TS最強二人組をヒロインにしただけの話   作:キヤやま

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失った者と持たざる者

 

季節は夏の下旬。この家に俺が住むことになってから半年が経過しようとしていた。

 

「あー!このハーゲンダッツってのうまいな。毎回買ってきてくれよ高辻」

「馬鹿野郎。これ結構高いんだよ。毎回買ってきてたらポテチとコーラにさける金がなくなっちまう。」

「えー、けち」

 

五条家の本来使われていないはずだろう空き部屋。そこで俺たちはアイスを食べていた。

 

この殺意に溢れた暑さの中でアイスを食べなければ、きっと俺はアイスのように溶けるのだろう。

そう考えると、これも共食いと呼べるのだろうか。

 

隙あり!と声が聞こえたかと思うと俺が飲むはずのコーラが五条の手の中に収められてられている。

 

またかこいつ。五条の顔を見ると、ニヤニヤしながらキャップの方へ手を伸ばしていた。

 

「おい五条、覚悟はできてんだろうな?」

「なんも対策してないそっちがわりぃんだよ。いい加減そろそろ学習、、」

 

ぷしゅ!五条が蓋を開けた瞬間そんな音が響き渡る。その事態に驚きながらも無下限を展開したが、時すでに遅し。五条の手と服は炭酸の被害を浴びていた。

 

「、、てめぇ。嵌めやがったな?」

「五条家のお坊ちゃまが三流みたいなこと言うなんて、呪術界の未来は真っ暗だな。お前の分のコーラは用意してるのに欲張んなよ」

 

コーラを毎回俺から盗んでた罰が当たったんだよ。負け犬の遠吠えを聞きながらハーゲンダッツを食べる。クゥゥー!キンッキンッに冷えてやがる!

 

「これで勝ったと思ってんじゃねぇよ。」

 

隣からなにやら聞こえてくるが、既に五条には打てる手はない。ハーゲンダッツは食い終わるし、もう既に俺のコーラには口をつけてある。この詰みの布陣の前でどうするというのだね?

 

怒りを俺へと突き立てる手段はないだろうと小馬鹿にしたような視線を向けると、五条は嘲笑った。

 

「こうすんだよ、バーカ。」

 

そう宣言すると、五条は俺の飲みかけのコーラを手にして、飲んだ。

 

「「えほっ、げほっ」」

 

俺は驚きのあまり、ハーゲンダッツを喉に詰まらせて、こいつは炭酸をがぶ飲みしたせいでお互い咽せた。

 

「うぷっ。これが格の違いだ。分かったらペットらしく大人しく尻尾振っとけ。」

 

してやったりと言わんばかりのしたり顔でそんな事を言う五条。

 

「、、いや、なんでお前、間接キスしてんだよ。」

「、、、あっ。」

 

今気づいた言わんばかりの間抜けな声が響き、頬がだんだんと赤く染まっていく。

 

俺のファースト間接キスは男に奪われてしまったのだろうか、そう思うと、泣きたくなるような気持ちが迫り上がってきた。

 

 

 

 

木刀が空気を切り裂くような音が耳元から聞こえてくる。

 

「いっっっ!」

「どうした?そんな程度では悟様の護衛は務まらんぞ?」

 

木刀が人差し爪に擦り、剥がれてしまう。あまりの痛さに指を抱えて倒れてしまうが、それを嘲笑うかのような愉快そうな声がかかってくる。

 

顔を上げると、悪辣な笑みを浮かべながら立つ稽古相手がいる。

 

「さぁ立て。その程度の傷ならすぐ治癒出来るだろう?」

 

治るとしても痛みは変わんねーてんだよ。糞が。

 

顔を顰めながら、人差し指に意識を集中させていく。すると、人差し指からどんどん痛みが消えていき、最終的には爪は元の状態まで生えていた。

 

「よし、訓練を再開するぞ。」

 

待ちきれないと言わんばかりに木刀を構える。

五条家の訓練場、そこで俺は訓練とは名ばかりの暴力を受けていた、

 

「いやはや、楽しそうですねぇ。」

「多少大きな傷を負ってもすぐ治る上、打てばいい声で鳴く。女とは違った良さがありますな。」

「全く、こちらにも少しは譲って欲しいものだ」

 

聞こえないと思って言ってるんだろうが、生憎と耳がいいので丸聞こえだ。

 

分かってんだよ。お前らが俺をおもちゃ扱いしてんのは。

 

