ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」   作:ていとくン

50 / 60

まず、これほど期間が空いてしまったにも関わらず、拙作をお気に入りや評価から外すことなく待って頂いた皆様、本当にありがとうございます。

かなり長いスランプにハマっておりまして、こんなに遅くなってしまいました。お待たせしてしまってすみません……。ようやく何とか納得出来るものが出来上がりました。



☆10:れぷ様、イーグル15様、アイマイミーマイン様
☆9:至高神Z様、叱ってくれおじさん様、赤花除虫菊様、sqlite*様、ガチャ敗北給料の半分万円様、にゃる様、十二l二L様、熱い様、びたみんC様、神野祐様、シャチ大好き様、氷帝様、モリゴン様、魚醤様、ひよっこ召喚士様、にぼし蔵様、タツタ様、松城様、北山三様、グリクレール様、kyotaro様、I-to様、黒羽騎士様、グリムカンビ様、あやたく様、立川涙子様、クロカズ♪様、キクケ様、無名様、かやく様、神天宮様、!!様、真白ざくろ様、とらた様、toshi0517様、guaaaa様、koh航様、玲紫様、にゃんすけ様、十六茶様

高評価を下さった方々、ありがとうございます!あれだけ日付が空いてしまったというのに、本当に、よくぞ待っていて下さった……!
☆9の数が180人ですって!本当に、嬉しい限りでございます。
全然物語が思い付かなくて指が動かず苦しい中だったので、高評価が尚の事嬉しかったです。



本当に長らくお待たせ致しました。黒鉄の魚影編、開幕です。と言っても今回は例のごとく序章ではありますが。
皆様の反応見たり、誤字チェックしたりもしたいので、1日おきに投稿していく予定です。よろしくお願いします。



Barcarolle ─黒鉄の魚影─
治にいて乱を忘れず


 

 

 

 

 

 

南米、コロンビア。某所山中深奥。

 

 

 

鬱蒼と生い茂るジャングルを超えたその先。木々の中にその姿を隠すのは、FARC(コロンビア革命軍)の本拠地たる軍事基地だ。

基地中央部にそびえ立つ建物。その最上階は最高司令官の部屋となっている。

その部屋で、司令官と一人の来客が酒を酌み交わしていた。

周囲は屈強な精兵で固められていたが、両者共に毛ほども気にしていない。お互い軽口を叩き合っており、その様子にむしろ兵士達の方が緊張に顔を固めている。

 

 

「とうとうロクな任務を寄越さなくなったな、司令官(コマンダンテ)

「貴様に依頼せざるを得ない事態なぞ、そうそうあってたまるものか。顔合わせが本題だわ」

「まァ俺はいいんだけどさ。ここで飲む酒はどれも本当に美味いし」

「そうであろう。貴様が飲んでいるラムなど、我らコロンビアが誇る最高の代物だぞ」

 

 

そう言われ、アルマニャックは飲んでいたラムのボトルを軽く掲げる。

ディクタドール20年。コロンビア最高峰の銘柄で、まろやかな口当たりと黒糖の強いアクセントが特徴的なダークラムだ。

 

 

「俺は酒にそこまで詳しくないが、こいつがラム酒の中で一番なのか?」

「当然だ。自分が産まれた国で作られた酒に勝る美酒なぞ、この世に存在せん」

「なるほど。故郷の水はよく馴染む、だったか。漫画で読んだことがある」

「然り。愛する祖国の未来をこの手に、その願いの表れでもある」

「飾ってある宝石もそういう類か?また増えてる気がするんだが」

 

 

そう言ってアルマニャックが部屋をぐるりと見回す。

書斎机や棚などにちらほらと見られる宝石は、いずれも大粒のエメラルドだ。照明を受けて穏やかな光を放っている。

 

 

「世界に流通するエメラルドの、およそ半数がコロンビア産だ。この部屋にあるものは全て"ゴタ・デ・アセイテ"、最高品質のものだけを揃えている」

「我らこそがコロンビア、ってかい?」

「そうだ。我々こそが真の愛国者であり、だからこそこの国の舵を取る義務がある。この部屋は、そういった意志表明でもあるのだ」

「そうかい。……うん、美味い。つっても、俺がそこら辺の機微を分かってる訳じゃあないけどさ。でもやっぱりいい酒だよ。にしても……ラムか」

 

 

ラムを舌で転がしつつボトルを眺めていたアルマニャックが、フッと笑みをこぼした。

 

