ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」 作:ていとくン
☆10:ZaKoRay様、レットブルの権化様、阿部伊佐雄様
☆9:鰤ハマ様、YTrial様、kito1255様
高評価ありがとうございます!本当に感謝の言葉しかありません。心の支えです。
8/19 14:00 日間ランキング12位
二次日間7位
二次日間は記録更新!マジか〜!!日間もここまで高いところまでいけたのは本当に励みになります!感謝!!
さて、今回のお話はコナン君サイドから。いよいよ拉致られちゃうので、そっち側からの描写がちょくちょく入ってきますね。それでは。
八丈島 夜
パシフィック・ブイから帰ってきたコナンは、そこでの事件や背後で動く黒ずくめの組織について、阿笠博士と話し合っていた。
「じゃあ、その拉致も黒ずくめの……」
「恐らくな……」
「成る程、そういうことね」
「「ゲッ」」
隠れて話していたつもりではあったが、いつの間にか嗅ぎつけられていたらしい。
背後から聞こえた声に振り向くと、灰原がゆっくりと歩いてきていた。その顔は僅かに強張っている。
「どこから聞いてた?」
「女性エンジニアが拉致された、ってところからよ」
「ほぼ全部じゃな……」
「それは、本当に"組織"の仕業なの?」
「可能性は高い。だから、明日になったら子供達と船でここから脱出してくれ」
「言われなくてもそうさせてもらうわ。……勿論、貴方もね」
気丈に振る舞っているものの、灰原の目には不安の色が移り、声は微かに震えていた。
物心ついた時から"組織"に命を握られ続け、そして今はその影に怯え続ける生活を送らされているのだ。無理もない。
その状態の彼女に"組織"についての話を聞くのは流石のコナンも躊躇われたが、あのアルマニャックを相手取るのであれば、せめて情報戦で遅れを取る訳にはいかない。
内心苦虫を噛み潰しながら、とある名前を口にした。
「灰原、一つ聞きたいことがある」
「……何?」
「"ピンガ"、この名前に聞き覚えはないか?今回の拉致事件に関わっている可能性が……おい、どうした灰原!?」
"ピンガ"、その名前を出した途端、灰原の顔が色を無くした。目は恐怖に見開かれ、呼吸が浅くなっている。
明らかに尋常な様子ではない。阿笠博士が慌てて彼女の背中をさすりつつ、ベンチに腰かけさせる。
ややあって、幾分落ち着いた様子の灰原は、それでも恐怖をありありとその声に乗せていた。
「どこで、その名前を聞いたの?」
「……赤井さんからだ。フランクフルトにあるユーロポールの施設に、その男が侵入した。それを目撃した捜査官が、アルマニャックに殺されたらしい」
「なんてこと……!あの二人が、対で動いているなんて……!!」
それを聞いた灰原は両手で顔を覆って俯いてしまった。
時間にして、せいぜい十数秒。コナンと博士には永遠にも感じられた時間の後、彼女は言葉を零していく。
「……ピンガは、ラムの側近。その一人にしてアルの……アルマニャックの
「何っ!?」
「アルにとっての頭脳を彼が担っていると、アル本人から聞いたことがあるわ。……自分の背中を預けるに足る人物だとも、言っていた」
前者、つまりラムの側近であることは、薄々分かっていた。しかし後者は別だ。
それ故に頭を抱えていた彼に、灰原は更なる凶報を告げる。
「それと……彼は、ピンガは、一度アルを倒しているわ」
「は………………?はぁ!?
