TS最強二人組をヒロインにしただけの話   作:キヤやま

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分かち合い

 

一寸先は闇。普通の人間では歩くことも出来ない森林、そこに呪霊は佇んでいた。

 

「まさか、仕留め損なうとはな」

 

今まで様々な術師と遭遇したことがあるが、逃げられるというのは初めてだった。

 

だが、所詮は人間。奴らは炎の一つでも浴びせればすぐに燃え尽きる。逃走を許したことに腹は立つが、追いかける程でもない。

 

「それにしても」

 

煩わしい。

日が沈み、世界が夜に染まったとしても。人間は村に明かりを灯して闊歩しているではないか。

 

まるで、人間が世界の覇者だと言わんばかりに振る舞っている。

 

それが、ひどく気に食わない。

 

呪力を練り、手元に炎を出現させる。

 

あまり術師共に存在はバレたくないが、この情動を抑えるのは酷というものだ。

 

呪いは人間の負の感情から生まれたのだから。

故に、呪霊が、我々こそが真の人間だと漏瑚は信ずる。

 

「死ね」

 

そのまま、村諸共人間を焼き尽くそうも思った時。

 

「さみしんぼか?夜にそんな明かりをつけるなんてよ」

「、、貴様」

 

漏瑚の視界、木々の狭間から見覚えのある顔が入る。

仕留め損なった術師の一人だ。

 

「愚かだな。あのまま逃げれば良かったものを。」

「同感だ。呪霊に正論を言われるとはね。」

 

せいぜい、村の人間を救いたいなどという蛮勇さに招かれたのだろう。

 

だが、そんなことは漏瑚にとっては歯牙も掛けない事実。血を吸いにきた蚊を払い除ける様な物だ。

 

「では、ここで死ね」

 

この時、漏瑚は微塵も思っていなかった。これがこの術師との因縁の始まりだということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両者の実力には絶対的な差がある。

 

100回中100回漏瑚に軍配が上がる勝負。小細工程度では覆さない差。

 

例え、もう一人の呪霊を操る者が介入してもたかがしれている。

 

故に、こちらを打破する手段はないと漏瑚は判断する。

 

先手は漏瑚がとった。踏み込んだと思った刹那、清雅の懐に潜り込み業火を宿した手を突き出す。

 

だが、すんでのところでその攻撃に対応し、その手を爪で弾き飛ばす。

 

軌道がずらされた業火は後ろの木々を焼き尽くす。

 

隙が出来た。清雅が反撃に出ようと思ったのも束の間、地形が変化して至る所から火口が向けられる。

 

咄嗟の判断で後退するも、放たれた溶岩は避けきれず節々に火傷を負う。

 

「やはり、この程度か」

 

長期戦はだめだな、これは。

 

尋常ではない速さと、一つ一つが命取りになりうる攻撃の数々。奴に呪術で上回っているところなどありはしない。

 

今の一合だけでもこのザマだ。本当に嫌になる。

 

ただ、少しの時間。呪力を充分に練る時間さえ作れば。奴にいっぱい食わせてやることが出来る。

 

この火山の呪霊は慢心こそしているが、それにつけ入れる程の実力はない。

 

だから、少し加えよう。

 

森はこいつに燃やされて、周りは煙で満ちている。

 

好都合だ。すぐに懐に入ってる呪霊を潰して作戦実行の合図を送る。

 

一世一代の大博打。勝てたら栄誉の負傷、負けたら骨のみ。全く、あまりにも割にあわなすぎではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「、、来たか」

 

高辻の懐に入った呪霊が潰されたことを感知する。策に出る合図だ。

 

このままだと、勝負の行く末は火を見るより明らか。

 

自分が矢面に立てて居たのなら少しはマシだったのかもしれないが、火傷を負っている上、近接特化の高辻でもあの有様なのだ。足手纏いになるだけだろう。

 

だからこそ、己は高辻清雅を必ず死なせてはならない。

 

