ピンガ「俺が生き残る為にオリキャラ生やした」   作:ていとくン

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すみません、連続投稿無理でしたね。クッソ難産でした。多分次話も1〜2日は空くと思います。
あと今更ですが、投稿時間は20時に固定しました。今後ともよろしくお願い致します。


side:スコッチ・バーボン②

 

 

 

「ん?あれ、スコッチじゃん」

「おぉ、アルマニャック!今日は非番か?」

「今日"も"非番だな。最近暇でなぁ」

「いいことじゃないか。確か、読書が好きなんだろ?仕事がなければ、思う存分没頭出来るだろ?」

「そりゃそうだけど、やっぱり実戦踏まないと体が鈍るからなァ……まァ仕方ない。そう言えば、もう昼ご飯食べた?」

「いや、これからだな」

「んじゃ一緒に行かない?美味しいハンバーグ屋を見つけたんだ」

「おっ、いいねぇ!」

「バーボンも呼ぶ?」

「おぅ!ちょっと待っててくれ、電話してみる」

「あいよ〜」

 

 

 

 

 

「おや?元気無さそうですね。どうしたんですか、アルマニャック」

「ん〜?あぁ、バーボンか。いや、さっきまでジンと仕事でよォ……」

「ジンと、ですか。また物騒な臭いがしますね」

組織(うち)の仕事で物騒じゃない仕事ってある?」

「ハハハ、確かに。とはいえ、ジンは血腥い逸話に事欠かないですからね」

「血腥いってより煙草臭いけどな」

「クッ」

「あいつ、任務の時に煙草吸ってんじゃねェって何遍も注意してやってるのに一向に聞きゃしねェ。今日はムカついたから、バケツで水ぶっかけてやったんだ。おかげで大喧嘩さ」

「ば、バケツで水を?あのジンに?」

「そうだよ。水を被れば煙草の火も消えるだろ?」

「〜〜〜〜〜〜ッ!!」

「どうしたの?腹なんか押さえて。ウンコか?」

「違います!」

 

 

 

 

 

「お~い!アルマニャック!」

「んん?あぁ、スコバボじゃん」

「何です、その呼び方」

「スコッチとバーボンって大抵一緒にいるし、まとめて呼んでもいいかなって。スコッチにバーボンって長いじゃん」

「アルマニャックも大概長い名前だと思うけどな」

「あ~……うん、まァ、この二人ならいいか

「どうしました?」

「アルって呼んでくれていいよ。フルネームだと長いでしょ?」

「おっ、あだ名で呼ぶことを許してもらえるのか。嬉しいねぇ」

「まァ、それなりに付き合いも長くなったし、いいかなって」

「我々の関係も一歩進展、という訳ですね」

「よっしゃ、なら今日は飲もう!」

「いいねぇ!それじゃ、俺がいい店紹介しよう」

「あの料亭ですか?僕が教えてあげたんですけどね」

「そう細かいこと言うなよバーボン」

「そうだよ気楽に行こうぜバカボン」

「誰がバカボンですか」

「それでいいのだ!」

「それはバカボンではなくバカボンパパですね」

「さすが、詳しいなバカボン」

「誰がバカボンですか」

 

 

 

 

 

「………………」

「なあなぁスコッチ、今日のバーボンどうしたんだ?」

「あ~、あれな。今日はライと三人で任務だったんだけど、そこで一悶着あってな……」

「スコッチを巡って喧嘩になったと」

「………………」

「ありゃ?いつもなら違う違うって怒って言い返してくるのに」

「仕事そのものも大変だったからな、突っ込む気力もない位疲れてるのさ」

「バーボンは()()()()()()()だから大丈夫だろ」

「誰が突っ込まれる側ですか!」

「おっ、元気になった」

「スコッチ、君まで!」

「あ~、俺、席外そうか?1時間位したら戻ってくるからよ」

「絶妙に嫌な気遣いは結構です!というかそれなら戻ってこないでくれますかね!?」

「えっ!?てことはやっぱりおっ始めるつもりだったのか……」

「おいおい、俺準備してきてないぞ?」

()()するのはバーボンの方だろ?」

「貴方達は……貴方達はぁ……!!!」

「やべっ、逃げろ」

 

