TS最強二人組をヒロインにしただけの話   作:キヤやま

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信念と情

 

<誤魔化しではないさ、信念だ。>

 

信念。信念ねぇ。

 

「はぁー」

思わずため息が出てしまう。

 

俺には到底理解の及ばない存在だ。

 

犬神憑きの影響で呪霊を食べることになっても、それがいくら不味かろうと、仕方ないと割り切っていた。

 

<非呪術師を守る義務がある>

 

まさか、それを自ら食べるとは考えたこともなかった。

 

信念というやつは、そんなにも偉大なものなのだろうか。

 

ーーあぁ、くそ。分からない。

 

「!ごほっ、ごほっ」

「ため息つくなよ、空気が不味くなる」

「お前の煙草のせいだろ。」

 

こいつ、俺に向かって煙草の煙吹き出しやがった。驚いて吸い込んでしまったではないか。

 

じろっ、と硝子の方を睨むと、悪びれた様子もなく俺の隣の席に座ってくつろぎ始めた。

 

「大体見当はついてるけどさ、夏油について悩んでたんでしょ?五条と夏油はあんなに仲良くなってんのにねぇ。」

「類は友を呼ぶというだろう。あいつらは似たもの同士だから惹かれあったのさ。」

「それ聞いたらあの二人怒りそー」

 

高専に入学してから2週間。入学初日に喧嘩していた二人はすっかり意気投合している。さしずめ、合同任務で互いの実力を認め合ったのだろう。

 

一方、俺はあの任務以降、夏油と蟠りができてしまっている。

 

何かこの悩みを解消してくれそうな物はないだろうか。

 

「なぁ、煙草吸わせてくれよ」

「えー、お前吸ったことあんのかよ。」

「ワイルドさを求めてみるのもいいだろう?」

「犬神憑き以上にワイルド(野生的)な奴がいるか」

 

渋々、といった感じで煙草とライターを渡してくる。

 

「別に、喧嘩したわけじゃないんだがね」

 

煙草を口に咥えて、震える手でライターを近づける。これで合ってるのか?

 

煙草の先端が灰になっていく。そのまま息を吸い込んで、、

 

「うっ、ゲホッ。カハッ、カハッ」

「やっぱ吸ったことないんじゃねーか」

 

硝子は呆れたようにこちらを見てくる。

勢いよく吸い込みすぎたか。

 

「喧嘩しただのしてないだの。言い訳はいいからとっとと仲直りしてこい。」

「頭を下げるだけなら苦労してないんだよ」

 

未だに夏油の考えについて理解できないのだから。

こんな状態で謝罪しても、どれ程の値打ちがつけられようか。

 

「喧嘩っていうよりかは意見の相違だな」

「え?あの弱気を守るってやつ?んなもんにいちいち噛みついてんじゃねーよ」

 

確かに硝子の言う通りだ。他人がどんな思想を持とうが自分には関係ない。

 

そうやって、いつもの俺なら割り切れていた筈だ。

変に肩の力が入っているのだろう。

 

「結局高辻はさ、夏油が自分と違う考えなのが気に食わないんでしょ?」

「、、気に食わない?」

「そ。だからそうやっていつまでも引きずってんだろ?」

 

気に食わない、のだろうか。

でも、何故。俺はそんな感情を抱くのだ。

 

延々とそんな問いが頭の中を巡る。

 

あの任務以降、俺はずっと夏油の信念について何度も何度も考えてきた。だが、結末はいつも一緒、理解できないと、思考をやめてしまう。

 

「高辻と夏油の間に何があったか知らないけどさ、気をつけなよ」

 

煙草を咥えて煙を吐き出しながら言う。

 

「自分と思想が違うって割り切ることは、他人と明確に線引きするってこと。その考えが身に付いたらなかなか取れる物じゃない。」

 

だから、一番良いのは互いを認め合うことだよ。

 

硝子は老練な雰囲気を携えながら言う。煙草を吸っているのもあるのだろうが、同じ歳とは思えない。

 

「随分と、親切にアドバイスしてくれるんだな。」

「三年間過ごすのにギスギスされたらこっちがたまんないんだよ」

 

