TS最強二人組をヒロインにしただけの話 作:キヤやま
アァ、ヤメテ、イタイヨォ。
ぐちゃ、ぐちゃ、ぐちゃ。
目の前から声が聞こえてくる。肉塊が頬に飛んでくる。
ただ、そんな些事はどうでも良く。どこまでも喰らいたい。自分が本来あるべきところにいるような、そんな感覚だ。
うまい。うまいか?うまいな。だってこんなに欲しているんだもの。うまいに決まってる。
ヤダァ、タスケテ、モウヤメ
ガブリ。最後に残った頭を食べると声が聞こえなくなった。手に残っている肉塊をすする。
足りない。足らない。足り得ない。
あと少し、もう一つ、もっと食べたい。
どろりとしたものが思考を支配していく。
もっと食べたい。
他に食べる物はあるのだろうか。立ち上がって歩き始める。
耳を澄ませる、目を凝らす、鼻を研ぎ澄ませる。
決して獲物を逃さぬよう。
すると、靴の音が聞こえてくる。人間だ。
少し期待外れではあるが、空腹を満たすためには十分だ。どこにいるのかを把握しなければ、、
、、、己の足元から聞こえてくる?
下を見てみるとそこには自分の足があり、トントンと地面を叩いてみればさっきの靴と同じ音が耳に入ってくる。
「、、愚者め」
足音が自分のだと分かり、少し興醒めだ。
肩を落として改めて周りを散策しようとする。
いや、待て。なぜ人間の靴の音がする。
ここには己しかいないはずだ。
なのに何故、人間の靴の音が、人間の息遣いが、人間の声が己から聞こえてくる。
いや、己は?自分は?俺は?
一体誰だ?
「うっ、おえぇぇぇぇ。うっ、ぐっ、アアァァ」
今まで快楽のようなものを出していた旨味が、一気に吐瀉物と排泄物を混ぜたような味に変わっていく。
視界は涙で滲み、手足は鉛のようで、頭はバットで打たれているような感覚だ。
思考がどんどん戻っていき、自分の行動が蘇ってくる。
「あぁ、ひっ、ヴァァァ」
自分への嫌悪感で心が埋め尽くされる。
自分が壊されることへの恐怖心で支配される。
「あぁ、くそ。もう、やだ」
舌を切り落としてしまいたい。
全て投げ出してしまいたい。
もう楽になってしまいたい。
ただ、それは全て願望だ。
戯言でしかあり得ない。
そこには蹲って嘆いている。一匹の青年がいた。
「本気で言ってんのか。五条家を乗っ取るなんて」
「マジの大マジ。別にやられっぱなしってのも気に食わねーし」
ポテチを食べながら悟は気楽そうに言う。コンビニの前なので家の者に聞かれる心配はないが、あまりにも心臓にも良くない。
「具体的な計画はあんのかよ?」
「特級になる。」
単純明快なのは素晴らしいことだが、具体的と言っていいのか、それは。
「呪術高専に行ってバカでも分かるように実力見せつけりゃ、あいつらもビビって手ェ出さなくなるだろ。」
「そう簡単にいくものかね」
俺たちはもう14歳。一般的には中学二年生であり、呪術高専に行くことは時間的にも現実味を帯びてくる。
だが、そうなれば五条家で悟を目障りに思っている勢力が介入してくるに違いない。
まぁ、こいつなら大丈夫だろうが。
「それに、呪術高専には目的がもう一つある。」
「?なんだよ」
「犬神憑きの解呪方法を探す」
その発言に思わず息を呑む。チラリと悟の方を見ると、青い目が熱量を持って俺を貫いていた。
「犬神憑きは昔はスタンダードだった。なら、オレたちの知らないところで解呪方法が編み出されていてもおかしくはない」
「、、ほんとに、そんなものがあるのかね」
「オレたちなら見つけられるさ」
堂々と、まるでそれが決定事項かのように語る。
