ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」   作:ていとくン

54 / 60

☆10:FANTA777様
☆9:まつまととかい様、アキト5001様、古狸様、螺たま様、神天宮様、來霖様、ふくよかな体型様、柿の種至上主義様、ザンギ@様、武蔵国の住人様

高評価、誠にありがとうございます!皆様のお陰でコナンssを平均評価(高い順)でサーチかけた際の1ページ目に載ることが出来ました。嬉しい!


8/19 22:00 日間ランキング31位
      二次日間20位
8/20 11:30 日間ランキング17位
      二次日間11位

更新の度にランキング載れているの、これも凄く嬉しいですね。私も普段ss探す時にまずランキングを確認するので、拙作に触れてくれる人が増えるのはとても嬉しい。


さて。今回の話の途中に過去話の一部と酷似した部分がありますが、演出並びに話の展開上の都合による仕様です。ご理解お願い致します。

ここら辺から多分折り返しです。ではでは。



爾に出ずるものは爾に反る

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ようやっと一息つけるぜ」

「羨ましいなぁオイ。俺はこの後すぐパシフィック・ブイに逆戻りだってのに」

「そう噛みつくなよ。……にしても、()()から出入りはもう御免だ、肝が冷えるぜ」

 

 

潜水艦、艦首。魚雷発射管から無事に潜水艦内部に降り立ったウォッカとピンガは、びしょ濡れのスーツを絞りつつ愚痴をこぼしていた。

そこに、下っ端を2名連れたキールがやってくる。下っ端達はウォッカとピンガにタオルを差し出すと、キールが手を振るのにしたがい一礼してその場を去った。

 

 

「おかえりなさい。……その子が、例の?」

「あぁ、シェリー疑惑のガキだ。着替えさせたら例の女と同じ部屋にぶち込んどけ。俺はシャワーを浴びてくる」

「分かったわ。……ピンガ、貴方はどうするの?」

 

 

シェリーと思しき、気絶した子供。それをキールに放り投げたウォッカはそのままその場を後にした。

残ったピンガに話しかけると、ピンガはさっと周囲を見回し、キールに耳打ちをする。

 

 

「アルは?」

「自室に籠もっているわ。……会っていくの?」

 

 

しばし黙考したのち、ピンガは首を横に振った。

 

 

「いや、今はいい。だが伝言を頼む」

「内容は?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、とな」

 

 

ウォッカにも、これから来るジンの野郎にも伝えといてくれ。そう言ったピンガの顔は、発言の内容に反してどこか覚悟を秘めたもので。

裏の意図まで察知したキールは僅かに息を呑むものの、首肯で返した。

返答を受け取ったピンガはそのまま踵を返す。夜明けまでにパシフィック・ブイに戻らねばならない以上、ここで時間を潰している余裕はない。

着替え用のダイバースーツを片手に魚雷発射管の方へと向かったピンガは、ふと振り返ってキールに質問を投げた。

 

 

「そう言えば、残りの2人はどうした?」

「バーボンとベルモットのこと?2人なら直美・アルジェントを拉致してすぐ帰還したわよ」

「……そうか」

 

 

ベルモットはともかく、バーボンはアルマニャックとの間に色々と因縁を抱えている人間だ。一目様子を伺っておきたかったが、いないのであれば仕方ない。

 

 

「俺は戻る。後は任せたぞ」

「分かったわ」

 

 

そう言って着替え始めたピンガを見て、キールもその場を後にした。

 

 

 

 

━━━

 

 

 

 

ガシャン、ガシャン

 

ガシャン、ガシャン

 

ガシャン、ガシャン

 

 

 

長らく使われておらず、埃がうっすらと積もっているガス室。

中では、片手を手錠でパイプと繋がれた一人の女性。

彼女の名前は、宮野志保。"シェリー"のコードネームを与えられた彼女の胸中を占めるのは、罪悪感と絶望。

 