「勿論一対一ではないし、多くの好条件が重なった末のものではあるけれど、ピンガは正面からアルを無力化することに成功しているの」
灰原がかつて"組織"から消されそうになった一件の顛末を語るにつれ、コナンの表情は益々険しくなっていく。傍らで聞いている博士の顔色もすぐれない。
薬学に明るく頭脳は明晰。自身の命すら躊躇なく計画に組み込む度胸。相棒すら手にかける冷酷さ。
加えて話を聞く限り、アルマニャックは自分を手に掛けたピンガのことを恨んでいないようにさえ思える。関係が最悪であればそこにつけ込む余地もあったが、それすら封じられている。厄介極まりない事態だった。
「コードネームを持つ者の中でも指折りの危険人物よ。ましてアルと行動を共にしているとあれば、決して事を構えてはいけないわ」
「……流石に参ったぜ、どこから手を付けたもんやら」
「話を聞いていたの!?……私がここまでペラペラとしゃべった意味、分からない訳じゃないわよね!?」
「そりゃ、ピンガ拿捕の為に協力して──」
「お馬鹿!命知らずの貴方の首根っこ掴んで帰らせる為よ!私達は!明日の朝!帰るの!」
「そうはいかねぇよ、俺は探偵なんだから」
「そんなこと言っている場合じゃ──」
「じゃあ、
コナンの指摘に顔を顰める灰原。
彼女とて分かってはいるのだ。今後一生"組織"の影に怯えながら生きていくことが嫌なら、闘わなければならないのだと。
だが、彼女はアルマニャックが倒れ伏す様を、それを見下ろすピンガを目の当たりにしている。
彼女が二の足を踏む理由は、自分の大切な人が失われる可能性に恐怖していること、それだけではない。
「……なら、何か策はあるの?"組織"最強の戦士と、それを打倒した男を倒す算段が、貴方にあるのかしら?」
「そりゃ今はまだねぇけどよ……」
そうだ。灰原には分からない。あれほどまでに強かったアルマニャックと、それを打ち倒したピンガをどう倒すのか。その方法が全くもって分からないのだ。
「策もなしに戦える相手じゃないことくらい、貴方にだって分かっているわよね?」
「わぁってるし、それはこれから考えるさ。でも、どのみちどこかで戦うことになるんだ。なら今、奴らが動いていると分かっている今、情報を集める必要がある」
ラムの側近とアルマニャックの相棒を兼任するなど、"組織"においても特級の重要人物だ。
普段は裏方を担うらしいそんな人物が表に出てくることなど、滅多にあることではない。仮にここでピンガを捕らえることが出来れば、そこから"組織"の情報を入手することが出来れば、負け続きだった戦線を一気に押し上げることが出来る。
だからこそ今動かなければならないのだと言うコナンに、渋々理解を示す灰原。
確かに、ここを逃せば恐らく自分達がピンガと接触する機会は得られないだろう。彼の身柄を押さえられれば、そこからアルマニャックとラムに糸を繋げることも十分叶うだろう。……それが可能であればの話だが。
「俺は残ってもう少し情報を集めてみる。灰原は博士と一緒に帰ってくれ。研究室にいた方が、お前も出来ることが多いだろ?」
「………………分かったわ。でも、決して無茶をしないように。貴方が万一捕まるような事があれば、周りの人達にまで危害が及ぶってこと、忘れるんじゃないわよ」
「アイリッシュの時も同じこと言われたな……大丈夫だ、ちゃんと分かってるから」
頷いたコナンは、ふと何かを思いついたような顔をして、自分がかけていた眼鏡を灰原にかけさせる。一瞬身構えていた彼女は怪訝な顔をした。
「何のつもり?予備の眼鏡なら持ってるけど?」
「その眼鏡は、博士が最初に作った1号機だ。言ったろ?それをつけてれば、絶対に正体がバレないって」
「……その割には、あっさりピスコにバレて拐われたんだけど?」
「あ~……で、でも、その後無事に助かっただろ?ほら、効果あったじゃねぇか」
灰原のジト目での抗議に思わず目が泳ぐコナン。手をわちゃわちゃとさせながらの苦し紛れな言い訳に、しかし灰原の表情は緩んでいく。
