TS最強二人組をヒロインにしただけの話   作:キヤやま

1 / 5
プロローグ

、、、ぐぅ、がぁう、がうがう

 

一筋の光も差し込まない真っ暗な地下の牢獄。

その中に一人(・・)の獣の呻き声が響いていた。

 

その牢獄は酷い有様であり、鉄格子は獣の噛み跡により歪んでおり、壁や床は至る所に爪で攻撃された跡がある。

 

獣の排泄物かその獣自身の臭いか、牢獄からは酷い悪臭が発せられている。尤も、この牢獄に唯一いる獣にはもうその臭いを認識できないほど悪臭に浸ってしまっていたのだが。

 

牢獄に囚われている獣は衰弱していた。

 

本来、猛烈さを感じさせる狼の様な風貌をした、巨大な体は骨が浮かび上がるほどに枯れ果て、見るものを震え上がらせる凶悪な爪と牙は欠けており、ボロボロの状態であった。

 

いや、本来、と述べるのはあまりにも哀れか。

 

元々、この生命には爪や牙などという野蛮な物はなかったし、獰猛な獣でさえもなかった。

 

父に肩から見せてもらう光景にはしゃぎ、母が作ってくれる料理に舌鼓を打ち、近所の子供達と一緒に泥団子を作って遊ぶ。

 

そんなありふれた幸せを噛み締めている少年だった。

ただ、少年は一つだけ他の者とかけ離れていた。

それは、この世から逸脱した存在。呪霊と呼ばれるものが視れることであった。

 

しかし、少年には呪霊を祓うことが出来る両親がいた。

少年は得体の知れない化け物から自分を守ってくれる両親に心から感謝して、安堵していた。

 

だが、そんな平穏は終わりを迎える。

少年が齢10歳の時に事は起きた。

 

夜中の出来事であった。少年はその夜の出来事について曖昧だが、血のようなひどく鼻につく悪臭が漂っていたことは覚えている。

 

少年は臭いの原因を突き止めようと辿っていくと両親の寝室に繋がっていた。

 

頭に思い浮かぶ可能性を否定しながら扉をあける。

 

その夜は赤に染まっていた。

 

気がつけば、少年は暗闇に閉じ込められていた。

前までは大人が冷えたご飯()を渡しに来たが、今ではそんな気配もない。刻一刻とその少年()は衰弱していった。

 

そうして、床に這いつくばるただ死を待つだけの存在に成り下がった。

 

かつん、かつん、かつん。

 

しかし、神は少年を見捨ててはいないのだろうか。

この牢獄に複数の足音が向かってくる。

 

ーーひさしぶりのめしか?ーー

 

少年は随分と動かしていない体を鉄格子の方へ向ける。

明かりを持っているのだろうか。足音が大きくなっていくにつれ、廊下がだんだんと明るくなっていく。

 

足音は鉄格子の前で止まった。

 

「くっっっさ!おえっ、ゲホッ。こんなところにほんとに人いるの?とんだマゾじゃねぇか」

 

そう言いながら、こちらの方向へと提灯をかざしてくる。

 

三人だろうか、暗くてよく見えないが二人は提灯の高さを見るに大人と判断していいだろう。

 

そして、その大人に挟まれるように立っている青い光が目に入る。

 

年齢は自分と同じくらいだろうか。

提灯に照らされた、絹のような白い髪と手入れされた白い肌。着物は一部しか見えないが、華やかそうに見えた。

何より、圧倒的な存在感を誇る青い目。

 

どこまでも羨ましく、妬ましかった。

 

ガンッ!

「あ?」

 

気づけば、俺はそいつに向かって爪を振り上げいた。

鉄格子が爪の軌道に入っていたが、ボロボロだったため壊れた。一瞬後、そいつの顔面は爪で切り裂かれているはずだった。

しかし、爪は届くことなく、顔の前で静止していた。

 

なぜ?

 

疑問も束の間、鉄格子から壁の方へ弾き飛ばされる。

「悟様、早めに終わらせた方がよろしいかと」

隣に立っていた大人の一人が話しかける。

 

「わかってるつーの」

 

またも謎の力を使い鉄格子を曲げて、牢獄に入ってきた。

 

「これより、調伏の儀を始める。」

 

そう宣言された後、体が焼けるように熱くなり、疼き始める。

同時に、腹からドス黒いものが体に巡るのを感じる。

 

なんで、なんで、なんで?