 

「何だ」

「いや、俺はこの名前に色々と縁があるなと思ってね」

「貴様の上司、そのコードネームも"ラム"だったか」

「おう。稀代の大悪党だぜ、あの人は」

「貴様が認めた男の名前が"ラム"か。フッ、確かに数奇な巡り合わせを感じるな」

「だろ?」

 

 

二人ともカラカラと笑いながら、酒を楽しみつつ他愛もない話に華を咲かせていく。

数時間ほど経ち、机上のボトルが軒並み空になったところで、どちらともなく立ち上がり、伸びをする。

 

 

「今回はこれでお開きかな?」

「うむ、次は来年だな。また会おう」

「おうよ。今度は俺も何か美味い酒を持ってこよう。生憎俺の出身は分からんが、舌に馴染む酒を持ってくるよ」

「期待しているぞ」

 

 

部屋を後にしようとしたアルマニャックは、しかしはたと立ち止まり、司令官の方に向き直る。

 

 

「ごめん、すっかり聞くの忘れてたんだが……」

「なんだ?」

「最近、CIA(ラングレー)に何か動きあった?」

 

 

アルマニャックの質問に、やや緩んでいた顔が即座に引き締まる。

十数秒の沈黙。破った声は、硬い響きを持っていた。

 

 

「ないな。全く無い」

「そうか……すまん、酒の席でつまらねェ質問を──」

()()()()

「うん?」

()()()()()()。我々に対してだけではない。提携先のカルテルからも、奴らに関する報告が一切上がっておらん。麻薬取締局(DEA)と並んであれだけしつこく我々を嗅ぎ回っていたCIA(ラ・シーア)が、だぞ」

 

 

それを聞いたアルマニャックの顔にも、最早喜色はなく、部屋には張り詰めた空気が漂う。

司令官は、動きが一切ないと言った。合衆国(ステイツ)が誇る諜報機関が、長らく付け狙ってきた怨敵に対して動きを見せていないと。

 

 

「あれだけ薬物(コカ)共産主義(アカ)を親の仇みたいに追いかけ回してた米国(グリンゴ)の狗ころ共が、FARC(アンタら)相手に一切動きを見せていないと?」

「貴様に聞かれてようやく認識出来た。何故今まで気付けなかったのか……異常なまでの静けさだ」

「……日本でもそうだった。俺達を捕らえるべくFBIは随分大所帯で来ていたが、CIA(ラングレー)の狗共に動きはなかった」

「…………FBIは貴様らに全力を注いでいるにしてもだ。残りの連中は何を企んでいる?」

「さァな。クソ共の考えることなんざ俺には分からんが……どうせロクなことじゃねェ。司令官も気をつけてくれ」

「貴様こそだ。連中が一番殺したいのは、我々ではなく貴様なのだから」

「分かってるさ」

「これだけの静けさだ。近いうち、大きな嵐が来るぞ。精々備えろ」

「忠告痛み入るぜ」

 

 

また何かあったら連絡する、そう言って手をひらひらと振り、今度こそ部屋を後にしたアルマニャック。

それを見届けた司令官は椅子に座ると葉巻を取り出す。すぐさま護衛がマッチを差し出し、葉巻に火を灯す。

紫煙をくゆらせつつ蟀谷をトントンと叩いて思考を巡らせていたが、やがて部下に指令を下した。

 

 

「カルテル側に布告を出しておけ。米国(グリンゴ)に不穏な動きあり、備えろと」

「了解しました」

「それと、直通回線を繋げ」

「電話先は?」

「──()()()だ」

 

 

 

 

━━━

 

 

 

 

カタカタカタ、とキーボードを叩く軽快な音が部屋に響く。

パソコンに向き合い作業をしているのは、数名の黒服。その様子を背後から目の端で捉えつつ、束ねられた報告書にパラパラと目を通すのは、禿頭の男性。

 

 

「ふむ、成る程……()()()()()()はいよいよ実験段階に入りましたか」

 

 

口角を上げつつ尚も読み進めていると、ふと懐から振動を感じた。

端末を手に取り、画面を見ると"旅行"に行っていた部下の名前。ちょうどいいタイミングだと一人笑い、通話を繋ぐ。

 

 

『よう、ラムの旦那。今いいかい?』

「構いませんよ。"司令官"との()()は楽しめましたか?」

 

 

