ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」   作:ていとくン

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3度目の潜水かましてきたらなんか色々いじりたくなってしまって連日投稿出来なかった……

劇場版のキール、マジでMVP過ぎる。直美のパッパのところで拳握りしめるの、辛さが伝わってきてこっちまでしんどかった。
あそこからどうにかハッピーエンドまで持っていけたのはほぼキールのおかげ。ほんといい女。好き!



side:キール

 

 

 

『次の仕事だ。本来なら、俺とウォッカが着いていく予定だったが別件が入った。代わりにアルマニャックを送る。二人で任務に当たれ』

『アルマニャック……確か、組織きっての殺し屋だったかしら?私はまだ会ったことがないのだけれど』

『だろうな、今回は顔合わせも兼ねているとのことだ。組織でも一等のイカレ野郎だが、お前なら問題ないだろう。……キレた獣同士、仲良くやれよ、キール』

 

 

 

含み笑いをするジンとの通話を終えたキールは軽くため息をつく。

 

本堂瑛海は現在三足の草鞋を履いていた。表では"水無玲奈"の名前でアナウンサーとして、裏では組織の幹部"キール"として、そしてCIAのエージェント"本堂瑛海"として。

多忙を極める業務に加え、誰にも心を許すことが出来ない状況は彼女を心身共に追い詰めていた。

苛酷な状況で、それでも彼女が前を向いていられる理由は、自分が"キール"になった切掛にある。

 

(父さん……)

 

組織に入りたての頃、些細なミスから自らの正体が露見される状況を作ってしまった。裏切りを察した組織によって、自分は消される、その筈だった。

 

(父さんが庇ってくれたから、今の私がいる)

 

父、イーサン・本堂は一計を案じ、「イーサンこそが裏切り者であり、娘は裏切りを察知したイーサンを咄嗟の機転で抹殺した」ことにしたのだ。その功績を以て、彼女は幹部に昇格し、"キール"のコードネームを貰うこととなった。

 

 

 

ー諦めるなよ、瑛海。待ち続ければ必ず味方が現れる。俺の代わりに任務を全うしろ!ー

 

 

 

(分かってる、分かってるわ父さん。私は、絶対に諦めない)

 

頬を叩き、気持ちを入れ替える。まずはアルマニャックと合流しなければならない。

 

今回の仕事は情報の隠滅だ。数日前、組織の情報ネットワークにハッキングが仕掛けられた。幸い撃退こそ出来たものの、表層部分の情報をいくらか盗まれた可能性が出てきたらしい。

逆探知した結果、マフィアに偽装した諜報機関が下手人であることが判明したので報復を行うという訳だ。ここ最近こういったネズミの動きが活発化していて面倒だ、とジンが渋い顔をしていたのを覚えている。

応援を呼ばれても面倒な為、暗殺に見せかけた陽動役が暴れている間に隠滅役が敵方のサーバに侵入して必要な情報を抜き取り、サーバを破壊して離脱する、というのが今回の任務だ。前者をジンとウォッカが、後者をキールが担う予定だったが、前者の役割をアルマニャックが代行することになった。

2人分の仕事を一人でこなすのは骨だと思うのだが、ジンはなんら問題視していなかった。自分の生存率にも関わるので急な変更は困るのだが、こうなってはアルマニャックの手腕に期待するしかない。

 

(どんな人なのかしら。癖が強くないといいのだけれど)

 

叶わぬ願いと知りつつ、一縷の望みを抱きながら合流場所に向かうと、既に誰かがベンチに座っていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()が一心不乱にソフトクリームを食べている。

咄嗟に周囲を見渡したが、他に該当者らしき人物はいない。内心げんなりしながらキールは声をかけた。

 

 

 

「おいしい。すごくおいしい」

「………………えっと、貴方、アルマニャックであってるかしら?」

 

 

 

がばっと顔を上げる男。両手に持つソフトクリームのせいで絵面が締まらない。大の大人が両手にソフトクリームなんか持つなと言いたい気持ちをぐっとこらえる。

 

 

 

