怠惰な神様によって魔法が存在し世界大戦が起こりそうだという世界に転生し放り出されたら、聞いていたよりさらにヤバい世界だった件 作:しゅーびんで
統一歴1941年 1
統一歴1940年────
マユヴィーク朝の滅亡と、北洋政府の降伏により、アジアの戦争はひとまずの収束を迎える。
南の大陸では砂漠と高地を活かした防衛で必死の抵抗を試みるアスクム王国を相手に、海の戦場において力を発揮するイルドアが攻めあぐねて長期化の様相を呈しているものの、新大陸の内戦も含めフランソワの侵略戦争から始まった四大勢力による世界を切り分ける一連の戦争は落ち着き、この年は嵐の前夜を彷彿とさせるような緊張感漂う静かな時代を迎えることとなる。
ひと時の平穏の時間。
その時間を世界各国は来る世界大戦に備える最後の準備期間に使用しており、王権同盟でも人を含める莫大な資源を獲得した秋津島皇国が急速が軍拡を推し進め、海軍だけでなく航空戦力や陸軍戦力の拡張と欧州に対し遅れをとっている陸上機甲戦力の進化を急速に進めていた。
皇国はこの時期すでに来たる世界大戦に向けた主敵と戦略も固めており、欧州を舞台に戦争を進めることも計画していたことから、同盟を結ぶルーシ帝国に対しても欧州の戦場にて迅速な展開を進められるように大陸鉄道事業の合作や空港への駐屯などを推し進めていく。
かつての内戦介入から、治安維持の協力、皇族警護と大義名分をコロコロと変えることでずるずると時期を伸ばして、ルーシ帝国に駐留していた皇国軍。
その規模もこの年において急速に拡大し、皇国は一層ルーシ帝国への影響力を強めていくこととなる。
ルーシ帝国同様に、アヴァンギャルド・フランソワの三州同盟に対する侵略戦争に観戦武官を派遣していた皇国は、この戦争で得られた情報と欧州の軍備の進化を強く意識しており、これまで遅れていた魔導師兵科の研究にも大きく力を入れるようになっていた。
大陸の莫大な人的資源も確保した皇国は魔導師の素質を持つ人間を続々と徴収し、マルチタスクが基本運用である魔導師の常識からあえて外れたフランソワに倣う特定の役目に特化した魔導師兵科の開発を基本的な運用思想に採用した。
フランソワを模したような魔導工兵、潜水装備に魔法による酸素供給機能を組み込んだ新型演算宝珠を用いた潜水魔導師、防壁の魔法に特化し爆弾などの攻撃から艦隊や味方の部隊を守る防壁部隊などを新設。
戦場跡にて密かに接収していたフランソワ軍の演算宝珠の部品などを解析することで、特化された専門職魔導師用の新型演算宝珠も次々に開発されていき、秋津島皇国の軍事技術は飛躍的な発展を遂げていく。
それはインドという資源豊かな巨大な大陸領土を取り戻した連合王国も同様であった。
本土奪還を夢見る連合王国は、マキャベリズム・アルビオンとの戦争を経験していたベテラン将兵も多く残っている。
本国を失うという屈辱に満ちた敗北を知るからこそ、ヨーロッパの急速な軍事技術やドクトリンの進化に慢心することなく向き合う彼らもまた、来る世界大戦に向け準備を怠ることがなかった。
秋津島皇国と連携し陸海空あらゆる軍備を急速に拡大・進化させ、同盟国との特に海の戦争の連携を強化し、軍港の設備も両軍の艦艇が停泊・整備を可能とする改装や連絡将校の配置も進めていった。
しかし、その中でルーシ帝国だけはこの時期の軍事改革をほとんど進めなかった。
政府の中枢ではやはり融和路線外交の姿勢が評価されてレーテとの関係が悪くないから世界大戦に巻き込まれることはないだろうという楽観思想が蔓延しており、軍拡はレーテを悪戯に刺激するからと改革や拡張に進むのを拒む声が多かったというのが大きい。
ルーシ帝国の政界はヨーロッパの緊張を対岸の火事のように考えており、さらには政界だけでなく軍においても中華との戦争で大勝したことから今の時代にまだ自分たちの軍備とドクトリンが通用するという思い込みが強くなってしまったことで、余計に軍備の改新が停滞することになった。
かつての世界大戦の時ですらライヒに対して数段劣っていた旧式だったというのに、それから20年もの月日を隔てても時代遅れであることを認められないという有様。
コルチャークなど改革を進める必要性を訴える派閥はあったものの、中央ではごく一部であり帝国を動かすには至らなかった。
政財軍の特権を握る貴族の多くが国内に入ってくる進化を続ける皇国軍の姿を見てもまるで他人事のように無関心、農民たちは情報を統制されているため自分たちの生活に手一杯で批判も碌に起きない、そんな有様だからか結局政治も軍事も改革はほとんど進まないまま時間だけが過ぎていった。