研究に進展が見られない自分への見せしめとして、姉が。

研究を止めた自分を守る為に、アルマニャックが。

自分にとって、最も近しかった人が、大切だった人が、血の海へと沈んだ。

尤も、後者に関しては生存の道がある。戦力として優秀な彼は、今後死ぬまで奴隷のように酷使されるのだろう。「シェリーを死なせたくなければ言うことを聞け」と脅されて。

自分などの為に全てを敵に回した彼に、これほど有効な脅しもあるまい。

 

 

全て、自分がいるせいだ。

 

 

唯一血を分けた家族の死も。

大切な人が死に瀕していることも。

生き残るであろう彼に、これから暗黒の未来が待ち受けていることも。

全て自分が存在しているせいだと。自分の存在こそが、自分を慈しんでくれた人々に悉く破滅を齎すのだと、絶望と諦観の中で志保は悟った。

それを否定してくれるだろう人物の姿は、ここにはなく。

ガス室内部には、彼女が手錠を引っ張る金属音と、啜り泣く声が響いていた。

 

 

「うぐぅ、ひぐっ、うぅぅぅぅ………!ごめんなさい、ごめんなさい……!!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………!!」

 

 

姉が、宮野明美が殺された。それが不幸の底なのだと、勝手に思い込んでいた己の、認識の甘さに目眩を覚える。

 

()()()()()()()()()()

 

少しでも頭が回れば分かる筈だった。自分達姉妹を守るべく尽力してくれた人間が、自分が殺される段になればどのように行動するかなど。

そんなことも分からずにサボタージュなどをしていたかつての自分自身を、今の彼女は殺したい程に憎んでいた。

ここまで愚かな自分を、それでも守ってくれた彼に対して湧き出るのは、感謝の気持ちと、それを遥かに上回る罪悪感。

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……!!私が、貴方を巻き込んでしまった……私のせいで、私なんかの為に……!!」

 

 

己こそが一番罪深い。

自らを護ってくれた人を次々と死地に追い込んでおきながら、のうのうと生き延びている己が罪人でなくて何なのか。

 

そう考えた彼女は、白衣の懐から一粒のカプセルを取り出す。

赤と白のカプセルに入った薬品、APTX4869。……シェリーが開発していた、証拠が残らない毒薬。

 

思えば、これを開発した時点で自分は罪人だったのだ。

自分が作りたかったのは毒薬ではなく、使用も"組織"が勝手に行っていたこと、などと、そんな言い訳をする気力もない。

自分が作った薬で多くの人間が殺された、その事実は変わらない。

"組織"に属する人間の血腥さを疎んじていた己の、なんと滑稽なことか。

 

自分も、同じ穴の狢(血腥い悪党)だった。

 

 

「最期まで、貴方には迷惑をかけっぱなしだったわね。……今更だけど、巻き込んでしまってごめんなさい」

 

 

自分の死を以て、全てを終わらせる。

 

彼女は意を決して、薬を飲み、目を閉じた。

 

 

 

 

結論から言えば、シェリーは死ねなかった。

 

彼女が薬を飲むや否や、飲んだ彼女の体が幼子の時に巻き戻ったのだ。

自分は死ぬことすら出来ないのかと自嘲しつつ、囚われていた施設から這々の体で逃げ出した。

生に執着していた訳では無い。今の姿を見られれば、薬の完成を悟られる。即ち"組織"の利益になる、それを疎んじたに過ぎない。

 

(私と同じ薬を飲んだ、工藤新一。私と同じく幼児化した可能性が高い彼の元なら、或いは)

 

とりあえずの隠れ蓑として、志保が選んだのは工藤新一。APTX4869被検体のうち、推定しうる限り唯一の生存例だ。

今の自分と同じ境遇にある可能性が高い彼の元なら、こちらを保護してくれる可能性がある。

工藤邸の前に到着し、息を整える。インターホンを鳴らそうとしたところで、横合いから足音が聞こえてきた。見ると、白衣を着た初老の男性がこちらに近づいてきていた。工藤新一の関係者だろうか。

 

 

「あ、あの………………ひっ!?」

 

 

声をかけたが、しかし、その男性は突如崩れ落ちた。まるで、たった今死んだかのように。

突然の事態に悲鳴を上げ、数歩後ずさる。直後、後頭部にゴリッと何かが当たった。

 

