないのだろう。ベルモットの言葉が引き金となり、これまでの出来事を追想しているといったところか。

 

 

 

「……………………考えたこともなかった」

「あら、無自覚なタラシってこと?悪い男ね」

「そんなつもりで接したことがないってだけだ。だが…………う〜ん……」

「まぁゆっくり考えなさい。時間はあるわ」

 

 

 

ここで答えを出させる必要はない。むしろある程度寝かせた方が美味くなる。酒と同じだ。

ベルモットはウェイターを呼び、伝票を受け取ると席を立つ。

 

 

 

「ここは払っておくわ。せいぜい悩んで、面白……いえ、きちんとした結論を聞かせてちょうだい」

「う〜ん……う〜ん……」

 

 

 

既にベルモットの声も届いていない様子を見て、思わずほくそ笑む。

 

(第一段階はクリア。次の仕込みは……2週間もあれば十分かしら?)

 

先程の考えには一つ付け加えなければいけないことがある。

ある程度寝かせるとは言ったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(次に会う時が楽しみね、アルマニャック?)

 

 

 

「フフフ………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2週間後、とあるカフェテリア。

 

その一角。店の奥に用意されている、6人がけの少し大きめな座席にて、4人の女性がお茶会をしていた。

 

 

 

「貴女から声をかけてくるなんて、珍しいわね。ベルモット」

「ハン!何考えてるか知れたもんじゃない。キール、アンタもこの女狐には気をつけな」

「あら酷い。私が貴女に何かしたかしら?」

「一々態度や言葉が胡散臭いんだよ!"あの方"から気に入られてるからって調子に乗っちゃってさ!」

「ヒステリーって怖いわぁ。更年期かしら?こうなったら女として終わりよね。そう思わない?シェリー」

「貴女達のくだらない掛け合いに巻き込まないでくれる?」

「アタイまで一括りにするんじゃないよ!」

 

 

 

キール、キャンティ、ベルモット、シェリー。組織において数少ない、コードネーム持ちの女性達だ。

それが4人も一堂に会することなど滅多にあることではない。錚々たる面々だが、生憎それが分かる人間は周辺にいなかった。

 

 

 

「それで、アルに関する話って何?全員集まってるんだし、さっさと始めてくれる?私は忙しいの」

「つれないわねシェリー。せっかく久々に外へ出られたんだから少しはこの時間を楽しんだっていいのよ?」

「御生憎様。私に付いてる()()()()()が度々外へ連れ出してくれるから機会には困ってないわ」

「あいつ、またそんなことしてんのかい……前にそれで謹慎食らってなかったかい?」

「しばらくシェリーの監視を外されたと聞いたことがあるわ。……まぁ、なんでそれで済んでいるのか分からないけど」

()()()()()()()()()。大抵の話はこれで終わりさね」

 

 

 

彼女らは皆ベルモットに呼び出されたのだ。「アルマニャックに関して"面白い話"がある」という誘い文句によって。

特にキャンティはベルモットに対して敵意を抱いているが、組織でも仲の良い男の名前を意味有りげに出されては無視も出来ず、今に至る。

3人を集めた当のベルモットは薄く笑いながら先程から入り口の方をチラチラと見ている。

 

 

 

「慌てる必要はないわ。そろそろ着くと言っていたから」

「着くって……まさか、アルを呼んだの?」

「そうだけど、何かいけなかったかしら?」

「アンタとアルにそこまで接点はないだろ。何をしたんだい?答えによっちゃ許さないよ」

「別に何もしていないわ。この前2人で食事をした時に、ついでに誘っただけよ」

「「「…………2人で食事?」」」

 

 

 

途端に3人の目が据わる。ベルモットは内心驚いていた。

 

(えっ?もしかして……3()()()()()()?)

 

馬鹿弟子のタラシ具合に舌を巻きつつ、更に燃料を投下する。

何故?そっちの方が面白いに決まっているからだ。

 

 

 

「えぇ。せっかくいいフレンチの店に連れて行ってあげたのに、おかわりなんてするもんだから困っちゃったわ」

「……まぁ、アルならそういうことするわね。この前ウェディングケーキを一緒に注文した時は1人で半分食べてたわ」

「その話、アルマニャックからも聞いたのだけど、何でウェディングケーキなの?」

「私の誕生日に彼がウェディングケーキを発注してくれるのよ。普通のホールケーキじゃ特別感が足りないって。困ったものよね」

「「へぇ……」」

 

 

 

何故か少し誇らしげな顔で説明するシェリーを光のない瞳で見るキールとキャンティ。

見ているベルモットからしたら大変愉快な世界が広がっていたが、ここから更に場は温まっていく。

 

 

 

「……でも確かに、アルの食べる量は凄まじいわ。前に"2人で"温泉に行った時も1人でバイキングを平らげる勢いだったわ」

「……飲む量もとんでもないよアルは。アタイは呑み勝負を何度も持ちかけてるけど勝てた試しがないね。"毎回介抱されちゃって"恥ずかしい限りさね」

「「「…………ふ~ん……」」」

 

