ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」 作:ていとくン
☆10:PG66AMN様、アドバン様
☆9:ねこnekoすき様、東雲様、神天宮様、猫くろ様、ごま0325様、星猫53様、カブラナ様
高評価、誠にありがとうございます!遂に評価数が300を突破致しました!皆様本当にありがとうございます!
8/30 23:00 日間ランキング44位
二次日間22位
8/31 8:30 日間ランキング31位
二次日間18位
ひさびさの高順位、こちらも嬉しい。より多くの方に拙作を読んで頂けるのは喜ばしい限りです。
さて、最終章の始まりです。3週間近くお待たせしてしまいましたね……出来上がり次第投稿しますので不定期更新になりますが、どうか最後までお付き合い頂ければ幸いでございます。完結まで頑張ります。
それでもって、最初だからやっぱり話はそこまで動きません。
俎の上の鯉
「そうだよ!思い出した!知ってるぞ!
(ん……?あっ、やっべ)
直後、アルマニャックは後悔した。
(そりゃ知ってるだろうよさっき会ったんだからな!志保と一緒に!!やっばいどうしようどうしよう……このガキの巻き添え食って志保まで捕まっちまう!せっかく逃げられたのに!俺のせいで!!)
後の祭りとはこのことである。既にその場にいた幹部全員の注目がアルマニャックに向かっている以上、"やっぱナシ"などと言える訳もなく。
思わず頭を抱えてぐるぐる歩きながら、普段の様子からは想像も出来ない程の速さで思考を回した末、意外と問題ないのでは?ということに気付く。
(どこにいようと探し出せる何ちゃらシステムだのパシフィック・ブイだのは、もう影も形もねェ。なら、志保があのガキの周りからトンズラこいてくれてりゃひとまず問題はなかろうよ。ほいで、俺がアレだけ念押ししたんだから志保はもう動いてくれている筈!)
海上での別れから、既に一晩経っているというのも大きい。高跳びに際して多少の準備を要したとしても十分釣りが来る。
とはいえかなりの綱渡りでもあった。内心大きなため息をこぼす。
(あっぶな……!反射で喋っちゃいけねェな。俺のミスで志保に危害が及ぶとか、死んでも死にきれんわ。マジで気をつけないと……)
「おい、今の発言を説明しろ。日課の奇行は後でやれ」
「…………別に、日課じゃねェ。コイツを知っていることを今まですっかり忘れてたのが恥ずかしかっただけだ」
(ジン、お前今のは流石にファインプレー過ぎるぜ)
彼の罵声によって、アルマニャックを見る周囲の目が訝しげなものから呆れを含んだものに変わった。
(お陰で誤魔化しが効く。唯一それが効かなさそうなラムの旦那は電話越し。……峠は越えたな)
内心密かに胸を撫で下ろしつつ、ジンに応える。彼の皮肉も止まることはなく、それが先の醜態を"いつも通りの風景"に落とし込んでいく。
「驚いたぜ。お前に羞恥の概念があったとはな。少しは人間の真似が上手くなってきたじゃねぇか。褒めてやるよ」
「……うるせェ」
「それで?このガキを知っていると?何だ、クソガキ同士知り合いか。友達が見つかってよかったな」
「あっちがどうかは知らないが、俺はコイツを知っている。何度も会ったからな」
(思い出したらムカついてきたな。赤井秀一の関係者が志保の側にいるだと?舐めやがって……っと、いけないいけない。抑えろ抑えろ)
突沸のように沸き上がった内心の苛立ちを、どうにか抑える。話の流れ的に誤魔化せそうではあるが、今さっきそれで失態を犯したばかりだ。要らぬリスクを負う必要はない。
これだけ幾度も赤井秀一の側にいるということは、彼の関係者であることは疑いようもない。──宮野明美を利用するだけして放逐した、あの赤井秀一と。
(……ふざけやがって。明美さんを死なせかけただけじゃ、まだ足りねェかよ)