こうして大国でありながら時代に取り残されていたルーシ帝国は、幾度も改革の機運が訪れるチャンスがありながらそれを全て棒に振り、同盟国にも大きく遅れをとった状態で世界大戦の開幕を迎えることとなる。
統一歴1941年4月────
ついにその時はきた。
レーテに対する復讐を叫ぶアヴァンギャルド・フランソワは、ライヒの滅亡のための戦争に挑もうとしており、それが太陽連盟と第三インターナショナルによる欧州と新大陸を真っ二つに割り全土を巻き込む巨大な世界大戦となることは、世界各国において懸念されながらも避けられない事態として認識されている周知の事実となっている。
そして太陽連盟による開戦を最も強く警戒しているレーテは、フランソワやヒルトリアとの国境に大量の機甲戦力を主力とする自他共に認める欧州最強の陸軍を展開しており、対抗するように太陽連盟も第三インターナショナルとの前線に展開する部隊を続々と増加させ、欧州の緊張は高まる一方であった。
太陽連盟との戦争を覚悟しているレーテは、開戦となればフランソワとヒルトリアという西と南に二つの戦線を抱えることとなる。
レーテの陸軍が主力となる第三インターナショナルだが、その兵器の生産を支えるのは新大陸の共産諸州連邦である。メキシコからパナマに至る領土と、イスパニアの海軍が支える海路もまた、太陽連盟との戦争を遂行する上で失うわけにはいかないため、新大陸や大西洋、場合によってはイスパニアも守らなければならないため、レーテの負担は欧州にとどまらない可能性が高い。
レーテとしては太陽連盟との戦争に集中するためにもこれ以上の敵を作るわけにはいかないと、開戦の気運が高まるのに比例するようにルーシ帝国へ何度も使節を派遣するようになり、同時に王権同盟にスパイを送り込み社会主義革命の機運を高まらせようと裏工作を活発に進めるようになっていく。
特に征服して間もない中華の支配領域などで活発になる社会主義革命を目指す動きに皇国は強引な鎮圧を行い、それが更なる反発を生みそれをスパイにつけ込まれ扇動が拡大するというという悪循環が生まれていた。
そして使節などに紛れて入り込んでくるスパイにより革命運動が都市部を中心に拡大していくルーシ帝国も、この社会主義者たちの反乱の動きは悩みの種であると共に、レーテとの関係を考えれば強引に鎮圧という手にも出にくい頭を悩ませる問題であった。
中華との戦争でも、勝者となり被害が少なかったとはいえ、得られるものも少なかったことで貧しい民衆の暮らしもなかなか改善しなかったというのも、民衆の帝国への不信感を募らせる要因にもなっている。
さらに皇帝も年端もいかぬ少女ということもあり、権力の拡大を狙う貴族同士のゴタゴタを収める力がないことで、この時期のルーシの政府は非常に不安定になっていた。
ルーシに来た使節からは、レーテの帝国に対する要求が伝えられている。
当初は10年間の不可侵条約の締結と改めてのウクライーネおよびカフカースの承認程度であったが、1941年になると不安定な帝国の現状から足元を見られるようになりその内容は秋津島皇国および連合王国との同盟の破棄や貴族階級の撤廃、第三国との交戦時の参戦義務を含む軍事同盟の締結、モスコーなどの割譲など無茶苦茶な要求まで繰り出すようになってきていた。
ウクライーネとカフカースの承認は受け入れたものの、皇国の意向によりレーテとの不可侵条約の締結は返答を曖昧にしている。そんな中で要求が釣り上がる状況に、国内の反乱分子の問題もあり皇国と共にレーテと戦うべきという反共派と、皇国を切ってでもレーテとの融和を目指すべきという親共派に政府は割れていた。
改革も進まない中、外国からの圧力により国内がまとまらずがたついている状態のルーシ帝国。
その状態でこの世界の第二次世界大戦が勃発した報告が、宮殿にもたらされることとなった。
大戦の火蓋が切られたのは、やはり欧州。
しかしその発端は世界が懸念していたフランソワとレーテによる開戦ではなく、太陽連盟と革新同盟との間にて発生した。
この年の4月、アスクム王国の征服が進まず苦戦するイルドアを見て、太陽連盟の盟主であるアヴァンギャルド・フランソワ総統のアルディナン・アトルーは地中海の制圧とレーテとの新たな戦線の拡大を企みイルドア共和国に対する侵攻を決定。