「!!……そういう貴女は、キール?」

「えぇそうよ。……なんでソフトクリームを食べているのかは、聞いてもいいのかしら?」

「お腹空いててね。任務前の栄養補給ってやつさ。それにソフトクリームならスプーンも何も使わないからゴミ捨てても唾液とかで証拠が残ることはないからね」

 

 

 

指紋もこれで対策済、と黒いグローブに包まれた手をひらひら振る彼を見て思わず遠い目になる。

中々細かいところまで考えていることを褒めればいいのか、違うそうじゃないと言えばいいのか。迷った末に言及を放棄したキール。

どこか弛緩した空気は、しかし彼の一言で一気に緊張を孕んだ。

 

 

 

「ところでキール……貴女本当に"裏"の人間かな?」

「!!?…………ッ、どういう、ことかしら」

 

 

 

アルマニャックと会うのは今日が初めて。何かしら不信感を抱かれるような事はしていない筈。

だが、父の一件以来ジンでさえ疑わなかった自分を一目みてこの質問を投げてくるあたり、相当警戒されていると見て間違いない。

言葉一つ間違えれば、消される。そう覚悟しながら理由を問えば、想定外の答えが返ってきた。

 

 

 

「何て言えばいいのかな…………匂い?そう、匂いだな」

「……匂い?」

「うん、貴女からは()()()()()()()()()。表の世界で生きている、()()()()()()()

「!」

「あくまで直感だけどね。だから最初びっくりしたよ、組織は表の人間(カタギ)をこの仕事に雇ったのか、ってね」

「……組織に入ったのは最近だから、それでそう見えているのかもしれないわね」

「……そっか、じゃあ組織(うち)辞めた方がいいよ。この任務で死んだことにして逃げちゃいな」

 

 

 

思わず目を見開く。幸いNOCと疑われている訳ではなさそうだが、組織を辞めろとはまた穏やかではない。……何よりその方法は、父が死ぬ前、自分が組織を抜ける為に考えていた方法だった。

ただ、アルマニャックの目はどこか憂いを帯びていた。それがどうにも引っかかり、二の句を継げずにいる。

 

 

 

「貴女はきっと、裏社会(こっち)じゃ長生き出来ない。闇を生きるには、貴女は優しすぎるのさ」

「……組織を辞めるよう勧めたことがバレたら、貴方の身も危ないと思うのだけど」

「ほらそういうとこ。普通こっち側の人間は、ここまで言われたら馬鹿にされてるってキレるのに、貴女は俺の身を案じた。……やっぱり向いてないよ。今日でトンズラこいた方がいい」

「…………それを言うなら、貴方こそ私の身を案じてくれているじゃない。それは、一体何故?」

 

 

 

言葉に詰まったアルマニャックは数秒顔をしかめた後、ため息混じりに呟く。

 

 

 

「似てたんだ。かつて、俺を、()()()、闇の底から引きずり出そうとしてくれた人と、貴女の目が」

「それは……」

「その人は死んだ。俺達裏の人間に関わったがばかりにね。……表の人間と裏の人間が関わると、お互いロクなことにならないって、その時知ったんだ。もう少し早く知ってたら、って、今でも思う」

 

 

 

だから貴女は早く逃げた方がいい、そう言われたキールの心境は複雑だ。

組織の構成員など、キールにとっては須らく敵である。敵相手に心配されるなど諜報員としては失格である。

一方で、嬉しいという感情が湧くことも防げなかった。彼はただ純粋に、組織に染まれていないこちらの心身を案じてくれていたのだ。……何より、初めてだったのだ。組織に潜入して以来、父以外から優しい言葉をかけられたのが。

同時に、真っ当な倫理観と道徳を教えられて育った自分としては、仲間にここまで情を傾けられる人間が、こんな所にまで堕ちてしまっている現実を辛く思ってしまう。

そして、意外にも思う。前評判では血に飢えた狂獣とのことだったが、今の彼からそのような様子は欠片も見受けられない。目こそ鋭さを持っているが、むしろお人好しは彼の方だろう。

 

 

 

「心配してくれてありがとう。……でも、大丈夫。私は組織でやっていくわ」

「……俺は上にはそこそこ顔が利く。多少はごまかせるけど?」

「貴方にそんなリスクを踏ませたくないわ。……それに、私は、逃げる訳にはいかないの」

 