 

 

他人の目がなければ、きっとベルモットは腹を抱えて笑い転がっていただろう。

既に十分以上楽しませてもらったが、ここで特大の燃料が投入された。

 

 

 

「わりィ待たせた。もうみんな揃ってたか。……今更だけど、俺が女子会に混ざってええのんか?」

 

 

 

アルマニャックが到着してしまったのだ。よりにもよって、このタイミングで。

瞬間、ベルモットを除く3人の視線がアルマニャックに向かう。3人とも口元こそ笑みを浮かべているものの、目が一切笑っていない。

見られたアルマニャックはぶるりと震えた。何か良からぬモノを感じ取ったらしい。既に手遅れだが。

 

 

 

「あら、いらっしゃいアル。遅かったじゃない」

「お、おぉすまんキール。道路が渋滞しててな」

「レディを待たせちゃ駄目って、教えたつもりだったのだけれど?」

「ご、ごめんてシェリー。一応早めに家は出たんだけどさ……」

「そのへんにしてやりな。アルも、いつまでも突っ立ってないで座りなよ」

「おぉありがとうキャンティ。んじゃ失礼して」

「……ふ~ん、そっちに座るのね」

「えっ?駄目だった?」

「いいから早く座りなよ。話が進まないだろ」

「おっ、おう……」

 

 

 

既に居心地が悪そうなアルマニャックと、それを光のない瞳で見つめる3人の女性という構図。

ラブコメ漫画などでよくある絵面が、いざ実現するとこうも面白いものなのかとベルモットは納得しつつ、先程から笑いを堪える為に太ももをしきりに抓っている。

 

 

 

「…………その、それで、俺は何故呼ばれたんだ?」

「あら?ベルモットが貴方について話があるというから私達は呼ばれたのだけれど」

「……その様子だと、本当に心当たりはなさそうね。どういうことかしら、ベルモット」

「そうね、役者は揃ったし、そろそろいいかしら」

 

 

 

これから自分が投下する爆弾で、この場がどれだけ乱されるのか、想像しただけでゾクゾクする。

数秒後の未来を思い描いてニヤリと笑いつつ、ベルモットは話題を投げた。

 

 

 

「前に食事をした時、アルマニャックに聞いたのよ。組織にいる女性幹部と随分親しいみたいだけど、その中で一番好きなのは誰なの?ってね。勿論、LikeではなくLoveの方よ?」

「なぁっ!?おま、お前、よりにもよってこの場でそれ言うか!?」

「「「へぇ…………♪」」」

 

 

 

3人の目に、妖しい光が宿る。例えるなら、蛇の目。獲物を見つけ舌なめずりをする捕食者の瞳だ。

射竦められるアルマニャック。本能で危険を察知したのだろう。咄嗟に立ち上がろうとしたが、キャンティにがしりと肩を押さえられる。

 

 

 

「どこ行くんだいアル。まだ話の途中じゃないかい」

「いや、どこに行くというか、()()()()()()()()()()()()というか……」

「私、気になるわ。アルが一番好きなのは誰なのかしら、ねぇ?」

「そうね。私も気になるわ。……ねぇアル、()()()?」

「ヒッ…………!!」

 

 

 

修羅場というのは端から見ている分には愉快極まりない。ここが酒も出せる喫茶店で良かったと自分のチョイスを心から褒め称えたベルモットは、いつの間にか手にワイングラスを携えていた。

ボルドーワインの芳醇な香りを楽しみつつ、修羅場を眺めていたが、ここでベルモットに大きな誤算が生まれる。

 

 

 

ベルモットは見誤っていたのだ。アルマニャックという男の、常識のなさを。女心について、どれほど無知なのかということを。

 

アルマニャックは何の前触れもなく、この場に核を投下した。ツァーリ・ボンバもかくやの、特大の核を。

 

 

 

 

 

 

「ベルモットにも聞かれたけどよ、そんなこといきなり言われたって困るぜ……俺ァそもそも3人のことそんな目で、()()()()()()()()()()()()()……」

 

 

 

 

 

「「「……………………は?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、冒頭に戻る。

 

目を血走らせ、滝のように汗をかくアルマニャックは、正座の姿勢を1ミリも崩すことなく必死に原因を探っていた。

だが、あんな発言をする者に原因が分かる訳もなく。

 

 

 

「……あっ、私この後用事があるのを忘れてたわ。悪いけれど、帰らせてもらうわね」

「あら残念ね。また今度お茶しましょう。今日は呼んでくれて嬉しかったわベルモット」

「えぇ、偶には外でお茶会をするのも悪くないわね。さようならベルモット」

「アルはアタイらが面倒見とくから心配はいらないよ。気をつけて帰りなベルモット」

「…………!…………!」

 