きっと高辻の思っていた通り、高専に撤退するのが正解だった。だが、それを捻じ曲げて己が信念のために無謀に付き合わせてしまっている。

 

夏油にとって、これほど自分の無力さを呪ったのは初めてだ。

 

ーーでも、あぁ、それでも。

 

根本的な事は噛み合っていなくとも呪霊の味を、同じ苦しみを知る者が行動を共にしてくれている。

 

思わず笑みが溢れてしまう。夏油にとって、その事実がどれほど救いになっているか。歓喜が抑えきれず、脳からつま先まで節々に熱が駆け回る。

 

ーーだから、清雅。君は、君だけは失いたくないんだ

 

夏油は清雅に勝利を献上するため、作戦に移る。

 

地中に潜ませていたワームの呪霊で奇襲を仕掛け、大勢の呪霊を目眩しとして向かわせる。

 

3秒。3秒だけでも時間を作ってほしいと清雅は言った。ならば、その役目だけでも果たそう。

 

1秒経過する。奇襲を仕掛けたワームの呪霊は一瞬拘束するも、すぐに焼き払われる。

 

2秒経過する。火山の呪霊が高辻を探知しようとするのを呪霊の壁で防いで、、

 

「二度も同じ手を喰らうか」

 

だめだ、2秒が限界。呪霊で場所を隠す事は警戒されており、清雅の場所を悟られてしまった。

 

あと一秒、一秒だけでも稼げるものは、ないのか?

 

獄の番。そんな言葉が脳裏をよぎる。

 

呪霊操術の文献で読んだ事がある。保有する呪霊を圧縮させて、一気に放出するという奥の手。

 

だが、まだ己の力量ではそれを行うことなど到底不可能だ。

 

だが、それしか選択の余地はない。

 

数十体の呪霊を手のひらに出現させて圧縮させる。出来上がった物はあまりにも稚拙で術と呼べるのかも怪しい。

 

だが、時間を稼ぐだけ、それだけなら事足りる。

 

「うずまき」

 

それが、この勝負の転換点となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬっ!」

 

漏瑚は飛来してくる膨大な呪力の塊を察知する。

 

本来は、取るに足らない攻撃。殺傷能力を持たない呪力の塊。

 

だが、漏瑚はここで失態を犯してしまつまた。

 

それは本命の見誤り。相対している術師も、それを隠すような呪霊も、この攻撃の為の囮だと、膨大な呪力に惑わされてしまった。

 

目の前の術師から気を逸らして、呪力の塊を業火で相殺する。

 

そこで、3秒が経過した。

 

「ナイスアシストだ、傑。」

 

上から呪力を感じる。見上げると、あの男がいた。

何故、宙にいる。

 

「術式順転」

 

ーー嫌な予感が背筋を伝う。

 

急いでこの場を離れようとするも、何やら引っ張れる感触があり、上手く移動ができない。

 

あの力を中心に、収束しているのか?

 

その間にもどんどんと蒼色は膨張していき、更に存在感を露わにしていく。

 

犬神憑き、というのは清雅の生得術式ではない。あくまでそれは後付けの呪いであり、本来の術式は別にある。

 

それが、この盤面を覆すことが出来る唯一無二の手札。

 

「蒼」

最大出力

 

漏瑚を中心に大地が、森が、空間が、吸い込まれ形を捻じ曲げていく。

 

最終的に残ったのは、呪霊の血溜まりだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやはや、想像以上に面白いね」

 

無下限呪術。威力は強力無比だが、肉体にかかる負担と危険性は群を抜いている。六眼のような代物を持っていなければ使いこなすのはもっての他だ。

 

「存外、犬神憑きとの相性もいいものだね」

 

脳にかかる負担は少なくとも心配する必要はない。

 

その上、無下限は自分の近くに発生させると自傷する可能性がある故、下手に近接戦には適応できないが、それは犬神憑きの身体能力で補う事ができる。

 