認め合う、ね。俺は夏油の考えに理解を示すことが出来るのだろうか。

 

「これから夏油と任務行くんだろ?そこでなんとかしてこいよ」

 

そう言いながら、一箱の煙草を投げ渡してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、最悪だ。

 

よりによって任務先がここだとは。

 

何も変わってないじゃないか。

 

村を囲んでいる森の木々も、村から離れたところにあるショッピングモールも、顔を上げれば見える山も。憎たらしいことに、どこもかしこも昔と同じ光景だ。

 

まるで、俺が最初からいなかったように。

 

「ここが人攫いのあった村か。まさか、こんな辺境に村があるとはね。」

「、、あぁ、そうだな。」

「高辻、大丈夫かい?顔色が悪いように見えるけど」

 

大丈夫そうに見えるのか?

口から出そうになった皮肉を噛み殺す。

 

ただでさえ関係は良好とは言えないのに、八つ当たりなんかでさらに悪化させたくはない。

 

「ここは昔俺が住んでいた場所でな。少し郷愁に浸っていた」

「ーー驚いた。ここが君の故郷なのかい?」

「ある程度道は覚えている。村長に会って人攫いについて尋ねよう。」

 

夏油の返事を聞きもせず、一方的に告げて歩き出す。

 

記憶を辿り、村長の家へ向かっている道中。

ふと、視界に入るものがあった。それはあまりにも古びていて、家の塗装も剥がれている。

 

一瞬何か分からなかったが、すぐに昔の光景と重なる。

変わり果てた、俺の家だった。

 

<あんまり山の奥に行っちゃだめよ。いい?>

<分かってるって。もし化け物が出ても退治するからヘーキだよ。>

<全く、怪我しないように気をつけるんだぞ>

<ハイハイ。んじゃ、行ってきまーす>

 

外に出るたびに、心配性な親が玄関で声をかけてくれたことを思い出す。

 

「、、、」

「?いきなり止まって、どうしたんだい?」

「いや、なんでもない。早く行くぞ。」

「、、そうか。」

 

思い出がなんだ。そんなものはもう、過ぎ去ったことじゃないか。

 

遠くから子供達の笑い声が聞こえてくる。

俺は村長の家に着くまで、顔を上げることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、はるばるからお越しくださいました。なんとお礼を言ったら良いことか、、」

「いや、そんなことより早く本題に入ろう。」

「高辻」

 

夏油は俺に咎めるように視線を送ってくる。

 

少し、頭に血が上りすぎていたか。

 

「えぇ、時間は早い方がいいですからね。まずは任務の詳細について説明させてもらいます。」

 

「近頃、子供が行方不明になることがありましてね。警察に届けを出してみたんですが、見つけることが叶いませんでした。」

 

ただ、と言葉を紡げる。

 

「捜索していた時に化け物のようなものを見たという者がおりましてね。これはもしや妖の類ではないかと思い依頼させてもらいました。」

「なるほど。場所の目処はついているんですか?」

「多分、山近くの森で行方不明になったかと。」

「分かりました。そこら辺を中心に探してみましょう。」

「ありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいことか、、」

 

山付近か。捜索するのが厄介そうだ。

 

さっさと見つけて帰ってしまおう。そんな思いで立ち上がった瞬間、外から声が聞こえてきた。

 

「村長!この者たちが依頼した人達ですか!」

「こら!失礼でしょうが。」

 

家に押し入ってきたのは、俺と同じ高校生くらいの男性だった。

 

なんだ、何処かで見たことがあるような。

 

「すみません。この方は一体、、」

「俺の!俺の弟が行方不明になったんです。どうか、助けてください。」

 

そうだ。こいつは。

昔、一緒に遊んでいた奴ではないだろうか。

成長していたので分からなかった。

 

心臓が波打っているのが分かる。

思わず懐かしさに駆られて、声を掛けようとする。

 

「なぁ!あんた達が探してくれるんだろ!清賀を!」

 

声を遮られて、手を掴んで懇願される。

せいが、それは俺ではなく、弟の名前だろうか。

 

「頼む、清賀を見つけてくれ、、」

 