結局、訓練が終わる頃にはいつものように身体には痣と傷で埋め尽くされていた。

 

身体の痛みに嘆きながら家に戻ると、食卓の前に使用人が立っている。

 

「高辻様、昼食の準備が完了しました」

「ん、分かった。」

 

そう返事をすると、使用人は足早に去っていく。

 

一人で食卓に着き、ご飯を食べる。高級な素材を使っていることはわかったが、どうにもお母さんの料理と比べると味気なく、そして冷たかった。

 

だけど、これがいつもの俺の生活。日常だ。

 

周りからは道具のように扱われ、親しい関係もいない。

 

けど、半年間ここで俺は暮らしてきた。

 

だから、今更泣き言を言うつもりじゃないが。

 

もし、あのまま両親と一緒にいた生活が出来ていたらなんて、夢想してしまうのも仕方ないのだろう。

 

瞳から熱いものがこぼれ落ちないように強く唇を噛み締めた。

 

 

 

 

 

時は少し遡り、高辻清雅と五条悟がまだ打ち解ける前の話。

 

「アイスよ、お前だけが頼み綱だぞ。」

 

今までこの家に来てから様々な問題に直面してきたが、まさか季節にまで牙を剥かれるとは思ってもいなかった。

 

季節が春から夏へ変わっていき、それにつれて気温も上がっていく。

 

しかし、この家には冷房というものはない。

 

その上、俺の部屋の窓は直射日光を浴びる様な位置取りであるため、もはや俺の部屋はサウナ状態となっていた。

 

これはまずいと避難場所を探していた俺は、運良く日差しがささない上、長く使われてないだろう埃被った部屋を見つけてそこを活動拠点とした。

 

「冷房がないとか、どんだけここの文化は遅れているんだ。」

 

アイスを食べ終えて、俺はポテチ、じゃがりこ、コーラという三種の神器を手にしながらくつろぐ。

 

このお菓子達は俺がこっそり家からお金を拝借して買ったものだ。いつも木刀でボコスカ殴ってくるのだから、このくらいは妥当だろう。

 

この光景を見られたら面倒だが、ここは相当長く使われてなかった空き部屋。掃除する時の埃の量は想像を絶したが、裏を返せば信頼の証。

 

それ故に、ここが見つかることはありえないだろう。

 

「何食ってんの?それ?」

 

フラグを立てたのがいけなかったのだろうか。慌てて声のした方向を見ると、そこには五条が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅいー、ポテチうまかった。」

 

そんなこんなで弱みを握られた俺はこの秘密を守る条件として、代わりに五条の分までお菓子を買ってくる制約を交わした。

 

当初はあまり乗り気ではなかったが、唯一の同年代ということもあり、空き部屋でお菓子を一緒に食べていくにつれて仲が深まっていった。

 

そうして、俺と五条はこのほろ暗い空き部屋で一緒に雑談しながら食べるようになった。

 

この空間は日差しがささないため暗い。俺にはあまり暗い空間にいい思い出がないのだが、夏の暑さから逃れるためには必要だ。

 

「唐突で悪いんだがよ」

 

五条が間接キスを誤ってして気まずい雰囲気が流れた後、俺たちは地面に寝っ転がりながらお菓子の余韻に浸っていた。

 

「なんで、俺はお前の護衛に任命されたんだ?」

「、、、なんでって、オレと高辻が遠縁だからだろ。」

 

五条は顔を逸らしながら答える。

 

「バカいえ、あの排他的な奴らが俺みたいな危険分子をお前に近づかさせるわけないだろ」

 

俺も半年暮らしてある程度事情もわかってくる。こいつが何百年に一人の逸材で一段とあり、この家で最も特別な存在であると。

 

式神の主従契約はハリボテで何も強制力をもたない。なのに、式神という名目で俺が危害を加えられる立場にいることを看過して身近なところに置かせるなどあまりにもおかしい。

 

 

「、、あのジジイどもの嫌がらせだろ。」

「なんのためにだよ。お前を敵にまわしてまでやる理由はないだろ。」

「理由ならある」

「なんだよ」

「女だから」

「は?」

 

「オレが女だからだよ」

 

     一瞬、思考が停止してしまう。こいつ、女だったのか?