「お守りみたいなもんだと思って、お前が持ってる予備の眼鏡と交換しとこうぜ」
(お守り、ねぇ……)
話が終わり、博士に連れられながら部屋へと戻る途中、灰原はずっとその眼鏡を見つめていた。
━━━
八丈島、夜
静かな道路を駆ける大型のジープ。その助手席で、ウォッカがあくどい笑みを浮かべながらジンと通話をしていた。
「例のシステムで、あのガキを見つけたそうですぜ」
『分かった。潜水艦に連れ込んでおけ。──キャンティ、そっちの様子はどうだ?』
ジンはもう片方の携帯にも話しかける。問いかけられたキャンティは淡々とした様子だ。
彼女は今、打ち捨てられた廃ビルに潜み、ホテルの一室をライフルのスコープで監視している。スコープの先に見える一人の少女は、成る程言われてみれば確かに、かつて見知った顔の面影を感じられる。
「あぁ、こっちでも見つけたよ。まさか八丈島にいるなんてね……アイツも、運がないね」
『何か言ったか?』
「いいや、何も」
『……?まぁいい、抜かるなよ』
「誰にもの言ってるんだい?楽勝さね」
そのやり取りを最後に通話が切れた携帯を、乱雑に懐へとしまうキャンティ。その顔には、苦々しさが全面に表れていた。
例のシステムによる結果が本当なら、アルマニャックによって逃された筈のシェリーが目の前にいることになる。
キャンティは知っている。あの男が、彼女を守る為にどれ程の覚悟を決めていたのかを。
その覚悟が今、無意味に成り下がろうとしていることを。
(全く、本当に……運がないね)
どうやって組織から逃げ続けているのか見当もつかなかったが、まさか子供の姿になっていたとは。道理で見つからない訳だ。……きっと、例のシステムさえなければ最期まで逃げ切ることも出来たのだろう。
彼女の逃げ方は完璧で、捕捉されてしまったのはひとえに"運が悪かった"としか言いようがない。そう思えば一抹の同情心は湧く。
とはいえ任務を断るつもりなどキャンティにはなかった。組織を敵に回してまで彼女を守ろうなどという気概など自分にはないし、そんな義理もない。
そも、悪いのはシェリーだ。組織に身を置く者なら、裏切りの末路がどういうものかなど分かり切っていた筈。それでも敢えて愚かな道を選んだ者の為に、自分の命を危険に晒す方がおかしいのだ。
自分の命が一番大事。シェリーとアルマニャック、両者の考えも行動も、キャンティからすれば理解の外だ。
だが、どれだけ内心で自分なりの正論を掲げようとも、後味の悪さを感じることは止められなかった。
「……嫌な仕事だよ、全く」
吐き捨てるように呟かれた言葉は、闇に吸い込まれて消えていった。
━━━
ホテルの一室にて、灰原は紅茶を飲んでいた。
夜もだいぶ更けてきたが、先程までの話が脳内をリフレインしており、とてもじゃないが寝付けなかった。
明朝、一番の便で本土へと帰ることになる。博士の家はああ見えてそれなりの要塞だ。特に情報面では自分が手を入れたこともあり、そう簡単に抜けるものではない。あの家に帰りさえすれば、自分は安心して腰を落ち着けられる。
そう自分に言い聞かせても、微かな胸騒ぎが消えず、何の気無しに窓から夜空を見上げようとした、その時だった。
バタン
(……ッッ!?)
駐車場の方角から聞こえてきた、車のドアを閉じる音。それが灰原の耳に届く。重ための音から察するに、それなりに重量のある車なのだろう。
八丈島は離島の中では比較的栄えている方ではあるものの、夜遅くまで営業している店などほとんどなく、外で遊んでからこの時間に返ってくるという可能性はまず考えられない。
では、こんな時間に、一体誰がホテルに訪れるというのか?
(まさか……!?)
慌ててカーテンを閉める。薄手の上着を羽織り、眼鏡を取って部屋を出ようとするも、気持ちよさそうに寝ている歩美の姿を見て、足を止める。
(彼女を巻き込んではならない……!)