 

 

 

 

 

ふわりと漂う紫煙。ツンと鼻につく、ゴロワーズの臭い。

 

あまりにも濃密な、死の臭い。

 

 

 

 

 

 

「会いたかったぜ、シェリー」

 

 

一番、聞きたくなかった声。反射で振り返ると同時に、突きつけられていた銃が火を噴き──

 

 

 

━━━

 

 

 

「──はっ!?」

 

 

目が覚める。最後にとんだノイズが入ったが、過去の夢を見た。今となっては随分と昔に感じる、"組織"から抜け出したあの日のことを。随分嫌な夢だった。

数度瞬きしたところで、灰原の視界に知らない天井が目に入った。ぼんやりしていた記憶が、ようやく鮮明になる。

 

(そうだ、私はピンガに拉致された)

 

とすると、ここは恐らく"組織"の施設か。状況を把握するべく起き上がろうとしたところで、見知らぬ女性が自分の顔を覗いてきた。

 

 

「よかった、目が覚めたのね」

「ひっ!?…………だ、誰!?」

「あっ……ごめんなさい、驚かせちゃって。怖かったよね」

 

 

思わず壁際まで後ずさり、女性を観察してすぐ、灰原はその顔に見覚えがあることに気づいた。

 

 

「貴女、確か、ニュースで……」

「えっ?なんて?」

「いえ……ここは、どこ?」

「多分、潜水艦だと思うんだけど……」

 

 

内心思わず舌打ちをする。地上の拠点と違い、潜水艦であればどこにでも移動は可能だ。

つまり、自分が元の居場所に戻れる確率は非常に低くなったと言ってもいい。

ふと、足元に違和感を覚える。見ると、探偵バッジが足元に置いてあった。

 

(誰が……?)

 

普通なら没収されて然るべきモノ。それがわざわざ自分の足元に、気づきやすい場所に置かれていた。

意図を計りかねつつ回収し、この場から逃げ出す方法を考えていると、此方を凝視する女の顔が視界に映る。

 

 

「…………何?」

「あなた、本当によく似てる。子供の頃の志保に」

 

 

一瞬、呼吸が止まった。()()()()()()()()()()()()()()()()

加えて、彼女は"子供の頃"と言った。幼少期の自分を知る人間など、早々いない筈だ。

そこまで考えて、一旦心を落ち着かせる。たまたま名前が同じだけの別人かもしれない。何より、今はそんなことよりも遥かに意識を割かねばならない事がある。

おざなりな相槌を打ってベッドから降り、そのまま周囲を見回していると、ガラリと扉が開いて三人の人間が入ってきた。

先頭で入ってきた女性はキールだった。懐かしい顔だったがそっちはいい。だが、そのすぐ後から入ってきた二人の男性を見て灰原の顔色が変わる。

 

黒い帽子を被った、がっしりした体格の男は。

 

黒いパーカーを着た、茶色の髪の男は。

 

 

「おいなんだ、縛ってねぇじゃねぇか!」

「こんな子供に必要ないでしょ」

「念には念を、だ。なんせこの場にはこいつもいるんだからな」

「俺がいると、何か困るのか?」

「分かり切ったことを聞くんじゃねぇ。てめぇの前科を考えやがれ」

「この子供がシェリーだと決まった訳じゃないだろう」

「システムの結果は出てんだよ。てめぇも見てただろうが」

「さて、俺は機械に疎くてな。知らんものを盲信は出来ないんだよ」

 

 

ウォッカ。そして、アルマニャック。

 

あの日、東都水族館にて永遠の別れをした筈の彼。

再び会えたことに僅かながらの喜びと。彼が危ない橋を渡って逃がしてくれたというのに、再び"組織"の魔の手にかかってしまったことへの罪悪感。

アルマニャックは完全な無表情だった。一切の色が乗っていないその顔で灰原をちらと見ると、すぐに視線を外す。そのまま彼は()()()()()()()()()

一方のウォッカは紐を片手に灰原へと近づこうとしていたが、キールに止められる。

 

 