尚も怒りが沸き上がろうとしたところで、そこにラムの声が挟まる。
変声機越しでも分かるほどに、その声色は呆れを多分に含んでいた。
『……どういう意味ですか?アルマニャック、詳細を教えて下さい』
「あァ、勿論だ。キールが入院していた病院、デカい観覧車の遊園地、そんであの無人島。コイツ、その全てで赤井秀一の側にべったりくっついていたガキだ!」
『……杯戸中央病院、東都水族館、海猿島のことですか?』
「あ~それ、多分それ」
『…………いい加減貴方は名前を覚える努力をしなさい。いずれも貴方が大立ち回りを演じた場所でしょうに』
「伝わったからいいじゃないか。それに、そういうのは旦那とピンガに任せてる」
『それを開き直りというのです。全く……』
大きなため息を一つ。そこから声の調子が一変する。ラムとアルマニャックの間では滅多に聞かれることのない、どこか詰問するような口調に。
瞬間、一気に室温が消える。申し訳なさそうに頭をかくアルマニャックとは対照的に、その場にいた幹部のほとんどがその額に冷や汗を流していた。
『それで?その3つはいずれも貴方を含め組織が大きく動いた一件です。
「忘れていたってのはある。その点についちゃ申し訳ない。……でもガキだぜ?それもこんなに小さな。たまたま鉢合わせた不幸なガキをやむなく保護、そんなもんだと思ってたんだ。だから覚えていても報告はしていなかったんじゃないかな」
『何を愚かな。他ならぬ
「ここは日本だろ?俺がいた場所とは違う、銃の所持そのものが違法になるような国だ。この国を知れば知るほど、こんな平和な国で、好き好んで戦地に赴くガキがいるなんて思わなかったんだ」
『……理解はしました。ですが、思い込みによる盲信がどれほど危険か、貴方もよく知っている筈です。これは明確な失態ですよ』
「返す言葉もねェ……」
『強く戒めなさい。今後は不審人物を見かけた時点で必ず報告すること。いいですね?』
「……分かった。重ね重ねすまない」
普段からは想像もつかない程に萎れたアルマニャックの姿に、周りが密かに瞠目していると、再度ラムの大きなため息が一つ響く。
それで室内に温度が戻る。ウォッカは露骨に胸を撫で下ろし、キールも額の汗を静かに拭っていた。
『では改めて。貴方がその子供と出会った時の状況を報告してください』
「分かった。えぇと、まずは病院か。あの時は──」
そこからアルマニャックは順に状況を報告していく。
杯戸中央病院では、キールの病室に忍び込んだ際、側にいたこと。直後、赤井秀一がFBIを引き連れて部屋に踏み込んできたこと。
東都水族館では、巨大観覧車から組織の軍用ヘリが狙撃された際、赤井秀一のすぐ側にいたこと。
そして海猿島では、恐らく赤井秀一が扮していたであろう狙撃手の側で、
「てめぇ……それだけ証拠が揃っていながら何で報告しなかった!」
「だからすまんて。マジで考慮外だったんだ。島の件じゃ角刈りのことで頭一杯だったし……あ、もう一つ思い出した」
「今度は何だ!?」
「このガキと最初に会った場所だよ。──毛利探偵事務所だ。ほら、キールが病院送りになるちょい前の。赤井秀一と、コルンキャンティがぶつかったやつ。お前もいたろ?」
言われたジンは眉を上げると思考を巡らせる。程なくして思い出したようで、今の今まで忘れていたこともあってか若干苦々しげな顔をしている。
「……サッカーボールを撃ち込んだガキか」
「そう、そのガキだ」
『君も見覚えがありましたか、ジン』
「……あぁ。俺が毛利小五郎を殺そうとした時、サッカーボールを窓ガラスに撃ち込んだガキがいた。それがそいつだ」
『ふむ……』
ラムが思索にふけっている横で、何か思いついたらしいアルマニャックがポンと手を打った。
「そう言えばよウォッカ、観覧車の時は空がえらく綺麗な色してたよな」
「何で俺に振るんだよ……あぁ、確かに花火が上がったみてぇだった。ヘリが狙撃されたのはその直後だったな」