乱れた布団をかけ直し、足音で彼女を起こさないように早歩きで扉へと向かう。
音を立てないよう慎重に扉を開け、そして、
「よう」
そこに立っている二人の男を見て、灰原は今度こそ凍りついた。
ニヤニヤとあくどい笑みを浮かべているウォッカ。それともう一人、能面の如き無表情で灰原を睥睨するピンガ。
「あ、あぁ…………!?」
「…………悪く思うなよ」
そう呟いたピンガに口元を押さえられる。
シンナーの臭い。それに思考を至らせる前に、灰原は意識を失った。
━━━
寝る準備を終え、ベッドに潜ろうとしていたコナンの耳に雑音が届く。微かなうめき声のような音。
音源は、探偵バッジ。
「灰原?……ッ、まさか!?」
蝶ネクタイと探偵バッジ、携帯をひっつかんで外へと飛び出す。
向かいにある灰原の部屋を視界に入れ、その扉が開いていることに、片隅に黒いものが横切ったことに表情を険しくする。
灰原の部屋に向かって走りつつ、阿笠博士に電話をかける。幸いすぐに出てくれた博士に対し、半ば怒鳴るように要件を口にした。
「博士やべぇ!灰原が拐われた!」
『何じゃと!?』
「車を回しといてくれ!!」
『分かった!!』
電話を切りつつ向かいの廊下にたどり着き、コナンはある人物をしっかりと目の当たりにする。
今だけは、会いたくなかった人物。来てほしくなかった人物。"組織"の幹部、その一人。
(ウォッカ……!)
直後、彼の姿が階段に消えていく。思わずコナンは舌打ちをこぼす。
(あっちは非常階段、駐車場に直通だ!このままじゃ間に合わない!)
即座に部屋へと引き返す。自室の窓から直接駐車場に向かう為に。
窓を思い切り開き、敵の姿を探す。金髪の男が灰原を大型のジープに放り込んだのが目に入った。
(コーンロウ!あいつがピンガか!)
最早一刻の猶予もない。ベルトを伸ばして命綱代わりに降りようとした、その時。
コナンの横を風が切った。風が向かう先を視線で追いかけ、目を見開く。
(ら、蘭……!?)
欄干から飛び出し、空中で一回転してジープに強行着地した蘭は、そのままコーンロウの男と戦闘を始める。
追いかけるべく思わず身を乗り出すと、視界の端がキラリと光った。眼鏡のズームで確認すると、廃墟と思しき建物、その窓の一角から光がチカチカと反射していた。狙撃銃だ。
「マ、ジ、かよ……!!」
━━━
全くもって気乗りしない仕事。一応それなりにターゲットを警戒し、いくつか手段を用意しておいたものの、初手の睡眠薬であっさりと片がついた。
拍子抜けな感情を抱きつつ、帰還しようとした時だった。
ズガァァァァンッッ!!
「は?」
女が、立っていた。自分達が乗ってきたジープのボンネットを拳の一撃でひしゃげさせ、見事な
「えっ」
女は自分をキッと睨みつけると、車から飛び降りて猛烈なラッシュを仕掛けてきた。
理解不能な事態が立て続けに起こり、混乱の極地にいたが、辛うじて本能での迎撃が間に合った。
「何だお前は!?」
「哀ちゃんを返しなさぁーい!!」
(哀ちゃんって誰だよ!シェリーか!?)
