ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」 作:ていとくン
明けましておめでとうございます。今年も拙作を何卒よろしくお願い致します。
☆9:わかばなな様
高評価を下さり、ありがとうございます!ここのところ更新間隔が空き気味だと言うのに……感謝です。
すみません、ちょっとスランプ気味で仕上げるのに時間がかかっちゃいました。
黒ずくめの謀略編、これにて最終話……と思っていたのですが、あんまりにも長くなりすぎたので2話に分割しました。トータル2万字弱を1話に詰め込むのは……ね……
既に本文は書き終えているので、次話はすぐ投稿出来るっす!
着水した衝撃で一時失神していたキャメルだが、赤井の呼びかけによりどうにか意識を取り戻し、車から脱出すると近くにあった無人島へと這々の体で上陸した。
コナンに言われるままの手順で火を起こし、体と衣服を温めている時に、赤井から質問が飛んできた。
「ところでキャメル、飛び込む直前に"ジャバウォック"と言っていたが……奴がいたのか?」
"ジャバウォック"。その名前に、助かった安堵からやや緩んでいたキャメルの顔が即座に緊張で引き締まる。
「!えぇ……ガスマスクにフードを被った全身黒ずくめの男。杯戸中央病院に現れた人間と特徴が一致しています。可能性は高いかと……」
「武器は何を使っていた?」
「武器、ですか?えぇと…………あぁ、サプレッサー付きの拳銃を使ってきました」
「ふむ……」
"組織"に潜入しているバーボンもとい降谷から、アルマニャックに関する情報はある程度入手している。
戦場ではアサルトライフルを使うことも多いが、一番愛用しているのはリボルバーだと。曰く、
(武器への拘りというのは、早々変わるものではない。となると……影武者か……?)
今回犠牲になった捜査員の状況を思い返して見ても、リボルバーで殺された者はおろか、近接戦によって殺られた者もいなかった。
つまり、今回の戦場にジャバウォックはおらず、今いるのはよく似せた別人物。赤井の理性はそう判断を下した。
だが。
(では……先程から俺の首元をチリチリと焚きつける
(一旦、最悪を考慮しよう。ジャバウォックはいる。ただキャメルを追うのは偽物で、本物は我々本隊を捜している、と)
当然キャメルにはそれを伝えない。ジャバウォックに追われていると勘違いをさせておく。
敵を騙すにはその方が都合がいいし、キャメルも最悪を想定して動けた方がいい。
「キャメル。お前を追いかけていた男はジャバウォックの可能性が高い。警戒を怠らず、決して戦おうとするな。とにかく逃げて隠れろ」
「えぇ、分かりました……」
「朝になれば海猿島への定期便が動き出す。連中も大事にはしたくない筈だ。そこまで逃げ切れば敵は撤退する。お前の勝ちだ。勝利条件を間違えるなよ」
「了解です!」
そう言って一旦通信を切ったキャメルは再びシャツを乾かす作業に戻る。
パチパチと燃える焚き木から、煙が夜空へと上っていた。
FBIを追い詰め、水底へと追いやった帰り道。その車の中でガスマスクを外したアルマニャックが難しい顔をしていた。
「アル……何か、あったか?」
「ん〜……あとちょっとで思い出せそうなんだが……」
「どうしたのよそんなに唸って」
「いやな?さっき海にドボンしたFBIの顔、どっかで見たことが……」
覚えておくのはそれなりに出来るが、思い出すのは苦手。
そんなアルマニャックがウンウンと唸っていると、無線先から馬鹿にしたような声が聞こえてきた。