「それでよ、
「……確かに、水中カメラは虹色になってたな。
「これ、偶然かな?」
「あり得ねぇ!潜水艦は深度50m地点にいたんだぞ!?おめぇならともかく、ただのガキがそんなところに潜んでいられる筈がねぇ!!」
ウォッカの絶叫を聞き流し、今度はジンに話を振る。
既に可能性を考慮していたのか、思考を巡らせているその目は険しい。
「ジン、お前はどう思う?」
「……質問を返すようだが、てめぇはどう考えてるんだ?」
「ボンベがありゃどうとでもなるだろ。波が気になるなら、岩に体くくりつけときゃいい。問題なのは──」
「我々の潜んでいた場所をピンポイントで当てることが可能なのか、だ」
「どう思うよ、旦那」
この場にいる全員の注目が、ハンズフリーにされた固定電話に移る。
ジンの表情は険しく、他の幹部達もほとんどが驚愕を隠せずにいる中、ラムが張り詰めた沈黙を破る。
『直美・アルジェントのUSB、老若認証システムに関する情報が詰め込まれた例の代物がGPS代わりになっていたのであれば、可能でしょう。彼女はICPO秘蔵の技術者です。万一の事態に対する備えが、ないとは言い切れません』
「虹色については、どう思う?」
『貴方は、その子供がやったと思っているのですか?』
「あぁ。ただの勘だがな。とはいえ観覧車じゃあ花火の上がった時にこのガキがいたんだ。無関係とは思えないだろ?」
『その子供が発射したとは限らないでしょう?まして今回の件、私の仮説が正しければ潜伏していたのはICPO関係者……子供が関わる余地はありません』
「だから勘だって言ったのさ。……それで?どうする?」
その場の誰もが次の一言を待つ中、たっぷりと思考したラムがおもむろに口を開いた。
『勘、ですか。……論理的ではありませんが、貴方の勘は侮れませんからね……それに何より、私は彼に興味が湧きました。
「
『風情のない言い方をしますねぇ……』
「俺に教養を期待せんでくれ。んじゃ、行ってくる」
『……いいんですか?相手は子供ですよ』
その彼が、子供を拉致する作戦に立候補した。周囲の人間はおろか、ラムですら驚きを隠せずにいる中、当の本人だけは飄々とした態度で返事を口にする。
「構わねェ。確かに、一度だけなら偶然もあるだろうさ。だがこれだけ重なりゃ話は別だ。自らの意思で戦場に立ってるコイツを、
『……ならば、いいでしょう。ジン、君も行きなさい。念には念を入れておきたい』
「チッ……了解」
「あァ旦那、それならウォッカもつけてくれ。逃げる際の足が欲しい」
「おい馬鹿俺まで巻き込むんじゃ──」
『分かりました。ウォッカ、2人の送迎を頼みますよ。いいですね?』
げっそりとした顔で辛うじて了解、とこぼすウォッカ。
話が一段落つき、部屋の緊張が緩んだ。それを待っていたかのようにベルモットが声を上げる。
「お待ち下さい。その少年が毛利探偵事務所を根城にしているというのであれば、性急な動きは危険かと。事務所の主である毛利小五郎はFBIと繋がっている可能性があります」
「ベルモット……その可能性はあの時、他でもないお前が否定したんだろうが」
「私はあくまであの場で得られた情報で判断しただけよ、ジン。こうして新しい情報が出た以上、それを考慮することが不思議かしら?」
FBIと繋がっている疑惑があった毛利小五郎。彼を始末しようとしたジンを止めたのはベルモットだ。
彼はあくまで撒き餌に過ぎないという彼女の主張に、一理あると銃を下ろしたのは事実だが、当の彼女がその理屈をひっくり返すのであれば話は変わる。あの場で殺していれば話は済んでいた筈だと、ジンが不満を露わにベルモットを睨めつける。
普段ならば銃口を突きつけられても妖艶な笑みを絶やさない筈の彼女は、しかしやや表情を強張らせていた。
『問題ありませんよベルモット。ジンが拉致を行い、アルマニャックが敵を排除する。戦力の過信は禁物ではありますが、この布陣は早々に抜けるものではありません』