 

 

だが善意にはせめて誠意で応えるべき、そう思い、自身の心の一端を打ち明けるキール。その発想そのものが裏社会に向いていないと言われる所以なのだが、彼女は気づかない。

彼女の、芯のあるその目を見たアルマニャックは笑った。その寂しげな顔が、何故かキールの目に焼き付いた。

 

 

 

「覚悟決めてここにいるって訳ね……無粋なこと言っちまったみたいだ。悪い」

「大丈夫よ。でも貴方も大概お人好しね、前評判と随分違う」

「いやァ、その前評判とやらは多分合ってるぞ。血腥いとかイカレ野郎とか、そういうのだろ?俺に下りてくる任務は大抵皆殺し(キル・ゼム・オール)だからね」

「あら?その割には血の臭いがしないわね」

「そりゃ毎日ファブリーズ飲んでるからな」

「あんなの飲んだら死んじゃうわよ」

 

 

 

寂寥も一瞬、ヘラヘラ笑いながら軽口を叩くアルマニャックに調子を合わせつつ、並び立って目的地に向かう。

 

 

 

「んじゃ、とっとと仕事を終わらせますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタカタカタカタ、とキーボードを叩く音が暗い部屋に響く。壁一面に貼られた画面を見渡しながら、キールは目的の情報を探す。

部屋の外では戦闘音が響いている。重火器にしか聞こえない発砲音どころか、それに混ざって時折大きな爆発音まで聞こえてくるのでどうしても不安になるが、今も戦闘が続いているということはアルマニャックはまだ生きているということだろう。噂に違わぬ相当な手練れのようだ。

 

(彼が無事でいるうちに、仕事を終わらせないと)

 

たった一人で重火器相手に時間を稼いでいるだけでも辛い筈だ。彼が綱渡りの均衡を保っているうちに撤退の手筈まで整えなければ、自分だけではなく彼の命も危ない。

彼の訃報を聞きたくないと思っている自分に驚く。ほんの数十分のやり取りで随分と絆されたらしい。我ながら()()()()わね、と苦笑いが漏れる。

 

ようやく目的の情報を見つけた。USBに収め、後はサーバ内に残った情報を破壊するだけ。その時ふと、目の端に一つのファイルが映る。

何となく気になり、クリックする。瞬間、キールの目が驚愕に見開かれる。

 

(NOCリスト……!)

 

そこには、20名程の小規模なものではあるが、この近辺で活動しているNOCの素性が記載されていた。幸いキールの名前はなかったものの、"組織"に潜入している人間の名前も載っていた。

消さなければならない、そう思ってキーボードを打とうとした瞬間、扉からノックの音がした。心臓が飛び跳ねる。

 

 

 

「キール、入るよ〜」

 

 

 

返事を待たず入ってきたアルマニャックを制止しようとして、思わず言葉を失った。

 

濃密な、濃密な血の臭い。先程別れるまで優しげな顔をしていた男は、今や噎せ返る程の血と死の香りを身に纏っていた。

手元を見ると、見たこともない形の武器を持っていた。例えるなら、子供用の剣。細く鋭い刀剣の柄を両手の指に3本ずつ挟んでおり、そこからは僅かに血が滴っている。そこでようやく、先程まで鳴り響いていた、耳にうるさいまでの戦闘音が途絶えていることに気がついた。

 

アルマニャックの、あまりにも変貌したその有り様に呆気に取られている間に、彼は画面を凝視していた。

 

 

 

「キール、これ、もしかして……」

「!いえ、これは……」

「NOCリスト、ってやつか。……すげェな!お手柄だぜキール!組織でも見かけた顔のやつがちらほらいる。これでまたネズミ掃除が捗るだろうよ」

「え、えぇ、ありがとう……」

 

 

 

無理だ。ここから彼を誤魔化す方法は存在しない。……自身の任務の為にも、彼らの命は、諦めざるを得ない。

心の中で彼らに懺悔しつつ、尚もキールは彼から目を離せないでいた。

この建物に来る前、自分の身を案じてくれていた人間と、今目の前に立つ死の権化とが、どうしても一致しない。

 

 

 