「貸して、私がやるわ。あなたはこっちを確認したいでしょ?」

「まァ、な。コイツも見張ってなきゃならねぇしな」

 

 

彼女からタブレットを受け取ったウォッカは、隣のアルマニャックをちらちら見ながら画面を操作していた。監視されている当の本人は目を瞑って腕を組み、壁に寄りかかっている。

そんな彼を下から見上げていた灰原だけが気づいた。……その手の小指だけが、掌から血が滲む程に握り締められていることに。

不器用で直情的な彼らしからぬ、必死の抵抗。それを目の当たりにして思わず顔を歪めていると、紐を持った女性が近づいてきた。

足を縛られる直前、キールが着ているパーカーのフードに小型の盗聴器を滑り込ませる。そのまま腕を後ろ手に交差させ、解きやすい形で縛られていると、ウォッカがタブレットを突きつけてきた。

 

 

「しっかし、信じられねぇな……お前、シェリーなんだろ?」

 

 

見せられた画面には、老若認証システムの結果画面が表示されていた。"灰原哀"と、"シェリー"の写真が、並び立つ形で。

それが意味する事を、灰原は正確に理解していた。理解した上で、全神経を注いで感情を内側に封殺した。

アルが、耐えてくれているのだ。決して、自分から尻尾を出す訳にはいかない。その一念で辛うじて驚愕を抑え込んでいると、ウォッカは鼻を鳴らしてその画面を直美に見せた。

 

 

「おい、これってこのガキがこの女ってことだよな?」

「これって……!」

 

 

喋ってはいけない。事態は分からずとも直感でそれを察したのか、直美はふいと顔を逸らした。

大きな舌打ちをこぼしたウォッカは、しかしすぐに口角を上げて鼻で笑う。

 

 

「まぁいい、黙っていられるのも今のうちだ」

「生かしたまま、ラムに会わせるしかないわね」

「ジンの兄貴に会わせるのが先だ」

「駄目よ、ジンはすぐ殺そうとするじゃない。直美はともかく、あの子を拐ったのはピンガの手柄。貴方じゃないわ」

「あんだと?」

「それとも、また地雷を踏み抜くつもり?」

 

 

ジンを軽んじられたと思い声を荒げたウォッカだったが、キールの反撃に思わず声を詰まらせる。

視線を向けると、既にその()()はその場を後にしようとしていた。

 

 

「俺は部屋に戻る。用があれば呼びに来い」

「分かったわ」

「…………チッ!」

 

 

どこまでも淡白な、それでいて反駁を許さない圧。

立ち去る背中を見送るキールとウォッカの表情は対照的だ。

その背中が曲り角に消えた後、ウォッカは苛立ち混じりに乱暴な足音を立ててその場を後にした。キールも扉を閉めて彼の後についていき、部屋には静寂が訪れる。

足音が遠ざかり、完全に消えたことを確認した灰原は思わずベッドに倒れ込む。

 

(気づかれてしまった……!私が、シェリーだということに……!!)

 

詰み(チェックメイト)だ。無事に逃げることはおろか、逃げた先の未来すら消え失せた。

自分の存在に、"組織"がどれほどの価値を見ているかは認識しているつもりだ。例の"秘薬"の開発者にして、アルマニャックに対するカード(抑止力)。"組織"は今度こそ、あらゆる手段を以て自分を捕らえ、逃さないだろう。

 

 

 

足元が、音を立てて崩れ落ちていく気がした。

 

 

 

 

━━━

 

 

 

 

翌日、ホテルのロビーにて。

灰原が"風邪を引いた"ことを明かされた少年探偵団の3人は見舞いに行こうと言い出すも、事情を知る園子に止められ、そのまま緊急手配されたフェリーに乗って八丈島を後にした。

島に残った者のうち、コナンと小五郎は目暮警部に呼ばれ、共にパシフィック・ブイに向かおうとしたが、そこでコナンの携帯が振動する。

画面を確認して、思わず眉を上げる。映っていた名前は"安室透"。ちょうどコナンが博士と密談をしていた時に、彼からの着信が入っていた。

十中八九、話の内容は昨夜の拉致事件絡みだ。急いで小五郎達から少し距離をおき、通話ボタンを押す。

 