『ハッ、てめぇが最近FBIとかち合った任務なんざ、
「杯戸、中央……病院…………」
『なんだ、いよいよボケたか?キールが囚われていた病院だ。他ならぬお前が突撃したことすら忘れたってなら……』
「あぁ!!思い出した!!」
ジンがアルマニャックを嘲っていたが、その途中でいきなり大声を出したアルマニャック。その場にいた人間全員が反射で耳を塞ぐ。
『ッッ……いきなりでけぇ声出してんじゃねぇ!』
「そうだ!杯戸中央病院だ!キールを救出したその後のカーチェイス!赤井を除いて俺からただ一人逃げ切った、顔も頭も四角いドライバー!アイツだ!ありがとうな、ジン!」
『うるせぇ!!』
度重なる大声に顔を顰めつつ、恐らく思い当たるところがあったのだろう。ハンドルを片手で操りながらもう片手でスマホを弄っていたベルモットは、ややあって画面をアルマニャックにぐいと見せつけた。
「もしかして、貴方が言ってる男って彼かしら?」
「ん?……おぉ!コイツだコイツ!なんだベルモット、知り合いか?」
「知り合いではないけど……この男の名前はアンドレ・キャメル。赤井が可愛がっていた、運転技術に長けた捜査官よ」
「成る程成る程……つまりコイツを確実に仕留めれば、赤井の牙を一本引っこ抜けるって訳だ」
犬歯も剥き出しに笑うアルマニャック。
そこに、ジンから更なる続報が届く。
『たった今、海猿島に灯っていた火が消えた……』
「海猿島ってのは、無人島か?有人島か?」
『無人島だな』
『えぇ、加えてこの時期この時間帯、東京湾の海流は海猿島方面に流れています』
『なら、溺れかけたFBIが流れ着いてもおかしくはねぇな?』
『事実、水死体が海猿島に流れ着いたこともあったとか……』
『クルーザーは今手配したぜ』
『結構。ならば貴方達は上陸して逃げたFBIを狩りなさい』
阿吽の呼吸で話を進めていくラムとピンガ。
それを聞くアルマニャックの目はどことなく温かい。
(なんだよ、二人して息ぴったりじゃんか)
「島の地理は?真っ平らな砂浜海岸か?」
『海岸は砂浜だが、少し入れば森だな。つっても観光地。ある程度整備はされてるが』
「山狩りを数人でやれってか?流石に頭数が足りないぜ」
『何言ってんだアル。てめぇがいるだろうが』
『えぇ、貴方がいるならその人数でも足りますよ』
当たり前のように語る二人の声に、しばし目を見開いていたアルマニャックはくつくつと笑い出した。
「そうかいそうかい……わァったよ、そこまで信頼されちゃ仕方ねェ。精々頑張るさ」
『頼みましたよ。現地での指揮は貴方が……』
「いや、ジンが適任だ」
『!』
『……何のつもりだ、クソガキ』
「ん?俺は1人で自由に動き、指揮とかそういうのはお前がやる。俺が点で、お前が面。それぞれ制圧した方が効率がいいってだけだ」
『フン……』
『成る程、分かりました。ではそれで行きましょう。いいですね?』
『『『『「「「了解!」」」』』』』
クルーザーに乗り換え、一行は海猿島を目指す。
逃げたFBIを、確実に仕留める為に。
「き、来ました!奴らです!奴らが船でこの島に!」
『落ち着けキャメル……!火を見ただけでは奴らは半信半疑の筈。顔にも泥を塗って森に溶け込め!』
「は、はい!」
クルーザーを見つけたキャメルが、赤井の指示通り森に溶け込んですぐ、ジン達が海猿島に到着した。
人気のない砂浜を歩く一行。地面を注視しながら歩いていたジンは、砂浜に残る足跡に注目した。
「足跡に角が立っている……にも関わらず焚き火の跡がねぇってことは……」
砂浜に手を突っ込み、ごそごそと探るジン。ややあって引き抜かれた彼の手には、石が握られていた。