 

 

 

 

「おぉ……こいつぁ……ぷるぷるだ……ぷるっぷるだぜ……」

「どうです?美味しいでしょう?」

「信玄餅って言うんだ。俺達の国に古くからある和菓子、つまりデザートだな」

「ぷるぷる……あまあま……うまうま……」

「気にいってもらえたようで何よりです」

「語彙力がどっか行っちゃったな」

「ありがとなスコバボ!俺も今度なんかお土産持ってくるぜ!」

「おや、嬉しいですね。期待して待っていますよ」

ー数週間後ー

「スコバボ!今ちょっといい?」

「アルか。いいけど、改まってどうした?」

「お土産だよお土産!任務で南米の方まで行ってきてな。ついでだからちょっと奥まで行って、ハチミツ取ってきた!」

「…………取ってきた?」

「おう!馬鹿でけェハチがぶんぶん飛んでてちょっと怖かったけど、おかげでたんまり取れたぜ!めちゃくちゃ美味しかったし、二人で食べてくれ!」

「お、おう……ありがとな……」

「よく無事でしたね……というか税関どうやって通過したんですか……」

「密輸!」

「何もかもがおかしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、俺達未だに任務で一緒にならないな」

「確かに……アル、貴方は理由に心当たりは?」

「うんにゃ。あ~でも、バーボンは諜報がメインなんだろ?荒事メインの俺とは被らないんじゃないか?」

「じゃあ俺は?」

「そんなに俺と組みたいの?浮気は良くねェぞスコッチ。しかもバーボンの前でなんて……釣った魚に餌をやらない男は嫌われるって漫画で読んだぜ」

「だから俺とバーボンはそういう関係じゃないって言ってるだろ!?」

「じゃあどういう関係なんだよ!?」

「普通に友人ですけど!?」

 

 

 

アルマニャック、スコッチ、バーボン。三人が初めて出会ってから早数ヵ月。任務で一緒になることこそないものの、組織の施設で出くわした日は飲みに行く習慣が出来ていた。

三人の関係は比較的良好で、アルマニャックは自身を「アル」と呼ぶことを許す程度には二人と仲を深めていた。

今日も今日とて、三人で肴をつまみつつ、他愛もない話をしていたが、やがて組織における任務の話へと移っていった。

 

しばしば酒を酌み交わすようにはなったものの、未だアルマニャックという男には謎が多い。彼から情報を探るべく、二人はそれとなく話を振るのだが、上手くいった試しがない。

というのも、元々会話がマイペース気味なアルマニャックは、酒が入るとそこに拍車がかかる。振られた話から逸脱した方向に突っ走っていく上、ひたすらにボケ倒してくる。根が生真面目な二人はツッコミに回らざるを得ず、情報を引き出す作戦はいつも失敗に終わっていた。

 

これを計算でやっているのだとしたら相当なタマだが、残念ながら彼は天然側の人間だ。故に修正のしようもない。友人として話している分には楽しいものの、諜報員としてはたまったものではなかった。

そのくせ、会話のあちこちに地雷が転がっている。厄介なのは、彼が地雷を地雷だと気づいていないことだ。踏んだこちら側はいたたまれない気持ちになっているのに、踏まれた本人はけろっとしているのだ。理不尽にも程がある。

 

そして今日は、バーボンが地雷を踏んだ。

 

 

 

「アルは事ある毎に僕らをそうやってからかいますけどね、そういう貴方は彼女とか気になっている女性とか、いないんですか?」

「そうだそうだ!俺らばっかりからかいやがって!お前の女性事情も教えろ!」

「んなこと言われてもな……彼女、というか、友達以上の女性ってことだろ?今はいないかな」

「………………()()?」

「ちょっと待てバーボン、俺はなんだか嫌な予感がするんだが」

「う~ん、だいぶ昔のことだからな……辛うじて、名前と顔と死に様は覚えてるが、もう最近じゃ声も思い出せねェや」

「し、死に様……………………」

「おいばかやめろ」

「おォ、戦場で砲弾食らってな。威力が高かったみたいで、粉になっちまった。せめて遺品位は手元に欲しかったんだけど、何も残らなかったなァ」

 