最初こそ狼狽えていたが、ものの数合打ち合ったことでピンガの意識が切り替わる。
未だほとんど理解出来ない状況だが、2つ分かったことがある。1つ、この女がシェリーを取り返しにきたということ。
そして、もう1つ。
(こいつ、
眼前の女が、相当な手練れであるということ。決して、思考の片手間で倒せる相手ではないということ。
相手の正拳を弾きつつ、後方に跳び下がったピンガは即座に懐からナイフを取り出し逆手に握って構える。
ピンガの意識が切り替わったことを察したのだろう。女の目つきが一段階険しくなった。
今度はピンガから攻勢をかける。ナイフでの斬りかかりをブラフに足払いをかけ、転倒した隙に心臓への一突きを狙うも、咄嗟に回転されて躱され、そのままバク転で距離を取られる。
俊敏な身のこなし。ナイフを見ても一切の怯えを見せない胆力。どう考えても素人が持っていていい
(──あぁ、成る程)
インターポールに潜入して、5年。デスクワーク続きで体が鈍っているのは事実だろう。いくら日々のトレーニングを欠かしてはいないとはいえ、実戦の場を踏む回数が減るのは如何ともし難い。
だが、それでも女1人仕留められないほどにまで落ちぶれたつもりはない。
ピンガは結論を下す。自分が弱くなっただけではない、この女が強いのだと。
(こいつが、この女が、アルの用意していた
道理で拉致そのものは簡単だった筈だ。アルマニャックは、仮に組織が本気を出せば拉致そのものを防ぎ切るのは不可能だと判断したのだろう。
代わりに、たとえ攫われたとしても奪還出来る戦力を側におくことで組織対策とした、といったところか。
奴らしい判断だとピンガは内心苦笑いする。
(だが、対策にしちゃちと甘いんじゃねぇか?)
確かにこの女は強い。他の組織幹部とも互角にやりあえるだろう。
だが、その程度だ。現に自分1人仕留められていない。鉄火場に立つ機会を減らし、鈍った己1人さえ。
組織にさえ極秘裏に用意しなければならないというハンデを考えれば、むしろこれほどの人材をよく見つけてきたと言いたいが、備えとしては不足だ。
(それに何より──)
「
「ツッ!」
ラッシュの速度を引き上げる。フェイントを交えつつ高速で飛び交う拳撃と斬撃を、時に躱し時にいなし。女はよく捌いているが、先程よりその表情に余裕はない。
拳とナイフの応酬で、女の隙を強引に広げていく。こちらの狙いを察したのだろう、眉を思い切り顰めているものの、対処などさせない。ここで殺す。
打開を狙って放たれた右の正拳を渾身の力で弾く。遂に作った決定的な隙を逃さず、喉元を狙って刺突を繰り出す。
(獲った!)
「シィッ!」
「ッ!はァァァァァ!!」
「何ッ!?」
(はぁ!?てめぇ本当に堅気の人間か!?)
この女からは血の臭いも、裏社会に身を置く人間特有の仄暗い気配もしない。つまり堅気だ。堅気の筈なのだ。
そんな女が、筋力にものを言わせて強引に体幹を戻し、そのままこちらの攻撃をギリギリまで引き付け、躱すと同時に前傾姿勢で踏み込んできた。自分の急所へと突き出されるナイフに向かってだ。あまりの思い切りの良さに思わず瞠目する。
結果、喉笛を貫く筈だったナイフは女の右頬を切り裂くに留まり、極めに入ったピンガは大きな隙を晒していた。
当然、次の一撃を防ぐ余裕はなく。女の正拳がピンガの胸に、その勢いのまま繰り出された後ろ回し蹴りがピンガの首元へと吸い込まれた。
「ぐはっ……!!」
咄嗟に後方へ跳び、尚且つ蹴られた衝撃を利用して地面を転がりつつ受け身を取ったものの、腰の入った拳、そして遠心力の加わった踵による痛撃は確かにピンガへとダメージを与えていた。
敵の強さを、覚悟の程を、見誤った。己の不甲斐なさに反射で舌打ちをこぼしていると、駐車場にエンジン音が、次いでウォッカの怒号が響いた。
「構うな!行くぞ!」
「……チッ!」
「なっ、待ちなさぁーい!!」
女と戦うことが今回の目的などではない。拉致という目的は既に達成している以上、この場に留まって戦うメリットなど、こちら側には一切存在しない。
自分に二撃も食らわせたこの女と決着をつけずにこの場を去ることに勿論思うところはあるが、それでもピンガはジープに向かって走る。
追いかけてくる女の足元に、牽制の投げナイフを放つ。一瞬足を止めたその隙にジープに駆け込むと、すかさずウォッカがアクセルを踏む。
そのまま猛スピードでその場を後にした。
「とんだ邪魔が入ったな」
「……この任務が終わったら、体術の訓練を倍に増やすさ」
「ハッ、殊勝なこった」
ウォッカの茶化すような声色に一瞬苛立ちを抱くも、すぐに心を落ち着かせる。
肉を切らせて骨を断つ。口で言うのは簡単だが、まさか堅気の女が、ああまで躊躇なくその手を打つとは、ピンガをして想定外だった。
などと、そんな言い訳にもならない戯言を吐くつもりはない。
(クソッ…………まだ、まだ
ピンガの表情は、苦り切っていた。
━━━
時間を少し遡り。
ピンガと見知らぬ女が闘っている様子を、スコープ越しに見ていたキャンティは驚きに眉を上げていた。
(ピンガと互角に張り合うなんざ、何者だいあの女は)
(……まさか、アルが用意した護衛ってことかい?)