「ですが、FBIは日本の公安とも繋がっています。兵力不足をカバー出来る以上、ここは慎重に──」
「なら尚のこと急ぐべきだ。時間は奴らの味方になる。旦那、この話が終わったらすぐ出発したい」
『お願いします。ウォッカ、車の準備をしてきなさい』
「……へい、了解」
ウォッカはどこか煤けた背中を見せつつ、それでもこの場から早く離れたいのかそそくさと立ち去る。
それに視線をやることもなく、尚もベルモットはラムに食い下がる。
常に妖艶な笑みを絶やさないベルモットの、余裕を欠いた様子。いよいよジンが訝しげに眉根を潜める中、ラムも違和感を覚えたのか、声のトーンが心なしか低くなる。
「では、せめて作戦の実行は夜間にすべきでは?今は朝、現地への到着は正午過ぎになるでしょう。あまりに衆目を集めすぎるかと」
『確かに一理ありますが、故にこそFBIや公安も大仰には動けません。何より、アルマニャックも言っていた通り、時間を空けては逃げられてしまいます』
「逃亡の可能性を考えるのであれば、既に遅いのでは?であればこそ、彼らが待ち構えていた時に備えて万全の態勢で──」
「おいベルモット、さっきっからお前の様子は尋常じゃねぇ。……まさか、奴らを逃がそうなんて思っちゃいねぇだろうな?」
『どういうことですか?ジン』
「毛利小五郎はベルモットのお気に入りなのさ。どういう意味かは本人に聞けばいい」
「別にそういう訳じゃ──」
『
「ッッ!!」
『貴女は、"あの方"から寵愛を受けていますね?』
「そ、そのようなことは──」
『それを、今回の作戦において、私が考慮する必要は、ありますか?』
「………………い、いいえ」
『よろしい』
滝のような汗を流して壁にもたれかかるベルモットを驚いた顔で眺めていたアルマニャックだったが、ラムから声をかけられて即座に意識を切り替える。
『アルマニャック』
「!あいよ」
『改めて、任務を。ジンと共に毛利探偵事務所へ向かい、江戸川コナンなる少年を拉致してください。ウォッカをつけますので、拉致後は速やかな撤収を』
「了解。万一、敵勢力に出くわした際は?」
『殲滅を許可します。ですが今は日中です。行動は極力静かにお願いしますよ』
「オッケー。……あぁそうだ、その毛利何ちゃらに会った時はどうする?」
ふむ、と一声。
『あくまで優先は江戸川コナン。ですが余裕があるならそちらもお願いします』
「了解、それじゃ行ってくるわ」
『吉報を待っていますよ』
「おう、任せてくれ」
ガチャリ、と電話を切る。既に出口へと向かっていたジンをちらと見たアルマニャックは、ピンガの方を振り返る。
「ほいじゃ行ってくるから、何か追加で情報とかあったら連絡よろしく」
「あぁ。なら早速一つ補足だ」
ほう?と眉を上げるアルマニャック。対するピンガの表情はひどく複雑なもので。
苦々しさと、怒りと、覚悟と、それでいてどこか様子を伺うような。おおよそ一つに混ざり得ない感情の発露に、アルマニャックの上がった眉が訝しげに歪む。
「毛利小五郎、奴には娘がいる。毛利蘭、それなりの手練れだ。八丈島での拉致の件で競り合ったが、俺とほぼ互角だった」
「はァ?
舌打ち一つ。アルマニャックの顔にも苦みが走る。
ピンガの鍛錬とそれ故の強さを知っている彼だからこそ、それと張り合う者が敵にいるとなれば、そこに油断は一切なくなる。
「普段なら楽しめそうだって喜ぶところだが、急ぎの用事でそれはちっとばかし面倒だな…………ん?待て、八丈島で?」
「そうだ。拉致した時に接敵した。シェリーと思しきガキの側に張ってやがったんだ」
「──ふうん、そうか」
「……知り合いか?」
「え?違うけど……何で???」
途端にキョトンとした顔になるアルマニャックに、むしろピンガが驚きを隠せずにいる。
(すっとぼけている訳じゃない?……なら、あの女はマジで偶然だと?)