「そういえば、戦闘の音が聞こえないけど、どうしたの?」

「ん?あぁ、()()()()()()

「こ、殺した?全員!?ここからでも重火器の音が聞こえてたわよ!?それを、こんな短時間で……」

「おうおう聞いてくれよ!連中ロケットランチャーまで出してきやがった。あんなん室内でぶっ放すもんじゃねェっつうの。危うくミンチになるところだったぜ」

 

 

 

おかげでそれを奪っちまったら以降は楽な仕事だったわ、そう笑う彼を見て、今度こそ愕然とする。自分が彼に見た優しさは、何かの間違いだったのだろうか。

 

 

 

「よし、そいじゃそのリストふんだくってとっとと撤収しよっか。ランチャーなんざ出されたせいで派手に音漏れしてやがる。やってくるサツまで相手したくないや」

「わ、分かったわ」

「全滅させた筈だけど、一応先陣は俺が切る。後ろに着いてきてくれ」

「……えぇ」

 

 

 

頼もしい筈の彼の背中が、恐ろしく思えて仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?任務終わってから、なんだか沈んでるけど」

 

 

 

結局帰り道で敵には遭遇しなかった。アルマニャックは本当に敵を全滅させていたらしい。そこかしこに死体と薬莢が転がり、鮮血が滴るその様は正しく戦場であり、そこを歩くのは別の意味で生きた心地がしなかった。

……この光景に、キールは覚えがあった。本部(ラングレー)から送られた"ジャバウォック"に関する映像データ。彼の襲撃を受けた場所は、ほぼ例外なくこの有り様だった。人間の肉体が飛沫の如くぶち撒けられた映像を初めて見た時は1ヵ月肉が食べられなくなった程だった。

ロケットランチャーや爆弾でのクレーターによって()()()()()()()()()()()()()()()が、果たしてあれだけの惨劇と破壊を単騎で成し遂げられる存在がそうそういるのだろうか。

 

(貴方は、もしかして"ジャバウォック"なの……?)

 

運転席に座る、()()()()()()をした彼を見る。どうやら金髪は変装だったらしい。顔立ちも年かさどころか若々しく、自分より歳下なのではないかと思う位だ。

曰く、元々自前でも仕事の度に簡単な変装をしていたが、ベルモットに変装術を教わって以来本格度が増したのだとか。

"ジャバウォック"の戦闘を収めた映像データはちらほら見かけるが、その全てが異なる風体の人間を映している。姿形では判別出来ず、築き上げる惨状でしか判別出来ないその厄介さも"ジャバウォック"の特徴であり、隣りにいる彼も正にそうだった。

データは無事奪還し、加えて土産も獲得した上に敵は殲滅した。組織としては特上の結果を出せたものの、キールの顔は暗い。

自分の身を案じてくれた人間が、我々(CIA)の大敵かもしれない。疑いたくないが、状況証拠が揃い始めている。先に彼が見せた変貌っぷりに併せて、この現状はキールの心を痛めていた。

 

 

 

「いえ、ちょっと考え事をしてて……」

「……リストの人間が気になる?それとも……俺が気になる?」

「!?」

「リストの人間はいずれ全員消すことになるだろうね。……キールが気に病む必要はない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それに、仕事は俺かジンで片付けるし、キールには回さないようにするから」

「……別に、そこまで気遣って貰わなくても大丈夫よ」

「無理しなくていい。後はまァ、最初に言った通りよ。前評判の方が正確だったでしょ?俺は決して優しい人間じゃあない。血に狂った怪物ってね」

「そんなこと……」

 

 

 

キールの顔を見て、苦笑いをするアルマニャック。その目はどこか優しげで、悲しげだった。

 

 

 

「なんでキールが悲しそうな顔してんのさ」

「…………アルマニャック……貴方は、どっちが本当の貴方なの?作戦の前も今も、貴方が見せる優しさは本物だと思うわ。でも、血に塗れた任務中の貴方も偽物には思えなかった……!」

「そりゃ、仲間は大事にすべきでしょ?だからそうしてるだけなんだけど……」

「そういう真っ当な判断を下す人と、あの惨状を作り出す人が、同じだとは思えないのよ!」

 

 

 