 

「もしもし、安室さん?」

『ホテルで拐われた少女は、君の知り合いだよね』

「やっぱり、昨日の電話って──」

『夕方にはジンが合流する』

 

 

話を遮って伝えられた凶報に、思わずコナンの顔が険しくなる。

ただでさえ厄介な戦力が敵側にいるというのに、自身にとって宿敵と言える存在まで入ってくるとは。

しかし、安室から齎されたのは悪い話ばかりではなかった。

 

 

「潜水艦に乗り込むってこと?」

『知ってたのかい?流石だね……()()()()()()()()()。つまりその時──』

()()()()()()()()()()()()()

 

 

僅かだが、光明が見えた。浮上している最中を狙えば、探偵バッジによる通信も出来るだろう。そこで灰原に脱出のタイミングを伝え、こちらも救助に向かえば。

礼を言って電話を切ろうとしたが、しかし安室の話にはまだ続きがあった。

 

 

『彼女を助けるならそこしかない。──あぁそれと』

「?まだ何かあるの?」

『あぁ、潜水艦にはアルマニャックが乗っているが、彼には関わらないように。正確に言えば、関わる必要がない、彼の存在は考慮しなくていいと言ったところかな』

「……どういうこと?」

 

 

アルマニャックは、コナンにとって最大の不確定要素だ。それを勘定に入れずに済むのは正直ありがたいが、その背景が分からなければむしろ警戒材料にしかならない。

 

 

『詳しくは言えないけど、この世界でシェリーの幸せを最も強く願っているのはアルマニャックなんだ。だから、あの少女が本当にシェリーなら、彼女の救出を邪魔するようなことはしない筈だ』

「"組織"の人間なのに、そんなことが許されるの?」

『彼はラムのお気に入りだからね。ある程度の我が儘は許されるのさ。尤も、彼もラムを慕っているから、シェリーの救助を支援することまでは出来ない。だから黙って見過ごす、落とし所としてはそんなところだろう』

「……じゃあ、仮にその子がシェリーじゃなかったとしたら?」

 

 

シェリー=灰原という構図は極秘事項だ。たとえ安室といえど、否、公安刑事として時には冷酷な判断を下すこともある安室が相手だからこそ、コナンの口から確定的なことを言う訳にはいかない。

コナンとしては慎重を期しての発言だったが、電話口からの返答はいっそ気楽なものだった。

 

 

『それこそ無用な心配だ。彼は子供には決して手を出さない。無関係な子供が人違いで組織に拐われたとあれば、むしろ逃がすことに協力してくれるだろう。まぁ、君が仮に潜水艦に乗り込んだとしたら、危ないことはするなとお説教してくるかもしれないけどね』

 

 

苦笑混じりに語られた話は、コナンにとって斜め下の内容ではあったが、納得のいくものだった。

 

(灰原は、アルマニャックのことを"足を向けて寝られない恩人"と言っていた。子供には手を出さないという内容も、灰原からの話と一致する)

 

厄介極まりない敵ではあるが、裏社会の人間らしからぬ性質も相まって、今回に限っては無視しても良さそうだ。思わぬ朗報に胸を撫で下ろす。改めて礼を言い、電話を切る。

 

(チャンスは一度きり。そこで必ず、灰原を助け出す)

 

小五郎達のもとへ向かうコナンの目には、決意の光が強く煌めいていた。

 

 

 

 

━━━

 

 

 

 

潜水艦内部、船室にて。囚われの身である灰原はやや辟易とした表情を隠さずにいた。

 

 

「……あなた、もしかして志保の娘?」

「だから、宮野志保なんて知らないって言ってるでしょ」

「そ、そうよね……志保に、こんな大きな子供がいるわけないし……」

 

 

共に捕らえられていた女性、つまり直美が、先程から自分に話しかけてくるのだ。"志保"という名前と共に。

最早知る者も少ないその名前を、彼女が知っている理由が分からず、とはいえ自分から聞き出すことも出来ない。そんなことをすれば、自分が"宮野志保"であると認めたも同然だ。