 

確かに最初はどちらの性別か分からなかったが、口調から男だと思い込んでいた。

 

今まで自分の身近な存在が女だったという事実に衝撃を受けて頭が軽くパニックになる。

 

「高辻はもうここが男尊女卑に染まってるって分かってんだろ。だけど、ジジイ共がもしかしたら女が当主の座に座るかもしれないって心配してんの。」

 

五条は一向にこちらに目もくれず、独白のように言葉を綴っていく。

 

「高辻をオレの近くに置いたのも、あわよくばお前が殺してくれるじゃないかって期待してるわけ。」

 

いつもの余裕に満ちた傲慢な態度が、どんどん剥がれ落ちていく。

 

「なのに、悟なんて男らしい名前なんかつけてさ、ほんっとに訳わかんねー奴らだよな」

 

剥がれ落ちた先にあったのは孤独な状況でありながらも一人で立っている子供だった。

 

俺は五条のことを見誤っていた。生まれた時から特別な存在で顔も才能も環境も、俺が欲しかったものを、俺が失ったものを当たり前の様に持っているやつだと思っていた。

 

けど、実際は俺もこいつも独りだった。

 

「、、俺は、悟って名前。嫌いじゃないぞ」

「、、、あ?」

 

ようやくこっちを向いたかと思うと底冷えする様な冷たい目線を向けてくる。

 

「哀れんでんのか?別にオレは同情してもらうために言ったんじゃねぇぞ!」

 

よほど気に障ったのだろうか。五条が足を地面にめがけて振り下ろすと、そこには小規模なクレーターができていた。

 

「同情じゃねぇよ」

 

俺は荒ぶっている青い瞳を真っ直ぐ見据える。正直、俺はこいつの自由奔放で、自信満々で、傲慢不遜な態度が嫌いだった。何にも誇るものを持っていない自分が惨めになるから。

 

「お前にそんな窮屈な顔は似合わねぇから言ってんだよ。悟。」

 

でも、それ以上に。暴力と不信に満ちたこの生活でも堂々としていたその態度に。

 

俺は誰よりも救われていた。

 

 

 

 

 

 

 

女は貞淑であれ。

 

それは呪術界に女として生まれた以上、避けては通れぬ道。

 

この呪術界に蔓延る風潮が揺らぐことはなかった。

 

ただ、五条悟が誕生するまでは。

 

六眼と無下限の抱き合わせという五条家最大の家宝、最も神に恵まれて生を受けた存在。

 

この事実は当時五条家に生きていた者にとってめでたいことであっただろう。

 

女として生まれていなければ。

 

産まれた当初は、とんでもない騒ぎと論争が巻き起こった。五条悟を処分して六眼使いを新たに誕生させてみるという意見もあったが、そんなリスクを冒す度胸はなく。結局五条悟は今も生きている。

 

ただ、呪術界。それも御三家である五条家において、万が一にも女が当主となり、自分達の上の存在となることは到底許せることではない。

 

それにより、男性からは卑下、侮辱、時には情欲の目線が向けられ。女性からは妬み、羨望、艶羨の目で見られた。

 

結局、五条悟は男性という強者にもなれず、女性という弱者にもなれず、孤独なままであった。

 

 

 

 

 

「お前にそんな窮屈な顔は似合わねぇから言ってんだよ、悟。」

 

この言葉が聞こえるまでは。

 

強い眼差しは自分を貫くように見据えられている。

 

六眼と無下限の己でもなく、女としての自分でもない。ただ、ありのままの五条悟という人物を見つめられているな感覚に陥る。

 

「窮屈って、なんだよ。」

「お前はもっと傲慢で、自分勝手な奴だろ。男尊女卑なんかに流されて自分を殺すようなタマじゃないだろ。」

「、、そっか。」

 

その言葉は、視線は、今までの中で一番真っ直ぐで、そして温もりに満ちていた。

 

「んじゃ。今から一緒にコンビニ行くぞ。」

「、、、は?一体どういう思考回路でそうなったんだよ」

「昔からキョーミあったんだよ。あ、でもオレ道わかんないからガイドしっかりしろよ。」

「お前なぁ、万が一家にバレたんならどうすんだよ」

 

自分を肯定するようなことを言ってくれたのだから、このくらいの我儘に付き合ってもらわないと困る。

 

「オレたちなら大丈夫だろ。清雅。」

 

手を無理矢理引っ張って外へ向かっていく。さっきまで日差しが悪いところにいたせいか、夏の暑さを忘れるほどに景色が明るく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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