キールの訴えにしばし瞠目したアルマニャックは、しばし沈黙した後にぽつぽつと語り始める。触り程度とはいえ、ラムとピンガ以外に話すつもりのなかった、己の過去を。

 

 

 

「そりゃどっちも習慣だな。そうしなけりゃ、()()は生き残れなかったから」

「俺達……?」

「戦場じゃガキなんて狙い目だ。なんせ力が弱い。おまけにロクな教育も受けてないから、()()()()()()()()()()()()()。そんなんカモだよカモ。だからまず真っ先にガキを殺す。そこからが戦争の本番で、俺達は前座扱いだったのさ」

「まさか貴方、少年兵(チャイルドソルジャー)……!?」

「そゆこと。だから、戦場で一番弱いガキがそれでも生き残りたけりゃ、徒党を組んで結束するしかないんだ。それでも毎回大勢死ぬんだけどな」

「そんな……」

「そうやって毎日を生き延びているうち、仲間が出来た。そいつらを率いて懸命に戦場を駆け抜けてたよ。……結局最後はみんな死んじまったんだけどな。一人くたばり損ねた俺は流れ流れて今に至るって訳。いや分かってるんだよ?ここにいる人間も俺もガキじゃないし、守る必要も気遣う必要もないんだって。でも骨身に染み付いたもんはそうそう忘れられねェのよ」

 

 

 

仲間だと思ってるのも事実だし、出来れば仲良くしたいのも、死んでほしくないのも事実だしな。アルマニャックはそう言って笑う。

 

 

 

「と、同時に、戦場で敵相手に情けなんてかけない。んなことしてたら死ぬからな。自分だけじゃない、仲間も巻き込んでだ。だから微塵の躊躇もなく殺すのさ。仲間を守るのと同じ、そうしなきゃ生き残れなかったからってところだな」

「……ごめんなさい、とんでもない失言だったわ」

「仕方ないさ。俺のこと知らないんだから。だからさ、キールのことも教えてよ」

「わ、私の?」

 

 

 

思わぬ方向からのキラーパスに驚くキール。望洋とした横顔からは、アルマニャックの真意は窺えない。

 

 

 

「最初会った時、キールは「逃げる訳にはいかない」って言ってたじゃん。あれってどういう意味なのかな、って」

「そ、れは……」

 

 

 

話す訳にはいかない。それこそが正に、NOCとして"組織"に潜入する己の心の拠り所であり、譲れない覚悟の象徴だからだ。

しかしこの状況でだんまりを決め込むのはあまりに不自然でもある。あくまで自分は未だ新人、疑われる余地は十分にある。

加えて、彼の古傷を一方的に抉ってしまったことに対する負い目もあった。

迷った末、組織が把握しているカバーストーリー通りに話すことにした。父の遺言と自分の覚悟さえぼかして話してしまえば、どうにか誤魔化せるだろうと判断して。

 

 

 

「組織には、父の紹介で入ったの。"あの方"と直接連絡が取れる位に信頼されていたって聞いたわ」

「ほう、となると幹部か」

「コードネームは貰ってなかったみたい……ただ、貴方も知っての通り、父はスパイだった。それを知ってしまった私は、父から厳しい尋問を受けた。どこまで知ったのか、とね」

「…………」

「でも、最後の最後で父は隙を晒した。後は無我夢中だったわ。手に噛みついて、銃を奪って……殺した。そして私はここにいる」

「そい、つは…………」

「後は分かるでしょ?私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。父の首はいい手土産になったわ。なのに今更辞めるなんて、そんな勿体ないこと出来る訳ないでしょう?」

 

 

 

自分は、上手く嗤えているだろうか。手柄の為なら家族すら手に掛ける、卑劣で邪悪な悪党のように、嗤えているだろうか。

 

 

 

「貴方は私を優しい人なんていっていたけど、あいにく私はこういう人間よ。組織随一の殺し屋も、案外人を見抜くのは苦手なのかしらね」

「………………そっか。そいつは、随分クソ野郎な父親だな」

 

 

 

「……………………はっ?」

 

 

 

 

 

駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だ怒ってはいけない怒鳴ってはいけない感情を表に出してはならない。

私は裏切り者だった父の首を以て幹部にのし上がった女だ。ここで怒りを露わにしては、事の真相が露見してしまう。父さんの死さえ無駄になる。ここは嗤わなくてはならない。全くもってその通りだと嘲笑しなければならない。さぁ笑え。笑え嗤え嘲笑(わら)哄笑(わら)え!