悟の言うことは理にかなっている。犬神憑きの歴史と範囲を考えればあり得る話だ。
でも、あぁ、くそ。自分が嫌になる。
もし、解呪方法があるとしたなら、この上ない救いとなるだろう。
ただ、それでも俺はその未来に想いを馳せて、心躍らせることが出来なかった。
「ここが高専かぁ。なんだかボロっちいな」
「歴史ある由緒正しき場所と言え。」
時の流れとは早くて儚いもの、とそれらしいことを頭に浮かべてみる。
あれからすっかり時は経ち、俺たちは高専の門を跨いでいた。
「どうだ?オレの制服似合ってんだろ?」
「逆にお前が着こなせない服があるなら教えてほしいね」
幼少期から思っていたが、悟はとにかく面がいい。
昔はまだ髪を伸ばしていなかったから中性的な印象を持っていたが、成長期に入って髪を伸ばし始めて女性の魅力が溢れ出してきた。
昔と変わらない絹のような髪は肩まで伸びて、体もモデル顔負けのスタイルになっていき、間違いなく最も美しい女性の一人に入るだろう。
「あぁ?清雅顔赤いぞ。さては見惚れてたな?」
「うるさい。そんなわけないだろう。」
こいつは自分の魅力を理解しているのだろうか。いくら長い付き合いだとはいえ、そんな無防備に振る舞われたら色気に惑わされてしまう。
そんな思考を打ち払うために、悟の頭に手を乗せてわしゃわしゃと撫でる。触り心地いいな。
「ちょ、いきなりなにすんだよ!」
「さっきからうるさい、黙って撫でられとけ」
「なっ、うぅー。」
俺の方が頭一つ分大きい故、上から押さえ付けて無理矢理撫でる。
こいつは俺の幼馴染で、容姿はいいけど性格は終わっている。だからこいつを異性としてみるのはあり得ない。
そんな暗示を込めて撫でるが、それに反するように女性特有の柔らかな髪の感触が手から伝わってきて情緒が不安定になってくる。
結局、俺はこれが無意味ということを理解するのに数分かかった。
「ようやく終わったのかよ、、ったく。人の髪の毛好き勝手いじくりやがって。」
愚痴をこぼしながら髪を整えていくが、心なしか愛おしそうに髪に触れていた。
「んじゃ、早く教室行くぞ。」
「はいはい」
これから任務を共にするであろう同級生との大切なファーストコンタクト。
流石に初日からトラブルにはならないと思うが、印象は良くしていきたいものだ。
「君は良く、あの五条悟という人物といられるね。あんなのは人生で初めてだ。悪いことは言わないから、彼女から感化されるのは程々にしときなよ」
フラグだったか、やってしまった。
任務に向かっている車の中はまるで俺の現状を表すかのように真っ暗になっているような気がする。
牢獄しかり使っていた空き部屋しかり、暗いところにいる頻度高くないか?そんな根暗ではないと思うのだが。
何故こんなことになったのか、思い耽ってみる。
「げっ、パンピーと一緒なのかよ。」
「君、初対面で失礼だと思わないのかい?」
「べっつにー、どうせすぐやめるから関係ねーし」
「、、あ?」
だめだ、これ以上はやめよう。胃が壊れる。
だが、一番驚いたのは煽る悟に対して顔色を変えずに言い返していた夏油の方だ。
もう一人の同級生である家入も野次感覚で見ていたようだし、俺の周りは強かな女しかいないのだろうか。
結局、夏油との共同任務になったが気まずい雰囲気が流れている。悟に釘刺しとくべきだった。畜生
「君はこれが初めての任務じゃないのかい?」
「俺は呪術師家庭にいたからな。ある程度実戦経験はある。悟もそうだな」
「だからあんなに非社会的なのか。」
それ、俺にも攻撃きてるからな。
「任務エリアに到着しました。」