「まだ熱を持っている……わざわざ砂に埋めたってことは、俺達がこの島に来ることを察知しているってことだ……散って探すぞ!」
「「「「「了解!」」」」」
「んじゃ、俺は別行動させてもらうぞ」
ウォッカ達が声を揃える中、アルマニャックは早々にその場を離れた。
そのまま物凄い速さで走り、森の中へと消えた彼を、ある者は呆然と見つめ、ある者は呆れた目で見ていた。
「チッ、勝手なことしやがる」
「気にするなウォッカ。あのクソガキにはやりたいようにやらせときゃいい」
「へ!?へい……!(アルマニャック絡みで兄貴から宥められるとか、すげぇ新鮮だな……)」
「……相変わらず、とんでもない足の速さだよ。あんなのに追いかけられるFBIも、不運なもんさね」
「オリンピック選手と、遜色ない……」
「でも、今回のアルはいつもに比べてかなり軽装よ?」
「そういう問題じゃないと思うわ……貴女、だいぶアルマニャックに毒されてるわね」
「……そうかしら?」
他愛もない話をしながらも、各々周囲への警戒は一切怠っていない。
しばらく手分けして森の中を捜索したものの、FBIの姿は影も形も見当たらない。
真っ先に不満を口にしたのはキャンティだった。
「……どこにもいやしないじゃないか!もうこの島から逃げちまったんじゃないのかい!?」
「俺も、少し……そう思う……」
「海猿島から横須賀の海岸まで精々1.2キロ……あり得ない話じゃないわ」
コルンが、次いでキールが同調するも、ベルモットとジンが否を突きつける。
「もし仮に逃げているなら、焚き木の跡をわざわざ隠すかしら?ここに自分がいると分からせた方が、私達の目を島に釘付けに出来るでしょう?」
「そうしなかった理由は明白……まだ奴は泳げねぇんだよ!この島に辿り着くのに体力を使い切っちまっただろうからな……」
そして更にそこへ、無線の先からアルマニャックが畳み掛けた。
『ジンが正しいな。奴はまだこの島にいるぜ。
「…………いや、驚いてるのは私達の方なんだけど……いくら小さいとはいえ、島一帯の気配なんて分かるものなの?」
皆の驚きと呆れを代表してキールが問いかけると、至極あっさりとした返事が返ってきた。
『
「……ホント凄まじいねぇ、アルは」
「理不尽、と言うべきだわ」
「アルが感じてる気配……方向、どっち?」
『ちょうど皆がいる方向だ。だからそっちは皆に任せるぞ。俺は島の反対側へ向かう。俺の勘が間違ってる可能性もあるからな。一応虱潰しにしておくさ』
そう言い残してアルマニャックの声が遠くなる。
彼の発言を受けて、今一度周囲の探索に力を注ぐ一行。その中で、キャンティとウォッカのペアは山中で見つけた山小屋へと入っていく。
「こんな分かりやすいところにいるのかね……」
「アルマニャックの野郎がこっち方面って言ったんだろ?」
「まぁね……アルが言ってなきゃ素通りだったってのに」
「一応の確認だ、いいじゃねぇか」
一応の警戒はしつつも、どこか砕けた様子で小屋を捜索する。
その最中、ふとウォッカが口を開いた。
「しかし、ラムの旦那にも驚くぜ……いきなり会話に入ってきたと思ったら、ズバズバ指示を出してきて、しかもそれが全部当たってるんだからよ……」
「ピンガの奴も大したもんだよ。指示がことごとく冴えてるんだから」
「確かにな。キュラソーが死んで以来、ラムの旦那はピンガを新たな右腕にしたと聞いてたが、それも納得だ。まさかあの若造がここまでやれるたぁな……」
(ラム!?ピンガ!?側近!?……ひょっとして、これはとんでもない情報源なんじゃ……!?)