軽くからかいを入れると、電話先からはうぇっ、とえずく声が聞こえた。相変わらず感情が素直な男だ。思わず含み笑いがこぼれる。

 

 

『気色悪い言い方はやめてくれ。明日飛行機に乗るから、そっちの時間で明後日の朝方には成田に到着するだろう』

「でしたら、そのまま向かってほしいところがあります」

『構わないが、何か任務かい?』

「えぇ。ある施設に侵入してもらいたい。──場所はドイツ、フランクフルト」

『……飛行機の行き先を変えなきゃならんな。もうちょい早く言ってくれよ。司令官に怒られるのは俺なんだぜ』

 

 

コロンビアから一度日本に戻るより、直接ドイツに向かった方が明らかに無駄が少ない。飛行機が発つ前に連絡出来たのは幸いだった。

とはいえ急な変更は面倒も多い。彼がコロンビアに向かう際は、情報の隠匿を徹底すべくFARCと共同で幾重にも偽装工作を行っているのだから尚更だ。不満げな顔が、電話越しにも見えるようだ。

尤も、自分相手にこんな軽口を叩ける相手も、およそ彼位だが。そのあけすけさも気に入っている為、特に文句はない。

 

 

「すみませんね、私の元に報告が届いたのがつい先程なのですよ。飛行機の手配はこちらでやっておきますから、司令官の説得はお願いしますね」

『面倒な方押し付けやがって……今度飯ご馳走してもらうぞ』

「銀座の回らない寿司屋に連れて行ってあげますよ」

『なら許す。じゃあ日本には帰らずそのままフランクフルトに向かうわ』

「お願いしますよ。任務にはキールとピンガも同伴します。追って指示を出しますので現地で合流してください」

『キールはともかく、今ピンガを動かしていいのかよ?忙しいんじゃなかったか?その……なんちゃらシステムとか何とか』

「そのシステムの件で、彼に動いてもらう必要がありましてね」

『ならいいんだが。……あっ、そうだ。早めに伝えたいことがあるんだ』

「何か?」

司令官(コマンダンテ)からの情報だ』

 

 

予想外の言葉に、眉が上がる。

今回の"呼び出し"はここ2、3年の傾向で言えば任務などあくまで口実。実態はただの顔合わせに過ぎなかった筈。

"彼ら"とのパイプを維持すべく容認していたものの、ここに来て何か有益なリターンが得られるのであれば、歓迎すべき事案なのだが。

 

 

「して、内容は?」

『ここしばらく、FARCにもカルテル相手にも米国(グリンゴ)が一切動きを見せていないらしい』

「……………………ほう」

『これは日本での一件で前に報告したが、俺を誰より殺したい筈のCIA(ラングレー)が動きを見せていないのは、ちと不気味だ』

「南米方面でも動いていないとなると……何か大掛かりな作戦を準備している?」

『そこは分からんが、とにかく頭に入れといてくれ』

「分かりました。いち早い報告、ありがとうございます」

『どういたしまして。んじゃ、また』

 

 

通話を切り、しばし思考にふける。

 

アルマニャックの情報にアクセス出来る者は限られている。それこそ、明確に彼を認知している者など、普段から行動を共にしている数名の幹部位だろう。

しかし、ここ1年ほどは派手な動きが多かった。日本の公安とFBIが手を組んだこともある。そのどこかから、断片的な情報を繋いでいった結果、連中は確信を得たのだろう。

 

 

 

"ジャバウォック"は"組織"に身を潜めている、と。

 

 

 

アルマニャックを組織に招くと決めた時から、いつかこの時が来る可能性は当然考慮していた。

そのリスクも踏まえた上で、それでも彼を抱き込む方がメリットが大きいと踏んだが故に、あの日ラムは彼と対面したのだ。

彼が組織に加盟してから、そろそろ7年。これまでラムは、組織は、ほぼ一方的にリターンを享受してきたが。遂にリスクが背後に迫ってきたのだろう。

 

(嵐の前の静けさ……CIAが本格的に動き出す予兆でしょうね。目的は勿論、"ジャバウォック"の討伐)

 

合衆国(ステイツ)は、CIA(ラングレー)は、"ジャバウォック"に特大の恨みがある。一度動き出せば何があっても止まらないだろう。

世界最強の軍隊との正面対決など、およそ正気の沙汰ではない。此方の敗北は必至で、得られるものは何も無い。

では諦めて敗北するか。全てを投げ出し逃走を図るか。あるいは、彼を贄に差し出すか。

 

(何れも答えは否!世界の表に君臨するのが合衆国(ステイツ)なら、裏は我々(組織)の領域。そこを侵犯しようと言うのなら、痛い目を見てもらう必要がありますね……!)