あぁ分かっているそんなこと出来るわけない大切な父さんを嘲笑える訳がない何よりこの男が許せない。自分の命をかけて私を助けてくれた父さんを侮辱したこの男が許せない。

 

アルマニャックから見えない左手の拳を、血が滲むほど握りしめる。顔の筋を全力で動員して感情を閉じ込める。

しかし、アルマニャックの次の言葉に、今度こそ私の意識は真っ白になる。

 

 

 

 

 

「だって、キールはその()()()()()()()()()()()()?」

「……………………えっ?」

 

 

 

そう言い放ったアルマニャックは、キールに視線を向ける。同情、憐憫、追憶、罪悪感……様々な感情が入り混じった視線を受けて、キールは益々混乱する。

 

 

 

「俺にも、経験がある。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。死んだ仲間の顔は全員覚えてるけど、己の手で殺めた仲間の顔は特に強く残ってる。今でも夢に見る。あの時の痛みを、俺は一生忘れない。……仲間でさえそれなんだ、愛する家族を自らの手で殺すことが、どれだけ辛いことか。俺には想像も出来ねェよ」

「あ………」

「キールの親父さんは、よりにもよって自分の娘にそれをやらせたんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからクソ野郎だって言ったのさ」

 

 

 

アルマニャックの一言一言が、キールの心を千々に乱していく。もうキールには自分がどんな顔をしているのかさえ、分からなかった。

 

 

 

「親父さんの立場が立場、誰にも言えなかった筈だ。……今まで、辛かったろう。よく頑張ったな」

 

 

 

もう、限界だった。

 

 

 

 

 

父さんが好きだった。仕事に赴く父さんの格好いい横顔が。指導は厳しくも、確かに愛情を注いでくれた父さんのことが、大好きだった。

 

自分の顔に降りかかる父さんの血の臭いを、あの日抱いた悲しみを、絶望を、怒りを、生涯忘れることはないだろう。

許せなかった。組織でも、ジンでも、まして父さんでもない。

あの日、父さんを死に追いやった、己の迂闊さが、何より許せなかった。

 

そうだ、()()()()()()。父さんが死んでしまったことが。自分のミスで父さんを死に追いやってしまったことが。

自らの手で、大好きな父さんを、殺してしまったことが。

 

周囲の人間は皆自分を褒め称えてくる。組織の人間は「裏切り者を手ずから仕留めた切れ者」として、CIAの人間は「父の覚悟を受け継いだ優秀な諜報員」として。誰も私を責めたりしない。……誰も私の痛みを知りはしない。そう思っていた。

 

 

 

ー今まで、辛かったろう。よく頑張ったなー

 

 

 

(辛かった。辛かったよ、父さん……!!)

 

 

 

 

 

「あ、あぁ、ああぁぁぁ…………!」

 

 

 

ここで涙を流すこと、それが何を意味するか、キールには分かっていた。この軽率な行いが、後々どれだけ自分の首を締めることになるのかも。

それでも、溢れ出す涙は止まらない。止められるわけがなかった。

 

誰にも言わなかった、誰にも言えなかった、心の一番奥底に押し固めていた苦しみ。

初めて、それを掬い取ってくれる人が現れたのだ。

 

 

 

「父さん、父さん……!父さん……!!父さん……!!うっ、うぅ……うわぁあああああああ…………!!!!」

 

 

 

嗚咽を漏らす私を見て、泡を食ったアルマニャックが咄嗟に路肩へと車を向かわせる。ハンカチを私に差し出したり、完全な困り顔で慌てふためいている様子が視界の片隅に映る。

あれだけの数の敵を屠っていた人が、私さえ気づいていなかった、私が一番欲しかった言葉をくれた人が、私の泣いてる横で所在なさげにしているのが、どうにも可笑しくて、悲しくて、嬉しくて……

 

 

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

 

 

