経営ファイル5 竜機相搏つ
「……黒い、機兵……黒機――」
突如飛来した黒機。正体不明の巨影。それは敵か、味方か。ライト達二人は、混沌とするその光景を眺めることしかできなかった。
「――ッ!? アイツ何よ!! いきなり何をしに来たのよ!?」
「……分からない。だから、見極める必要がある。敵か、味方か。何より、これが逃げ延びるチャンスなのか」
その黒き巨影――黒機に瞳は存在しない。あるべき場所には紫色の光が横一線に走っている。しかしその存在しない視線は、ゆっくりと、しかし確実にライトの姿を捉えていた。
「こちらを……見ている……?」
視界の隅には吹き飛ばされ、その場でもがくドラゴンが映る。この世の物で無いかのような、圧倒的存在だったドラゴン。しかしそれと同格か、あるいはそれ以上の暴力を前にして、超状的な存在ではなく、初めてそこに存在する、生物としての側面を見せることとなっていた。
「――ッまだだ、アイツまだ動ける!!」
二人の反応をよそに、ドラゴンがフラフラと体勢を立て直す。そして犬の様に体を震わし、砂埃を払った。再び起き上がるのを予測していたのか、黒機はドラゴンに視線を戻すと、その巨大な腕を構え直す。
「"グ……グギャアアアアアアアアアアア"」
ドラゴンは再び咆哮を上げ、手足に力を込めると羽ばたき宙に浮いた。そして先程ライト達に向かった時の様に大口を開け、黒機へ向けて突進をしかける。
「構えろガーネッタ!! 巻き込まれないように、回避の準備を!!」
「そ……そんなの、分かってるわよ!!」
ドラゴンは黒機まであと数メートルという所まで迫っていた。それを見越した黒機は、紫色に光る巨大な爪を開くと大きく薙ぎ払う。しかしドラゴンはすんでのところで軌道を変え、その場で渦を巻くように一回転し、尻尾を叩きつける。
グギャアアアアアアアアアアアアアアン!!
巨大な腕と鋼の尾が激しく衝突し、凄まじい音を立てる。耳を貫く轟音。ぶつかりあった衝撃は大地を震わせ、周囲の物を吹き飛ばす。その光景を眺めていたライトとガーネッタも例外ではなく、ライトは地面に剣を突き刺し体勢を固め、ガーネッタはそのライトにしがみつく様な形で、吹き飛ばされないように踏ん張った。
「ッッ!! コイツら、本当にナニモンなのよ!! 本当にアタシ達と同じ生き物!?」
ドラゴンはその軌道のまま、大きな円を描く様に飛び去っていく。強固な尻尾に打ち付けられ、体勢を崩した黒機だったが、その視線は高速で飛び去るドラゴンを確かに捉え続けていた。
ギュオオオオオオオオオ――
円を描くように飛んで行ったドラゴンは、やがて遥か上空にその身を置いた。そして翼を日輪のように広げ、大口を開けると周囲には稲妻が
「空気が――」
辺りの全てが吸い込まれるように、一点に収束していく。まるで何か強大な力に引き寄せられる様に。
「吸い寄せられていく……?」
それから間を置かずして次の瞬間、圧縮された空気が凄まじい衝撃と共に、地上の黒機に向け発射された。
「ガーネッタ!! 伏せろ!! 今までの空気弾とは――」
明らかな身の危険を感じ、ガーネッタの背中を押し込むようにしてライトはしゃがみこむ。音速を超え、空気弾は異様な破裂音を放ち迫り来る。やがて数秒の沈黙を置き、空気弾は地表に直撃。とてつもない爆発音と砂埃を撒き散らし、そこには――
ヒュオオオン――
――既に、黒機の姿は無かった。
「一瞬で地形ごと、全てを消し飛ばされたっていうの……?」
それは呆気ない幕引きか、周囲には砂利とかした瓦礫が舞い落ちる音だけが響く。
「――いや違う、向こう側だガーネッタ!!」
ライトは砂埃の向こう側、ドラゴンの後ろを指差す。そこには一際異彩を放つ黒い影がそびえ立っていた。
「――空間移動!?」「――転移魔術!?」
そのスピードは、丸で残像が形となってハッキリと残るが如く速さ。黒機は二人の視覚処理速度を遥かに凌駕していた。装甲から漏れる光の軌跡が無ければ、空間を跳躍したと捉えるのが正常だろう。迫る空気弾をまるで、物理法則を無視したとしか思えないスピードで回避した黒機は、背面と肩部の装甲を開き、紫色の炎と粒子を散らしながら、視界の隅で佇んでいた。