その会話を、物陰から密かに盗み聞きしているキャメルは心臓を跳ね上がらせながら、一言も聞き逃すまいと意識を集中していた。
そんなこともつゆ知らず、ウォッカとキャンティの二人は会話に華を咲かせていく。
「そう言えば、さっきっから"旦那"って言ってるけど、アンタはラムさんの顔見たことあんのかい?アルは旦那だったり姐さんって呼んだりしてるけど……」
「姐さん……?それは知らねぇが、まぁ俺のもあくまでイメージだよ」
そこからウォッカはペラペラと語りだす。ラムという人物の噂について。
曰く、大男。曰く、女のような男。曰く、老人。曰く、義眼。
しかし、ジンが言うには、義眼以外はラムが護身の為に流した偽の噂だと。
「じゃあ、ジンはラムに会ったことがあるんだね……ラムさんに会ったことがあるのはアルだけじゃなかったって訳だ」
「俺からすりゃアルマニャックの野郎がラムの旦那と顔見知りな方が驚きだぜ」
「アルはラムさんから直接スカウトを受けたって言ってるよ」
「そこが分からねぇんだよな……つまり、それだけシャバで名前を売ってたってことだろ?にしちゃ情報が一切出てこねぇ。俺どころか、ジンの兄貴すらアイツが組織に来る前の情報を知らないってんだから」
「アタイもアルの過去はほとんど知らないね……前に軽く聞いたことがあるんだけど、ラムさんから口止めされてるんだって」
「尚更意味分かんねぇ……アイツの過去に何があるってんだ……」
「あぁでも、前にアルがポロッと言ってたことがあったね……」
「ホォ?何て?」
この場にいた全ての人間が、キャンティの言葉に耳をそばだてていた。
「アル、昔は少年兵だったらしいよ」
(少年兵……それは……)
その一言で、アルマニャックがどれだけ凄惨な半生を送ってきたのかを察したキャメルは、そっと目を伏せた。
ただの一人の人間が
一方でウォッカは半ば納得しつつ、やはり解せないと言った顔つきをしていた。
「そういやそんな話どっかで聞いたな……成る程、道理で情報が出てこない訳だぜ。……とはいえ、じゃあどうやってラムの旦那がアイツの情報を手に入れたんだって疑問は残るけどな」
「殺し屋に転向したって話をしてたから、そこでじゃないかい?」
「なるほどな。にしても、そうかそうか……アイツのえげつなさは戦場仕込みかよ。どんだけクソみたいな場所にいたんだろうな?」
「ま、まぁアルのことはいいじゃないか。それよりラムさんだよ。ジンはどこまでラムさんのことを知ってるんだろうね?」
露骨に話題を逸らしたキャンティの顔には、僅かに後悔の色が浮かんでいた。
ウォッカは一瞬疑問を顔に浮かべつつ、あっさりと新しい話題に乗っかった。
「今どこで何をしてるかも知ってるってさ」
「へぇ!どこで何をしてるんだい?」
「さぁ……そこまでは聞かされてねぇし聞いちゃいないが……あぁ、でもジンの兄貴が言ってたな……」
「何て?」
「顔を変えて、
パキ!
「!?」
「何の音だ!?」
(しまった……!)
話を聞くのに熱中するあまり、足元への注意が疎かになっていたキャメルは、自分でバラまいたコーヒー豆を踏みつけてしまった。
破砕音は小さな音だったが、もとより静かな小屋の中。いくら雑談交じりとはいえ、静寂の中でそんな音を聞き逃すほどウォッカとキャンティは馬鹿でも無能でもない。
二本のライトが、裏口に向かって脱兎のごとく駆けていくキャメルの後ろ姿をしっかりと照らす。
「クソッ!」
「待ちな!」
咄嗟に何発か弾丸を撃ち込んだものの、掠りもせず。
慌てて追いかけようとしたウォッカが、足を盛大に滑らせて尻餅をついた。キャンティも思わず立ち止まり、足元を確認する。
「なんだい?この……黒い粒は」
「こ、コーヒー豆……?」
騒ぎを聞きつけ集まってきたジン達にウォッカが申し訳なさそうに顛末を説明すると、ジンは露骨に顔を顰める。
「面倒なことになったな……」
「す、すいません兄貴……まさか、こんな罠に足を取られるとは……」
「いや、これは罠じゃねぇ」
「えっ?」