 

これ以上、自分が囚われている螺旋に巻き込まれる人間を作りたくなかった。

 

だが、そんな感情を知る由もない彼女は、灰原のつっけんどんな応対に怯むこともなく話しかけ続けている。

答えられない質問を投げかけ続けるのはいい加減やめてくれないだろうかと、そんな希望が届いたのかどうか、話が思わぬ方向に転がっていく。

 

 

「……でも、あなた本当にそっくり。私が出会った頃の志保に」

「……出会った?……どこで?」

 

 

話の流れから、自分の幼少期に出会っていたらしいことは分かった。

確かに、あの頃は"組織"の意向で色々な環境を転々としていた為、そのうちのどこかで接触していてもおかしくはない。

だが、もう十年以上も前の話だ。加えて自分はそう目立つ行いもしていなかった為、誰かの印象に残っているというのは意外だったが。

その理由も、直美が語ってくれた。

 

曰く、幼い頃はアメリカに住んでいたこと。東洋系が珍しいからか、いじめにあっていたこと。

志保と出会ったその日も、スクールバスで通路を塞がれるいじめにあい、困り果てていたところを、志保に助けてもらったこと。

そこから、いじめの標的が、志保に移ってしまったこと。

 

話を聞いているうちに、灰原はアメリカで暮らしていた時の事を徐々に思い出していた。そういえばそんなこともあったな、と。

今の今まで本当に忘れていたのだ。いくら幼いとはいえ、幼稚な子供達に囲まれ、やることなすこと全てが稚拙で愚昧。いっそ苦痛な程だった。

 

(いえ、年齢なんて理由にはならないわ。吉田さんはあの年ですごくしっかりしているし、純粋にあの時の子供達のレベルが低かっただけね)

 

とにかく、あの時期は目に映るもの全てがあまりに退屈だった。

それに加え、そこから数年後に出会ったアルマニャックとかいう男の存在が大きい。あまりに破天荒で常識外れな彼に振り回されていた、騒がしくも楽しかった日常によって、幼い頃の記憶は完全に忘却の彼方へと流されてしまっていたのだ。

だが、助けられた直美の側は、それからずっと覚えていたらしい。律儀なことね、と志保は僅かに感心した。

 

 

「私、助けられなかった。また、いじめられるのが怖くて……だから、人種によって憎しみ合わない世の中にしたいって……あっ、分からないよね?」

「だから、『老若認証』を作ったの?」

 

 

幼い灰原の見た目から『老若認証』という言葉が出てきたことに驚いたのだろう。直美は目を見開いたが、すぐに頷き答えてくれた。

 

 

「えぇ。アメリカの大学で人類学とAIを学んでいるうちに、人種や年齢を問わずに認証出来るプログラムを思いついたの。そしたらインターポールから声がかかって、『老若認証』をテストする為に日本の防犯カメラにアクセスする許可をもらってね」

 

 

その時に、最初に脳裏をよぎったのが志保だったという。幼い頃の過ちを、謝りたかったと。ずっと、ずっと会いたかった、会ってあの時のお礼を言いたかったと。

そして直美はアメリカの小学校にいた頃の志保の写真をパソコンに取り込み、『老若認証』にかけたという。

すると、日本の街中を歩く成長した志保の姿が『老若認証・一致』という表示と共に出てきた。直美は思わず飛び跳ねて喜んだが、話はそこで終わらなかった。

 

 

「何故かあなたの画像も出てきて、『老若認証・一致』って表示されたの。それがどういうことか、今でもよく分からないんだけど……でもきっと、私のせいで巻き込まれたんだと思う」

 

 

申し訳無さそうに眉を下げ、直美は話を締めくくった。

対する灰原の心境は真逆だ。自分という存在を嗅ぎつけたが故に、彼女は"組織"に目をつけられたのだろうと灰原は考えている。まるで釣り針のようだ。

 

(巻き込んだのは、私の方……)

 

直美に見えないように、灰原はきゅっと拳を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、やっぱりお前のせいなのか」

 

 

唐突に聞こえた第三者の声。思わず灰原が振り向いたその先には。

いつからその場にいたのだろうか。僅かに開いた扉の隙間から、こちらを見ている一人の男。

黒のカーゴパンツにパーカーを着てフードを被った、全身黒ずくめの優男。

特筆すべきは、その眼。さしずめ宇宙に空いた孔。全てを吸い込み押し潰す暗星の如き黒は、見た者に底無しの怖気と絶望を齎す。

 

(アル……!)