アヴァンギャルド・フランソワとヒルトリアの大量の魔導師を中心とする大軍が突如としてイルドアに対し越境、宣戦布告も何かしらの要求も大義名分も何一つない一方的な攻勢を開始した。
これに対しイルドア共和国は太陽連盟との戦争を決意し、同盟関係にある革新同盟の各国に参戦を要請。
マキャベリズム・アルビオン、ダキア鉄衛団、レガドニア協商連合といった各国が太陽連盟に宣戦布告を行い、これが鉄血諸州連合の参戦を招き新大陸と欧州で二つの勢力による大戦へと急速に拡大することとなった。
そして、2度目となる大戦の拡大はこの程度では止まらない。
マキャベリズム・アルビオンと鉄血諸州連合の開戦により巻き起こった新大陸の戦争に、共産諸州連邦もカリブ海と大西洋の覇権確立と新大陸の統一を目指して山脈を超えて侵攻を開始したことで、第三インターナショナルが世界大戦に参戦することとなる。
共産諸州連邦の侵攻を受け、革新同盟との戦争に動いた太陽連盟を叩くべくレーテも侵攻を開始。
フランソワが侵攻する形で開かれると思われていた太陽連盟と第三インターナショナルの戦争は、その想定とは逆にレーテがフランソワに侵攻する形で火蓋が切られることとなった。
4大勢力のうち3つの勢力が大戦の開幕から1ヶ月の間に続々と参戦したことで、欧州と新大陸にとどまらず南方大陸や中東などにも戦火は拡大し、まさに世界大戦となる大戦争へと発展することとなった。
そして、この世界大戦勃発と拡大の知らせは、次々に帝都の宮殿にも届けられる。
秋津島皇国やニュージーランドに臨時首都を移転しているアルビオン連合王国にもこの情報は続々とはいっている。
ことここに至っては、仮想敵国も思惑がいまだに統一されていない王権同盟がどう動くべきかを決めなければいけない段階となった。
第3インターナショナルに与するべきか、それとも太陽連盟に与するべきか、はたまた陣営として独自の道を進むか。
王権同盟の各国が世界大戦においてどう動くべきかを議論するべく、代表団が上海に集まることとなる。
そして、ルーシ帝国から派遣されることとなった代表団の護衛役として、精鋭の陸軍2個大隊と航空魔導師1個中隊が随伴することとなり、その一員にはエカチェリーナの姿があった。
中華での戦争を終えてから、私たちには軍から帰省できるだけのまとまった休暇が与えられました。
それを利用して私は一度入院中の父に会いに行き親子の短い再会を済ませ、しばらく空けていた家にも戻って畑の手入れを行い、戦争から離れた日々を過ごしました。
しかし、この平穏はいっときのもの。すぐに戦場に戻らなければいけない時が来るでしょう。
コルチャーク少佐とは華北戦役にいた時も、この休暇の時も、連絡を取り合っています。
そして軍の中枢に勤めている少佐からは世界情勢に関する情報も教えてもらっているので、ただの開拓農民ですがルーシ帝国や同盟国、欧州や新大陸などの情報も知ることができました。
レーテとフランソワが互いの国境に軍を集結させていること、イルドア共和国がアスクム王国に侵攻し長期化していること、レーテからの使節がルーシに何度も来ておりさまざまな要求を突きつけていること、そして最近になって急激に都市部を中心に革命を謳う暴徒が拡大していること……
ジーマが入院している病院のある町ですらそんな話は聞かないし、革命の動きなど影も形もないくらい地方は平穏ですが、帝都など欧州に近い西側は不安定な情勢になっている様子です。
前世とは違う世界であることは承知してますが、それでもやっぱりルーシ帝国をロシアと重ねて見てしまい、革命というものに不穏なものを感じずにはいられません。中央に勤めているコルチャーク少佐のことが心配です。
そして肝心の帝国の改革の方は、少佐たちも必死に働きかけているものの頭の固い貴族が中心の上層部によって阻止され遅々として進んでいないとのことです。
今のルーシ帝国は先代からの融和外交を支持する派閥と、拡大する暴徒と無理難題の要求を突きつけているレーテに苛立ちを抑えきれず第3インターナショナルとの開戦を叫ぶ派閥とがぶつかっているそうです。
ただしこの反共を謳う派閥には皇国の影響が強く見られており、不幸の重なりによって戴冠した現皇帝陛下の権力基盤が弱いこともあり、秋津島皇国がルーシ帝国に影響力を拡大させるのに利用している可能性が高いと少佐は見ているそうです。
この反共派の貴族たちは皇国の帝国駐留部隊の拡大と延長に協力的であり、婚姻同盟に関しても積極的に推し進めていたとのことで、帝国内における皇国の影響力拡大を後押しするような動きが目立つとのことで、少佐は彼らを売国奴とみて強く嫌っている様子でした。