 

 

()()()()()。話の温度差が急激過ぎるのだ。先程まで盛り上がっていた席が凍りついたことに、当の本人だけがまだ気づいていない。ジョッキ片手に呆然とする二人を差し置いて、呑気に枝豆を摘んでいる。

 

どうやら彼は、組織に来る前までに相当劣悪な環境に身を置いていたらしい。平和な日本で生まれ育った二人にとっては、筆舌に尽くし難い程の。

そんな彼の過去話とは、すなわち広大な地雷原だ。開けてはならないパンドラの匣が至る所に散りばめられている。

 

それなりに親しくなったおかげで、彼の過去に話を振ってはならないという事は二人も理解したが、時折何のことはない話から過去が覗き込むことがある。

この前など、漫画をやたらと推してくるので好きなのかと聞いたら、「組織に来てようやく読み書き出来るようになったから、文字を読むのが楽しいんだ」ときた。その時の二人は苦虫を百匹まとめて噛み潰したような顔をしていたし、部屋に帰ってからは世の理不尽さに二人で憤っていた。

加えて最近では、厄介さに拍車がかかってきた。

 

 

 

「その……すみません。貴方の過去の傷を、抉りたかった訳ではなかったのです」

「悪い……俺も調子に乗りすぎた。すまん」

「えっ?あっ…………もしかして、俺、また……やっちゃったか?」

「貴方は何も悪くありません!人の過去に土足で踏み入った僕が悪いのであって……」

「でも、楽しい酒の席を壊しちゃった。……駄目だな、俺。明るい空気壊してるの、いつも俺だ。……その、ごめんな」

「アル……」

「…………クソっ……」

 

 

 

未だに自分の地雷には無頓着なものの、誰かが踏んでしまったことで空気が凍ったことを、この頃彼が露骨に気にするようになってしまったのだ。

そして、そういう時に彼は必ず謝る。つまらない話をして悪かったと。酒を不味くしてしまって申し訳ないと。心底申し訳なさそうな顔をして。

それを聞くたび、スコッチとバーボンはテーブルの下で拳を痛い程に握り締める。何故、何も悪くない彼が謝っているのか。何故、彼が悲しい顔をしなければならないのか。

彼は優しい。生死や善悪に関する価値観こそ一般とは異なるものの、裏社会で生まれ育った人間とはとても思えない程に、彼の性根は善良で真っ直ぐだ。でなければ、この盤面で謝罪の言葉は出てこない。

 

アルマニャックという人間が、根っからの屑とは程遠いことに、二人はとうの昔に気づいている。もし、表の世界で生まれていたら、きっとそのまま光の中で生きていけたのだろうと。きっと、輝かしい未来があったのだろうと。

()()()()()()()()()()()()。そうはならず、彼は今ここにいる。それがあまりにも理不尽に思えて、しかし自分達にはどうしようもなく、ただ無力さと情けなさに歯を噛みしめるしかないことが、辛かった。

 

 

 

「あ~、その、悪い!俺この後用事入ってるの忘れてたわ。途中ですまんが、俺はここでおさらばさせてもらうね。また今度な!」

「ま、待ってくださいアル!」

「この席は俺が奢るから、二人はゆっくりしていってくれ!んじゃな!」

「待ってくれアル!俺はまだ……」

 

 

 

二人の制止も聞かず、伝票を持って走り去るアルマニャック。スコッチが伸ばした手は空を切り、そのまま力なく下へ落ちる。

 

 

 

「なぁ、スコッチ……」

「……なんだ、バーボン」

「我々は、彼を傷つけてばかりですね」

「…………」

「僕はもっと、善人と悪人とは区別がつけやすいものだと思っていました。……ですが現実は違う。彼は世間一般では裁かれるべき悪として扱われるでしょう。……なら、正義とは?彼とは真反対な存在が、正義なんでしょうか?」

