怠惰な神様によって魔法が存在し世界大戦が起こりそうだという世界に転生し放り出されたら、聞いていたよりさらにヤバい世界だった件 作:しゅーびんで
ヒルトリア連合。
バルカン半島を中心に領土を持つこの国は、サンディカリズムに染まってしまったライヒにあった帝国が世界に挑んだ第一次世界大戦、その戦後の混乱の中でどさくさに紛れて成立した国家である。
前身となる国家は存在したが、その実態はライヒの属国として搾取される事実上の植民地であり、多数の民族や言語などが複雑に混ざり合う多民族国家であった。
そんなヒルトリアは独立後、国の主権を握る地位や民族自立などを賭けた内戦に突入し、アヴァンギャルドが実権を掌握したフランソワの介入により最終的に前衛的加速主義を掲げる左翼戦線が勝利し、ライヒの属国から脱した独立国として歩き始めることとなった。
しかし未回収のイルドア領やレーテとの領土問題を抱え、ファシズム色の強い強権的な力による支配体制に対する反発など、国内が安定化するまで時間を要し周辺諸国の混乱に巻き込まれることもあるなど、多難な道のりを歩いていまに至る。
イルドアにて王制崩壊の混乱がなければ、当時はまだ戦後の荒廃から復興しきれていないフランソワの後ろ盾も限定的なものとなり、イルドアに征服されている可能性が高いと言われていたほど不安定で弱かった時期があった。
しかしそれは過去の話。
今はフランソワに並ぶ多くの魔導師を擁する魔法技術大国に進化しており、盟友であるフランソワの総統アトルーの理想を共に歩むべく、停滞を否定し加速主義を国是とし、全ての民族が共有し心酔するこの加速主義を受け入れない全ての敵を滅亡させるために機能する、アヴァンギャルドとレフの理想を果たすための狂信国家となっていた。
勿論、ヒルトリア連合にとって不倶戴天の敵であり必ず滅ぼさなければならない怨敵は、盟友フランソワの仇敵であり、加速主義を否定するサンディカリストに支配されたレーテである。
そして停滞の象徴たる君主制を廃しながら、自らの欲望のためだけに世界に侵略の手を伸ばし他者の存在そのものを拒絶する、世界の加速を停滞させる専制の焼き直しのような愚かなマキャベリズムに染まったイルドア共和国である。
イルドアの豊かな半島は、欲望を追求する享楽と退廃、そして排斥に走るマキャベリストのモノにあらず。進化の歩みを止めることを否定する、加速主義を掲げる太陽連盟の統治下にて加速することこそ正しき姿である。
レーテへの復讐戦争を目指し、今もなお加速している盟友フランソワからの、イルドア共和国に対する侵攻は、ヒルトリア連合にとって未回収のイルドア領問題の完全解決を果たすための大きな決断をする材料となった。
今こそ加速せよ。
欲望のままに世界を切り分け取り合う、己の民族の享楽と栄華のためだけに破壊と侵略を撒き散らすマキャベリストを殲滅せよ。
我らの進化の為、盟友の進化の為、半島を征服しその豊かな領土の全てを供物とせよ。
加速せよ加速せよ。
盟友アトルー総統は宣言なされた。
かのマキャベリストどもを駆逐せよと。それに与するものを駆逐せよと。来るサンディカリスト共との欧州を全滅させてでも人類が加速する為、レーテへの復讐戦争の備えとしてかの半島を捧げよと。
加速せよ加速せよ加速せよ。
志を同じくするアヴァンギャルドとともに、半島を踏み砕け。
加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ加速せよ!!!