「……いや違う、アイツは自前の推力だけで回避している!!」
ドラゴンの攻撃を軽々といなした黒機は、両腕を頭上のドラゴンに向ける。そして手甲に空いた穴から、超高速で光弾を乱射する。しかし距離が離れていたドラゴンはその
「ッ……!! お互いに戦闘スピードが速すぎて、もう何もかもがわからないわよこんなの!!」
「風圧ひとつでも巻き込まれたら、それこそひとたまりもない!!」
黒機は両脚に力を溜め、地面を蹴り出すと、はるか上空に位置するドラゴン目掛け高速で飛んでいく。そのスピードは最早ドラゴンの飛行スピードを超えていた。
「コイツも飛べるの!?」
地上から飛び立った黒機は、瞬時にしてドラゴンの飛行していた高度まで追いついた。それを読んでいたかのように、ドラゴンも高速で宙を翔る。そして二体の巨影が接敵し、遂に空中戦が始まった。
「……本当に、僕達は一体何を見せられているんだ……」
それは打ち合う二つの流星か、稲妻か。激しく何度も追突し合い、花火のように眩い光を散らす。ある種幻想的な光景を目にして、少年と少女は呆気にとられることしか出来なかった。そんな二人をよそに、空中では激戦が繰り広げられる。ドラゴンが空気弾を連射し、黒機がそれを掠らせながら避ける。黒機も負けじと巨大な爪で斬りかかり、ドラゴンはそれを翼腕と尾で上手くいなす。まるで手練の剣士の決闘のように、鬼気迫る勢いで一騎打ちは続く。
「とりあえず、奴らが離れた距離で争っている今しかない。ガーネッタ、一旦物陰に身を隠すよ!!」
ドラゴンと黒機が激しい戦いを繰り広げられる中、ライトとガーネッタは巻き込まれないように瓦礫の影に身を隠す。力を持たぬ二人にできることは今、逃げることと身を隠すことだけである。
「で、隠れたは良いけどここからどうやって逃げるつもり?」
「こうなったらもう、薮の中を突き進んででもこの場から逃げるしかない。下手にここで時間稼ぎをするのも危険だ」
「正気!? 来る時の獣道ですら周囲の状況が確認できなくて面倒だったのよ!?」
「少なくとも、奴らの流れ弾に当たって死ぬよりかは生き残る可能性は高い」
二人が生き残るために思惑を重ねる中、そんなことは知らんとばかりに空中では火花が舞い散る。周囲には空気弾と光弾が撒き散らされ、あらゆる場所で爆発と砂埃が巻き起こっている。
「……どの道、この場に居たら二人とも死ぬ。これは確実だ」
ガギイィィィィン!!!!
二人が決断を迫られていた中、突如として上空には鈍い金属音が鳴り響く。それは、戦いの進展を知らせる音。ドラゴンの尻尾の一撃を受け、黒機が体勢を崩した音だった。
「「……!?」」
二人が声を上げる間もなく、一瞬にして戦況は大きくドラゴンの方に傾いた。体勢を崩された黒機は後ろに大きく仰け反り、そのまま緩やかに後ろに後退していく。それ自体は致命的な物とはならなかったが、その隙を見逃す訳もなく、ドラゴンは即座に黒機へ向け強烈な頭突きをしかけた。ドラゴンの突進を防ぎ、いなすことができなかった黒機は、空中から地面に向け叩き付けられる。
「追撃が来るぞ!!」
そこにドラゴンは畳み掛けるように空気弾を連射。地表で瓦礫に埋もれていた黒機は、回避することもままならず空気弾の直撃を食らった。砂埃が激しく舞い散る中、ドラゴンは地表の黒機目掛け高速で飛来する。やがて地面にのめり込んだ黒機を、その巨大な翼腕で握りしめると、廃墟の山を引きずるようにして、執拗に何回も瓦礫にぶつけていく。
「おいおいおい――こっちに来るなよ……!?」
「あんなスピードでインファイトをされたら、もう逃げようが無いわよ……!!」
しかし黒機もやられるばかりでは無かった。一瞬の不意を突き、両足で蹴りを入れる様にしてドラゴンを突き飛ばす。体勢を崩され後ろによろめいたドラゴン目掛け、黒機は再び爪による斬撃を仕掛けた。だが、この斬撃はドラゴンの鱗を掠め取る程で致命的な一撃とはならない。お互いに体勢を立て直し、次の行動を予測するかの様に睨みをきかせるのであった。
「"――グオオオオオオオオオオオオン!!!!"」