 

勿論、真っ向から戦う選択肢は存在しない。しかし生半な裏工作や妨害活動のみで、怒り狂った天下の星条旗(スターズ・アンド・ストライプス)を止められる筈もない。状況は既に最悪の一歩手前だ。

ラムが思いつく手段は、只一つ。

 

 

「世界全てを混沌に落とす。それしかないでしょうね」

 

 

自分達に、"ジャバウォック"に、構っている余裕など無くなる位に、治安が悪化すればいい。戦火と戦禍が満ちればいい。世界が混沌と化せば良い。

世界秩序の崩壊は組織としても望ましい。諜報機関や捜査当局も、組織の追跡を緩めざるを得なくなるだろう。

残る問題は、どうやって混沌を引き起こすか。今の世界そのものを壊すなら、単発の事件では無意味だ。世界の各所で、同時多発的に引き起こす必要がある。

いくつか下準備と起爆剤は必要だが、幸いその中でも最大の一ツを、ラムは手にしている。

 

("ジャバウォック"は反米の象徴……適切なタイミングで札を切れば、それだけで幾つもの組織を動かせる)

 

秘密はいつか破られるもの。CIA最大の禁忌(タブー)だった例の事件は、時を経て今や裏社会における伝説と化している。

世界一の超大国、アメリカ。人員・財政・軍事力。全てにおいて他を圧倒する力で以てこの世界に秩序を齎しているかの国家は、それ故に並大抵ではない恨みを買っているのも事実だ。

合衆国(ステイツ)が憎い。しかしその強大さ故に手出しが出来ない。そうして臍を噛んできた者は、この世界に掃いて捨てるほど存在する。

誰もが逆らえない力の象徴。そこに真っ向から唾を吐いたのがアルマニャックであり"ジャバウォック"だ。

反米主義者達にとって、"ジャバウォック"の名は最早栄光の象徴。彼が本気で動くとなれば、少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そこから連鎖を繋げることが出来れば、あるいは。

 

 

「フフフフフ……面白いじゃないですか。正に歴史の転換点(ターニング・ポイント)という訳です」

 

 

自分の一手によって、世界の歴史が変わりうる。頭脳戦をこそ己の戦場と定めているラムにとって、これほど滾る戦いはない。

その為にも、例のシステムは是が非でも手中に収めたい。可能であれば開発者諸共、万一それが叶わないというのであれば、全てを確実に破壊する。諜報戦で此方が後手に回ってしまう事態だけは、何としても避けなければならない。

ラムは電話をかける。数コールで繋がった先は、ピンガだ。

 

 

「ピンガ、今よろしいですか?」

『ラムか。問題ねぇが、何だ』

「任務です。今週末はそちらの職場での休日ですね?その2日を使って、フランクフルトに向かいなさい」

()()()()()()()……!そうか、分かった』

「話が早くて助かります。キールとアルマニャックを付けますので、現地で合流してから向かうように」

『アルも来るのか?……任務的に使い物にならんだろ』

「侵入する施設が施設です。丸腰でも十全に動ける彼は、万一のことを考えれば最適の人材ですから」

『ハッ、俺がそんなヘマを踏む訳もねぇが……まぁ確かにアルなら備えとしては文句なしだ。了解』

「任せましたよ。では」

 

 

今度こそ通話を終え、立ち上がって伸びをする。肩を回すとゴキゴキと音がした。年を取ったな、と一人ごちる。

そのまま側近達にキールへの指令書通達をはじめ細々とした手続きを指示すると、ラムはその部屋を後にした。

 

 

 

 

━━━

 

 

 

 

アメリカ合衆国 ヴァージニア州ラングレー CIA本部『ジョージ・ブッシュ情報センター』 第一会議室

 

 

 

アメリカ合衆国における諜報の中枢。その頂点に君臨する者達が一堂に会していた。

皆がその手に資料を持ち、食い入るように読み進めている。

その資料こそ、今のCIAにおける至上命題にして最優先討伐目標たる一人の男。今は"アルマニャック"の名で活動している合衆国史上最悪のテロリスト、識別名"ジャバウォック"。