涙が、止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁその、ええと、ごめん。色々言い過ぎたんだ、多分。だから、あ~、ご、ごめんなさい」

「……ふふふっ、何で謝るの?」

「いやだって、俺と喋ってて泣いちゃったんだから、俺のせいなんだろ?多分、きっと。悪いことしたら謝らなきゃ。だから……」

 

 

 

おどおどとした様子とあまりに見当違いな発言に、遂にこらえ切れず、お腹を押さえて笑い出すキール。今度は笑い涙が目元で光っていた。やはり所在なさげにしているアルマニャック。

一通り笑った後、向かい合って彼の顔を見る。今日一日で印象がだいぶ変わりに変わったその顔は、最初の印象通り優しげな顔だった。

 

 

 

「ありがとう、アルマニャック」

「えっ、何が!?」

「貴方のおかげで、私は父さんの死を悼むことが出来た。……父さんの死に、ようやく折り合いをつけることが出来たわ。だから、ありがとう」

「ど、どういたしまして……???」

 

 

 

いまいち分かってない様子の彼に、思わず柔らかい笑みがこぼれる。それを見て目を逸らす彼の様子を楽しみたい気持ちを抑えつつ、彼に一つのお願いをする。

やはり、あの話の流れで泣いてしまったことは明確なミスである。裏切り者の烙印を押されてもおかしくない行為であり、これが上層部に届くのは非常にまずい。どうにかしてアルマニャックには黙っていて貰わなければならないのだ。

 

 

 

「ねぇアルマニャック、実は一つ、お願いがあるの」

「お願い?」

「えぇ。……今日私が車の中で喋ったこと、つまりその、泣いてしまったことは、誰にも言わないで貰えないかしら」

「言えるかそんなこと!!」

「えっ!?」

「俺が車の中で、新人女性を言葉でネチネチ責め立てた挙げ句泣かせてしまいましたなんて、恥ずかしくて言えるか!!一生の恥だわ!!むしろキールには是が非でも黙っていてもらいたいんですがどうですか!!」

 

 

 

違うそうじゃない。

 

今日一日だけでどれだけこう思わされたか最早思い出せないが、兎にも角にもこの勘違いは好都合だ。

 

 

 

「わ、分かったわ……私は誰にも言わないから。約束する。今日のことは、二人だけの秘密。だから、アルマニャックもお願いね……?」

「だから言わねェって!つーか言えねェって!女の子いじめて泣かせましたなんて、俺はもう、先に逝った仲間達に顔向け出来ねェよ!……すまねェ、お前らの兄貴は女を泣かすチンケなクソ野郎に成り下がっちまった……!」

「あ、私が泣いてたのは貴方のせいじゃないから!大丈夫だから!貴方の仲間達だって分かってくれるわ!」

「なんて優しいんだキール……お前、本当にいい女だなァ……!」

「あ、ありがとう……」

 

 

 

だいぶズレたところで傷ついている彼をつい庇ってしまったが、兎にも角にもどうにか丸く収まりそうだ。流石にこんな理由でNOC発覚はそれこそ父に顔向け出来ない。

 

そんな話をしているうちに解散地点に着いた。半日にも満たない任務の筈だったが、随分長い時間を過ごしていたようにも感じる。……任務外の方が疲れた気がするが。

 

 

 

「それじゃあ、ここで解散ね」

「おう。そいじゃあまた」

 

 

 

逆方向に歩き出す二人。ふと振り返ったキールが、アルマニャックの背中に声をかける。振り返る彼と、目が合った。

 

 

 

「アルマニャックとの仕事はやりやすかったわ。またよろしくね!」

 

 

 

数瞬目を瞬かせた後、ふにゃりと笑った彼も叫び返す。

 

 

 

「次からアルでいい!俺だけ名前長くて呼びにくいからな!」

 

 

 

再び振り返り、背中越しに手を振りながら去っていくアルマニャック。

キールもそれを見届けてから、今度こそ帰宅の途につく。

 

夕日が、いつもより暖かく降り注いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぅ、()()。今いいか?」