再び先行で攻撃に出たのは、ドラゴンの方だった。今度は空気弾ではなく、翼腕を拳の様に振り回し、叩きつけるように何度も黒機の腕を殴りつけるパワープレイだ。巨体を生かした凄まじい連撃を前に、流石の黒機も巨大な腕を盾替わりにするのが精一杯となる。
「……受け止めた!?」
しかし今度は黒機がコンマ数秒の隙を見て、反撃に出る。黒機は巨大な盾のように合わせていた腕を解き、そのまま振りかざされる翼腕を握りしめると、手押し相撲を思わせる体勢を取り動きを封じていく。
「うっそ……あの体格差で互角!? 」
黒機も人より巨大な体躯をしているが、ドラゴンはその更に二倍ほどの大きさを誇る。その黒機の体格で、ようやく人間と中型原生生物ほどの体格差となっている。
「ドラゴンが僕らの常識を越えているのは見ればわかるけど、あの黒機も相当だ。こんなパワー、少なくとも現代の技術では再現のしようがない。太古に失われたテクノロジーか、或いは未来から来た未知の生命体か……」
黒機の拳を受け、ドラゴンは再びその場で体勢を崩す。それが防戦一方だった黒機の戦いに変化をもたらす。その打撃はダメージこそ与えなかったが、よろけたドラゴンに向け、黒機は渾身の貫手で追撃をする。紫に光り輝く爪が胴体に突き刺さり、ドラゴンは断末魔を上げる。
「
しかしドラゴンも、やられたままでは済ませなかった。ドラゴンは貫手を胴体に受けた状態で、身体を捩るようにして尻尾を振り回す。そしてそのまま勢いを付けると、黒機の首と思われる部位に向けて力の限り槍状の尾を突き刺した。途端に金属と金属の擦れ軋む音が響き渡る。
「……ッ!! 間違いない、おそらくこれが最初で最後のチャンスだ!!」
「――ッ行くのね!? 今ッ!!」
ライトの合図を皮切りに、呆気にとられていた二人は我に返る。そして二体の巨影から遠ざかる様に走り始めた。その先に、策も道も存在しない。ただ、圧倒的暴力から逃れる為に、究極の二択から
「ライト!! 地図!! 魔石!!」
「了解!!」
そんな背を向け走り始める二人をよそに、黒機と絡み合い、膠着した体勢のドラゴンは大口を開ける。そして再び周囲の空気が、稲妻が吸い込まれていくかの様に収束していく。
「振り返るな!! 走れ!! この距離なら間に合う!!」
ライト達が茂みの中に入って行った直後か、二人の背後から凄まじい爆発音と衝撃波が襲ってきた。大地は揺れ、空気は歪み、薄暗い世界は刹那にして、真昼の陽光に照らされているが如く光り輝いた。
ライトは振り向きたかった。異形なる物達の、争いの行く末を見たい好奇心からか、或いは背を向ける恐怖からか。だが『死にたくない』という生き物に備わっている本能が、それをさせなかった。
二人は道無き道を、駆け抜ける。矢印が指し示す先を目指し、ひたすらに。その先は崖かもしれない。あるいは、凶暴な魔物の住処かもしれない。だがその足は止まらなかった。最大級の災厄、天災すら生ぬるい命の危険を背にして、他のことは全て些事だったからだ。
それから何時間走ったか。どこに走ったか。もはや道無き道を、ひたすらに二人は駆けた。手元の魔石が指し示す宿屋の方角だけを頼りに、がむしゃらに走り続けた。やがて日が沈み、周囲には二人の息遣いと草木が擦れる音だけが響き渡る。それから見慣れた草原に出て、宿屋に逃げ帰ったのは深夜を過ぎ、日が登り始める頃。二人は宿屋に辿り着き、空に一切の遮るものがない月を見て安堵し、やがて意識を失った。
【次回予告】
神か、人か、誰かが回した賽の目は、今日も気まぐれに転がり続ける。回した誰かが誰かも知らずに。進むか、戻るか。右か、左か。そして生きるか、死ぬか。幸運にも生き延びた二人の若者に、二対の『力』は二択を迫る。賽を振って進めるか、盤から降りて終わりにするか。静まり返った一室で、少年と少女は決断を迫られる。「あなたは夢のために死ねますか?」
次回 異世界テンプレ物のよくある宿屋酒場物語
第六話 『来訪者』
書く気があるので投稿してます。お楽しみに!!(どの口が言うか)
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