だとすれば得心が行く。彼が見出す程の人材なら、ピンガに並ぶ実力を持っていても驚きはない。
だが、それは即ち。
(あのちびっ子は本当にシェリー、ってことになるね)
ピンガと互角に張り合う程の手練れをわざわざ配置するということは、即ちあの子供にそれ程の価値があると言っているようなものだ。
出来れば別人でいてほしかったが、その願いは潰えた。
シェリーが組織に身を置いていた数年間、キャンティはちょくちょく顔を合わせていたし、アルマニャックを連れて共に出かけたこともある。
多少スカした所はあるものの、ベルモットと違って腹黒さを感じることはなかったのでそれなりに親しくしていたつもりだ。
この先、彼女に明るい未来は訪れないだろう。そこに喜怒哀楽を抱く程の熱量はないが、かつての友人の将来を思えばため息の一つ位は出てくる。
などと物思いにふけっていると、盤面に動きがあった。女の蹴りが決まり、ピンガとの距離が開いた。
つまり、キャンティがようやく手を出せるようになったということだ。
「誰だか知らないけど…………死にな」
気が乗らない仕事をさせられ、地味に鬱憤が溜まっていたキャンティはここぞとばかりに悪辣な笑みを浮かべ、ピンガに追いすがる女の脳天目がけて引き金を引いた。
弾丸は過たず正確に女へ向かって飛んでいき──
すんでのところで、避けられた。
「なに?」
背後から飛んできたライフル弾を避けるなど、アルマニャック位にしか出来ない芸当だ。
それに、今の動きは避けたというよりも──
(
それはそれで問題だ。キャンティが今いる廃墟から現場までは200メートルは離れている。それだけ離れたところから、狙いを定めているスナイパーを捕捉している奴がいるということになるのだ。
そこにまで思考が及んだ瞬間、キャンティの眼が極限まで凍りつく。吐息に濃密な殺気が混じる。
弾丸を避けられただけではない。自分の居場所だけが相手に知られている。狙撃手として、許し難い屈辱だった。
(どこだ?)