フランソワがレーテとの戦争に向け、地中海方面の新たな戦線構築と同盟国であるヒルトリアとの接続のため、そして資源豊かな半島の征服のために提言した、太陽連盟によるイルドア共和国侵攻。
これに賛同したヒルトリア連合は、統一歴1941年にフランソワと共にイルドア共和国に対し侵攻を開始し、太陽連盟は革新同盟との先端を開き、第二次世界大戦と呼ばれることとなる世界全土を巻き込む大規模な戦争の火蓋を切ったのである。
太陽連盟に加盟する欧州各国は、魔導師を大量に擁する魔導軍事大国と呼ぶべき軍を組織している。
適性がある者が少ないはずの魔導師を人口からは明らかに不釣り合いなほどまるで歩兵を徴収するかのように何十万、何百万と動員していた。
そしてこの有り余る魔導師を、希少ゆえに多数の任務をこなすマルチタスクが基本運用であったこれまでの常識からだずれた、専門兵科として運用するというやり方を採用していた。
航空魔導師だけでも対地攻撃に特化した爆撃魔導師、機動性と対人・対空戦闘に特化している空戦魔導師、空間分析機能と隠密に特化した偵察魔導師、飛行能力を持たず航空機に搭載されるかたちで空を進み防御と自爆に特化した人間魔力爆弾として運用される特攻魔導師、偽装や集団の空中輸送機能に特化した戦闘能力を持たない空輸魔導師など、前線から後方まで戦争を遂行させるためその種類は多岐にわたる。
さらには最大の強みである機動性を発揮する飛行能力を排除し、あえて歩兵として運用される陸上魔導師も設立。
この陸上魔導師も防壁に特化し同系統の魔法を友軍と合わせることで広範囲かつ強力な防殻を展開する遊軍な拠点などの防御に特化した護衛魔導師、同系統の魔法を複数人で運用する大型の箒の代わりとなる魔導師用大砲を使用した高威力の魔法砲撃戦を専門とする砲撃魔導師、飛行能力や魔力の放出を排除し身を守る防殻と近接戦闘に特化した魔法を行使する突撃魔導師、砲兵と異なり個人毎の銃撃戦に特化したあるか魔導師と言える銃兵魔導師、さらには山や森などの障害を破壊し整地したり防殻を応用した魔力で形成される道を作ることで河川突破用の橋とするなどにより機甲戦力の展開を支援する工兵魔導師まで、多様に存在する。
そしてそれら専門兵科として運用するために、その魔法に適した機能に特化し不要な機能を排除している新型の演算宝珠を配備している。
この演算宝珠は多様な運用のために飛行やそれに伴う酸素供給、防殻、干渉術式、デコイ、空間解析などなどマルチタスク運用を基本とする既存の宝珠とは異なり、使用の目的に合った機能だけを特化し他の機能を排斥することで、多目的運用の宝珠に比較して特化された機能に関しては優れているという特徴があった。
また砲兵や護衛魔導師が運用する宝珠には、複数人の魔導師の魔法を合わせるための機能があり、同一の魔力を合わせることで単数の魔導師の発現させる魔法よりも強力な魔法を発揮することが可能となっている。
そして、大量の魔導師を配備できた理由にもつながるが、太陽連盟の魔導師たちは個人が持つ魔力の傾向も配属されている魔導兵科に合わせた魔力を有していた。
これにより専門兵科の魔導師が宝珠だけを合わせた運用よりもさらに効率の高い効果を発揮できるようになっており、規格が合うように他人である魔導師ともまるで同一人物の魔力を用いているかのように魔力を完璧に合わせられるというより専門兵科に適した魔導師を配備していた。
これらの魔導師は、適性ある者の選別をしっかりと行い素質を見抜いて用意した──訳ではない。
加速主義者たちは投薬と外科手術を用いた人体改造により、適性のない人間にも魔力を発生させる器官を創造し、文字通り望む魔力を作れる魔導師を製造するという手段を用いることで、この大量の魔導師の配備と専門兵科の運用を実現したのである。
まともな人間をまともじゃない人間に作り変えるこの手段、当然のことながら何の代償もなく魔導師を生み出せるということはない。
改造された人造魔導師は異物である器官とそこから生成される魔力により自らの組織が大きな負担と損傷を受けることとなり、三十路を迎えられる可能性がほぼゼロとなる短命を定められた人間になり、加えて薬の副作用により脳にもダメージを受け感情や人格が破綻し命令を聞くだけの機械人形のような人間になってしまうという、命と心を失う大きな代償を払わなければいけなかった。