アルマニャックは嘘が苦手だ。少なくとも、自分を前に騙し通せる程の腕前はない。
だからこそ解せない。様子から察するに、彼は本当に心当たりがないらしい。
アルマニャックが密かに手配した人間だとばかり思っていたピンガからするとかえって不可解だが、それならそれで都合がいい。
(後でラムと相談しなきゃならねぇが、アルの手引きを考慮しなくて良くなったのは好都合だ)
「……いや、違うならいい。引き留めて悪かったな」
「?……まァいいや、んじゃ行ってくる」
後ろ手をひらひらと振りつつ去っていくアルマニャックを見送ったピンガは、強張った顔で額の汗を拭うベルモットを見つめていた。
━━
ふと、赤井の懐が震える。携帯を取り出して画面を見ると、"降谷零"の名前。何かの連絡だろうかと眉を上げる。
「──降谷君か。どうした」
『今すぐ動かせるFBIは何人だ?』
いつも通り、不機嫌さを隠しもしない声。だが、普段にはない焦燥が微かに混じる声に、思わず目を細める。
「剣呑だな……詳細を教えてくれ」
『毛利探偵事務所に、ジンとアルマニャックが向かっている。主目標は江戸川コナンの拉致、副目標は毛利小五郎の拉致だ』
因縁ある両名の名前に、赤井の視線が鋭さを帯びる。特に後者は仲間の仇だ。自分とて思うところは大いにある。
だが今そこに思考を割くべきではない。まして、子供が拉致されるともなれば優先順位は言わずもがなだ。
江戸川コナン。彼は極めて聡明で度胸もあるが、まだ子供だ。当然ながら戦闘能力がある訳では無い。
そんな彼が"組織"の中でも荒事に長けた両名に狙われたとあっては、流石に避難させなければならないだろう。
だが、彼は些か違う考えを持っていたらしい。
「……成る程、すぐに彼らと連絡を取ろう。事務所から撤収してもらって──」
『いや、
「──どういうことだ?」
『ラムが、江戸川コナンに興味を抱いている。それも、かなり』
話が嫌な方向に向かっていることを察して、自然と眉間に皺が寄る。
それを知ってか知らずか、電話口から聞こえる彼の声はどこまでも事務的で、そして冷徹だった。
『分かるか?これはチャンスだ。"組織"が引いた分厚い秘密のカーテン……長らくその向こう側にいた"組織"の次席が、これを機に姿を現すかもしれないんだ』
「……それで?」
『奴らは車で移動する。運転手はウォッカだ。我々は拉致に成功した彼らを尾行する。どこかの拠点に着いたら、アルマニャックは僕がどうにか引き剥がす。FBIに不穏な動きアリ、と言えば彼は動くだろう。後はそこを襲撃する。ラムが出てくれば良し、そうでなくともジンを手中に収められるのは対"組織"戦において大きな進歩だ』
成る程、確かにいい一手だろう。──囮となる彼らの安全性を度外視するならば、の話だが。
ジンの引き金が極めて軽いことは"組織"でも有名だった。ジンに捕えられることと死は、ほぼ同じ意味を持つ。
それが分からない君でもあるまいと、非難の意を込めて問いを投げたが、返す刀で赤井は言葉を失った。
「そのために、子供を餌に使うと?」
『それが、何か?
「──!」
いっそ凍える程の冷たさを含んだ彼の声が、耳に突き刺さる。
忘れる筈もない。かつて自分が"組織"に潜入する為に恋人役として使った彼女を。潜入を悟られ、"組織"から抜け出した際、置き去りにした彼女のことを。
噂によれば、彼女は裏切りを咎められて消されたらしい。
彼女に対する感情は、到底言葉では表しきれない。最期まで自分を疑わなかった彼女を、愚かだと思ったこともある。勿論、断じてそれだけではない。己の無力さを責めたことなど数え切れず。だが、今更それを語って何になるというのか。
ずっと胸の奥に封じていた、己の罪。まさか今、それを彼に糾弾されるなどとは思ってもいなかった。
湧き上がる感情に、思わず喉が詰まる。その沈黙に溜飲を下げたのか、彼の声に僅かながら温度が戻った。
『我々が迅速に襲撃をかければ彼らは助かるのだから心配は要らないだろう。連絡は以上だ。僕はこれから公安にも同じ話をするので失礼する』
ブツリ、と通話が切られる。暗くなった携帯の画面に映る自分の顔は、酷く疲れているように見えた。
「……因果応報、か。困ったものだな……」
━━━
周囲を警戒し、監視の目耳がないことを入念に確認してから電話をかける。待っている間のコール音すらもどかしい。
幸い、程なくして繋がった。番号が合っているか不安だっただけに、安堵の息がこぼれた。