「……んな訳、あるかよ。あいつは……そんな屑野郎じゃない」

「では何故、彼のような人間が、裏社会に堕ちてしまうのでしょうね」

「それは……」

「世の理不尽さ、というやつですか。その理不尽さによる犠牲者が悪へと堕ちるのなら……本当に悪いのは、一体誰なんでしょうか?」

「……あいつに手を差し伸べられない俺達も、似たようなもんだな……」

 

 

 

違いない。苦り切った顔を浮かべる二人は、どちらともなく立ち上がり、店を後にする。

 

酒の味など、最早覚えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、会議室にて、三人は作戦会議を行っていた。

念願、とまでは行かずとも、知り合って数ヵ月越し、初めての共同任務だ。

だが先日の一件により、どことなく気まずさを感じるスコッチとバーボン。アルマニャックは意図的に普通を装っている。それがこちらを気遣ってのものと分かり、気まずさと罪悪感が増す。

 

 

 

「俺が戦端を開く。スコッチは狙撃で援護してくれ。ポイント候補は数ヵ所あるから、数発毎に移動しながらって感じだな。俺ら二人で暴れてる間にバーボンが潜入して情報を抜き取る、と」

「簡単に言いますが、今回向かう場所には相応の数の戦闘員が詰めています。いくらスコッチの援護があるとはいえ、アル一人で行くのは……」

「あぁ、他にも応援を呼ぼう。せめて前線にもう一人は欲しい」

「いや、要らない。俺一人で足りる」

 

 

 

一人で行こうとするアルマニャックを咎める二人。アルマニャックは訝しげに首を捻ると、おぉ、と手を打つ。そういえば、二人と任務を行うのは初めてだったと。

 

 

 

「それなら俺の戦闘能力とか知らんもんな。疑うのも仕方ないか。でも、俺は一人で任務をこなすことの方が多いんだ。今回はハッキングの必要があるからバーボンがいるんだろ」

「えっ、じゃあ俺は?」

「バーボンの護衛ってところじゃないかな?本来俺は援護を必要としてないからね。ただ、バーボンに付けるより俺と二人で暴れた方が結果的にバーボンの安全に繋がると思う」

「ですが…………」

「大丈夫、別に舐めてる訳じゃない。これを一人でこなすのが俺の通常なんだ。だから二人も援護してくれるなら、むしろ楽勝よ。それに、今から来てくれるアテなんてないでしょ?」

 

 

 

途端にぐっと言葉を詰まらせる二人。元々二人にとって"組織"は敵地だ。任務の際に会話をすることはあれど、構成員の中に親しい者などいない。任務外で知り合ったアルマニャックなど例外中の例外だ。

加えて今は主だった幹部が出払っているらしく、他に呼べる者はいなかったのだ。

 

 

 

「分かりました。……スコッチ、万一に備えて君も前線に立てるよう準備を。僕も万全を整えて向かいます」

「分かってる。アルの背中は俺が守るさ。お前も気をつけろよバーボン」

「別にそこまで気遣ってもらわなくても大丈夫なんだけどな……心配してくれるのは嬉しいけどさ。ありがとね」

 

 

 

かくして三人は戦場に赴く。今回の任務はマフィア組織の襲撃。愚かにも組織に対して真っ向から喧嘩を売ってきた連中を撃滅せよ、とのことだ。

ただ、連中はブラックマーケットにおいてそれなりに幅を効かせている存在でもある為、顧客データ等の有用な情報は抜いておきたいらしく、諜報を担うことが多いバーボンに白羽の矢が立った。

 

 

 

夜も更けた頃、山中の曲がりくねった道路を一台のバンが走っている。黒く塗られ、つや消しまでされたその車は、闇夜に溶け込むように静かに速度を上げていく。

バーボンがハンドルを握るその車の中で、スコッチは狙撃銃の微調整を行っている。彼の得物はL96A1、英軍で制式採用されているイギリス産の狙撃銃だ。開発されてから数年程しか経っておらず、現在出回っている狙撃銃としてはかなり新型のものと言える。

対して、アルマニャックが抱える銃はAKM。かの有名なAK-47(カラシニコフ)の改良版だ。「世界で最も生産された銃」の名を冠しており、頑丈な作りと悪環境でも問題なく動作する信頼性で以てギネスに載った程の代物だが、その改良版とはいえスコッチが抱えるライフルに比べるとそれなりの年代物だ。