 

アルマニャックが立っていた。

 

志保達が気づいたことを確認したアルマニャックは、扉の隙間からするりと身を滑り込ませ、船室に足を踏み入れた。

部屋へ入る際、彼は後ろ手で扉を閉めた。適当に扱われたように見えた扉は、しかし軋みはおろか閉まった音すら立てず。それどころか軍用ブーツを履いているにも関わらず、金属の床を歩いていて足音の一つも立てない。

切った張ったの世界を知らない直美をして、目の前の彼が只者ではないことが伺えた。

そして、志保は彼が音を立てないよう意識していることに驚いていた。志保の記憶にある限り、いつも騒がしいことこの上なかった、あのアルマニャックがだ。

普段あれだけ騒がしい男の立ち振舞とは思えない様子に、思考を巡らせる。

 

(これがアルの"仕事モード"ってこと?まるで暗殺者じゃ…………って、まさか、彼の狙いは!?)

 

アルマニャックは志保をちらとさえ見ることなく直美の前に立つ。彼の視線を一身に受けた彼女が、ひっと悲鳴を上げた。

それを合図にしたのか、次の瞬間にはアルマニャックの右手が直美の首を鷲掴みにしていた。

 

 

「あ、ぐっ……!!」

「…………ば……」

「な、な"に……?」

「お前さえ、お前さえいなければ……!シェリーは無事に逃げ切れていたのに……!!お前が!お前のせいで!!」

 

 

思わず反射でアルマニャックを制止しようとした志保の手が、止まる。

アルマニャックの目は限界まで血ばしり、ギチギチと歯軋りする音がはっきりと耳に届く。額と蟀谷に何本も走る青筋が、彼の怒りを克明に表していた。

 

(──嗚呼)

 

あの時と、同じだ。自分を庇い、ジンやウォッカ達と対峙していた、あの戦いの時と同じ目だ。

シェリーの名を口にしているのは、志保と呼ばないのは、彼に残ったなけなしの理性なのだろう。それが奇跡と思える程に、彼は怒り狂っていた。

直美は何も悪くない。彼女に一切の罪はなく、アルマニャックの怒りが向けられるべき相手ではないのだと。そう言わなければならないと、彼を相手にそれを言えるのは自分しかいないのだと、理性では分かっていた。

分かっていて、志保は動くことが出来なかった。自分の為に猛るあの目を前に、宮野志保は、余りにも無力だった。

そうして立ち竦んでいるうちに、志保は、決して言わせてはならない言葉を、アルマニャックに言わせてしまった。

 

 

「俺は、お前を必ず殺すよ」

「ひっ…………!!」

 

 

阿修羅を彷彿とさせる険しい顔を限界まで直美に近づけたアルマニャックは、彼女の眼前で囁く。

 

 

「シェリーをこの地に呼び戻したお前を、俺は絶対に赦さない。故に、今ここでアルマニャックの名に誓おう。俺はお前を、必ず殺すよ。約束する」

 

 

この艦から、生きて出られると思うな。

 

直美を放り捨てた後にそう言い残して、彼はその場を後にした。

呆然としていた直美は、ややあって嗚咽を漏らす。

 

船室には、彼女の啜り泣く声が響いていた。

 

 

 

 

 

 





またなんか書くのに時間かかってしまった……すみません。


ちょっと次から原作より雰囲気が重くなっていくと思います。今まではモブしか死人が出ていなかったけれども、今後はどうだろう……。
そんな感じなので、そういう展開が苦手な方はもしかしたら合わないかもしれないです。ご了承ください。


最後までお読み頂き、ありがとうございました。よろしければ、感想・高評価・ここすき・お気に入り登録の程よろしくお願いいたします。
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