「ありがとうございます」
「えぇ、はい。」
補助監督はこちらに目を合わせずに返事する。そりゃあ五条家の問題児と関わりたくないだろうさ。
車を降りた俺たちは今回の目的地である廃病院に向かった。
「⁉︎、なんだこれは」
「あぁ、帷だな。こちらの状況が一般人から見えなくなるものだ。」
夏油は改めて呪術を目の当たりにしたからか。動きが妙にぎこちない。
「離れるなよ。初任務で死亡なんて嫌だろ。」
「あぁ、大丈夫だ。こちらに気をかける必要はない」
今回の任務は廃病院にいる準1級の討伐任務だ。初任務でこれは荷が重すぎではないだろうか。
少し上層部の関与を疑ってしまう。
「とりあえず、あらかた探索しようか。行け。」
廃病院の中は相当広いので捜索するのは骨が折れると思ったが、夏油は呪霊を何体か出して廃病院を巡らせる。
「呪霊操術か、、」
「あぁ、取り込んでいる呪霊の数はまだ少ないけどね。もし可能ならば呪霊を瀕死直前で留めてくれないか」
「あぁ、分かった」
呪霊操術。確か呪霊を取り込む術式だったが、、
「!今呪霊がやられた。この廊下の突き当たりで右曲がったところにいる。」
「よし、向かうぞ」
そう言って走り出そうとした瞬間、右の壁がまるで解剖されたかのように開いて人型の呪霊が出てくる。
「カイボウゥゥゥゥサセロォォォォォ」
「とんだヤブ医者みたいだったようだな。」
これが討伐対象、しかも術式持ちか。
「まぁ、関係ないがな」
呪霊が注射器を何本か投げてきたのを薙ぎ払って距離を詰める。すると慌てたようにメスを突き出してきたのでその腕を掴む。
「鉤爪」
「ギッ」
腕を爪で切り落として、気取られている間に残った手足を全て切断する。
呪霊は手足を治そうともがくが、既に勝負はついた。
「おい夏油。とっとと取り込め。」
「あ、あぁ、凄まじいな、君は。」
夏油は呪霊に近づいて手をかざす。みるみる呪霊は手の中に収められていき、黒い球体となった。
「今のが準1級か、、」
「別に驚くことでもないだろ、夏油の実力なら。」
「それでもあれ程のものに会ったのは初めてでね」
夏油は呪霊であった黒い球体と向き合うと息を吐き出して、一気に飲み込んだ。
「それって味するのか」
「、、、いや、味はしない」
「吐瀉物と排泄物を混ぜたような味に近いか?」
「‼︎何故それを知っている」
「俺も呪霊を食べるからだよ」
だから、そのつらさは良くわかるとも。あの、理不尽な程の不味さが全身をのたうち回るような感覚は。
「俺は犬神憑きという奴でな。その副作用で呪霊を食べる縛りが課せられている。」
「、、私以外にもいたのか。」
「お前は別に食べる必要はないんだろ?なら、つらい思いまでして呪術師を続けなくてもいいじゃないか」
「それでも、私には非呪術師を助ける義務がある。」
「、、、は?」
なにを言ってやがる。こいつは。
「なんだよ。非呪術師を助けるって」
「弱気を助け、強気を挫く。それが私達呪術師の責務だ。」
「、、、りだろ」
「は?」
「無理だろ。そりゃあ。」
助けるなど責務など、そんな仮初で耐えられるものか。
「別に私と君はまだ長い間関わっていない、なのに何故無理だと決めつける。」
「お前も知ってんだろ⁉︎
まるで慌てた小物のように言葉を羅列させてしまう。
そうやって誤魔化してやり過ごせたとしても、その先に待っているのは破滅しかない。
「違うさ」
夏油は俺の真正面に立って見据える。
「誤魔化しではないさ、信念だ。」
夏油の瞳には、そんなものは知らないと狼狽する青年の姿が映っていた。