スコープ越しに駐車場をくまなく捜していると、再び先程の女が飛び出してきた。キャンティのいる方角に背を向けて一目散に走っている。
一瞬、迷った。女を仕留めるよりこちらの居所を把握している人間を捜し出す方が先ではないかと。
しかし女の方も生かしてはおけない。組織の犯行を目撃した人物を消すのは基本中の基本だ。
まず女を殺し、それから謎の人物を捜し出して消す。
そう判断したところで、キャンティのすぐ側で大きな破砕音がした。
「なっ!?……クソッ、誰だ……!!」
銃弾ではない。もっと大きな、それこそ
キャンティは思わず特大の舌打ちをこぼす。
これ以上は無理だ。敵はこちらの居所を一方的に把握しているばかりか、攻撃手段まで持っている。この場に留まり続ければ、先に被害を受けるのは自分だろう。
屈辱と不甲斐なさに歯ぎしりしつつ、その場を後にする。
撤退の道中、ラムに電話をかける。今回自分に出撃を指示したのは彼だ。せめて、正体不明の人物について少しでも報告をしておかねばならない。
「ラムさん、ちょっといいかい?」
『ちょうど此方から連絡をしようと思っていたところでした。状況は如何ですか?』
「ピンガは拉致に成功したよ。ただ、目撃者が出ちまってね。仕留めようとしたんだけど……逃げられちまったよ」
『……成る程。その目撃者について、詳細を』
「一人は女だ。そいつはシェリーらしきちびっ子が拉致されたことを察知して奪還にきたみたいだ。ピンガと互角に殴り合ってたよ」
『ピンガと?只者ではありませんね』
電話先の声にも、僅かな驚きが含まれていた。キャンティも思わず首肯する。
『……アルマニャックの仕込み、ですか』
「分からないけど……ピンガとやり合える程の人間が、たまたまシェリー疑惑のある子供の側にいるなんて、そんな偶然あるかい?」
『少なくとも偶然ではなく必然、そう捉えておくべきでしょうね……では続きを』
そこからはキャンティが先程見た通りだ。女を狙撃しようとしたこと、横合いからタックルで無理やり弾丸を避けさせた人物がいたこと、該当人物は200mは離れているだろうこちらの居場所を正確に把握しており、反撃された為に已む無く撤退をしたこと。その人物の、顔すら見れなかったこと。
報告が終わって数瞬、沈黙が流れる。此度の一件は明らかに自分の失態。多少の懲罰は覚悟していたが、緊張感に思わず唾を飲み込む。
ややあって、苦笑いと思しき声が聞こえてきた。
『私にさえ気取られることなくそれ程の人材を集めるとは……流石はアルマニャック、と言ったところですか』
「ラムさん?」
『あれほどシェリーに執心していた彼のことです。何かしらの仕込みはしてあると踏んでいました。が、少し引っかかりますね……彼にそんな伝手があったでしょうか?』
「確かに、それはアタイも疑問だね……」
『……まぁいいです。ここはアルマニャックの打った"保険"だと思って、その出来を称えておきましょう。拉致そのものは成功したのですよね?』
「あぁ、ピンガ達は無事にちびっ子連れて撤退したよ」
『ならば君を責めるつもりはありません。任務は終了、そのまま撤退しなさい』
「……了解」
通信が切られる。幸い罰を受ける事態にはならなかったが、始まりから終わりまで、何一つ良いことのない任務だった。
キャンティは消化不良な気持ちを無理やり濃いため息で吐き出す。
早く帰って酒を浴びて寝よう。そう考え、そそくさとその場を後にした。
指定されたポイントに撤退している最中、ピンガから通信が入った。
潜水艦に無事到着。シェリーと思しきガキを完全に手中に収めた、と。
ピンガ「流石、アルが仕込んだだけはあるぜ……!」
キャンティ「これがアルの切り札かい!」
ラム「アルマニャックの伏せ札、ですか……(ほんとぉ?)」
何も知らないけど侠客立ちしてる蘭姉ちゃん「まだやるかい」
何も知らないアルマニャック「知らん……誰それ……こわ……」
なんか全然お話書けなくて、ここだけで3ヵ月かかっちゃいました。スランプってやつだったんですかね……。
なんかギャグっぽくなっちまいましたが、今章は結構シリアス目で行くつもりですので、以降ギャグはありません。多分。
というか、プロット組んでたらシリアスになっちゃったというか……。
アンケートにご協力頂き、誠にありがとうございました。最終章は1話ごとに投稿していくことに致します。つってもまだ1話も書けていませんが……ちょっと黒鉄編の最終話を書き直していましてね……。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。よろしければ、感想・高評価・ここすき・お気に入り登録の程よろしくお願いいたします。