この非人道的な人造魔導師は、国民や占領地の人間を徴用し強制的に施術を行うことで量産され、欧州の太陽連盟は人口に不釣り合いな大量の魔導師の配備を実現したのである。
加えて、新大陸東部には太陽連盟に加盟し欧州とは異なる形の加速主義である機械信仰を掲げる工業大国の鉄血諸州連合が存在する。
彼らはその工業力を生かし多くの機械兵器を生産しており、この新大陸の加速主義者たちによって生産された戦車やトラック、装甲車、飛行船、銃器、火砲、戦闘機や爆撃機などの多くの兵器がフランソワ軍のもう一つの大きな力となっていた。
この魔導師と機械兵器を用いた、第一次世界大戦の時とはまるで異なる進化を果たした軍隊。
それが森林三州誓約同盟を羽虫のように蹂躙し瞬く間に滅亡に追い込んだ、太陽連盟の軍隊である。
アトルーが新たな標的と定めたイルドア共和国の北部に、東西からその軍隊が侵攻を仕掛けてきた。
大きな地形障害となる山脈は、太陽連盟の前には何の障害にもなり得ない。
偵察魔導師が侵攻ルートを構築し、航空戦力が空から先んじて侵攻し、工兵魔導師がが山を切り開き渓谷に橋をかけ、その上を機甲戦力を先頭にした陸軍が難なく進み、そして空からは輸送魔導師が常に前線に物資と兵力を補給していく。
雪が積もっていようと、峻険な山脈だろうと、この太陽連盟の進軍を鈍らせることはできなかった。
加速主義の敵であるマキャベリストの破滅を叫びながら、怒涛の勢いで侵攻するフランソワとヒルトリア。
国境防衛に展開していたイルドアの軍もいたが、海の戦においてその真価を発揮する彼らにはこの戦場を作り変えてしまう敵の侵攻は数の劣勢もあり阻止できない。
瞬く間に国境を突破し、両国の軍勢は半島の根元を飲み込み、踏み潰した全ての都市を衝動のままに壊し侵し徹底的に蹂躙していった。
一方、侵攻を受けたイルドア共和国も黙ってはいなかった。
直ちに革新同盟の同盟各国に参戦を要請すると、アスクム王国侵攻に動員していなかった本国に残っている戦力を半島の北部に展開。
狭く長い半島に大きくわけて四つの防衛線を構築し、北側の国民を随時避難させていった。
イルドア共和国軍の戦略は、遅滞戦闘にて時間を稼ぎながら同盟国の救援を待ち、半島の中に引き込んだ敵に対して後方への海からの奇襲上陸と陸上の反転攻勢を合わせた細い半島の地形を利用する挟撃による殲滅である。
また革新同盟の一角であるダキア鉄衛団はヒルトリアと国境を長く接しており、イルドア侵攻とレーテ国境の警戒のために多くの戦力を動員していた隙をつく形で、東から背中をつくようにヒルトリアに対する攻勢を仕掛けていった。
この後方からの圧力と、長い半島を生かした縦長の防衛線。
本格的に展開したイルドア軍の多重防衛線との衝突に、奇襲効果と数の優勢などにより容易に破壊した緒戦と異なり太陽連盟軍の侵攻速度は低下することとなった。
そして参戦要請を受け太陽連盟と交戦することとなった革新同盟の盟主であるマキャベリズム・アルビオンは、イルドア海軍との共闘による半島の地形を生かした挟撃作戦のため地中海に艦隊戦力をを派遣するとともに、太陽連盟への兵器供給を断つためにも新大陸にて鉄血諸州連合に対する宣戦布告とともに攻勢を開始する。
そしてこの攻勢がさらなる大戦の拡大を招いた。
新大陸にて再燃した合衆国内戦に、共産諸州連邦が参戦。
新大陸の統一を目指し、山脈を乗り越えて鉄血諸州連合への侵攻を開始したのである。
そして共産諸州連邦の参戦に伴い、太陽連盟との戦争準備を進めていたレーテも動く。
イルドア侵攻に戦力を割いた事を好機と捉え、第3インターナショナルも太陽連盟に対し宣戦布告。
レーテとイスパニアがフランソワを、レーテとウクライーネおよびカフカースがヒルトリアを挟撃する形で侵攻を開始した。
さらに敵の敵は味方理論で、まずは共通の敵である太陽連盟を倒すために第3インターナショナルは革新同盟との間に同盟関係を構築。
世界を切り分けた4大勢力のうちの2つが太陽連盟打倒の元に手を携え、新陣営である“対加速主義防衛協定”──以後“協定”と呼称──を結成することとなった。
協定と太陽連盟の戦争は、欧州、南方大陸、新大陸、西アジアと広範囲に展開されることとなる。
イルドアへの太陽連盟の侵攻からひと月ほどで拡大した世界大戦は、4大勢力の一角であり唯一世界大戦にまだ参戦していない勢力である王権同盟にも大きな影響をもたらすこととなる。