あぁ、そっか。

 

俺のことなんて、覚えてないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が沈み始めて、森が茜色に染まっていく。

 

「ふぅー」

 

硝子からもらった煙草を吸う。あまりこの匂いには慣れないが、気を紛らわすには打ってつけだ。

 

<清賀を見つけてくれ、、>

 

馬鹿か、俺は。夏油の時といい、何故自分の価値観を押し付ける。

 

思い出とはいずれ風化していくもの。それが、俺にとってはかけがえのないもので、相手にとっては日常の一部だった。

 

ただ、それだけのことじゃないか。

 

「高辻、、」

「んだよ、ジロジロ見て。早く子供を探すぞ。」

「、、あぁ、そうだな。早く、帰ろう。」

 

村長に言われた通り、山の麓で探しているのだが、なかなか見つからない。

 

まさか、結界に身を潜めているのではないだろうな。それだとかなり面倒なのだが。

 

そう思い始めた頃に、事は起きた。

 

「高辻、子供を見つけた。意識を失っている」

「、、何故いきなり見つかった?」

 

思わず眉を顰める。少年は意識を失っているようだが、くっきりと呪力の残影が残っている。普通ならば、こんなものを見落とす訳ないのだが。

 

罠か、はたまた術式をかけていた呪霊に何かあったのか。

腹から虫が這うような感覚に襲われる。

 

嫌な予感がする。早くここから去ってしまおう。そう思って、夏油に声を掛けようとした瞬間。

 

「貴様ら、術師か?」

 

背後から、声が聞こえてきた。

 

なんだ、この重圧は。

 

発せられたのは人間の言葉だが、感じている呪力の気配は人間のそれじゃない。

 

特級呪霊。それも上澄み。

 

何故こんな奴が人里の近くにいる。

 

体全体の血がざわめき始めて、どんどん思考が曖昧になっていく。

 

このままだと確実に死ぬ。

 

先手を打とうと体を反転させると、そこには業火があった。

 

「ッッ」

 

咄嗟に夏油が何体か呪霊を盾にしてくれたが、それでも受けたダメージは少なくはない。あれが直撃した日には、俺の腕は炭となるだろう。

 

「そう言うお前は、呪霊か?」

「呪霊と呼ぶな、人間風情が。儂には漏瑚と言う名がある。」

「それは、立派な事で。」

 

呪霊が名前を名乗っているとは何事だ。人間の言葉を流暢に話す呪霊なんてそれこそ指で数えられる程度。伝承の域だ。

 

その呪霊の形容は大きな一つ目に、頭部が火山の形となっている。

恐らく、火山に関する呪霊だろう。

 

改めて危険を再確認して、観察する。なんとか隙を見つけて逃亡を図りたいところだが、、

 

「うっ、ぅぅん。」

「「‼︎」」

 

子供が意識を覚醒しようとしている。これはあまりにもよろしくない。

 

もし、子供に好き勝手動かれようものなら、この呪霊相手に庇うのは難しい。

 

「俺はあんたに危害を加えるつもりはない。この子供を探しに来ただけなんでね。」

「命乞いか、人間?」

 

一つ目が醜悪そうに歪む。

思わず舌打ちをしてしまう。

見逃してくれそうにないな。

 

何か、この状況を打破できる方法はないだろうか。

 

そう考えていた瞬間。視界が黒で埋め尽くされた。

 

「高辻!子供を抱えて退くぞ!」

 

夏油が呪霊を展開して、火山の呪霊との間に壁をつくる。

 

だが、これもきっと長く持ちはしない。

急いで子供を抱えて、この場から撤退しようとする。

 

「ぅうん。あれ?ここどこ?」

「!?」

 

厄介な事に、完全に子供の意識が覚醒した。いや、俺の腕の中にいるのは不幸中の幸いと言ったところか。

 

「所詮は、烏合の衆か。」

 

そんな言葉が聞こえた直後。爆音と熱量を持って、呪霊達が焼き払われる。

 

「ひっ!な、何あれ。た、助けて。」

「暴れるな!お前も死にたくはないだろう!」

 