アルマニャック曰く、「()()()()()()()()使()()()()()()()()()()」「こいつより精度が優れた銃は山程あるけど、こいつほど環境を選ばない銃はないからこれがいい」「品質はこいつの方が遥かに上だけど、()()()()()()()()()()」とのことらしい。

そんな彼は、暗視スコープと合体したガスマスクで顔を覆い、フードを被っている。変装の一貫らしいが、一切の露出がない為、端から見たら誰だか分からない。その風体で銃を提げ静かにただずむその姿は、さながら歴戦のゲリラ兵だ。

 

 

 

「直に到着します。二人とも、準備を」

「おう、分かった」

了解(Roger that)

 

 

 

普段とあまりに違うアルマニャックの様子に目を見張る二人。軍人としての仕草がやけに堂に入っている。彼の年齢を考えるとあまりに矛盾したその様子からすると、もしや彼の前職とは……

と、そこまで考えたバーボンはゆるりと頭を振る。少なくとも今考えることではない。まず、これからの仕事に集中すべきだ。今回の任務はそれほど難易度が高いのだから。

ふと後ろを見ると、調整の終わったスコッチが目を瞑って静かに瞑想している。彼もアルマニャックに倣ってスイッチを入れたのだろう。

バーボンも咳払いを一つして、気持ちを切り替える。

 

 

 

現場に到着した。山中奥深くに築き上げられたこの拠点は、夜中であってもサーチライトが周囲を不規則に照らしあげている。拠点の外周はフェンスで覆われ、中を複数の歩兵が循環している。ちょっとした軍事基地と言われても違和感がない程の堅牢さだ。

降り立った三人は静かに基地の側面へ向かう。鮮やかな手際で、歩哨を音もなく始末したアルマニャックが、フェンスを切り取り穴を開ける。

中に入ったら速やかに散開する。アルマニャックは敵の足を潰すべく車庫へ向かい、スコッチは倉庫の屋上に、バーボンは基地中央にある建物の裏口へと回った。

 

 

 

「こちらアルマニャック、ポイントに到着、指示を」

『こちらスコッチ。配置についたぞ。視界は良好、どうぞ』

『こちらバーボン。突入は貴方のタイミングで行って下さい、アル。我々はそちらに合わせます』

「……了解(Copy)。では状況を開始する。……スコッチ、バーボン」

『何だ?』

『どうしました?』

「武運を。どうか無事で。Over(通信終わり)

『『!!』』

『……全く、言い逃げですか。彼らしいですが』

『心配してるのはこっちも同じだっつうの。……全く仕方ない、アルの護衛は俺に任せろ。バーボンも死ぬなよ』

『お前もな、スコッチ』

 

 

 

通信を切った途端、盛大な爆発音と共に車庫の屋根が吹き飛んだ。各所から慌てて出てくる敵兵を、アルマニャックが的確に狩っている。とてつもない射撃精度だ。

アルマニャックばかりに仕事を押し付けるつもりはない。スコッチも銃を構える。悪党とはいえ人を殺すなど、決して気の進む仕事ではないが、仲間を守る為と思えば覚悟も決められる。

 

 

 

「死ぬなよ、アル。アレでお別れは流石に寝覚めが悪すぎるぞ」

 

 

 

背後から忍び寄ろうとした敵兵を仕留めながら、スコッチはそうひとりごちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

任務は呆気なく成功に終わった。張り切ったバーボンが当初の想定より遥かに素早く仕事を終えた為、早めに撤退することが出来た。

敵兵はまだ幾らか残っていたものの、アルマニャックが大立ち回りした影響で、こちらも当初の想定よりは遥かに少ない。このまま全滅まで持っていけるのでは?とスコッチは驚愕したが、主任務を達成した時点で安全マージンを取ったバーボンの撤退指示を、アルマニャックは素直に受け入れた。

 

 

 