しかし悔しいことに少佐の目指す改革を阻んでいるのはむしろ先代の皇帝に近い古い貴族が多い融和派で、彼らは皇帝への忠誠は反共派よりあるもののレーテとの衝突を何よりも恐れる弱腰な面があり、軍備の拡大や更新はレーテをいたずらに刺激するからやめるべきとか、革命を謳う群衆は暴徒ではなく臣民なのだから力で抑えるのはやめるべきだとか、そんなことを訴えて改革を妨害しているそうです。
その点で言えば反共派の多くは皇国との軍事協力を進めるべきと訴えており、中には少佐の訴える軍政改革を支持する者もいるので、皇帝陛下と帝国を深く想っている少佐としては複雑な心情となっており、私への手紙にも苦悩と愚痴が書き連ねられていました。
帝国は守りたいけど、守るための力が必要と訴えても皇帝への忠誠がある貴族はそれを退けるし、力が必要であることに同調してくれるのは帝国を皇国に売り渡そうとしている売国奴、そして皇帝陛下の力は弱く貴族同士のいがみ合いをとめられず結局改革に着手できないという状況で、その上でレーテが背後にいるだろう革命運動が暴徒化して帝都などで拡大しており、おまけにそのレーテが帝国に圧力をかけ皇国から引き剥がそうとしてきていると……聞くだけで逃げ出したくなるような状況ですが、それに立ち向かっている少佐は本当にすごいと思います。
そしてルーシ内のゴタゴタなど待ってくれない欧州の方では、もはやレーテとフランソワの衝突は避けられないほど緊張が高まっているとのことで、少佐は春には戦端が開かれる可能性が高いと見ているとのことです。
そうなればルーシ帝国も無関係ではいられない、召集がかかり戦地に行くことになるから覚悟しておいてほしいという私に向けた言葉もありました。
コルチャーク少佐が戦っている中、私は何もできていません。
中華の戦争を終えてから帰国する間、誰にも話を聞いてもらえず逆に罵声と暴力を味方にぶつけられたことで簡単に折れてしまい塞ぎ込む醜態を晒していました。
それでも、私が受けたものなどぬるま湯のような混沌に満ちた中央で戦っているコルチャーク少佐のことを思えば、折れている場合ではなくなりました。
話を聞いてもらえないからとへこたれている余裕などありません。
帝国がダメなら、別口からアプローチすればいいのです。
この世界でも、言語の壁はあれども通じる場所があったことを、三州同盟が滅ぼされた戦争に赴いた時に知ることができました。
違えども似た世界で、前世という他の人に無い記憶を持つ私が持っていたものが通用する場所があることを知りました。
秋津島皇国。
ルーシ帝国の同盟国でありながら、帝国に影響力を増している野心の強く社会主義を強く敵視する、極東に浮かぶ島国。
その国は立地だけでなく、言語もまたこの世界に生を受けるさらに前の世界にて故郷だった島国と同じ言語を使う国だったのです。
帝国が無理なら、皇国を使って改革を成せばいいのです。
幸い、あの戦場の景色を目撃し同じ衝撃を受けた各国の観戦武官たちとは、少しだけ交流を持つことができました。
特に皇国の方々は言葉が通じたことから親近感を抱かれており、連絡先も交換できるほどに仲良くなれた方もいます。
一兵卒ではなく、あの碌でも無い怠惰な神によって残された前世の記憶をもつ者として。他の人には無いこの手札を使って、私は家族とこの祖国を守りたい。
思い立ったら吉日、時間は残されていないのですぐに動かなければいけません。
私は何通かの手紙を認め、連絡先を得た皇国の軍人の方に向けてそれを出しました。
そして1ヶ月ほど経過して届いた返事に目を通し、私はすぐにある任務へ志願をしました。
それは上海にて開催されることになった、王権同盟に加盟する各国の代表団による会談、その帝国代表団の護衛任務です。
世界では遂に世界大戦に拡大する戦争、太陽連盟と革新同盟の戦端が開かれており、第3インターナショナルもこの大戦に参戦、世界規模に戦火が急速に拡大しています。
その中で王権同盟の方針を決定するべく開催されることとなった上海会談。
仮想敵国すらバラバラだった王権同盟、そしてこの唯一大戦にまだ参戦していない4大勢力の一角がどう動くかが決まることになるだろうこの会談は、世界が注目する会談となります。
その中で帝国代表団の護衛に志願した私は、その上海である人物に会うためという護衛とは別の目的を果たすために再び中華の地に向かうこととなりました。