なんでお前はそんなに恵まれてんだよ。

 

俺とお前は同じくらいの歳のはずなのに、お前はなんで着物着て、肌と髪がそんなに綺麗なんだよ。俺だって、そうだったのに、こんな無様な姿になってしまったのに、なんで俺は奪われたのに、そんなに恵まれてんだよ。

 

また、攻撃を仕掛けようとするも体がうまく動かない。長い間ここに閉じ込められていたせいだろうか。

 

「、、、悪いな。」

 

そんな言葉が聞こえた瞬間、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

ーーママー、あれなにー?

ーーあれはね、この世のものじゃない、とっても恐ろしいものなのよ。だから、絶対に目を合わせたり、近づこうとしちゃだめよ。

ーー塩を撒いたら、退治できるかな?

ーーはぁ、あんたねぇ、塩撒いた程度じゃどうにもできないわよ。大丈夫よ。あなたにはパパやママのような道を歩ませないから。

 

ーーだから、清雅が心配する必要はないんだよ。

 

 

俺には、お父さんやお母さんが歩んだ道というのは分からなかった。だけど、この瞬間から同じ道を辿るのだろうという確信があった。

 

 

 

 

意識が覚醒してくると、光が目に差し込んでくる感覚がある。

柔らかい感触と温もりに包まれている。多分布団にいるのだろう。

目を開いて辺りを確認すると、そこは牢獄ではなく、前に住んでいたような和式の部屋だった。

 

安堵したのも束の間、自分が獣姿になっていたことを思い出し、急いで布団を剥がして己の身を確認する。

 

手が2本、足が2本と服を着せられた胴体。正常な人間そのものだった。

ほっ、と息をついて改めて布団に身を預ける。柔らかさと温かさ、この尊さを今ほど噛み締めることはないだろう。

 

ガラガラッ

「ん?ようやく目ぇ覚ましたのかよ」

 

そう言いながら入ってきたのは、先ほど俺と対峙した少女だった。いや、口調を見ると少年だろうか。

 

暗闇だったことや自分が暴走状態にあったことから、容姿は一部しか確認できなかったけど、やっぱり面はよかった。

 

中性的な顔立ちはこの世のものとは思えないほど整っている上、そこに白い髪と青い目が上乗せされて、天使と形容しても劣らないほどの神秘性を感じ取らせている。

 

「お前、何者なんだ?さっき謎の力も使ってたし」

「おいおい、人様に名前を尋ねるなら、自分が先に名乗「高辻清雅、お前は?」

「、、、五条悟」

 

しかめっ面しないでほしい。そんなありきたりな事を言われたら遮りたくなるじゃないか。

 

「あと、お前ガチで臭いこと自覚しとけよ。芳香剤撒いてもめっちゃ臭い漂ってるし、その布団使えねぇじゃねぇか」

「うぐぅ!」

 

さっきからいい匂いすると思ったらそれかよ。わざわざ残酷なことを指摘してくるなんて、口調である程度分かっていたが、見た目に反してズカズカと言ってくる性格だなこいつ。

 

「まぁいいや。オレがここ来たのは、お前に置かれている状況について説明するためだ。」

 

まじでくっせーなー、と言いながら、寝てる俺の頭の横に座る。

 

状況。そうだ。

なんで俺が狼の様な姿になっていたのかとか、どういう経緯で牢獄に閉じ込められたのかとか、あの謎の力はなんなのかとか、聞きたいことはたくさんある。

けど、

 

「なぁ」

「んだよ」

「俺がこんな状況に置かれてるのは、あの、日頃から見かける化け物達が関係しているのか?」

「化け物?あー、呪霊のことか?まぁ、当たらずも遠からずってどこだな」

 

「まぁ、取り敢えずお前の身の上話をするけど、結構飛躍した内容になるから、そこらへん飲み込んどけよ」

 

 

 

 

 

お前の出自ってのは複雑で、相当昔まで話が遡る。

呪術全盛の世。平安時代までな。

 

呪術ってのはお前でいう化け物。呪霊と密接なもんだな。まぁ、かるーく呪術について説明してやる。

 

この世は大なり小なり呪力ってのを生物は宿してる。多くの呪力持ってんのが、オレみたいな呪術師って話。以前、お前を弾き飛ばしたのも呪力の一種だな。そして、人の呪いがある程度集結すると呪霊が発生する。