「いや、凄いなアル!命中率が尋常じゃなかったぞ!」

「そんなに凄かったのですか?」

「凄いなんてもんじゃない!一発も無駄撃ちしてないんじゃないかって思う位だったよ」

「褒めすぎだよスコッチ。あれにはコツがあるんだ。銃口で敵の頭をなぞりつつ、重なった瞬間だけ引き金を引くのさ。弾は当てるんじゃなくて置いてくものなんだよ」

「……その発言が本当なら、とてつもない絶技ですよそれは。少なくとも僕には出来ませんね」

「戦場でえらく強い傭兵がいてね。そいつを観察してたらそうやって銃を使ってたんだ。後は頑張って練習したよ」

 

 

 

褒め言葉を連発するスコッチに、はにかむアルマニャック。それを微笑ましく見守るバーボン。

他愛もない話をしているうちに、組織の拠点に到着した。片付けを終えた後、報告書は自分が作る、と言うバーボンにアルマニャックは手を振った。

 

 

 

「なら任せるよ。……それじゃ、今日はお疲れ様」

 

 

 

そう言ってその場を去ろうとするアルマニャックの背中に、スコッチは思わず声をかけた。

 

 

 

「なぁ、アル!」

「?」

「良かったら、今日飲まないか?ほら、初の共同任務だった訳だし!無事に終わった記念にさ」

「スコッチ、君……」

「……誘ってくれて悪いんだけど、今日は、ちょっと。ごめんね、またの機会に」

「……この前のこと、気にしてるのか」

「スコッチ!」

 

 

 

先日の一件については触れないことが暗黙の了解だった。そこに躊躇なく踏み込んだスコッチを咎めるバーボン。

それを無視して、スコッチは一歩踏み込む。このままアルを行かせてしまえば、もう二度と、笑って話が出来ないと思ったから。

 

 

 

「俺は、アルと、また酒が飲みたい。くだらない話をして笑いたい」

「…………」

「なぁアル、お前はどうだ?俺らとは、もう任務以外じゃ、会いたくないか?」

「…………んな訳、ないじゃん。でも、俺は、多分また間違える。また、二人を嫌な気持ちにしちまう」

「あれは俺達が悪い。アルの過去を勝手に聞き出して勝手に傷ついた俺達のせいだ。むしろごめんな、俺達のせいで、アルを傷つけた」

「……えぇ、スコッチの言う通りです。あの席を壊したのは我々のデリカシーの無さです。アル、貴方のせいじゃない」

 

 

 

アルマニャックの瞳が、不安げに揺れる。

もし、この場にジンやウォッカがいたならば、きっと驚愕に目を見開いただろう。誰よりも冷たい目をした、破壊と殺戮の申し子が如き男が、今や濡れた子犬のように小さくなっている。

だが、この場にいる二人は幸か不幸かアルマニャックのその一面を知らない。彼らにとって、眼の前の男は、強い戦士であると同時に守らなければならない存在であり、そして今や友人であった。

その二人の畳み掛けに、遂にアルマニャックは折れた。

 

 

 

「……いいのかな、俺。また、二人と一緒の席にいても」

「えぇ、むしろ貴方がいないとどうにも張り合いがない」

「そうそう。アルが弄り倒してくれないとバーボンは満足できない体になっちまったんだ、責任取ってもらわなきゃ困るぜアル」

「スコッチは後でしばき倒しますね」

「おぉ怖。まぁ冗談はさておき、どうだ?一杯、付き合ってくれないか?」

 

 

 

アルマニャックは泣きそうな顔で、こくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店に着いた三人は、とりあえず乾杯をする。まず口火を切ったのはスコッチだ。

 

 

 

「思うに、俺達には相互理解が足りなかったと思うんだ」

「相互理解?」

「そう。俺達はアルのことほとんど知らないし、アルも俺達の昔の話とか、知らないだろ」

「スコッチ!貴方何を……」

 

 

 