「袋がどこにも見当たらねぇ。ってことは、奴は土に潜る気だ」
「袋をいくつか繋げて、寝袋みたいにするってことかい?」
「そうだ……夜明けまで残り数時間、それまでに地下へ逃げた
ジン達の会話を無線越しに聞きながら、ピンガは必死に頭脳をフル回転させていた。
(いくら気配に鋭いアルがいるとはいえ、土に潜った奴を残り数時間で探し切るのは困難!つまり、どうにかして
だが、どうやって?そこでピンガの思考は止まる。いくら悩んでも妙案が思いつかない。
毒ガス。
(Non.屋外じゃあすぐ拡散して希釈されちまう。有効な量を今から用意するのも現実的じゃねぇ)
人海戦術。
(Non.確かに有効な手ではある。だが今からそれだけの人員を用意して送り込むのは不可能)
爆撃。
(Non.これも用意が間に合わないし、何より死体が確認出来ない)
そこで手詰まりだった。闇夜に潜み隠れた者を、今ある手札で炙り出す方法が、ピンガにはどうやっても思いつかない。
こうして考えている内にも時間は過ぎていく。既にジン達は虱潰しに探す方向に舵を切りかけていた。
ラムに助けを求める。そうすれば恐らく解決するのだろう。自分では思いもよらない手段にて、きっと彼は埒を開けるのだろう。
しかし、それはピンガにとっての敗北だ。今回の件は"自分がどこまで出来るのか"ラムに示す為の試験だ。
試験問題が解けないからと試験官に助けを求めるなど言語道断。
(だが……)
今ここで手を打たなければ、十中八九FBIは逃げ切ってしまうだろう。そうすれば、組織の情報をFBIに少なからず提供することになってしまう。
思い浮かんできたのは、やはりアルマニャックの言葉だった。
"背中は預ける"
奴の背中を預かる者が、ちゃちなプライドの為に勝利を手放していいのか。その選択は、奴に対して誇れるものなのか。
ピンガは後ろを振り向いた。そして、自分を見つめているラムに向かって、頭を下げる。
「俺じゃ、今の盤面を打開する一手が思いつかない。…………頼む、アンタの智慧を貸してくれ」
苦痛だった。屈辱だった。己の無能さに腸が煮えくり返りそうだった。
だが。それでも。
(自分のせいで、
ただただ頭を下げるピンガを、ラムは興味深そうに見ていた。
「これも、アルマニャックの影響という訳ですか……全く、つくづく彼は御し難く、そして面白い」
「え?」
「いえ、君も変わったと思いましてね。私の知るピンガという人物は、
「…………ッッッッ」
「あぁ勘違いしないように。これは褒めているのです」
「…………は?」
「つまり君は、
そう言って、柔らかく笑うラム。
ラムに長く仕える側近ですら早々お目にかかれないその光景に、目を見開くピンガ。
それを放置して、ラムはマイクを取った。
『待ちなさい、ジン……もっといい方法がありますよ』
『何?』
『文字通り、炙り出しましょう。海猿島はキャンプ場……ガソリンがある筈です』
『!……ククク、了解』
そう言って無線を切る。ピンガの方を振り向くと、悔しげな顔をしていた。
「……………………
「如何にも。消防隊を呼び寄せてしまう為に長居は出来なくなりますが、元よりあの場で時間は我々の敵です。であれば、問題ないでしょう?」
「そう、だな…………」
「もう少し頭を柔軟に。完全に詰んだ盤面など、そう有りはしません。手掛かりは常に視界をチラついているものです。頭を冷やせば、視野も広くなるでしょう」
「………………勉強になるぜ」
「それでいいのです。精々私から多くを吸収しなさい」
憮然とするピンガに、苦笑するラム。
とにかく、この場で出来ることは全て終わった。
後は現場の動き次第だが、こちらには
二人は、何の憂いも抱いていなかった。
燃え盛る海猿島。それを視界に収めつつハンドルを切る赤井の顔色は渋い。
「赤井さん、何か気になることでもあるの?」
「…………ずっと、引っかかっているんだ」
「引っかかっている?」
「自分は何かを勘違いしているのではないか、とね」
「それは、アルマニャックのこと?」
目付きも鋭く問いかけるコナンを横目に、頷く赤井。