 

 

3人が口々に別れの挨拶をするのを成すすべ無く見送るアルマニャック。

彼としては何としても引き止めたいのだろうが、生憎彼が言葉を発することの出来る空気ではなく、視線で訴えるしかない。

そして勿論ベルモットがそれに応えるつもりなどある訳もなく。そして勿論、彼女ら3人がそんな視線に気づかない訳もなく。

 

 

 

「あら、アルったら随分ベルモットを凝視しているじゃない。どうしたの?」

「もしかして、アルが一番好きなのはベルモットなのかしら?悲しいわ、私達は遊びだったのかしら」

「そりゃそうだろうね。何せアタイらのことを"オンナとして見ていない"なんて言っちまう位なんだから」

 

 

 

ここに至り、ようやくアルマニャックも自身の失言に気づくものの。あまりにも遅まきに過ぎた。

彼の口の中は砂漠の如く渇き切り、呼吸も浅く少なくなっていく。それらの状態を正確に把握しながらも、3人は攻め手を一切緩めない。

 

 

 

「私ね、前々から思っていたのだけれど、アルにはデリカシーがちょっとばかり足りないと思うの

「奇遇ね。私もそう考えていたわ。しかも、そういう方面に関しては物覚えが悪いのよね」

「2人とも随分手ぬるいんじゃないかい?前にアルが言ってたよ、"人間は痛みや失敗からしか学べない"ってね」

「なるほど?つまり、アルは痛みが欲しいのね?

「貴方に痛みを与えるなんて心が痛いわ。でもそれがアルの為になるというのなら、私も心を鬼にしなきゃいけないわね

「貴女だけに背負わせたりはしないわキール。私も手伝うわよ

「水臭いじゃないか。アタイも混ぜておくれよ

「えぇ、3人で協力しましょう。アルもきっと喜んでくれる筈だわ。ねぇ?」

「なんだい、泣くほど嬉しいってかい?そうかいそうかい、それならアタイらも腕によりをかけなきゃいけないねぇ

「そうね。これから3人で特別授業といきましょうか」

 

 

 

 

 

 

「「「よろしくね、アル?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絹を割くような悲鳴を背中に受けながら、ベルモットはカフェテリアを後にする。

もう、あの場にいる必要はない。後で話を聞ければ十分だ。

 

(今日の晩酌に、いい肴が出来たわ)

 

強敵を倒すのに、必ずしも強さは必要ではない。それを分かり易い形で示した彼女は、"アルマニャック討伐"という、裏社会において燦然と輝く偉業をサラリと成し遂げた。それも勿論、無傷で。

恐らく今後誰にも達成されることのないであろう金字塔。前人未到の業績を打ち立てた彼女は、颯爽と町中を歩く。

 

(これが私からの最後の授業よ。覚えておきなさい馬鹿弟子(アルマニャック)。男はまず女心を知るべし、ってね)

 

ベルモットは、チロリと舌を出して笑った。

 

 

 

 

 

 





側近「ラム様、報告書を…………こ、これは、一体どういう状況ですか?」
ラム「そんなの私が聞きたいのですが……。先程いきなり部屋に飛び込んで以来ずっとこのままなのです」
アルマニャック「ガタガタガタガタガタガタガタガタ」(ラムにだいしゅきほーるどしている)
側近「えぇ……(困惑)」
ラム「助けてください」
側近「駄目です」



更新に1週間もかかってしまった……しかも結局書いているうちにリクエストとはだいぶ違ったものになってしまって……すみません、こんなん出力しちゃいました。



冒頭の見慣れない熟語は、いずれも色を表すものです。

山藍摺(やまあいずり)、次縹(つぎはなだ)、浅葱(あさぎ)、翡翠(ひすい)。

女性陣4名の瞳の色を見て、被らないようにしつつ一番近い色を探していました。何気にここが一番時間かかったかもしれない……。
どれが誰か。リード文も読みながら考えてみてくださると頑張った甲斐があるかな〜って。



予告通り、次回から"黒ずくめの謀略編"です。原作ですとラム初登場の章ですね。原作時間軸的には黒鉄の魚影の方が早いのですが、ストーリー進行の都合上順番が前後する旨、ご了承ください。

また、アンケートの結果、"話数少なめ字数マシマシ展開早め"に投票して下さった方が倍以上いらっしゃったので、次章から1話辺りの文字数が増えて一章辺りの話数が減ると思います。
"字数少なめ話数マシ"に投票して下さった方々には申し訳ありませんが、ご理解の程よろしくお願いします。



最後までお読み頂き、ありがとうございました。よろしければ、感想・評価・お気に入り登録の程よろしくお願いいたします。
特に感想と高評価は凄く嬉しいです。本当に励みになります。高評価頂くたびにニッコリなりますし、感想通知来るたびにテンション上がりすぎて動悸がヤバいです。
どうか、よろしくお願い致します。
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