バーボンが慌てて止めに入る。先程アルマニャックに対し、過去を探って悪いと謝ったばかりで何を言うのか、そう非難しているのだろうとアルマニャックは捉えた。

だがそれだけではない。彼らは公安のスパイなのだ。当然そんなことが組織にバレたら死は免れない。組織の幹部に己の素性を話すなど、自殺行為以外の何物でもない。

一人の人間としてアルマニャックの境遇には同情するし、友好関係を築きたいとは思っている。しかし、あくまで公安としての責務が優先だ。()()()()()()()()()()()()()とスコッチに詰め寄る。

だが、スコッチの目を見たバーボンは思わず口を噤む。

大丈夫、全部任せろ、そう言っているような気がして、ため息と共にバーボンは腰を下ろす。

 

 

 

「俺は、眼の前で両親が殺された」

「「!」」

「今でも、時々夢に見る。俺の一番辛い記憶だ。……バーボンもあっただろ、そういう記憶が」

「…………えぇ、僕は、友人をテロで亡くしました。苦い、苦い記憶です」

「まぁ、何が言いたいかって話だけどさ、死別の話って、話す方も聞く方も辛い記憶なんだよ。アルも、今辛そうな顔してくれてるだろ?」

「そりゃ……二人がしんどそうな顔してるから……」

「でも、アルは自分のそういう話をする時に、そういう辛そうな感情をほとんど出してないんだよな。聞いてる側だけが辛くなって、それが空気が冷えてる原因なんだ。……どうして、アルは辛い表情を見せずにいられるんだ?」

 

 

 

スコッチが意図していない方向ではあったが、この問は間違いなくアルマニャックという人物の核心を撃ち抜いた。

アルマニャックの顔から表情が削げ落ちる。ただ一ツ、瞳だけがーーー

 

 

 

「だって……もう、飽きるほど、そんな別れをしてきたから。みんな、みんな死んじゃったから。俺の生まれ育った場所では、友との死別(そんなこと)なんてよくある話だったから。……ありふれた話なんだ。そう、思わないと、思わないと……」

「「!!」」

 

 

 

ーーー涙を湛えていた。

 

 

 

見くびっていた。時折彼が見せる憂いの底に、ここまでの闇が控えているとは思ってもみなかった。

思わず歯ぎしりをするバーボン。やはり突っ込むべきではなかった。自分達は、またしても彼の地雷を踏み抜いてしまった。それも、今までのものがちゃちに思える程の特大の代物を。

 

だが、スコッチはそれでも止まらなかった。アルマニャックの肩を両手でぐいと掴む。

 

 

 

「それ、()()()()()()()()!」

「えっ?」

「悪かった。アルがそこまで苦しんでいることを、俺は知らなかった。……アル、お前が背負っているものは、一人で背負うには重すぎる」

「でも、俺が、俺が忘れたら、あいつ等は……」

「だから俺も背負う!……俺に、話してくれないか。アルの、友達の話を。そいつらのことを、俺にも、背負わせてくれないか」

「……僕を除け者にしないでくれますか、スコッチ」

「バーボン……」

「スコッチは抜けてるところがありますからね、彼だけでは荷が重いでしょう。僕にも、背負わせてくれませんか?アル」

「スコッチ……バーボン……」

 

 

 

そこから、アルマニャックは語り始めた。最初はぽつぽつと、次第に嗚咽混じりになる声から聞き取れる話は、二人にとって腸が煮えくり返るような話だった。

 

少年兵(チャイルドソルジャー)。子供の命を、未来を、尊厳を、資源として消費し、憂さ晴らしの道具として使い潰す、強欲で醜悪で残酷な大人達。

アルマニャック()()()()()なのだ。彼のように抜け出すことさえ出来ず、今も尚、地獄の最下層で踊らされている子供達が一体どれほどいることか。

話の登場人物が、アルマニャックの仲間達が、次々と名前を出してきてはただの一人の例外もなく死んでいく。バーボンは奥歯が軋む程歯を食いしばり、スコッチに至っては握り締めた拳から血が滴り落ちている。

 

 

 

「…………それで、その作戦で、俺は一人ぼっちになった。負傷した俺を庇った仲間達は皆死んで、俺だけが死に損なった。そこから俺は、殺し屋になったんだ。……他に、出来ることもなかったから」

「アル……」

「そうしてしばらく一人で暴れてたところを、組織に拾われた。…………俺の話は、これで終わり」

 