赤井はずっと不安に苛まれていた。首筋をチリチリと灼きつける何かをずっと感じていた。
"ジャバウォック"への想定で、対応で、何か失態を犯しているのではないかと。
そう言われたコナンは目をぱちくりとさせ、驚きを隠せずにいる。
「僕、赤井さんのそんなところ初めて見たよ」
「フッ、俺とて一人の人間。こういう時もあるさ。それに……相手が相手だからな」
「やっぱり、アルマニャックは強いの?」
「それもそうだが……そうか、ボウヤは"ジャバウォック"について知らないのか」
「さっきもキャメルさんとの会話で出てたね。多分アルマニャックが、その"ジャバウォック"なんだと思うんだけど……それって一体何の暗号なの?」
「今更ボウヤ相手に隠す必要もないか……。そうだな、一言で言うなら……忌み名だ。
そこから語られた"ジャバウォック"の、そして"アルマニャック"になってからの犯行は、数々の凶悪な事件に触れてきたコナンをして顔を青褪めさせるものだった。
「赤井さんを疑う訳じゃないんだけど、そんなことが可能なの……?」
「俺も映像を観て尚信じられん気持ちだ。君がそう思うのも無理はない」
「……それで、赤井さんは何を警戒しているの?」
「……キャメルを追いかけている"ジャバウォック"は偽物。本物は俺達FBIの本隊を捜索している、と言ったところか。奴なら1人で今いる捜査官を全滅させることも可能だろうからな」
「赤井さんの話が本当なら、そうなんだろうね……でも、赤井さん自身がその想定を信じてなさそう」
「あぁ。これまで我々は奴に裏をかかれ続けてきた。正直、奴の行動を正確に予測出来る気がしない。であれば、奴は今どこにいる?何を目的に動いている?」
そう呟く赤井の顔は、苦虫を噛み潰したように歪んでいた。
今こうして現場に向かっていることすら、正解かどうか自信がないと。そう苦しげに言葉を吐いた赤井を、信じられない気持ちで見るコナン。
その時ふと、コナンの脳に浮かび上がった疑問が口を衝いて出た。
「あれ?……アルマニャックって、素顔が未だに分かってないんだよね」
「ん?あぁ……降谷君は知っているようだが、彼も見たものを記憶しているだけで、それを我々と共有する術がない。映像などには一切残っていないらしくてな」
「なるほど……うん、それならやっぱり赤井さんが今出撃しているのは正しい判断だと思うよ」
自信を持って言い切ったコナンに、眉を上げる赤井。
「その根拠を、聞いても?」
「勿論!……赤井さんの話を聞いて思ったんだけど、アルマニャックは非常に慎重な奴だよ。恐らく、黒ずくめの組織の誰よりも」
「慎重?確かにその一面はあると思うが……だが奴の行動は大胆極まりない」
「そこがミソなんだよ。アルマニャックの行動の大胆さが、彼本来の慎重さを隠してるんだ」
眼鏡をきらりと光らせるコナンの推理に、赤井は強く興味を惹かれていた。
「そもそも、"ジャバウォック"としてCIA本部を襲ったのだってそう。彼は追手から逃げ切ったって言ってたけど、それはつまり、逃げ切る算段がついてたから襲撃をかけたってことでしょ?……それがそもそもおかしいと言えば、そうなんだけどさ」
「それは……確かにそうなのかもしれんが……」
「僕が出会った杯戸中央病院の件もそうだよ。奴は"しばらく屋根裏生活していた"と言っていた。そう、奴はずっと屋根裏でタイミングを伺っていたんだ。
「!確かあの時は、瑛祐君の件でブラフをかける為に……」
「そう、部屋には瑛祐兄ちゃんと僕しかいなかった。それに、キールを連れ去る際も、直ぐ側にドライバーを用意させていたでしょ?いつキールを連れ出せるかも分からないのに」
「侵入や襲撃こそ大胆不敵だが、常に脱出経路を考慮してから動いていると。……まるで傭兵の立ち振る舞いだな」
「それだけじゃない。奴は現場じゃ決して素顔を晒さないって、赤井さん言ってたよね?それも、自分の正体を探られない為の対策だ。ここからも、奴が飛び抜けて慎重であることが分かるよね」
成る程、一応の筋は通っている。