『そろそろ来るかと思っていました。任務お疲れ様です。それで、()()はどうでした?』

「いやぁ……ほぼシロで間違いないと思うぞ?ありゃネズミがどうとか以前に、裏社会でやっていけるか不安になるレベルだぜ?」

『と、言いますと?』

「とにかく真面目で、良くも悪くも素直過ぎる。おかげで色々目が届くからサポート役としては適任だけど、ありゃスパイなんて器用なマネ出来るとは思えねェな……」

『…………予想よりだいぶ斜め下の答えではありますが、つまり彼女はNOCではないと?』

「NOCリストを組織に提出するNOCがいると思うか?潜入しているスパイが多ければ多いほど、自分がヒットする確率だって減るだろうに」

『敢えて他のネズミを贄にすることで信頼を得ようとした、という可能性は?』

「それはねェな。さっきも言ったが、そういう狡猾な立ち回りが出来る人間には見えなかった。……あくまで俺個人の意見だからそれだけで判断しないでくれよ?責任取れないからな。ただ、俺はそう思うな〜って」

『そこはご心配なく。先んじてジンにも審査をさせています。彼もシロであると認定を下していました。……どうやら警戒を外しても良さそうですね』

「そっか、なら良かった。……仲間を審査するなんて、あんましいい気分じゃなかったぜ」

『すみませんね。ですがキュラソーは別件で動かしているので、貴方くらいしか頼める人がいなかったのですよ。では今度こそ任務は終了です。お疲れ様でした』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

from:エージェントNo.○○

件名:定例報告

本文:顔合わせを済ませ、幾人かの幹部から信用を得ることに成功。もうしばらくで監視が完全に解けると思われる。

尚、ジャバウォックと思しき構成員とは未だ接触出来ず。引き続き調査を続ける。

 

 

 

 





Q.アルマニャック君は何でキールに謝ってるの?
A.自分の過去語り等が、キールの過去のトラウマを刺激してしまったせいで彼女は泣いてしまったと思い込んでいる為。
あの局面で泣くのは事実上の自白であることなど、欠片も気づいていません。仲間認定した者への甘さが出ていますね。

Q.アルマニャック君が持っている武器ってなんですか?
A.多少刀身が細くなっていますが、まんま黒鍵です。気になる方は「型月 黒鍵」で検索してみてください。
あちらのものと違い霊的な云々はありませんし当然刀身が肥大化することもありませんが、それ以外はまんま黒鍵です。
ラムにおねだりして構想だけ放り投げ、特注で開発してもらいました。

Q.ベルモットはどうして変装術をアルマニャック君に教えたの?
A.ベルモットの変装技術の高さを知ったアルマニャック君がラムにおねだりをしたことで、マンツーマンで教えてもらうことが出来ました。

Q.アルマニャックは最後に「アル」と呼ぶことを許していましたが、彼にとってキールは特別なんですか?
A.他のコードネーム持ちとは明確に違う人間だと思っているので、そういう意味では特別です。
ただ、書いてはいませんが仲のいい幹部連中にはアル呼びを許しています。ピンガは勿論、キャンティやコルンも彼をそう呼びます。

Q.アルマニャックって機械音痴なのに、車運転出来るの?
A.ラムに叩き込まれました。単独行動が多くなりがちな都合上、乗り物が一人で運転出来ないのは致命的過ぎるとのことで、スパルタ教育の果てに、バイクと自動車は運転出来るようになりました。
ちなみにオートマは大丈夫ですがマニュアルは少々怪しいです。


この話も難産だった……1話前を投稿した時点で完成していた筈なのですが、潜水してから改めて確認したら、なんか気になってしまって修正を繰り返す羽目に。難産なキャラしかいねぇなこの組織……

アルマニャック君の過去をこれみよがしに辛いものにしている理由の一つが今回のお話です。
イーサンの件はキールの心に深い深い傷を残しています。これ、どうにか多少なりとも癒せないかな〜と考えた結果、まずお話をして貰わないといけないとなり。
じゃあキールがぼかしを入れるとはいえ当時のお話を黒の組織の構成員相手にするなんて不可能に近いシチュを作るにはどうしたらいいかな?というところから逆算して作っていきました。

次回はスコッチ、バーボンペアですね。スコッチの口調がよく分からないです。困りましたね!



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