 

 

そう言って涙を拭ったアルマニャックは、バーボンとスコッチに頭を下げた。

 

 

 

「ありがとう。……俺ね、最後に仲間が死んだ時、泣けなかったんだ。涙なんて流しても誰も助けちゃくれないし、何より、泣いたら自分が折れちゃうと思ったから。……でも、ようやく、泣けた。あいつ等の死を、悼むことが出来た。だから、ありがとう」

「こんなことで礼を言われてもな……」

「……アルの心がこれで少しでも軽くなったのなら、聞いた甲斐がありましたよ」

 

 

 

スコッチが苦り切った顔で答える。バーボンの顔も随分と憔悴していた。酒の席で聞くには、あまりに重たすぎる話ではあった。

 

 

 

「こうやって話すことで、改めて心の整理が出来たし、空気が凍る理由も分かったよ。……そりゃ、こんな辛気臭い話されたら場も冷えるよな」

 

 

 

苦い笑みを浮かべるアルマニャックに、二人も強い苦笑で答える。

 

 

 

「分かっていただけました?毎回我々がどれだけいたたまれない気持ちになっていたことか」

「ホントだぜ。当の本人だけがケロッとしてるんだから、尚の事気まずかったんだぞ」

「ごめんごめん。もう、その心配はしなくて大丈夫。何なら今後俺がこういう話出したら茶化してくれてもいいぞ」

「そこまで外道に堕ちたつもりはありませんよ」

 

 

 

誰ともなく笑い合う三人。冷え切った空気に、ようやく温かさが差し込んできた。

未だにアルマニャックの目元には涙の跡が残ってはいるものの、その笑顔に憂いはなく。それを見たスコッチとバーボンも自然と柔らかな笑みを溢す。

 

 

 

「よし!仕切り直しだ!話を聞いてくれたお礼に、今日は俺が御馳走するから、二人は目一杯呑んでくれ!」

「おや、いいんですか?今日の僕は結構飲みますよ?」

「奇遇だな、俺もだ。アルの財布で俺達二人を賄い切れるか?」

「むしろ、俺の財布をたった二人で使い切れると思ってた?無理無理!だからまァ……()()()()()()()()()()()()()()()()

「「……ほぉ〜〜〜〜?」」

 

 

 

先程までの空気を払拭するかのように、わざとらしく明るく振る舞う三人。すぐさまテーブル一杯の料理と酒が並べられる。乾杯もそこそこに、競うように酒を飲み、肴を食べていく。

 

ここに至って尚、二人は己の責務を忘れてはいない。彼らにとっての至上命題は"組織"の壊滅。すなわち、"諸伏景光"と"降谷零"にとって、"組織"の幹部である"アルマニャック"が敵であることに変わりはない。

 

でも今は、今だけは。"アル"の友人である"スコッチ"と"バーボン"として振る舞うのもいいだろう。

喪うばかりの人生を送ってきた彼には、せめて束の間の平穏を味わう権利位はあるはずだ。

 

 

 

スコッチとバーボンは願う。どうか、どうか彼の行く末に、一抹の救いがあらんことを、と。

 

 

 





スコッチ「少し気になったんだけどさ、他の飲み友達?とはこういう空気になったりしないのか?」
アルマニャック「あ~、あの二人……というかキャンティとコルンなんだけど、キャンティは「そうかい……辛かったねぇ。よし、飲みな!」で終わるし、コルンは黙って乾杯してたな」
バーボン「コルンはともかくキャンティが豪快過ぎますね」
スコッチ「そりゃそっちが通常になってりゃ空気が冷えるのにも気づかないよな」
アルマニャック「……そういえば、そういう話しちゃった時、大体キャンティが伝票持ってってくれてたな」
スコッチ「キャンティ格好いいなおい」
アルマニャック「俺、甘えてたんだな……今度お礼言わないと」



だいぶ、だいぶ難産でした。特に〆をどうしたらいいか、かなり苦しみました。

要するに、この一件でスコバボとアルマニャックの関係が深くなったよ、って話を書きたかったのですが、上手く書けたかしら……



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