こいつ、呪霊が視えるのか。

呪霊、しかも特級を認識しているのだ。慌てるなというのは無理があるが、暴れるのは困る。

 

「夏油!早く逃げるぞ!」

「ッッ、あぁ、分かった。」

「待て、術師共」

 

火山の呪霊は追い討ちを掛けようとするが、数百体の呪霊がそれを阻む。

 

どのくらいの時間稼ぎになるかは分からないが。目眩しにはなるだろう。

 

俺たちは、少しでも距離を取るために、全力で逃走した。

 

 

 

 

 

 

 

すっかり日は落ちて、辺りは暗くなってしまった。

 

俺たちは完全に視界が塞がれる前に、なんとか洞窟を見つけて身を潜めていた。 

 

「ッッ、ハァ」

「夏油、お前、、」

 

夏油の様子を改めて見ると、足に火傷を負っていた。多分、呪霊の壁を貫通して攻撃を受けたのだろう。

 

俺もあまり良い状態だとは言えない。致命傷とまではいかないが、全快の時のような動きはできない。

 

だが、あの呪霊にとって俺たちは虫けら同然。わざわざ羽虫を追ってはこないだろう。

 

早く高専に戻って、硝子に治療してもらうべきだ。

俺はまだしも、夏油は跡になる可能性がある。

 

その旨を伝えようとすると、夏油が神妙な面持ちをしている事に気がつく

 

「高辻。君は子供を安全な所まで送り届けてくれ。」

「待て、お前まさか、あの呪霊と戦うのか?」

「あの呪霊が村を襲わないという保証はない。村人の安全のために祓うべきだ。」

 

なんだ、それは。

 

「それも、信念のためなのか?」

 

現実を見てくれよ。

 

たださえ、火山の呪霊とは天と地ほどの差があるのに、俺もお前も満身創痍、勝ちの目は限りなく零に等しい。

 

なのに、無謀だと分かっていながら命を落とす事はないじゃないか。

 

「まだ、君は私のことが気に食わないかい?」

「あぁ、気に食わないね。それで命を捨てようとしてるからな。」

「、、君にとって、信念に価値を感じられないことは分かっている。」

 

「でも、私にとっては命を擲つに値するものだ。」

 

やはり、こいつの言っていることは理解できない。

 

根本的に違うのだ。なにせ、唯一の味を共有していたとしても分かり合えないのだから。

 

「高辻、君にはないのか?為したいことが。」

 

ないさ。お前みたいに命に値する目標や信念は持っていない。それに、もう守りたかったものは既に無くなっていた。

 

「ねぇ、村は、大丈夫なんだよね?」

 

ふと、横から声が掛かる。顔を向けると、不安そうな目でこちらを見つめる少年がいた。

 

「お母さんと、お父さんが。化け物に殺されたりしないよね?」

 

どんどん少年の声が、震えていく。

何故か、少年の姿に見覚えが、ある。

 

「また、お兄ちゃんと、会えるんだよね?」

 

どんどんと、姿が重なっていく。

 

「また、、、また!元の生活に戻れるんだよね?」

 

あぁ、そうか。これは昔の俺だ。

 

顔が歪んでしまう。

 

別に、俺がこいつの不安を取り除いてやる義理はない。あの村で、俺の存在は既に消え去っている。

 

でも、きっと。ここでこいつを助けなければ、俺は自分を許せなくなるだろう。

 

「ははっ」

 

自嘲の笑みが溢れる。あまりにも浅ましいじゃないか。これは信念やら大義やら、そんな高等なものではない。

 

ただ、情に流されただけだ。

 

あまりにも短絡的で、刹那的な行動。

でも、俺には、獣にはこれがお似合いだ。

 

「夏油。呪霊を喰わせてくれ、呪力を補充したい」

「随分と、意気揚々だね。何か策を思いついたのかい」

 

夏油はにやけながら、愉快そうに尋ねてくる。

馬鹿を言え、策と呼べるものは俺にはない。

 

ただ、俺は恐怖が顔に出ないように取り繕って宣う。

 

「力を貸してくれ、あの火山頭を俺たちで祓ってやろうじゃないか」

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