だが、まだ赤井には解せないことがあった。つい先日の、東都水族館での一件だ。
「だが、東都水族館での一件はどうだ?奴らの動きは派手極まりないじゃないか」
「逆だよ赤井さん。アレこそアルマニャックの慎重さを表しているんだ」
「どういうことだ?」
「奴が本当にただ大胆なだけなら、キュラソー奪還の為に、観覧車そのものを襲撃するんじゃない?だってキュラソーはそこにいるって分かってるんだから」
「……だが奴は、まず駆けつけた公安を始末した。その目的は……」
「
「だが、それでは警察を呼び寄せるだけでは?」
「だから車を炎上させたんじゃない?目撃者がその光景を見たら、まずすることは……」
「119番か。消防車が大量に押し寄せれば警察の到着も遅れる。包囲網などあってないようなもの……最悪ヘリでのピックアップが失敗しても、陸路で連れ出せる余地を作ったと」
「もしかしたら、ヘリもアルマニャックも、互いに陽動であり互いに本筋だったのかもね。奴が公安を襲撃することで目を陸地に集めさせ……」
「空から悠々とキュラソーを連れ出す。そしてヘリが襲撃をかけることで観覧車へと目が釘付けになり……」
「奴は余裕を持って脱出した、って訳さ」
ハンドルを指でトントンと叩く赤井は、これまでの話を脳内で必死に整理している。
「奴の行動からは、自身の実力に対する圧倒的な自信が窺える。でなければ一連の襲撃など起こすまい。だが……」
「アルマニャックの本質はそこにはない。奴は常に、逃げ道の確保を最優先にしている。いっそ臆病なまでに」
「…………行動に見合わぬ恐ろしい程の慎重さこそが、奴の本当の武器という訳か」
「僕でも気づけたことに赤井さん達が気付けなかったのは、余りにも大きな被害を受け続けてきたからじゃないかな。奴が自信家であることも事実だろうしね」
「犠牲が出過ぎてしまったが故に、我々は盲目になってしまっていたのか……」
難しい顔で唸っている赤井に思わず苦笑をこぼすコナン。
しかしすぐに真面目な表情に戻ると、本題を切り出す。
「さっき赤井さんは、"キャメルさんを追っているのは偽物で、本物はFBI本隊を探している"って言ってたよね?」
「あぁ、そうだが?」
「アルマニャックの慎重さを踏まえると、納得が行かないんだ。どこにいるかも、何人いるかも分からない敵の拠点を一人で探して一人で攻め込む。奴の慎重さに合わないんだよね」
「……では、奴は何を目論んでいると思う?」
「恐らく、膠着じゃないかな」
「というと?」
「"本物のアルマニャックは自分達を探している"、そう思わせて本隊の動きを止めることこそが、アルマニャックの目的なんじゃない?虚像で動きを止めて、その隙にキャメルさんを仲間達と確実に殺す。そっちの方が、奴の慎重さに合致していると思うんだよね」
「……となると、我々にとっての最適解は……」
「一刻も早く現場にいって、キャメルさんの援護射撃をすること、だね」
コナンの言葉を、最早疑う余地はなくなった。赤井は強く頷く。
「縫い止めていた筈のFBIが、援護に動いているとなれば……」
「作戦の失敗を悟ったアルマニャックは必ず引く。時間は元より奴らの敵。CIAから逃げ切る程の奴が、引き際を見誤ることはないと思う」
「フッ……ボウヤが味方で良かったよ」
「それはこっちの台詞だよ赤井さん。黒ずくめの組織と戦う上で、赤井さんやFBI、公安の人達の力を借りられるのはすごく心強いんだ」
お互いに強気な笑みをこぼす。高速を走る1台の車が、海猿島への距離をぐんと縮めていく。
ここからが反撃の時だ。
なんか、40話以上もお話書いといて、ようやくコナン君をマトモに書けた気がする……
最後までお読み頂き、ありがとうございました。よろしければ、感想・評価・お気に入り登録の程よろしくお願いいたします。
特に感想と高評価は凄く嬉しいです。本当に励みになります。高評価頂くたびにニッコリなりますし、感想通知来るたびにテンション上がりすぎて動悸がヤバいです。
どうか、よろしくお願い致します。