 

これが呪術に対するおおまかな説明だな。

 

話を戻すと、呪術がけっこーお盛んで、民間人のなかにも沢山の呪術師がいた。そんな時代の中、呪術師の間で、ある蠱術が流行した。それが、お前の正体の根源でもある犬神憑きだ。

 

ざっくりと犬神憑きについて説明すると、飢餓寸前の犬っころを縛りつけて、食べ物を目の前に置いて首を打ち落とすっていう儀式。悪趣味だよなー。

 

それがお手軽で相当強い呪いが得られるもんだから、当時は各地で犬の呪霊やら儀式して呪われた奴が大量にいてパニックになったらしい。

 

でも、そもそも蠱術が禁止令出されていたってことと、犬神憑きの儀式を行った家系が差別の対象になって婚姻を結べなくなる様な事態が発生したから、犬神憑きの儀式を行う者は少なくなっていった。

 

で、済めばよかったんだけど、400年前、オレの先祖が犬神憑きの儀式をした。生憎とそいつはここ()のネジがイカれてる奴でな、普通の犬でやる所を犬の式神で取り行った。

あ、式神ってのは強い力があるペット的な奴な。

 

これの何がまずいかってと、恨む感情がある式神使うわけだから相当式神の位が高いわけ、その上式神には飢餓ってのがないから、代わりに行ったのが、蠱毒で生き残った生物を潰しただし汁に漬け込んだってこと。するとあらびっくり、超強い呪いの出来上がり。

 

その儀式をした奴は当然本家から追放されて、呪い殺されたけど、そいつの子孫はしぶとく生き延びた。それが、お前の血筋の話。

 

家系を調べた結果、ちょくちょく変な死に方してる奴がいて、近頃は呪いの効果が薄まって死んでる奴は少なくなったけど、先祖返りを起こしたか気まぐれか、お前に呪いが発現した。

 

 

 

 

 

「それで、無事保護されたお前がオレの超遠縁ってことが判明して、オレの護衛兼ペットになったってわけ。アンダースタンド?」

「ちょっと待て。俺の出自やらここにいる経緯は分かったが、ペットってのはどういうことだ。」

 

俺はお前のペットになったつもりは1ミリもないぞ。

 

「ん?気づいてなかったのかよ、ほれ、鏡みてみ?」

「、、、なんじゃこりゃ」

 

鏡を覗き込んで見ると、首には何かの紋様みたいなものが刻まれている。

どういうこっちゃ

 

「通常、そういう主従関係を作るのは式神でしか出来ないんだけど、お前は元式神の呪霊に憑かれてるからその名残みたいなもんで式神判定になってるわけ。基本、オレからの強制した命令はできないんだけど、立場的に絶対服従な。」

 

なんだこいつ。人を勝手にパシリ扱いしやがって。お前俺と同じ10歳くらいだよな?

 

「あと、あんまオレの周りうろちょろすんなよ。雑魚に守られても意味ねぇし。んじゃ。」

「待てよ」

 

好きなだけ言いたいことを言って、去ろうとした五条の背中を引き止める。

 

「まだ、俺の両親が死んだ理由を聞けてない。」

「、、、寝室の呪力の残影を調べたら結果、呪霊に襲撃された可能性が高いってさ。そんで、悲しみで暴走したお前が獣となって暴れた。それが、保護された経緯だ。」

 

そう言い残して五条はドアの方へ向かい、部屋を去る。

 

 

それを見届けた後、俺は布団を覆い被せる。

 

「もう、よく分からないや」

今まで、お父さんとお母さんと一緒に過ごして、その生活が長く続くんだろうって思ってた。

 

でも、そんな理想は砕けて、両親は死んで、長い間閉じ込められて、その理由が訳のわからない超常現象で。

 

未来も不安だらけで、未だにここがどこか曖昧で、知らない奴の下僕みたいな扱いになって、どんな生活が待ち受けているか分からない。

 

でも、今そんなことを考える余裕はなかった。

 

 

 

、、違う、違うはずだ、違ってたんだ。

両親が死んだのは呪霊のせいだったんだ。俺は寝室で寝ていて、両親の死の現場に居合わせなかったんだ。

あの夜の出来事はあんまり覚えてないし。

だから、違う。違うはずだ。

だから、きっと俺の爪が血塗れた様に見えたのも気のせいだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。