"キール"の名前で例の"組織"に潜入しているエージェント本堂をはじめ、関係各所から上げられた情報を元に本部で調べた情報を合わせて緻密に分析した結果が、資料には余すことなく載せられていた。

紙をめくる音の他は痛い程の沈黙に支配されていた部屋で、全てを読み終えた誰かがため息をつく。

憂鬱を多分に含んだそれを合図として、集まった面々が口を開き始めた。

 

 

「つまり、だ。奴は我々CIAが生み出した怪物だと?」

「そのようだな。尤も、当時その作戦を立案した者と承認した者はいずれも"ジャバウォック"の牙にかかっているが」

「残念だ。是非とも我々で始末しておきたかった。あの愚か者共のせいで我々がどれほどの損害を得ていることか」

「仕方あるまい……たかが一少年兵の情報など、本来我々の元にまで上げるようなものではない」

「上がってきたところで、その程度のことで我々が譲歩する選択肢など、それこそ未来でも知らなければ無理な話だ」

「過去を悔いても意味はない。これからの話をしよう」

 

 

誰かの発言を期に、各々が再び意見を述べていく。今度は建設的なそれを。

 

 

「奴に"仲間を重んじる"などという真っ当な感性があるとはな……」

「奴の過去を探り当てた者の功績だ。加えてエージェント本堂が齎した"ジャバウォック"との作戦報告書も合わせれば、ほぼ確実と言えるだろう」

「奴の性質が真にこうなのであれば……やはり仲間を拉致するのが手っ取り早いか」

「だろうな。人質を餌に、我々にとって有利な狩り場へと誘い込む。実力だけでなく、奴の消息が未だ知れないことも踏まえればこれが最善だろう」

 

 

"ジャバウォック"と真正面から戦うという選択肢を取るつもりは、彼ら(CIA)にはない。

その程度で獲れるなら、とっくの昔に狩り殺せている。"ジャバウォック"の首はそこまで安くない。

一度喉元まで刃を突きつけられたからこそ、油断はなく情もなく。冷徹に網を張っていく。

しかし一番の問題は、やはり情報不足にあった。

 

 

「対象は誰にする?エージェント本堂から、何か参考になる情報は上がっていないのか?」

「皆無だ。キールが"ジャバウォック"と行動する際は基本的にツーマンセルで、他の任務で誰と組んでいるかの情報は機密扱いらしい。多人数で動くこともあるようだが、それだけでは奴の交友関係までは分からないと」

 

 

苦々しい声とため息が各所から漏れる。

 

そう、"ジャバウォック"討伐に際して一番の問題は戦力ではなく、徹底された隠匿にこそあった。

彼の所在はおろか、素顔や人種等の基本的なプロフィールですら、CIAは未だに情報を掴めていない。かつては世界の覇権をKGB(チェーカー)と競り合っていた、世界最高峰の諜報機関が、である。信じ難い程の防諜だった。

人質作戦は確かに有効だが、有効たり得る人質は誰なのか、その情報が全く持って不足していた。

 

 

「……恐ろしい程の情報統制だな。彼を引き抜いたのは"ラム"、だったか。大した奴だ」

「他に親しい仲間の情報は上がっていないのか……であれば、キールを使えばよいのでは?」

「……いや、それはあくまで最後の手段にするべきだ。我々の最優先事項は勿論"ジャバウォック"だが、"組織"とて捨て置けるものではない」

「然り。この作戦にキールを使えば、間違いなく彼女がNOCであることは露見するだろう。我々が"組織"に持つパイプを失う選択肢は、軽々に選ぶべきではない」

 

 

CIAにとって、最優先事項は間違いなく"ジャバウォック"であり、他の全ては二の次である。

しかし、決して軽んじて良い訳でもないのだ。"組織"の壊滅、ましてその立役者となるのは今のCIAからしてもそれなり以上に魅力的だ。最近縄張り争いを仕掛けてきている国家安全保障局(NSA)を牽制する切り札となり得るだろう。

現在CIAが"組織"に食い込ませている諜報員が本堂瑛美ただ1人である以上、その札を迂闊に切りたくはなかった。

 

 

「だが、他に誰がいる?名前が上がっている者は"ラム"だけだぞ」

「ふむ……"ラム"を捕えることが出来れば"組織"の情報解明にも飛躍的な進展が見られるだろうが……いかんせん情報が少な過ぎる。選択肢としては現実的ではないな」

「エージェント本堂から上がっている情報を分析するに、日本にいる可能性は極めて高いとのことだが」

「確かにそれは有力な情報だが、しかし我々はラムの人相すら分からんのだ。捕らえようがない」

 