「一応、候補にも入れておくとしよう」

 

犬神憑き、もしかしたら己の知らない未知の可能性を秘めているのかもしれない。

 

そう思うと、胸が高鳴るのを抑えきれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「、、しんど」

 

最大出力で運用したのは何年ぶりか。息を吐き出し、呼吸を整える。辺りを探知すると、既に呪霊の気配は感じられない。

 

相当のダメージを与えた感触はあるが、祓うまでには至らなかったか。

 

もし、あの呪霊が撤退せずに戦闘が続行していたら、俺の命はなかった。

 

実の所、無下限以外に俺には打てる手がなかった。あれは呪霊が慢心していたからこそ為せた技で、二度同じ手は喰わないだろう。

 

命拾いしたと思うと、思わず力が抜けて地面に座り込む。

 

辺りは火で包まれでいることに気づき、自分の置かれている状況の危険性を認識する。ここから脱する程の体力は残っているだろうか。

 

そんな風に慌てていると、上空から気配を感じる。

 

「やっ、無事かい?」

「あぁ、お陰様でな」

 

傑は虹龍に乗りながら現れる。助かった、このまま焼死なんて勘弁してほしいところだ。

 

虹龍に乗せられ上空に浮かび、視界が開ける。森の様相を見てみると、随分と無茶したものだと実感する。

 

「このまま高専に戻って、硝子に傷を治して貰おう」

「あのガキはどうすんだよ」

「時間が惜しいからね、呪霊で村まで運んだ。それとも、お別れの挨拶でもしたかったのかい?」

「どうせ二度と会う事はねぇんだ。問題ない。」

 

あそこはもう俺にとって縁のない場所だ。心残りはない。

 

そんなことを思いながら、村から離れていく様を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高専に戻っている最中。

 

清雅は懐から取り出した煙草を指で弄んでいる。最近、妙に彼が喫煙している様子をよく見かけるのだが、手癖になっていないか心配になる。

 

「傑。火を付けれる呪霊って残ってるか?」

「全く、こっちは呪霊がほとんどいなくなって大変だというのに、気楽なことだね。」

 

そんな愚痴を溢しながら火を付ける。

 

今回の戦いで相当の呪霊を消耗してしまった。

出し惜しみ出来る相手ではなかったとはいえ心に響くものはある。

 

「、、悪いな、夏油」

「?何に対しての謝罪だ」

「結局、俺はお前の信念に理解を示せなかったからな」

 

突然何を言い出すのかと思えば。

つい呆れた目線を送ってしまう。繊細というか傲慢というか、そんな些事を気にしていたのか、この男は。

 

信念というのは徹頭徹尾自分のためであり、否定してくるならまだしも、理解を示さない相手に押し付ける様な真似はしないというのに。

 

そんなことで憂いている彼の煙草を口元から奪い取ると、何をするのだと視線を送ってくる。

 

「別に、そんなこと気にしてはいないさ。君は呪霊の味を知っているんだろう。私にはそれで充分だ。」

「たったそれだけじゃないか」

「ーーたったそれだけ、がどれほど大きいものか、君も分かるだろう」

 

この世界を見渡したとしても。同じ苦しみを知り、己と接点を持つ者がどれほどいるのだろうか。

 

きっと清雅よりも親しく、分かち合える相手は現れないのだろう。

 

体を彼にしなだれさせ、身を預ける。手を触れてみるとゴツゴツとした感触があり、己の手とはかけ離れている。

 

夏油にとって、この様な甘えた動作を取るというのは初めてだった。非術師は守るべき対象であり、術師にも弱味を吐露できる存在がいない。

 

そんな彼女にとって、彼の体は余りにも頼もしく、愛おしい。

 

「どれだけ違いがあっても。それだけを持つ君が傍にいてくれるだけで、私は満足だよ。」

 

彼の煙草をゆっくり口元に持っていく。初めての煙草は苦々しく、どこまでも甘美だった。

 

 

 

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