『もしもし?』
「あぁ良かった、通じたわね」
『ん?その声、まさかお前──』
「時間がないから単刀直入に言うわよ。──ジンとアルマニャックが毛利探偵事務所に向かっているわ。目的は、江戸川コナンの拉致」
既に凶手が向かっている。加えて自分も先程のやり取りによって疑われていることだろう。1人で長時間過ごすのはリスクが大きい。
とにかく要点のみを伝え、後は本人にどうにかしてもらうしかない。彼からの質問に答えている余裕は、ベルモットにもない。
『なっ……!』
「彼らは既にそっちへ向かっているわ。正午過ぎには到着してしまう。急いで毛利親子を連れて事務所を離れなさい」
『正午って……!もうすぐじゃねぇか!』
「だから急いで。貴方はラムに目をつけられている。FBIでも何でも使って、今はとにかく身を隠しなさい」
そう、そこが問題だった。
アルマニャックが顔を覚えているだけなら、まだどうにかなった。何だかんだ言ってはいるものの、彼はどこか甘い部分を持っている。彼に認知されたとて、江戸川コナンに直接命の危険が降りかかることはないだろう。
しかし、よりにもよって、ラムが興味を示している。アルマニャックという剣と、ピンガという目耳を持ち、極めて老獪な知恵を持つ彼に、狙われてしまった。
これは即ち、今後江戸川コナンの取れる手が限りなく少なくなったことを示している。
『ラムが、俺を?……つーか、よく俺の電話番号知ってたな』
「だいぶ前にちらと見ただけだったから心配だったけど、通じて良かったわ」
『俺のプライバシーって……』
「とにかく伝えたから、後は早く動きなさい。私も急いでいるからこれ以上は出来ない。それじゃあ──」
『待って!聞きたいことがある!』
ベルモットは既にかなり危ない橋を渡っている。すぐにでも通話を切りたかったが、彼の声の必死さに電話を切ろうとした指の動きが止まる。
「何?」
『ラムの素性についてだ!』
「…………私は組織の幹部よ?組織の中でもトップシークレットな情報を、売り渡すと思う?」
『俺に拉致の計画を密告している時点で今更だろ。それに、俺に目をつけているのがラムなら、それを利用して逆に奴を引きずり出せるかもしれない!何か知っていることはないか!?』
(この状況においても、勝ちの目を探し続けている。見事ね……)
機転の良さに内心舌を巻く。だが
「……"組織"を相手に、自分が餌になるつもり?あまりに危険よ?」
『それこそ今更だろ。逃げてばかりじゃ永遠に勝ちの目がねぇ。……俺は戦う。それで絶対に、お前らが敷いている闇のヴェールを引っ剥がして、真実を明らかにしてやるんだ。お前らに奪われたモンを、全部取り戻す為にな』
(──そう、そうよね。
知らず、息を呑む。そうだ、この勇気だ。この輝きに目を灼かれたのだと、ベルモットは今更ながらに思い出した。
どんな苦境にも決して揺らがない、黄金の意思とも呼べるその正しさと勇気こそ、ベルモットが彼を
彼の啖呵に揺さぶられ、緊張続きだった彼女の顔に思わず笑みが浮かぶ。
「…………流石ね、シルバーブレット」
『何か言ったか?』
「いえ、何にも。……それに生憎だけど、ラムの正体は私も知らない。確実に知っているのはアルマニャックと、恐らくジンだけ。通信についてもボイスチェンジャーを使っているから性別すら不明よ。ただ──」
『ただ?』
「バーボンが前に、ラムのことを"とてもせっかち"だと言っていたわ」
『せっかち……』
「それと、アルマニャックがラムについて"随分肝が据わっている"と言っていたわね。何でも、彼の採用面接はラムが対面で行ったそうよ」
解せない点はそこだ。ラムは非常に慎重な男(便宜上そう呼ぶが、性別すら分かっていない)だ。
そんな彼が、たかが面接如きの為に姿を現すなど尋常ではない。
恐らくそこに、ラムとアルマニャックの秘密があるのだろうが、流石のベルモットもそこまでは探ることが出来ずにいた。
『直接会ったってこと?』
「そうみたい。……私が知っているのはこれだけ。力になれたかしら?」
『……うん、多分』
「そう。なら、後はとにかく急ぎなさい。幸運を祈るわ」
『あぁ、ありがとう』
手がかりとも呼べない断片的な情報だが、彼は何か分かったらしい。綱渡りの価値はあったようだ。
電話を切ったベルモットは、ひとまず胸を撫で下ろした。
━━━
迷った末、やはり伝えるべきだと電話をかけようとしたところに、着信がかかる。画面に表示された名前は江戸川コナン。