 

"ラム"。"組織"のナンバー2にして、"ジャバウォック"を匿っている曲者。彼さえいなければ、CIAは数年早く"ジャバウォック"討伐に指をかけられていただろう。

彼もまた、素性の一切が闇に包まれている。人種・性別・年齢・体型・声に至るまで、ラム個人に繋がるプロフィールは全て空白(ブランク)だ。

ここ最近は"組織"の幹部を直接指揮しているらしく、またその幹部達が日本で活動していることから日本に潜伏していると断定出来るところまでは辿り着いたが、そこまでだ。

彼さえ押さえられれば"組織"の全容が解明されるだろうが、肝心の情報がほとんど集まっていない。人質にする以前の話である。

そう、誰もが思っていたのだが。そこに否を唱える声が上がる。

 

 

「いや、そうとは言えないかもしれん」

「どういうことだ?」

資産(アセット)からの報告だが、FBIが"ラム"の素性に関する情報を掴んだらしい。上手く事が運べば"ラム"の正体に到達しうる鍵だとのことだ」

「なんだと?事実であれば、これは大きな進展だぞ」

「何故それをすぐに報告しなかった」

「情報としては極めて小さな断片なのだ。さしずめ、手がかりの手がかり、と言ったところか」

 

 

CIAは天下に名だたる諜報機関だ。様々な組織に資産(アセット)と呼ばれる諜報員を忍ばせている。勿論、FBIとて例外ではない。特に最近は"組織"への対応で独走しがちだ。有事の際に手綱を締められるよう、情報を仕入れることは必須だった。

そこからの情報を明かされた会議室に、しかし微妙な空気が流れる。使えるものは何でも使う、そのことに抵抗はないものの、情報があやふやなままで作戦の要を他所任せというのは単純に不安要素でしかなかった。

されど相手は"ジャバウォック"。CIAが彼を心底憎んでいるように、彼もまた自分達を憎んでいることを知っている。

である以上、彼を確実に仕留めうる最後の局面になるまで、矢面に立つリスクを踏むつもりはなかった。

 

 

「ふざけた名前、とな」

「むぅ……確かに情報としては薄いな」

「我々が持つ"組織"の情報はそう多くない。推測は難しいだろう」

「……待つか?」

「此方から"ラム"の情報を探るのは危険だ。キールが露見するリスクは踏むべきではない」

「であれば、彼女には引き続き"ジャバウォック"の周辺調査をさせるに留めるべきか」

「賛成だ。"ラム"を捕らえられるのが最上だが、そこが本題ではない。他に使えそうな人材が分かればそれで良し」

「そうだな。我々は情報が出揃った場合に備えて、いつでも動けるようにしておけば良い。タイミングだけは見逃さないよう、資産(アセット)には連絡を密にするよう通達せねばな」

特殊活動部(SAD)の準備は?」

「いつでも動けるとのことだ。"ジャバウォック"に対する装備も揃え、訓練も十全に行っていると」

「一応日本に幾つか部隊を送っておけ。"ジャバウォック"に対する人質が決まり次第、いつでも確保出来るようにな」

「こちらで手配しよう」

「方針は定まったな。後は現状"待ち"でいい。前線での斥候は出しゃばり好きなFBI(ビュロウ)に任せておけば良かろう」

「然り。全ては最後に我々が勝つ為に」

「異議なし」「異議なし」「異議なし」

 

 

真に賢しき敵は闇に潜む。"地上最強"を狙う双頭の鷲(アンクル・サム)は、ようやく影の端を踏めた怨敵を仕留めるべく、静かに爪を研いでいた。

 

 

 

 

 

 





章の最初特有、導入回ですね。次回から黒鉄の魚影冒頭のシーンに入っていきます。
キールは本部相手に色々とアルマニャックの情報を伏せています。その度に都度葛藤しているみたいですね。



話の〆がぼちぼち見えてきたので、そこいら中に種をばら撒いています。全てを回収出来るか分かりませんが、そんなところも楽しんでいただけたら幸いです。



最後までお読み頂き、ありがとうございました。よろしければ、感想・高評価・お気に入り登録の程よろしくお願いいたします。
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