(何ともまぁ、計ったようなタイミングだな)
苦笑いを浮かべ、赤井は電話を取った。案の定というべきか、切迫した様子の声が耳に届く。
『もしもし、赤井さん?今いい?悪いんだけど急ぎの用なんだ』
「奇遇だなボウヤ、こちらも急ぎの案件で君に電話をしようと思っていたところだ」
『もしかして、拉致の話?』
(誰から聞いた?……いや、言うまでもない。情報源など、1人しかいないだろうに)
思わず、強い苦笑が漏れる。バーボンからの報告を聞く限り、拉致が決まったのは本当につい先程の話なのだろう。
"組織"の動向における最新情報の仕入れ先として江戸川コナンが持ちうる手札など、赤井は1人しか知らない。
自分にはあれだけ強い言葉を使っておきながら、ケアはしっかり行っていたということか。
「……知っていたのか。フッ、全く……彼の憎まれ口には困ったものだ」
『赤井さん?』
「あぁいや、こっちの話だ。そう、拉致だ。すぐにその場を離れて──」
『赤井さん、今すぐFBIと公安に連絡をして!ありったけの人材を動かして欲しいんだ!』
「いきなりどうした?」
『
一瞬。ほんの一瞬だが思考が完全に止まった。それだけの衝撃だった。
ラム。"組織"の次席。実在すら確認出来ない"あの方"に代わって"組織"を事実上取り仕切っている大物。
素性のほぼ全てが暗黒のヴェールに包まれていた彼の正体が分かったというのであれば、それは対"組織"戦において極めて大きな前進だ。
事実であれば、だが。流石に事が事だ。慎重に確認を取らなければならない。
「──成る、程。事実であれば、それは確かに大動員をかけるに足る理由だ。詳しく教えてくれるかな?」
『うん。手がかりは4つ。ウォッカの証言、バーボンの証言、アルマニャックの証言、それとラムの失態だ』
「ウォッカの証言……ふざけた名前というやつか。アナグラムを予想していたが……いや、ひとまず残りの3つについて教えてもらおうか」
『うん、まず──』
そうしてコナンが語る推理は、なるほど赤井をして納得させられるものであった。
とはいえ、ラムからしても想定外だろう。まさか
「──成る程。こちらとしても、納得のいく推理だな。分かった、上にはすぐ掛け合っておく」
『ありがとう!』
「後は我々に任せて、君も急いで事務所から離れるんだ。自ら餌になるには、今回の魚は些か獰猛に過ぎる」
『……うん、分かってる』
「ならばいい。ではな」
通話を切り、今度はすぐジェイムズに繋ぐ。公安へは降谷が働きかけているだろうが、ラムの正体という情報はすぐにでも共有すべき案件だ。
既に敵が動いている以上、事は一刻を争う。電話を掛けながら、赤井も愛銃の点検を始めていた。
その目は鋭く、しかし口元には勝ち気な笑みが浮かんでいた。
「さて、ようやく我々にも勝ちの目が見えてきたな。──尻尾を掴んだぞ」
━━━
「──夜分遅く失礼します、緊急の報告です」
『──』
「感謝します。──
『──!?────!』
「ええ、確度の高い情報です。何でも、連中がとある子供の拉致を目論んでいるらしく、そこを突くのだとか。どうやら公安も動いているようで」
『──』
「ええ、仰る通り。──はい、経路は都度お伝えします」
『──』
「はい。──毛利探偵事務所、そこが連中の目的地です」
『────』
「えぇ、勿論。では、また」
なんか、原作見る限りバーボンはラムの正体を知っているっぽいんですよね……。
あくまで確定ではなく、"ぽい"止まりというのが今回話を作っていて大変でした。コナン君への密告役兼ラムの正体発覚を促す係、これをバーボンにやらせるかベルモットにやらせるかでだいぶ頭を悩ませていました。ベルモットはベルモットでコナン君と蘭姉ちゃんにクソデカ感情抱いていますからね(その話は原作読んで頂いて)。
今後の話の都合上、FBIと公安のタッグも動かしたかったので尚のこと困りましたね。悩んだ末、今回のお話みたいになりました。コナン君がラムの正体暴くシーンはあれで終わりです。詳しくは原作でおk。
バーボンが冷酷過ぎるかな?って思いましたが、ゼロの執行人とか隻眼の最後を見る限り、ここまでならギリやりそうかなと。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。よろしければ、感想・高評価・ここすき・お気に入り登録の程よろしくお願いいたします。